子供の頃、親の仕事がらみで、
よそのお宅へ連れて行かれることが多かった。
(
しかも、夜・・・)
行きたくないときもあったけれど、
とにかく行ったら、
明るく元気ないい子でいなければならない。
それが子供時代の私に課せられた、絶対的役割だった。

その日は、
先方の子供たちと遊ぶのにも疲れて、ぼっとしていると、
奥様がそばにきて、私の肩をたたいた。
うながされるまま、後について奥の部屋に行くと、
彼女はちいさな引き出しをあけて、
どれかすきなものある?、とにっこりした。
なんだろう・・・?
すこし緊張しながら、そおっとのぞいてみた。
綺麗にならべられた色々なハンカチたちが、
ちいさな花畑のように、目の前にひろがった。
わぁ、、と声をあげたと思う。
そして、
私は迷わず一番最初に目がいった
ふさふさのレースでふちどられた赤いのを指差した。
はい、プレゼント♪、と奥様がうれしそうに手渡してくれた。
おかっぱ頭の中学生の私には、
とても可憐な女の人のハンカチに思えたのだった。

なんだか気持ちが疲れてきたな・・・、
そう感じるときには、ほんの5分、
ハンカチ売り場を眺めてみる。
お花を眺めているみたいで、ひととき和らぐのだ。
先日、一目ぼれしたものがあった。
ハンカチの想い出もすっかり忘れていたというのに、
ふと、売り場に足が向いていたのだ。
それを見た瞬間、青い風が吹いてきて、
キラキラとした想いがこみあげてきた。
そうだね。
迷わず買ってみた。
疲れた、疲れたと、
がんばれないことばかりだとつまらない。
今日だけ、もうすこしだけ、がんばってみるか。
そうして今日までやってきたんだよ、私。
そうしてまたやっていくんだよ、ジブン。



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