今年の桜は、15の春を思い出させた。
志望高校合格の喜びも、希望と不安の入学式もすんで、
やんわりと高校生活が始まっていった。
ひと月くらいたった頃、
たしか、となりのクラスにいるはずの、
彼の姿をちっとも見かけていないことに気がついた。
彼は、中学時代、試験の成績を競い合った人だった。
(
ん、まわりが勝手にそう言っていただけだと思う)

その日、私は、美術室へと階段を駆け降りていた。
ちょうど、ゆっくりと上がってきたのが彼だった。
あ、ちゃんと来ていたんだね、よかった。
と思ったとたん、彼の髪がつくりものだとわかってしまった。
一瞬とまどいながらも、
実は中学時代、まともに話したことがなかったし、
(
彼は寡黙で誰とも必要以上話さない人だった)
かなり急いでいたこともあって、
かるく会釈をして、その場を離れた。
彼の大きな目は、笑っていたように憶えている。
それが、最後だった。
陸上部でいつも元気に練習をしていた人だったのに。
急性白血病で、進行がはやくて、
病状安定中に少しだけでもと、なんとか学校に来ていたらしい。

散っている桜を見上げていたら、
そんなことを思い出した。
すきだったとかそういうのではなくて、
ただぼんやりと、彼の笑顔が浮かんでしまったのだ。
本当に、記憶とは、不思議なものだなぁ。
不思議でしかたがない。
こうして想いだして、書いて欲しかったのかな、私に。
彼は。
うれしいとか哀しいとか、いろんな気持ちも散っていく。
今、今年の桜を見上げているジブンを、
強く感じてみる。
新緑の生命力が、時をせかしている。
その勢いに追い立てられて、ころびそうだ。
しっかり歩こう。



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