小学生最後の夏、家の近所の教会のお泊り会に、
弟とふたりで参加した。
けっして宗教色が強い催しではなく、
子供にとってはいたって普通の、夏休みの楽しい一泊二日体験だった。

小さな子たちを遊ばせたり、先生のお話(たわいのないもの)を聞いたり、
讃美歌を歌ったり、たぶん夕飯はみんなで作ったカレーを食べたと思う。
昼間、ある先生と子供たちを連れて近辺を散歩していたとき、
先生がひとり言のように私に言ったことを、今でもはっきり覚えている。
『私、癌なの。もうそんなに長くは生きられないんだよ。』と。
突然の言葉に私はびっくりしてしまって、しばらく固まってしまった。
やっとの思いで、嘘じゃないことは充分わかっているのに、
『嘘だぁ・・・。』と言ってあげるのが精いっぱいだった。

先生は、気持ちのもっていき場もなく、ただたださびしかったのだろう。
特に私に、というわけではなく、誰かに、聞いてもらいたかったのだろう。
とても物静かな、聡明でおだやかな女性の先生だった。
今なら私、もっとましなことを言ってあげられるだろうか。
もうすこし、思いやってあげられるだろうか。
夏の終わりになると、ふっと思い出してしまう。

<どうしようもないこと>は、たくさんある。
それにどう向かうか、そここそがジブンの出しどころである。
まだまだだなぁとがっかりすることばかり、落ち込むことばかりである。
だから、日々勉強で、
教材がなくなることは死ぬまでないんだろうなぁと実感している。



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