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■CUT 06■


その見覚えのある姿を光の中に見つけた。暖かい光。寂しさと罪悪感。

なぜとっさにこの人の名前を口走ったのか、今ではその疑問がとてもバカらしく思えた。

一体なにをしているんだ僕は。新たな疑問に不安を憶えたその時、

もう一人の僕が口走っていた。・・・これは・・・・過去。

そう、なぜかとっても悲しくもある昔の話。


「・・・・?・・僕はまた失敗しちゃったの?・・・サラ。」

記憶の中の彼女

「大丈夫。だってディードはこんなにもやさしいじゃないの。」



(なにを言ってるんだろう。このよく聞き覚えのある声。だけど言葉の意味がよくわからない。)

(どうして僕はこんなにも・・・・・・。どうして僕が?)

(・・・・・・・・・この人は・・・・・・・・誰だ・・・?)


「・・・・・・・・・始まったのか。」

「ハイ、スベテハ、ヨテイ、ドオリデス。」


EXCEED-06
「失われたのは存在、心、狂気」

ムーンライト・フォールダウン

「わ!!わあぁぁぁぁぁ〜〜〜!!!!」

青白い閃光と共に突如ディードの体が硬直する。

自分自身なにが起こったのか把握することができないままその硬直に必死で抵抗するが

自由を得たのはその唇だけだった。


「こ、これは!!・・・僕は知っている!何度も経験したあの時の・・・・あの時の嫌な感覚!!」

「な!?なんだこりゃ!!ディード、おまえ一体!?」


強烈な閃光のため直視できないバルガンが手で光を遮りながらディードを探す。


「ググ・・・・に・・・逃げて・・・・・バルガン・・・。」


なぜ咄嗟に口から出た言葉は「逃げて」、なのか。それはディード本人、本能とも言える感覚で知っていた。

閃光とディードから発せられる「風」。窓ガラスがギシギシと音を立て、シーツはバタバタと

不気味な音を奏でた。まるでこの出来事をあざ笑うように・・。

その音と異変を感じたグリッドが大慌てで部屋に飛びこんで来る。


「こ、こりゃどうしたんだ!!どうなってんだバルガン!!」

「わからん!!月を眺めていたら突然・・・・・・月・・・に反応したってことか!?」

「グリッ・・・・にげ・・・・・・・・バル・・・・・・ガ・・・・・ガガガガガガ・・・」


もはや声にならないディードの言葉は風の轟音にかき消され、代わりに今まで聞いたことのない

うめき声が輝く体より発せられる。


「これは・・・・まさかとは思うが「ARCS」の仕業じゃねぇだろうか・・!?」

「アークス!?あのD.N.A特殊なんとか研究チームのことか?研究チームというのはただの名目だろうけど!」

「とにかくこのままじゃディードがヤバイぞ!!明らかに骨格が・・・・」


目線を再びディードに戻そうとした時、その「終着」を告げるような最後の突風がバルガン達を襲う。


「うわわわぁっ!!」

窓ガラスは次々と音立てて粉々に割れ、グリッドは耐えきれず尻餅をつく。苦痛に顔を歪ませながら

起き上がった頃には先ほどの閃光は跡形もなく消え去り、代わりに月明かりが冷たく射し込む。


「お、おい止まったよバルガン・・。」

「ああ、でも様子が変だ。これは一体・・・・。」


部屋の中央でうなだれているのはバルガンとグリッドの知っているいつもの馴染み深い子供の姿ではなく、

凶悪な面構えをした巨大なワーウルフだった。

呼び覚まされたケモノの息吹

「グゥルルルル・・・・・・・。」

「ヒィィィ!!なんだコレ別人じゃん!!こ、これがディード!?」


その声に反応した「ディード」はグリッドを睨みつけると瞬く間に空中に身を躍らせ、

その大きな口を痙攣させながら目標に襲いかかる。


「ギャー!!」

慌てて逃げようとするグリッドの側にすぐさまバルガンが駆け寄る。襲いかかってきたディードは突如横から

入りこんだ部外者にその腕を掴まれた。


「やめろディード!!俺達がわからないのか!!」


バルガンの問いかけと同時に腕を掴まれたディードはその矛先をバルガンに向ける。


「ガウゥルルルルルルル!!!!」

「ぐああぁぁぁぁ!!!!」

「バ、バルガンー!!」


両腕を掴もうとしたバルガンだったが、もう片方の腕からは俊敏にスルリと逃れ、目標の首筋に

噛みついたディード。その牙の間からは冷たく光る赤い血が流れた。


「くっ、ディ、ディード・・・・。」


その言葉を聞き、突然ハッとなるディード。強暴なその顔に一瞬躊躇いの表情が浮かべ、

苦しそうな声を出しながら後方へ後ずさりした。

「グゥルルルルル・・・・・・。」

「ディード!!おいディードしっかりしろ!!」


グリッドの懸命な呼びかけに顔を苦痛に歪ませ、耐えきれなくなったようにカシャカシャと

窓ガラスの破片を踏みにじりながら咆哮する。


「ゥウオオオオオオオオオオオォォォォォーーーン!!!」


ビリビリと振るえるかすかに枠に残った窓ガラスを次の瞬間ディードは自分の身で

一掃していた。外に飛び出したのだ。


「クソッ!ここで見失うとマズイ、追うぞグリッド!!」

「追うって・・バルガン傷は大丈夫なのか?」

「これしき大した問題じゃあない。ディードを捕まえるのが先だ!!」


そう言って自分も窓から飛び出すバルガン。

「うわ、ここ二階だぞ??全く・・・。」

窓から顔を出し、高さを確認すると諦めた表情ですぐさま階段へ向うグリッド。

外へ出てバルガンの少し後ろに追いついたグリッドは地上を滑るように走るディードの姿を凝視した。


「うわわ、は、速い!!浮いているようにも見えるぞアレ!!」

「恐らくは・・・・・ヤツらの・・。」


なんのことかバルガンに尋ねようとしたグリッドは動きの止まったディードに気がついた。

ディードは辺りを警戒しているようだ。しかしなぜ突然?


「そこまでよ!!」


甲高い女の声と共に無数の風を切る音がディードの足元につき刺さる。小型ナイフだ。

すぐさま飛びのくディード。見上げた先には大木の枝の部分に佇む人物が小さな明かりを灯している。

そしてその人物の後方で新たに光るライターの光。2人だ。


「あ、あれは・・・・・。」


雲はいつのまにか月を覆い、深く暗い夜の森は張り詰めた空気な中で静かに事の成り行きを見守っていた。

■INFINITY DIVIDE■