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(臨時特集)   警告! 処刑台エレベーターに乗ってはいけない!

シンドラーエレベーター死亡事故原因の要素と一考察
文・古川卓也
  はじめに
(1)構造上の問題について
(2)セーフティ機能の欠落はエレベーターの命取り
(3)エレベーター事故の対処法と知識マニュアル

  補記
  ◇小説『冬の蜃気楼』とエレベーター事故死の描写について



   はじめに

このメッセージは、眼に見えない恐怖を、眼で見える者から発した警告文である。元エレベーター・エスカレーター保守点検及び組立工事を請負う保守会社に2年間ほど勤務し、電気工事士の資格を取得、電気回路に若干携わり、のちに半導体等の電子部品販売の小売り事業を営むかたわら、それら経験に基づく電気電子系統の検証及び考察と、この度のシンドラー社製のエレベーター死亡事故との因果関係とを、あらためて文士の横顔も持つ筆者の眼から工学的に推理し、今後の警告としてこれを書くことにしたものである。論説責任の適任者であるかどうかは、過去に直接エレベーターの保守点検業務をしたことがある者にしか見えない側面が大きいのは言うに及ばない。どこのエレベーターメーカーの経験なのかは、メーカーへ影響を及ぼすイメージ配慮から名前は述べられないが、国産メーカーであることだけは言っておく。むしろ、国産メーカーでの経験があったからこそ、海外製品のシンドラー社製のエレベーターとの構造の違いにも仰天したし、事故の起こり方にも仰天したとも言えるのである。さらには、製造メーカーが人身事故の責任を保守点検業者に頭から責任転嫁していることにも仰天してしまった。そこが国産メーカーとの大きな違いだと言ってよいだろう。

行政の安易な入札時における昇降機の割安価格問題よりも、シンドラー社の会社理念と事故やトラブル時における対応のお粗末さとのギャップの違いには、もっと驚いてしまうのだ。どんな犠牲者が出ようと、何がなんでもシンドラー社製エレベーターを世界に普及設置し続けたいという自社の営業体質にもびっくりしてしまった。世界第2位のエレベーターシェアを誇るシンドラー社の自負と矜持が、この冷酷な体質を生んでいるのだということが、己れには判らないらしい。この経営体質が自ら招く盲目の失態によって、いずれ世界にどんな信頼失墜の瓦解を招くことになるか、先ずは日本から震撼させる事態となるであろう。外来種からやられっぱなしになるほど、日本は愚かではないし、日本独自の技術をみくびってはいけない。シンドラーエレベータ(株)日本Webサイトによれば、スイス本部で設計開発されたシンドラー社製のエレベーターは、アジアでは中国を生産拠点とし、日本ではそれらパーツを組立てる工場となり、最終建設現場でのエレベーター設置はトレーラーでシャフトを運び半日もあれば建て方も完了する、とある。大した設置効率だ。たぶん国産メーカーのものであれば、こんなに早くは出来ないような気がする。私の記憶では一般エレベーター1基取付けに、工期は約1ヶ月はかかったように憶えている。


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   (1)構造上の問題について

そもそもエレベーターとは処刑台のようなものである。安全なはずのエレベーターが故障してしまった時点から、それは処刑台にも豹変する。一旦、故障して、処刑台に豹変してしまったエレベーターには、絶対に乗ってはならない。どのメーカーのものであれ、そのことを忘れてはならない。どんなに科学技術が発展しても、テクノロジーの過信と自負は、いつか必ず悲劇につながる。先進テクノロジーの讃美と神話は誠に危険である。私が最も関心をひくのは、「シンドラーノイ製品紹介」の「省スペース&省エネルギー」の項目だ。ダイレクトドライブPMモーターと超薄型のVVVFインバータを内蔵しているドアモーター装置、ドアの開閉をスムーズにオートチューニングする各階にあるマイコンセンサ、昇降路内に設置されているらしいプロセッサコアを内蔵したエレベーター制御専用システムLSI、この半導体とVVVFインバータとの組み合わせによる巻上機モーターとが連動するらしい制御盤、インバータユニットと高効率電源ユニットを統合化したIPU(Integrated Power Unit)、徹底的に電力のムダを省いた省エネルギー設計に基づくシンドラー社独自のステーターコア構造を採用した業界最少クラスの新型の超薄型巻上機モーター、などなど、確かにこれらが100%正常に機能するのであれば、これほど理想的な製品はあるまい。

しかし、死亡事故は起こったのである。それは日本だけではなかった。ニューヨークでも香港でも死亡事故は起きていたのである。死亡事故とまでにはゆかなくても、シンドラー社の人身事故トラブルは世界中でたくさん起きていたことが判明してしまった。日本だけでも数百件のトラブルが日常のように起きていたようだ。トラブル隠蔽の体質にも問題があるが、私は国産エレベーターとの構造上の違いに大きな問題があるのではないかと思っている。かつて私がエレベーターの保守会社に勤務していた頃から、高層ビルや超高層ビルにはすでに国産もインバータモーターが採用されていたわけだが、国産エレベーター業界では、いかに自然に速く違和感なく気持ちよく昇降できるかは課題でもあったのだ。もちろん異質な音もいけないし、各フロアにぴったり昇降口が開かないといけない。今回のシンドラーエレベーター事故でびっくりするのは、外ドアと内ドアが開いた状態でカゴが急上昇したという症状だ。エレベーターのカゴから出ようとした人間が、ギロチン状態の処刑台に置かれてしまったということだ。

この最も危険な、外ドアと内ドアが開いたまま巻上機が勝手に動くという状態を防ぐために、カゴがフロアに着床していれば巻上機の主電源回路は必ずダイレクトに外ドアのリミットスイッチで切れていなければならず、ドアが開いている限り、通常は巻上機は動かない。インバータ部分は加速を早めるために連動準備状態にあるだろうが、巻上機自体のメイン回路コントロールはOFFの状態でなければならない。にもかかわらず、ドアが開いたまま巻上機が動いたということは、ブレーキシューの減り具合の摩耗問題もあるが、ブレーキ制御回路の前に巻上機回路の優先順序が違うのではなかろうか。オートマチックの自動車で考えるなら、ギアをドライブ(D)にしてブレーキペダルをゆっくり緩めれば車は徐々に前進するが、ギアをパーキング(P)にしてしまえば、エンジンはかかっていてもブレーキペダルから足を降ろしたからといって車は動かない、その原理が高速のインバータのようなもので、カゴがフロアに着床している限り、エレベーターはパーキング(P)状態でならないのに、シンドラー社のカゴは常に動くドライブ(D)状態を優先しているメイン回路というのは、きわめて恐ろしいといえる。もしシンドラーのエレベーターも着床時にはカゴがパーキング(P)状態であるとするならば、VVVFインバータ内蔵ドアモーター装置のマイコンセンサが自らドア開閉検知を最誘導しており、もし誤った検知であっても巻上機の主電源をONにすることもあり得る、ということになりはしないだろうか。その状態で実際に動くことが今回の死亡事故で公に証明されたわけだから、シンドラー社のカゴは常にやはりドライブ(D)のメイン回路状態にあるということだ。

国産の一般エレベーターを各社綿密に知っているわけではないが、通常、外ドアは電気では動かないようになっている。フロア側塔内の上側にレールがあり、そのレールに外ドアは吊るされているにすぎない。塔内のカゴがフロアにぴったり着床することで、カゴ側のモーター付内ドアの爪が外ドアのロックを解除して一緒に両ドアを開けてゆく仕掛けなのだ。外ドアは一緒に開かれ、カゴはそのフロア側塔内設置のローラーレバー式リミットスイッチを押し倒し、巻上機主電源回路を遮断するような安全回路が働くと思うが、シンドラー社製のようにマイコンチップをドア周辺にも多用し、コンピューター制御を過剰に信頼する設計は、今回の事故を契機に見直す必要があるだろう。乗物機械にはアナログ式が人の命を救う部分箇所もあるのだ。必要な箇所に応じてはより高度なコンピューター制御も大事だ。アナログとデジタルと両面良いところを使うのが人間の知恵であろう。ドアに設けるライトカーテンだって必ず誤作動を前提の上で光軸合わせ表示灯もあるだろうし、異常入光チェックや干渉防止さらには自己診断投光停止といった内部回路トラブル発生のエラー内容デジタル表示も必要だ。コンピューターは絶対に安全とは言えない。安全を神格化したところで、事故はなぜか起こり得るのだ。次回はシンドラーノイのセーフティ機能にさらに着目してみたいと思う。人間の謳う理想や理念がなぜか現実とは矛盾してしまう不合理性と、それら現実の状況をなぜか自ら信じないテクノクラート信奉者たちの本性にも迫ってみたいと思う。

(2006/06/12)

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   (2)セーフティ機能の欠落はエレベーターの命取り

いちばん恐いのは事故原因不明のまま再使用していることだ。事故原因が解明されずに、今は正常に動いているから安心だ、という考えは大変危険である。全国に8834基ほど設置されたシンドラー社製エレベーターの内、どこかで必ずまた犠牲者が出てしまうことを暗示している。連日の報道記事を見ていると、八王子市の文化施設で起きたシンドラーエレベーターのトラブルで、シンドラーエレベーターの点検技術者が自ら点検しておきながら、原因不明だと説明したようだが、誠に奇怪なことではある。シンドラーのエンジニアが事故原因が判らないというのだから、話しにならない。シンドラーのプロでも事故原因が判らないとする、この不可解な要因を構成しているものは、いったい何なのか。いくつかのことが私には推理できる。保守の現場エンジニアが、マイコン制御のエレベーターに対してマイコンプログラマーとしての知識があるかどうか、主制御電源の電気回路図面と各系統のセンサ信号を読み取るマイコン制御回路図と照合しながら、なおかつ、メイン制御盤のシーケンスとサブ制御のコンピュター基板のボードユニットを見て、はたしてどこまで診断できるのか、ハードウェアとソフトウェアの両面から補修を強いられることになるのだが、何人かの合同専門スタッフが必要なのではなかろうか。マイコンチップがもしシンドラーエレベーターのアジア生産拠点でもある中国製のものだとしたら、半導体メーカーはどこなのか、どの工場のものなのか、半導体市場の情勢をいろいろ知っているだけに、場合によっては不安もよぎるのだ。

ローコストは現在最も不安がよぎる信頼性を疑うバロメーターともいえる。それでなくとも昨今の偽装マンション事件やライブドア事件・村上ファンド事件といった詐欺が横行している時代でもある。中国の海賊版による著作権侵害問題だって桁違いの量の国家間問題にまで発展しているのだ。人の命に直接影響を及ぼすような器具や機械には、もっと慎重でなければならないのに、当たり前のことが当たり前ではなくなって来ている現代の兆候は、実にあらためて人間原点の再認識が必要だ。今回のシンドラーエレベーター死亡事故で最も気がかりなのは、ブレーキ制御やブレーキ不良のメンテナンス怠慢よりも、私はドアのセーフティ機能の欠陥にあると思っている。報道記事によれば、ドアが開いたままで動いたケースが過去に全国で6回あったとシンドラー社自らの報告があるようだが、今回の東京都港区「シティハイツ竹芝」での事故もドアが全開した状態で急上昇したわけだが、これはドアのセーフティ機能が全く働かず欠損欠落していたことによる。最も危険なセーフティ機能の欠陥だ。今回の死亡事故要因で最も重大な欠落なのだ。このセーフティが利かない状態は、エレベーターが処刑台となる瞬間でもある。私がエレベーターの保守業務をしていた2年間で、点検中に最も危険を身に感じる瞬間だった。エレベーターの点検作業中に、もし不意に勝手に動き始めたら、狭い塔内の隙間のどこにすぐ身をかわせばよいか、常に念頭にあったものだ。カゴの上やピットにいる時でさえ、二人一組でエレベーターは手動で動かしているものだから、常にどこが安全な場所なのかは把握していた。塔内に3基並んでいる場合などは、点検中のエレベーターだけでなく、両隣りの2基の動きにも注意していた。高速のエレベーターなどは要注意だ。カゴの上では背中に風圧も受けるスピードだ。私の保守経験では36階建ての超高層がいちばん記憶が生々しい。

エレベーター機種シンドラーノイのセーフティ機能のうちドアの開閉で重要なのは、「戸繰り返し反転システム」「片側ドアセーフティエッジ」「両側ドアセーフティエッジ」「ライトカーテン(またはマルチビーム光電式ドアセンサ)」「超音波ドアセンサ」といった、これらのドア開閉認識の確認機能回路である。ドアが閉まらなければ、カゴは絶対に動いてはならない、基本中の基本安全回路なのだ。ここが正常であるかどうかを最優先して保守点検しないで、メーカー側は安全の「あ」の字も言える立場ではないと思うが、少なくともドアのセーフティ機能が正常に働いていれば、人の存在がカゴの中か外かになるわけで、かりにカゴが勝手に動いたとしても、人がエレベーター床と建物フロア天井との間に挟まれるような異常な状況にはならないのである。カゴ内に人が閉じ込められたとしても、直接の危害は受けない状態にある。カゴの外に出ていれば、もちろんもっといい。いかにドアの開閉認識回路が重要であるか、ここを調べずして事故の真相は究明できない。なぜ、ドアが開いたまま、エレベーターは動くのか。ドアが開いて動くものは、それはエレベーターとは言わない。機械仕掛けの凶器であり、そこは処刑台の場所なのである。それを故障の多いエレベーターと見てはいけない。いつまでも故障があるエレベーターはただちに解体して、正常な別メーカーのものと早く交換設置したほうがよい。事故の原因究明も全力で即座に取りかからない、捜査中との一点張りから何の情報開示もしない(実は自分たちにも原因が究明できていないのだろうが)、まして亡くなられた被害者に即座に出向いて謝罪もしない、欠陥エレベーターを売りっぱなしで、保守点検業者にだけ責任を負わせる、逃げ腰の卑怯者に、とても企業価値があるとは思えない。人間には誰にだって過失やミスもあるだろう。しかし、逃げずに素直に反省して罪を改悛することで、再起もはかれるというものだ。警視庁や国交省に命ぜられて、やっと渋々遅くに出て来るようでは、その間の社会的信頼失墜は事故機同様に地に堕ちたも同然であろう。保守業者側もシンドラー側も杜撰な構図が明るみに出てしまったわけだ。

シンドラーノイのエレベーター仕様書を見るかぎり、100%が完全に機能していれば、本当に理想的なエレベーターではあるのだ。100%とは言わないまでも、せめてセーフティ機能だけでも完璧に作動していれば、死亡事故までにはゆかなかったかもしれない。いや、セーフティ機能だけは絶対に完璧でなければならないのだ。国産メーカーのもので、人が閉じ込められてカンヅメになることは時たまあるが、ドアが開いて死亡事故につながったというような事例は、これまでほとんど聞かない。それほど国産メーカーには危機意識があって、セーフティ機能だけは最優先してしっかりしているということだろう。そこで、もう一つ気にかかる症状にも注目してみたいと思う。シンドラーエレベーターが過去のトラブル経緯で急上昇したり、急降下したりしたことがあるとのことだが、これによって塔内天井にぶつかったり、ピットに落下してゆくかのような暴走事例が挙げられているようだけれども、この原因は明らかに制御盤不良といえる。カゴを吊っているワイヤーが切れたり弛んだりするということではなくて、まさに制御不能状態なのだ。制御盤のリレーが焼けたり信号経路の断線であったり、まさに制御不能状態にある。私も点検中に体験したことがある。古い旧式のエレベーターで制御不能だった。カゴの上に2人で乗って補修をしていたわけだが、突然急上昇しては、機械室の巻上機がすぐ見えるあたりまでコンクリート天井に激突して、粉塵が舞っていた。カゴの上の鉄骨アングルより下に身をかがめて首を縮めていたのだけれども、次の瞬間、今度は急降下していったのだった。フリーフォールだか何だったかアトラクションの絶叫マシンにこんなのがあったけれども、裸電球1個の明るさしかない暗闇の中で、それはまったく笑えない状況下だった。生きた心地はしなかった。最下階より下のピットのスプリングバネにはね返ってクッションしたかと思うと、この時点で最終リミットスイッチも不能状態だったか、そのまま再び薄気味悪く上昇し始めたのだった。途中で何かがひっかかったのか、ガクンとなって静止した時は、さすがに胸を撫で下ろした。国産メーカーのものでも、こういうことはたまにあるのだ。しかし、点検中はドアも閉まって誰もカゴには乗っていないので、事故があれば被害は保守業者だけということにはなろうか。いずれにしても、ドアの開閉認識をするセーフティ機能が欠落しているというのは、エレベーターにとっては最大の致命傷なのである。人の命を奪う凶器と化すのだ。

(2006/06/16)

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   (3)エレベーター事故の対処法と知識マニュアル

消防法にこういうものがあるかどうか知らないが、個人の元エレベーター保守実務経験から参考になればと思い、「エレベーター事故の対処法と知識マニュアル」について触れてみることにする。よくあるのは「カンヅメ」と言って、エレベーターが階と階の途中で急に停止してしまい、エレベーター内でいくら操作ボタンを押しても動かず、外に出られなくなってしまう事故だ。「カンヅメ」は何らかの原因によって非常停止してしまう事故である。緊急停止することで、むしろエレベーター内にいる人の身の危険を防止する安全装置が働いたものと考えるのが利口だ。カゴを吊っているワイヤーが切れるようなこともないし、普通は停止してしまったからといって、カゴが落下することもない。たとえ、急停止した後、落下し始めたとしても、加速が始まった途端、カゴとレールの間に鋼鉄の楔が嵌って日本昇降機安全基準の安全装置が働き、カゴが下に落ちてゆかない仕掛けになっている。必ずしなければならない定期点検項目の一つのはずだ。外国の映画のようにはエレベーターのワイヤーがかりに切れたからといって落下することはない。カゴが非常停止してしまうのは、あくまで人間の身を保護するための安全回路だと思ってもいいだろう。むやみやたらに内ドアをこじ開けようとして、脱出をはかろうとする方がよほど危険である。

次にカンヅメに遭遇した場合の対処法としては、まず冷静に落ち着くことが大事だ。そして、エレベーター内にある非常用インターホンで連絡をする。これも必ず連絡がいつでも可能となるように半月に一度の保守点検項目となっているはずだ。エレベーターメーカーにもよるが、カンヅメ事故が発生した場合、そのビルのエレベーター管理人から保守会社に連絡が入ると、普通、保守会社が通達を受けて現場到着するまでに最低30分以内としなければならない。早ければ10分以内に急行する出動態勢にあるはずだ。24時間態勢なのだ。今はもっと早いかもしれない。消防隊が来る前に保守会社が先に直行しないと、エレベーターの扉がバールで毀されたりするものだから、毀損される前に直行するのが慣例となっている。あえて器物破損される前に救出してくれたほうが、メーカー側にとっても補償が経済的なのだ。一刻も早い救出が、被害者側にもメーカー側にも双方にとって望ましいのだ。国産メーカーの場合は、そのメーカーだけのものを管理してくれる下請けの保守会社が多いのが普通ではなかろうか。ビル固有それぞれの長期にわたるエレベーターの癖や特徴を把握できるし、同一メーカーのものを管理したほうが、保守業者にとってはメンテナンスがしやすいのだ。事故が起きても機械トラブルの対処が早く直せる利点もある。

今回のシンドラーエレベーター死亡事故の保守管理会社が、シンドラー社製以外のメーカーのものも数多く手掛けていると知って、実は私には腑に落ちないところがあったのだ。メーカー1社の昇降機だけでも、製造年数に応じて、乗用と荷物用と新旧たくさんの種類のエレベーターがあるはずで、それらを各メーカーごとに全部個別に正しく安全に保守管理するなんてことが果たして可能なのだろうか、と今でも実は疑心暗鬼に思っている。取扱うメーカーが異なるということは、どういうことかというと、広く浅い情報知識と回路図面でのみ判断しなければならないということだ。設置されたエレベーターは年数を経過するごとに、いろんな症状も出やすいのだ。団地エレベーターなどは子供たちも多いので、機械の痛み方や摩耗や劣化が激しいし、落書きやいたずらも多い。雑居ビルのエレベーターなどでは大人の煙草の火のいたずらで操作ボタンを焦がしたり、中の配線を焼く者もいる。乱雑にエレベーターに乗る者が多いのも事実だ。エレベーターが故障する要因は、必ずしもメンテナンス側の手落ちだけとは言い難い面もあるのだ。もう少し優しく使用してくれないかなと思うこともしばしばあったものだ。

さて、カンヅメに遭遇した時の知識というか、よく酸欠を心配する人もいると思うが、基本的にエレベーター内で静かにしていれば、酸欠の心配はない。カゴの内ドアは吊りドアだし、カゴは意外と隙間だらけで、塔内には酸素が常にいっぱいだ。閉所恐怖症や精神的にパニック状態に陥ることで、呼吸障害や呼吸困難になってしまうから、あくまで普通に呼吸できるように身心を落ち着かすことが大事だ。人が多く乗っていた場合は、二酸化炭素と体温とで異常な熱気を感じてしまうから、あくまで全員が騒がずに冷静に呼吸しておくのが重要だ。外部に連絡したら静かに救助を待つのが一番安全なのだ。エレベーター内のインターホンではなくて誰かが携帯電話で警察や消防に連絡する者がいれば、むしろこちらの方が救助が早いと思うかもしれないが、通報を受けることで、結局はビル管理人と保守会社に連絡がゆき、結果は一緒だろう。心配なのは、万が一、保守業者よりも警察と消防隊の方が早くて、現地に到着してしまった場合、もし階と階の途中でエレベーターが停止していて、無理矢理、救出に向かう場合は、保守業者の到着を優先しないで、消防隊が外ドアをバールでこじ開けて塔内に入ろうとした瞬間が、実は最も危険な状態であることを認識しておかなくてはならない。いつカゴが動き出すか知れないからである。もしカゴが少しでも動いて、無謀な脱出を試み、人が挟まれるような事態にでもなれば、それこそ二次災害になりかねないからである。出来れば、保守業者を待って、機械室で手動で巻上げ機を巻いてもらい、カゴを正しい階に合わせて着床してから、安全確認の上でカゴの外に出るのが一番いいのだ。特に夏になれば、カゴの中の温度も高く感じられるようになるから、息苦しく感じるだろうが、けっして下手に騒がないことが命を守ることにもなる。カンヅメになっても、恐怖心を抑制することが安全にもつながるのだが、現実には難しいかもしれない。

ここで少しメカニック的に私なりに気にかかることを挙げておきたい。シンドラーエレベーターのモーターの小ささだ。プーリーと巻上げベルトの大きさに比べて、異様なほどモーターがコンパクトであることに、実は当初から懐疑的ではある。国産エレベーターはいずれも大きいように思うのだが、モーターは大きいほど電気を食うけれども実はカゴと錘(おもり)との安定感とブレーキ制御にメカ的には大変強いと考えられる。単純操作がしやすいからだ。同じ重量同じ大きさの電車を、大きい車輪で動かすのと極めて小さい車輪で動かすのとでは、どちらが安定走行できてブレーキ制御しやすいか、その原理と似ているような気がする。大きい車輪でブレーキをかけるのと、同じ重たさの車両を極めて小さい車輪でブレーキをかけるのとでは、運動エネルギーの法則から、明らかに大きい車輪でブレーキ制御した方が効くはずである。この古典的原理から推察するに、シンドラーエレベーターが急上昇したり急降下したりする原因が、何となく判る気がするのだ。コンピューター制御のはずが、物理的に制御出来ていないのではなかろうか。シンドラー社は制御盤のプログラムミスだと言って、けっして構造上の設計ミスはしていないと主張するが、現実的にはそのような物理的事故が国内外に多発しているのである。TV報道でシンドラーエレベーターの機械室の制御盤内部の映像を観ていると、日本国内のいろんな電機電子メーカーのものも随所に使用されているのが判る。シンドラー社オリジナルの部品がどこなのか興味深い。いずれにしても、シンドラーエレベーターの印象は、ごく普通に見られる電車で例えるならば、電車の車輪がまるでトロッコの車輪の大きさにしか見えない感じなのだ。超合金で出来た小さな車輪だとしても、電車を支えるには無理な気もする。今や世界はハイテク企業が席巻しているので、私のような者がこんなオーソドックスな仮説を述べたところで誰も聞きやしないかもしれないが、あくまでエレベーター死亡事故原因を追求したいだけのことである。今も外国企業に泣き寝入りされている日本の公営住宅、公共施設に住んでおられる方々の、日々の不安を少しでも払拭してあげられるならば、との思いから、考察しているにすぎない。

(2006/06/20)

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 ◇小説『冬の蜃気楼』におけるエレベーター事故死の描写について

当Web版の小説『冬の蜃気楼』(2000年1月〜2002年8月執筆)の第一章「砂の雪」(1)(2)におけるエレベーター事故死の描写について、これは小説の作者である私の体験に基づいて描いた実話となっています。主人公の柏木祐一郎は先輩の久保山と一緒にいつも通りエレベーターの点検作業をしていて、保守作業にはふだんから自信に漲っていた久保山が、ある日、つい油断と自信過剰から自ら死亡事故を招いてしまうといった経緯を描いています。後輩の柏木には何の責任もないのですが、もともと人間関係に不器用な柏木の性格から、共に事故現場にいたことで、いつまでも良心のようなものに苛まれていて、常に損ばかりしているような要領の悪い人間像を描いたわけです。その対照的な人物が久保山という男で、仕事も抜群に出来て妻子もあり家庭的で男前、その上、ユーモアもあって実に要領のいい人生を送っています。ただ、久保山の唯一の欠点といえば、自分の嫌いな人間には、とことん排他的で、相手に恥をかかせたり、口汚ない言葉や暴言を平気で当人に言う癖があることです。気が強いものだから、イジメもするし、人をからかうのが大好きで賭博や女遊びもします。一方の世慣れに下手で不器用な柏木は、そんな久保山からはいつもバカにされているわけです。そのような次元の世間体の見てくれとは別に、精神の煩悶を抱え自らに生きている価値が見出せない柏木は、絶望のあまり旅に出るわけですが、あとのストーリーは小説の通りです。

小説のエレベーター点検作業者の事故死は実際にあったことですが、この場合のエレベーター事故死はエレベーターの故障で死亡事故が起きたわけではなく、点検作業中に一人の人間の過信から生じたものなのですが、エレベーターの安全制御と外ドアや内ドアの構造の違いを小説の中では説明しています。小説というものはもともとフィクションではありますが、社会的経験やあらゆる体験は、豊富な知識よりも優る視点があることです。『冬の蜃気楼』の第四章「天の川」では、劇物の苛性ソーダのことがいきなり出て来ます。工場で作業中だった柏木に、上から苛性ソーダの滴がふりかかり、作業服が融けて背中に火傷が出来る、といった過去の記憶が甦るわけですが、これもこの小説の作者の私の体験談から構成されたものです。硫酸を背中にかけられたような火傷の痛みがあります。小説の中では柏木の背中にそのひどい火傷の痕がひろがっていて痛々しいわけですが、私自身にはそこまでそのようなひどい痕が背中にあるわけではありません。純真では生きられない柏木がだんだんと身心ボロボロになって、やがて格差社会から追放されてしまう顛末へと描かれてゆきます。この世にたった一人だけ柏木のそんな醜い背中にやさしく触れて、いたわってくれた梨沙の存在が、この作品で唯一の救いだったでしょうか。小説の結末では二人とも昇天してしまいますが、人生とはもともと初めから蜃気楼のようなもので、実体がありそうで無いようにも思えますし、虚構と虚像と実像が織り成す人生です。何が最も大切で、何が最も現実的な事として、真実を受け容れなければならないのかを探求してゆくのが、本当の小説家のように思えるんです。

(2006/11/17)

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