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第3話

●夏の夜の夢 2017

シェークスピアの『夏の夜の夢(A Midsummer Night's Dream)』を一度も読んだことがないわたしであるが、小説家を志す者としては初めから失格であろう。わたしはこの「失格者」という言葉のひびきが大好きな人間で、「部外者」だとか「関係者以外」だとか、「よそ者」「つまはじき」「田舎者」「不良」「アウトロー」そして野暮に無骨(ぶこつ)に無愛想さらには唐変木(とうへんぼく)だの傍若無人だの「ど素人」だの、とことんこき下ろされ罵られる状況が、なぜか小気味良いのである。肩が凝るような肩書きが何にもないので、守るような身分地位にない者の気楽さがそうさせるのかもしれない。むしろ、言葉を生業にしたいと思っている人間なもので、少々の「言葉の暴力」には屈しない要素が強いかもしれない。また、そんな半生を送って来たので鈍感にもなっているのだろう。多くの人間が煩悩に振りまわされながら七転八倒しているというのに、自分だけこんなにのんびりと夏の夜の夢を紡ごうだなんて、結構な楽天家でもあるのだろう。

最近、感動した映画に『巴里のアメリカ人』(1951)があるが、当時の映画としては見事なカラー映画で、主演ジーン・ケリーのタップダンスがとてもすばらしかった。何もかもがすばらしいミュージカル映画で、バレリーナでもあるレスリー・キャロンとの共演がまた何ともすばらしいのだ。久しく味わっていなかった本物の俳優魂に触れたような気がした。俳優とはこうでなければならぬお手本映画の名作だ。しかもこれがブルーレイ化されていたので、レンタルDVDでの鑑賞だけでは物足らず、急遽、ヨドバシカメラのネット通販にてこのBDをゲット。1本\1,530という安さ。今年になって『ラ・ラ・ランド』(2016)を映画館で観たが、高速道路だかハイウェイだか渋滞となった中古車の車列の上でダンスをしてみたところで、イマイチ期待はずれの感は拭えなかった。半世紀以上も前のミュージカル映画『巴里のアメリカ人』には負けていた。当然ながら映画『ウエスト・サイド物語』(1961)にも遠く及ばない出来具合だった、と言ったらファンには怒られるかもしれない。でも、それも時代の流れとして止むを得ないことでもあるのだ。芸術作品のモチーフとなる誕生には、さまざまな時代背景の状況下で化学反応するかのように生まれ落ちてくるものだからである。元はと言えば、『ウエスト・サイド物語』もシェークスピアの『ロミオとジュリエット』を元にブロードウェイ・ミュージカル化したものではあるのだ。現代のような時代に、過酷な人種差別が隆盛していた20世紀前半頃までの時代色を再現したところで、当時の主張とは重みも異なる。別な表現で選択したほうがいい。

ところで、先週土曜日にいつもの音楽パターンを変えようと思い、自分の車のなかのCDディスクをミューズに変えてみたら、久しく忘れかけていたメロディーが流れ始めて、あらためて「ザ・レジスタンス」(2009)のアルバム全曲を聴いた。車を運転しながら聴くミューズの壮大なロックメロディーはとても素晴らしい。ミューズとの出会いは昨年2016年に、フィギュアスケートのアシュリー・ワグナー選手がフリースケーティングで使用していたのがきっかけ。彼女の音楽センスはいつもすばらしいので、彼女が公式戦に出場して来ると、以前から必ず演技と音楽に注目している。クリストファー・リーヴ主演の映画『ある日どこかで』(1980)を観たのもアシュリー・ワグナーが2008/2009年のショートプログラムに、ジョン・バリー作曲のこのサウンドトラック盤「Somewhere in Time」を使用してくれたおかげで、この時からわたしはアシュリー・ワグナーのファンにもなったのである。2016年フリーでの使用曲「エクソジェネシス(脱出創世記):交響曲第3部(あがない)」はミューズのアルバム「ザ・レジスタンス」の11曲目で、この雄大感はいったいどこから来るのだろうか。わたしの波長にはぴったりと合うのだ。このCDアルバム1曲目の「アップライジング(叛乱)」と2曲目「レジスタンス(愛の抗戦)」がまた特にいい。

わたしの青春時代は1970年代なものだから、ミューズはどうしてもクイーンのロックを匂わせてしまう。ミューズが少なからずクイーンの影響を受けているのも事実であろう。わたしはもともとヘビィ・メタ派ロックをFMでエアーチェックしてカセットテープに録音し、オーディオで静かに耳を立てロックに陶酔という音楽嗜好ではあった。オーディオの音をガンガン部屋中に鳴らし、耳を澄ませる禅僧のようでもあったから、きっと異様な姿に見えていたかもしれない。ラッシュやY&Tが特に好きだった。中学生の時に聴いたビートルズから始まって、またたくまにエレキブームにのめり込み国内外のグループサウンズに没頭。夢中で音楽にハマったものの、受験戦争にまっしぐらの10代はいつしかレールを踏み外して、あらぬ方向に遠回りしてしまったのは劣等生の証拠。あれから紆余曲折があって30年が過ぎ、40年が過ぎようとしている。いったいわたしはこれから先、どこへ向かおうとしているのだろうか。夏の夜の夢に出て来るのは、激しかった時間の流れと、これからはゆったりと流れて来るであろう安息の日々に張り巡らされた残りの時間を自らの確かな意思で刻んでゆくだけのことかもしれない。心臓の冠動脈3本にステントが入ってしまったわたしの小さな心臓は、夏の夜空よりも昼間の青空に向かって、大きく深呼吸しろと命じてくるのは、きっと正しい判断なのだろう。あらゆる脅しにも靡かない意志でわたしは静かにこれからも文章を書き続けるのだろうか。

それはそうと今季2017年のアシュリー・ワグナー選手は、映画『ラ・ラ・ランド』のサウンドトラック曲をフリーで使っているようだが、『ラ・ラ・ランド』に対する映画評をわたしは低く書き損じてしまったが、8月2日(実際には8月1日)に出るレンタルBDで再確認してみる必要がありそうだ。もしかしてワグナー先生に失礼があったかもしれないので、その時は、ここのページで追記の予定。

文・古川卓也
(2017/08/01)
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