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マドンナ   MADONNA WORLD

文・ 古川卓也

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MDNA WORLD TOUR

この世には取り戻せるものと、一度失うと二度と取り戻せないものがある。失われた住まいや土地はまたどこかで取り戻せるが、失った家族や命は二度と戻らない。この度の広島大規模土砂災害は心が痛むばかりだ。大規模土砂災害が起きてからもうすぐ3週間目になるが、行方不明者の捜索は今も続いている。犠牲者は72人となり、行方不明者は2人となっている。あまりに痛ましくて言葉にならない。大規模な土砂瓦礫や岩石や泥まみれの樹々の残がい撤去も早くどうにかならないものかと焦る気持ちがある一方で、大雨で崩れやすいことが判った真砂土の地形山麓に建てた家に帰宅する恐怖があるのもとても気の毒である。避難所から迂闊に家に戻れなくなってしまった多くの人たちの心中たるや、絶望ばかりが募って日々穏やかではあるまい。連日3000人(9月5日付で2200人余りの態勢)規模の警察・消防・自衛隊の捜索活動が懸命に悪天候を見極めながら昼夜を問わず行方不明者の捜索は続けられているが、なかなか遅々と進まない。本当にいたましいばかりである。土日には全国から1000人以上ものボランティアの人達が瓦礫撤去などの手伝いに来られるのも、この日本列島全体がいかに自然災害国で、お互いに被災の気持ちがわかり合い助け合っているかを物語っていると言えるだろう。

音楽は時として心を癒してくれるものだ。私の場合、もし音楽や文学作品にめぐり合わなかったら、自分は救えなかったかもしれない。どうしようもない鬱屈とした思春期から自分を救えなかっただろう。人間として恥ずべき罪なことをしていた不良小学生が、小学5年生になって、ある転校生と同級になり、櫨(ハゼ)によくかぶれて人目を避けていた私に最初に声をかけてくれたのが、その転校生だった。「一緒に遊ぼう」と言われて、グラウンドの片隅の物かげに隠れていた私を無理やり引張り出してくれたのだ。幼少期からの私のハゼ負けはひどいもので、化け物のような顔と腕になっていて、櫨にかぶれると人も近寄らなかった。私は転校生に「伝染るぞ」と言ったが、彼は私の手に触れて「いいから来いよ」と手を引っ張り誘い出したのだ。転校生はハゼにかぶれた私をまったく嫌がらなかった。彼自身が転校することで、幼心としていろいろと傷心を味わっていて、相手の傷心にも敏感だったのだろう。彼は私と違って勉強もよく出来て成績も良く運動神経も抜群だった。顔もよく女の子たちにも大変モテていた。

そんな小学生の時の転校生との出会いが私の少年期を変え、小学校・中学校ではすぐに親友ともなって、同じ高校で同じサッカー部にも所属することにもなったのだが、中学・高校でつくった友達はみんなそれぞれにやがて大学への進学や就職で別れ離れになってしまい、あの時私を暗い洞窟から救い出してくれたその親友は、30歳前に自動車事故で亡くなってしまった。彼が運転中に前へいきなり飛び出して来た子供を咄嗟に避けようとして、自分の方がハンドルを切り損ねてクラッシュしてしまい、電柱に激突大破し、そのまま路肩下の用水路に車ごと転落死してしまったのだ。

悲しくて、さびしいことが数え切れないほど幼年期から今に至るまでたくさんあったが、それと同じ数ほど嬉しいことや感動もたくさんもらったから、人生は本当に生きてゆく価値があり素晴らしいとも言える。邪悪な人間もたくさんいるが、それらは一握りの人間たちであって、大抵は多くの善良な市民がほとんどだ。少なくとも日本ではそれが普通なのだ。たとえどんな境遇であれ、多くの日本人は素朴で善良な国民である。善良な国民を、人の好さを利用する鬼畜のような輩もいるが、死して人は初めて徳なるものを悟るが、その時はすでに遅しといえる。悔いの残らぬ人としての道をまっしぐらに信じてゆくしかない。人間に無明と煩悩が続くかぎり、暗い夜道は続く。であるがゆえに、希望なるものはとても大切なのだ。

そういった逆境には、うってつけの音楽もある。マドンナの音楽には普遍の愛がある。愛も希望につながるものだ。愛は求めるものではなく、ひそかに捧げるものだ。愛にもいろいろな形がある。マドンナの『MDNA WORLD TOUR』(2013)に「MASTERPIECE」という曲があるが、これはマドンナが脚本・製作・監督した映画『ウォリスとエドオード/英国王冠をかけ恋』(2011)のエンディングでマドンナ自身も歌う主題歌だ。何度聴いても強く胸にひびくバラードである。そのメロディは悲しみを流してくれる癒しの曲となっており、マドンナが謳ってこその力強さと哀切さが現れている音楽だ。あんなに激しくもあり明るくもあり、観衆を圧倒させてくれるパワーは、天性のものと豊かな体験から湧き出てくるものなのだろう。数多い恋愛の遍歴や、三度の結婚・離婚を重ねて来たマドンナならではの信条から由来するものかもしれない。また、根っからのダンサーであり、シンガーソングライターであり、音楽家であって、女優であり、絵本作家でもあるが、実に多彩で人生に貪欲な嗜好の持ち主の為せるワザかもしれない。いくら歳を重ねてもユーモアに溢れ可愛くもあり、歌い方に品位がある歌手だ。時にやり過ぎて軽率な露出も厭わないが、それも計算のうちと言うより、本能のなすままともみてとれる。実に大衆的であり、下劣から高貴まで耽溺し領有するマドンナ・ワールドといっていい。ロックの殿堂入りも果たし、クイーン・オブ・ポップにふさわしく実に知的で愛嬌もあるからステキだ。

ピアノ、ヴァイオリンとヴィオラのソロ、そして60人編成のオーケストラによって美しく奏でられる音楽に包まれた映画『ウォリスとエドオード/英国王冠をかけ恋』(原題『W.E.』)については、DVDレンタルで私も観させてもらったが、王冠よりも身分の異なる大衆のアメリカ既婚女性ウォリス・シンプソンとの愛を貫いたイギリス国王エドワード8世とのロマンスを描くこの映画は、正直に言えば、ストーリーが結構ややこしい。いろんな解説を読み読みして、ああ、なるほど、こういうことだったのかと、感動すべきところを探さねばならないほど難解だった、ということだ。20世紀前半当時、いきなり初婚時のウォリスと軍人の夫との夫婦間のDV描写場面は生々しくもあり、その一方で二重写しで進行してゆく1998年マンハッタンでの一室における、ある現代夫婦側の若妻ウォリーが空想してゆく視点描写は、やはり厄介な映画だと言えようか。シャーリーズ・セロン似の美人ウォリーに対して、歴史人物となっているウォリス・シンプソン婦人は地位も美貌も財産もないバツ二なのだが、なぜそんなウォリスが三度目の結婚で終生の伴侶ともなるエドワード8世(退位後1937年にはウィンザー公の称号)と結ばれることになったのか、物語はマドンナの脚本に沿って憶測され描写されることになる。マドンナの手にかかると実感が籠もって堂に入るから修羅場の演出はリアルといえるだろう。

20世紀初頭のイギリスの王室における王位継承に絡む王子成婚との軋轢に悩むエドワード8世だが、独身であったがゆえの勝手気儘で自由奔放な王室の暮らしぶりは色香漂う贅を極める。第一次世界大戦、第二次世界大戦という歴史のはざまで、王制上から兵士にはなれなかったが、さまざまな慰問や活動をして、結局、王の在位は1936年時の1年足らずで、退位後は弟に王位を譲り、余生は王室から離れて、世襲の王制からも逃れられず、万人の世俗にも隠遁してしまうディヴィッド(エドワード8世)ではあったようだ。だが、人種差別につながる性癖もあったようで、このあたりが桁違いの王室環境と経済的権威に恵まれた人間が陥る現実社会を知らない狭い不徳の一端なのであろう。それはさて置き、マドンナの映画『W.E.』では、弱い女の立場の側にあるウォリス・シンプソンの心情や真実を捉えたいという意図が根底にあるが、いろんな夫婦の視点から二重写しに整合させてゆく手法は、マドンナ自身の私生活の遍歴ともぴったり合わさってゆくのだろう。

そこで、ライブ・アルバム『MDNA WORLD TOUR』とスタジオ・アルバム『MDNA』に絞ってサウンドの面白さを少し書いてみる。スタジオ・アルバム『MDNA』にはワールド・ツアー全24曲のうち同じ曲が12曲が入っており、『MDNA WORLD TOUR』には含まれていない別の曲が6曲あり、合わせて18曲の構成となっている。とてもクリアーな音質が楽しめる。私の場合、外出時に車で聴くときにはライブ版CD『MDNA WORLD TOUR』(輸入盤2枚組)でよく楽しむ。自宅の部屋ではBDかスタジオ版CD『MDNA』で楽しんだりする。BDは圧倒的なサウンドのDTS-HDマスターオーディオ5.1chなので、オーディオとホームシアターが合体し、自分がライブのなかにいるような体感となる。ブルーレイでの映像とサウンドの醍醐味は実にすばらしい。現在マドンナに関してはBDの他にDVD、CDの枚数は全部で22枚のディスクを所有している。CDはすべてアルバムである。『MDNA WORLD TOUR』、『MDNA』以外の音楽アルバムや映画については、また後日いろいろ書いてみたいとは思っている。マドンナの「MDNA」ワールドは、これまでの培って来た集大成なのかもしれないが、これからはもっと爆発したものが待ち受けているような気もする。まだまだエキサイティングな何かが、衝撃的な音楽世界を打ち樹ててくれそうな気配がするのだ。何歳になっても進化するようなアーティストであってほしいと願ってもいる。そんな魅力が彼女にはある。たぶん何歳になっても失敗を怖れずチャレンジし続ける偉大なママなのかもしれない。身近なポップスターであり知的でステキな芸術家なのだろう。

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     『MDNA WORLD TOUR』  (UIXS-1003 ユニバーサルミュージック)
          BD:2013年 マイアミ公演収録   (2012/05〜2012/12  29ヶ国88公演)
1 ヴァージン・メアリー (イントロ)/Virgin Mary (Intro)
2 ガール・ゴーン・ワイルド/Girl Gone Wild
3 リヴォルヴァー/Revolver
4 ギャング・バング/Gang Bang
5 パパ・ドント・プリーチ/Papa Don't Preach
6 ハング・アップ/Hung Up
7 アイ・ドント・ギヴ・ア/I Don't Give A
8 ベスト・フレンド (ビデオ・インターリュード)/Best Friend (Video Interlude)
9 エクスプレス・ユアセルフ/Express Yourself
10 ギヴ・ミー・オール・ユア・ラヴィン/Give me all your Luvin'
11 ターン・アップ・ザ・ラジオ/Turn up the Radio
12 オープン・ユア・ハート/Open Your Heart
13 マスターピース/Masterpiece
14 ジャスティファイ・マイ・ラヴ/Justify my Love (Video Interlude)
15 ヴォーグ/Vogue
16 エロティック・キャンディー・ショップ/Erotic Candy Shop
17 ヒューマン・ネイチャー/Human Nature
18 ライク・ア・ヴァージン・ワルツ/Like a Virgin Waltz
19 ラヴ・スペント/Love Spent
20 ノーバディ・ノウズ・ミー (ビデオ・インターリュード)/Nobody Knows Me (Video Interlude)
21 アイム・アディクティッド/I'm Addicted
22 アイム・ア・シナー/I'm a Sinner
23 ライク・ア・プレイヤー/Like a Prayer
24 セレブレイション /Celebration


     『MDNA』  CD:2012年 (UICS-1247 ユニバーサルミュージック)
1 ガール・ゴーン・ワイルド/Girl Gone Wild
2 ギャング・バング/Gang Bang
3 アイム・アディクティッド/I'm Addicted
4 ターン・アップ・ザ・ラジオ/Turn up the Radio
5 ギヴ・ミー・オール・ユア・ラヴィン feat. ニッキー・ミナージュ & M.I.A. / Give Me All Your Luvin' ft. Nicki Minaj & M.I.A.
6 サム・ガールズ / Some Girls
7 スーパースター / Superstar
8 アイ・ドント・ギヴ・ア feat. ニッキー・ミナージュ / I Don't Give A ft. Nicki Minaj
9 アイム・ア・シナー / I'm A Sinner
10 ラヴ・スペント / Love Spent
11 マスターピース / Masterpiece
12 フォーリング・フリー / Falling Free
13 ビューティフル・キラー / Beautiful Killer
14 アイ・ファックド・アップ / I F**ked Up
15 バースデー・ソング feat. M.I.A. / B-day Song ft. M.I.A.
16 ベスト・フレンド / Best Friend
17 ギヴ・ミー・オール・ユア・ラヴィン(パーティー・ロック・リミックス)
feat. LMFAO & ニッキー・ミナージュ / Give Me All Your Luvin' (Party Rock Remix) ft. LMFAO & Nicki Minaj
18 ガール・ゴーン・ワイルド (ジャスティン・コグニート・リミックス・ラジオ・エディット)
/ Girl Gone Wild (Justin Cognito Remix - Radio Edit)



映画『W.E.』サウンドトラックに流れる美しい愛の調べ

(映画『W.E.』サウンドトラック 参考資料)
The Golden Globe nominated music from Madonna's upcoming film W.E. composed, orchestrated and produced by Abel Korzeniowski , which also includes Madonna's Golden Globe award winning song "Masterpiece". W.E. was directed, co-written and produced by Madonna and distributed by The Weinstein Company.

The score was recorded in April 2011 at the famed Abbey Road Studios in London with a 60-piece orchestra conducted by Terry Davies including piano, violin and viola solos.

The Polish born Los Angeles based Korzeniowski previously wrote the original score for the Tom Ford film A Single Man for which he also received a Golden Globe nomination.

"The prevailing sense of obsession was what inspired me in W.E. -- the irrational compulsion to sacrifice everything and anything for love - a love that could easily be just an illusion. In my music, I wanted to reflect those powerful and conflicting emotions through a web of melodic themes, which relentlessly repeat and constantly swing between despair and sorrow, and hope and joy," commented Korzeniowski.

"W.E." tells the story of American divorcee Wallis Simpson (Andrea Riseborough) and England's King Edward (James D'Arcy) who abdicated his thrown to be with the woman he loved. It is considered one of the greatest love stories of the 20th century. The story is told through the eyes of a modern day New Yorker Wally Winthrop (Abby Cornish). Composer Korzeniowski masterfully and seamlessly bridged the two unique worlds of Europe in the 30′s and 40′s and the contemporary Manhattan environment of a woman lost in her dreams of the perfect love.

In addition to Korzeniowski's magnificent score, the soundtrack includes the original song "Masterpiece" composed by Madonna, Julie Frost and Jimmy Harry and sung by Madonna which is played during the end credits of the film. It will also be included on Madonna's upcoming solo album for Interscope, MDNA, which is scheduled for release in spring 2012.

Product Description

Original score to the 2012 Madonna directed tale of British royalty. The score was written by Polish composer Abel Korzeniowski. Madonna contributes one new song to the soundtrack, "Masterpiece," produced by William Orbit. Polydor.

CD: Music from the Motion Picture~ Abel Korzeniowski


こんなにも美しい音楽に包まれた映画は珍しいといえる。過激な描写を打ち消すかのような、相反するメロディが心を揺さぶる。映画『W.E.』の、時を超えて、ウォリス・シンプソンに自分の境遇を重ねるウォリー、タイムスリップした二人の女性の二重写しの結婚生活が交錯するなか、女性迫害やDVに苦悩する女性側から見た視線がいたましい。傷ついた魂をやさしく包み込んでゆく音楽の旋律がすばらしい。

(2014/09/08 - 2014/11/06)

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