PALTAN先生の 物語合奏入門
私の学校で、演奏のイメージをふくらませるために、曲ごとに物語を作っています。作曲者本人の持っているイメージとは、全く違うと思いますし、音楽ストーリーの感じ方も人それぞれですから、これは一つの例だとお考えください。
【使い方】
(1)指揮者が、演奏者に話してあげる
(2)演奏会のナレーションに盛り込む
(3)パンフの曲目紹介に入れる
【実例】
シェーファー作曲「ペガサスの飛翔」
メイ(5才の女の子)は、ペガサスの人形を大切にしていた。
それは木を組み合わせた胴体が、ゼンマイ仕掛けで歩くだけの、いかにも粗末なオモチャだが、
じ〜じ(祖父)に向かって、いつものように自慢をする。
「おじちゃん、このペガサスはね、呪文を唱えると本当に空を飛ぶんだよ」
じ〜じも、笑みを浮かべて「そうかそうか」と応えるのを常としていた。
メイの心の中では、ペガサスは呪文によって眠りから覚め、本当に空を飛んでいる。
じ〜じもそれを感じて、一緒にペガサスごっこを楽しむのだった。
陽が沈み、夜の闇が辺りを包み、メイも眠りにつく。
ペガサスのオモチャは、いつものようにテーブルに置かれている。
真夜中、オモチャがコトンと音を立てた。
昼間に巻いたゼンマイが、緩みきっていなかったのか。
すると、再び音を立ててもう一歩。そしてまた一歩・・・。
ゼンマイ切れになるどころか、その歩みは力強さを増して行く。
メイの呪文は、ついにこの夜、オモチャだったペガサスに生命を吹き込んだのだった!
ペガサスはさらに歩みを速め、翼を広げ、満点の星空に飛び立った。
自分の姿を取り戻した喜びの舞い。
東の空が明るくなり始める頃、ペガサスはテーブルに降り立つ。
メイを驚かせてしまわないよう、いったんオモチャに戻ることにしたのだ。
窓から朝日が射し込み、ペガサスはゼンマイの残りを使い切る・・・。
「おじいちゃん!ペガサスが本当に空を飛んだ!」
メイは大声でじ〜じに訴えた。
夕べペガサスを置いた位置からの、数センチのずれもメイは見逃さない。
いつもと違うメイの迫力に、じ〜じも何と応えてよいものか困るばかり。
そんなじ〜じにお構いなしで、メイはペガサスに語り続ける。
「あなたは、本当のペガサスだったのね?」
すると・・・!じ〜じは眼を疑った。
オモチャは見る見る美しい天馬に変身してゆくではないか。
「メイちゃんといったね。ありがとう。
君の呪文のおかげで、私はこの姿を取り戻す事ができたんだよ。
さあ、私の背中にお乗りなさい」
ペガサスは、メイとじ〜じを乗せて、大空を駆け抜けてみせるのだった。(完)
大栗裕作曲「吹奏楽の為の小狂詩曲」
東北地方のある都市に古くから伝わる夏祭りには、
全国から毎年100万人を超える観光客が訪れている。
この祭りの起源は意外と知られていない。
今から400年程前のこと、村は壊滅状態にあった。
田畑は荒れ果て、村人どうしの諍いも後を絶たず、
愛想を尽かした若者は次々と村を出ていった。
そんな村を救うため、一人の青年が立ち上がる。
盛大な祭りを行って、村に活気を取り戻し、
村人たちの結束を固めようという彼の計画は前途多難。
彼の行く手を暗示するかのように落ち葉が舞う。
少ないながらも協力者が現れ、初めての村祭りを迎えた。
冷ややかな反応の長老たち、はしゃぐ娘たち、
様々な反応の中、祭りの参加者は確実に増え、
ついに村じゅうを巻き込むことができた。
月日は流れ、当時の村は今や大都市に変貌し、
祭りは東北を代表する一大イベントとなった。
初めはたった一人でも、情熱と信念で人々を変えてゆけるという教えとともに、
青年の名はこの地方に語り継がれている。
真島俊夫作曲「3つのジャポニズム」
(鶴が舞う〜雪の川〜祭)
我が輩はツルである。
名前はまだ無いが、人望・・・いや、ツル望は厚い。
日本ツル会の会長に再選されちょるほどじゃ。
おぬしら、「鶴は千年」とか言いよるが、
わしらの寿命はいいとこ30年じゃよ。
30年のうちの2年間を、ツル界のトップに君臨じゃからな。
日本の総理大臣とは大違いの、立派な長期政権じゃ。
今日はツル界の最高会議が開かれちょる。
日本ツル会のメンバーは、ここ釧路だけにしかおらんから、
会議を招集するのは簡単なのじゃが、それにしても、
みんな勝手に発言しよるから、やかましいのぉ。
「ツルの一声」も、相手が全員ツルだとさっぱり効かん。
議題はもちろん、わしらの未来についてじゃ。
釧路に残るか、それとも出ていくかという大問題じゃよ。
おぬしらが保護活動を始め、給餌場(きゅうじば)まで
用意してくれよる、この至れり尽くせりの毎日を、
わしら喜ぶどころか、憂慮しちょるのじゃ。
エサを支給されるのが当たり前となれば、エサの獲り方を忘れる。
おぬしら、カイコを知っとるじゃろ。
やつらは木の枝に乗せると、掴まることもできず墜落しよる。
もはや野生に戻れんようになってしもうた。
いや、やつらが人間の世話になり続ける道を選んだのじゃ。
わしらとて、このままではカイコの二の舞・・・。
楽でええやんか、などと言うとるのは一部の怠惰ツルだけで、
大半の意見は、今すぐ釧路を出る方に傾いちょる。
ええい、うるさいぞ皆の者! 騒ぐでない!
(冒頭 遅い4分の4)
わしは、もう何年もツルどもを説得しちょる。
今わしらが釧路を離れたら、心配なのは人間の方じゃ。
トキに続いて、わしらにまで見捨てられてみぃ。
おぬしら心の拠り所を失うじゃろ。違うか?
わしらの歴史は2千万年じゃ。
先輩風吹かすつもりはないんじゃが、おぬしら
ここいらでしっかり足元を固め直さんと、今に絶滅じゃぞ。
祖先の築き上げてきたものを見つめ、日本人として
今後どうあるべきか、ようく考えるのじゃ。
そのためには、わしらというものが必要じゃろう。
だからわしは、もうしばらくは釧路に残ってやろうと思うちょる。
おぬしら日本人に、もうワンチャンスやろうっちゅうわけじゃ。
保護されとるのは、おぬしらの方なんじゃよ。
わしらの住処は、釧路でのうても一向に構わん。
これを言うたらオシマイじゃが、何ならツルでのうても構わんのじゃ。
おぬしらが思うほど、わしらはヤワでないぞ。
環境が変われば、モデルチェンジするだけのことじゃ。
地球の平均気温が今より15度も高かったころ、
わしらの大先輩(恐竜)は快適に生活しておった。
環境破壊とかぬかしおって、人間が怯えとるだけのことじゃ。
さて、せっかくじゃから、わしらの舞いを見てゆくがよい。
言っておくがな。この舞いは、わしら本来の舞いではないぞ。
日本人が喜ぶように研究開発された、日本人向けバージョンじゃ。
うわっはっはっは・・・。
(速い4分の3)
おぬしら、もしもわしらが、もっと背が低くて羽が灰色じゃったら
保護なんてやらんに決まっちょる。図星じゃろ?
わしらを美しいと思うてくれよるのは、別に悪い気はせんが、
結局は人間の価値観・・・そして自己満足じゃよ。
とりあえず、今はおぬしらの期待に背かん舞いをさせちょるが、
良い子を演じ続けるのは疲れるんじゃ。見てみぃ、怒りだしよる。
おぬし、さっきから熱心にわしの言葉を聞いちょるが、
人間にしては珍しく謙虚じゃの。気に入ったぞ。
わしら本来の舞いというものも、特別に見せちゃる。
(4分の2 2拍3連系)
どうじゃ。これが本当のわしらじゃ。
舞いというものは、無駄な力をすべて抜くのがコツじゃ。
わしらは海を渡れるどころか、エベレストだって越えよる。
この舞いは、今のおぬしらから見て美しいとは思われんじゃろうが、
今にわかるて。本当の美しさは何なのかっちゅうことがな。
おっとまずい、他の人間どもが来おった。
再び日本人向けバージョンに変更じゃ。
怒るでない、わかったわかった、今日は解散じゃ。
さて、おぬしには、もう少しだけ説教したろう。
ついて来るがよい。川へ案内しちゃる。なに、すぐ近くじゃよ。
(雪の川)
よう見てみぃ、この川の風景を。何じゃぃ、その顔は。
いつも見慣れた川、とでも言いたそうじゃな。
おぬし、本当に見慣れておるか?
何時間も、いや何日もじっくりと見たことはあるか?
ただひたすら雪が降りしきるこの川に、
何千何万の生物が、じっと春を待っておるのを感じ取れるか?
うわはは・・・。まあ無理じゃろうな。
やがて雪が融け、川は大きな流れに変わる。
生き物たちは長い冬から目覚める。
エアコン完備の部屋でテレビ見てるおぬしらは、
そんな動きに気づかんようになっとる。
春の喜びなんぞ、とうに忘れとるじゃろ?哀れなもんじゃ。
おぬしら、自分たちだけ特別だ思うちょるじゃろが、
それが一番の間違いじゃ。
人間も、何億種もの生物のうちの1種に過ぎん。
ワン・オブ・ゼムじゃよ。
そして、生物は自然の一部じゃ。
自然と共に、その種らしく生きておらんと無理が来るのじゃ。
くどいようじゃが、おぬしら本来の在り方っちゅうもんを捨てたら
先に絶滅するのは、間違いなくおぬしらの方じゃぞ。
何じゃ?恐くなったか?どうすればいいか、って
甘えるでない。それはおぬしらの考えるこっちゃろ?
まあ、ヒントくらいは出したる。
先人に学べ。わしらもそうして来た。
時代や生活スタイルが変わっても、変えちゃならんものがある。
ツルのわしが言うのも変じゃが、心ってやつじゃ。
釧路で生きた祖先たちの心、日本人の心じゃよ。
ふふふ・・・。おぬし、良い顔つきになっちょる。
わしの言いたいことが解ってきたようじゃな。
どうするつもりじゃ? ふむ、祭りか?ご名答じゃ。
祭りは、村人の結束を図り、なおかつ、
祖先から受け継いだ心を次世代に伝えるイベントじゃ。
この町にも昔から祭りがあるんじゃろ?
(祭り)
ふむふむ、なかなか良い祭りじゃ。
おぬしら、まだまだ絶滅を逃れる可能性残っとるぞ。
解っちょるな。おぬしらが保護すべきは、
わしらツルよりもまず、己の心じゃ。
わしらはシンボル的存在として協力はするが、
主体はあくまでおぬしらじゃからな。
まだ間に合う。人間はどうあるべきか、ようく考えるのじゃ。
そしてどうするか、自分で決めるのじゃ。
(ラスト Cユニゾン終止)