コピーと編曲入門
2003.9.6 更新
※自分でやるのは面倒だから、依頼したいという方は、営業案内の方へどうぞ。
(1)コピーが上達するコツ
自分である程度使いこなせる楽器がある人にとって、コピーはそんなに難しいことではありません。ロックギターの人は特に強く、恐ろしく速いフレーズも一回聴いただけで、「こんな感じかな?」なんて言いながら、自分の楽器で弾いちゃったりします。手の動きと聞こえる音がリンクしているわけで、途中に譜面というものを介さなくても平気なのです。コピーというと、譜面作成という最終目的がクローズアップされ、いきなり譜面に書けなければいけないと思っている人もいますが、まずは自分の楽器で演奏できるようにするのが第一歩です。次にそれを譜面に直すことを考えればよいのです。こういう作業を繰り返すうちに、やがて楽器を介さず、聞こえた音からすぐに譜面上の形が思い浮かぶようになるのです。私の場合、ジャズのよく使われるスケールを使ったアドリブであれば、どんなに速いフレーズでも一回聴いて譜面に採ることができます。前衛的なのや、わざと「あさって」の方へ行っちゃうようなフレーズでは、そうはいきませんから、はっきり聞き分けられた音を中心にピアノで逆探知します。
学問に王道無しと言いますが、コピー上達のコツも「人に頼らず苦労すること」だと思います。上手な人に安易に頼むなどということは、絶対に避けるべきです。私の知る範囲でコピーが強い人は皆、自分が心底気に入って、何が何でも演奏してみたい、という曲を見つけて、食事や睡眠も忘れてコピーに没頭する、という経験を持っているようです。音大の入試で「聴音」があるから仕方なく・・・という動機の場合、どうしてもイヤイヤやらされるという色彩が強いので、進歩も遅くなりがちです。最後に、楽器ですぐにコピーできる段階の方は、是非それを譜面にすることまで頑張ることをおすすめします。演奏の分析に譜面は不可欠ですから。
(2)コピー作業の実際(New !)
@採譜の順序
さて、私がコピーを行う時の作業手順です。単音楽器よりも、比較的難度が高く、需要も多い「ピアノ譜」を例として取り上げます。
まずは手がかりというか、とっかかりが必要ですから、パッと耳に入ってくる音を、とにかく採ります。多くはメロディーですが、ひたすら伴奏みたいな箇所では、最高音でよい。次に採るのは最低音。これは作業段階の中で、最も簡単な部分です。9割以上はベース音が即ルートと考えてよいですから、最低音はコードを決定する上で、最も重要な資料です。
続いてコード決定。と言っても手がかりは、メロディーとベース、あとは雰囲気だけ。メジャーかマイナーか、7thがあるかないか、まで決定できていれば、その先の作業に、十分な助けとなるでしょう。欲を言えば、テンション音も聞き分けられるとベスト。#5、♭5、♭9、#11など、特徴的な響きなので、慣れると必ず聞き分けられるようになります。ところで、さすがの私でもコードネームが不明の響きに出くわすことは少なくありません。しかし不明ということが、逆に「長3度」や「短3度」じゃないことの証拠です。たいていは、2度重ね(ドレミファをいっぺんに鳴らす)とか、4度重ね(ドファシ♭ミ♭みたいなの)のバリエーションです。まあ、内声部の音というものは、正直言って完全に聞き分けることは不可能です。コードネームを頼りに、あり得る構成音の中から選択してゆきます。ここでは完全を目指さず、大ざっぱにメモしてゆく程度。
A実奏!
さあ、ここからがいよいよメインのお仕事です。自分で書いたメモ(楽譜)を見ながら、実際に弾いてみる!まあ、弾いちゃうわけだから、聞こえた音と違えば、そこですぐ修正してしまう、いわゆる逆探知にあたるわけですが、目的は別のところにあります。ピアノ譜の場合、右手パートと左手パートがあるので、どの音をどっちの手で弾いているのかを推測してゆきます。人間の手の大きさは、そんなに違うものではありませんから、アクロバット的な運指にならないように弾こうと思えば、おのずとこれは決まって、ついでに和音の構成音も推測できます。ただし、オスカー・ピーターソンのように、13thまで片手で押さえてしまうような手の人もいるから、その情報を知らなければ、出口のない迷路に悩むことに・・・。
B手クセを読む
曲全体の最初の1割くらいを完全コピーすると、そのプレーヤーの「手クセ」が見えてきて、これがその後のコピーに決定的な武器となります。ジャズでは元々楽譜が無く、その場で即興で弾いてるわけで、プレーヤーは大局的には頭を使っていますが、手の方は勝手に動いている部分が殆どです。ということは、そのプレーヤーにとって、弾きやすいパターンがあれば、よほど意図的に何かしようとしている箇所以外は、必ずそのパターンが現れてきます。これが「手クセ」ですね。7thコードに#5を入れたがる人とか、左手でルート音を、軽く後打ちで入れたがる人とか、何かしら必ずあるのです。これをつかんだら、後はもうそのプレーヤーの気持ちになっていれば、元音源を必死に聴かなくても、おおよそ次の動きが見えてきます。クラシックでも、作曲家のクセはありますから、考え方は同じです。
ライブ・レコーディングの場合、弾き間違えたのか、もともとそう弾こうと思っていたのか、どっちなの?と迷う場面に遭遇することがあります。これも、手クセから判断して、明らかに意図した音の隣の鍵盤を叩いたな、と思われる場合は、正しく直していました。ところが、これが結構クレームの種で、「直井さん、間違えて採った箇所がありましたよ」なんて指摘されること多数。現在は、とにかく鳴ってる音をそのまま譜面にし、「ここはたぶん弾き間違え。本人はこう弾こうとしたはず・・・」なんて注釈を付けることにしています。
コピーは聴音、つまり機械的な分析能力でやるものと思われがちですが、それ以上に重要なのは、洞察力なのです。演奏しているのは人間で、人間にはクセがあります。それを把握することが、聴こえない音を聴こえるようにする、コピー道の奥儀であります。
Cさらなる奥儀・・・「熟成」
コピーの依頼主が、プロかそれに準ずる腕前の方ですと、完全コピーという要求ではなく、だいたいのアウトラインがわかればいい、というケースがほとんどです。Cのドミソが、ドミソ3つ押さえてるのか、ミソしか弾いてないのか、というのは言うなれば枝葉の部分です。ある程度上手い人は、ドミソと書いておけば瞬時にCの和音だと判断して、臨機応変にミソドとかソドミを弾けるからです。だったらコードネームだけ書いたら一丁あがりかっていうと、そうではない。ジャズの勉強をしてないと、コードネームだけを見て弾くのは辛いですから、一応音符は書きます。こういう「大まかなコピー」は、ハッキリ言って楽ちんです。
ところが完全コピーとなると、ドミソなのか、さらに音が重なった「ドミソド」とか「ミソドミ」なのか、というところまで厳密に判定しなければなりません。こういう微妙な部分は、何回聴き返しても、なかなか完璧に採れません。そこで、だいたい採れた譜面を約1週間、自分で弾きます! そしてこの1週間は、元の音源を一切聴かないのがミソ。すらすら弾けるようになる必要はなく、数小節ずつ、つっかえつっかえでよいので、曲を自分なりに消化します。さあ1週間後、久しぶりに元音源を聴いてみると、あらビックリ!自分が採ったのと微妙に違う雰囲気の箇所が、鮮明にわかるではあ〜りませぬか。その数箇所を修正すると、もう元音源と寸分違わぬ「完全コピー」の出来上がりです。音楽以外の作品やレポートでも、作り終えてすぐ提出するのではなく、1週間置いてからもう一度見直すと、いろいろ気付くことが多いものです。「熟成」こそコピー道、第2の奥儀なり。
(3)編曲入門
編曲の面白さは、一度経験したら病み付きになること請け合いです。ただ、いきなり何十段もの真っ白な5線譜を前にしても、途方に暮れてしまいますから、最初はやはり簡単なアンサンブルから書いてみましょう。吹奏楽の関係者でしたら、クラリネット三重奏あたりが手ごろでしょう。サックス四重奏が最も幅広い書き方ができて、私自身は初心者の頃はもっぱらサックスばかり書いていましたが、移調楽器に慣れないうちはちょっと辛いです。逆に、移調楽器に強くなるためには、サックスアンサンブルは持ってこいの材料です。吹奏楽部の演奏会では、よくパートごとに短い曲を吹いてパートの紹介をするのを見かけます。ああいうのがアレンジャーデビューの絶好のチャンスです。書いたものは、なるべく早く実際に音にしてみる必要があります。どんな駄作でも我慢して演奏してくれる友達を、普段から作って大切にしておきましょう。私は職業的に恵まれているので、「先生が精魂こめて書いた」と言いさえすれば、純真な生徒たちはイヤな顔ひとつせずに演奏してくれます。
さあ、いよいよ大編成のアレンジですが、何事も真似することから入るのが上達の近道です。自分で書き始める前にまず、お手本になるようなスコアを分析しましょう。これも自分の気に入った曲、気に入ったアレンジャーのものがよいと思いますが、ピアノ等でスコアを見ながら弾きます。その際の着眼点は、メロディーを担当するパートがどうリレーされているか、ユニゾンかハーモニーか、ハーモニーならば重ね方はどうなっているか、伴奏の形は長い和音とリズム刻みをどう使い分けているか、などです。これは弾きながら無意識に感じるもので、特に同じアレンジャーの作品を何曲も弾いてみると、はっきりその共通点が見えてきます。そうなればもう自分の作品に挑んでもよい頃でしょう。ただできる作品は、お手本と非常によく似た響きになることは避けられません。編曲手法に自分の独創性を織り交ぜられるようになるのは、膨大な数の作品を分析した末のことです。
最後に付け加えると、コードネームや和声法の知識はどの程度必要か、ということをよく訊かれます。私の考えは、「知っていればもちろん有利。ただ、無くてもナントかなりそう。逆にコード知ってるから即、いい音を書けるとはいかない」という所でしょうか。実際私は、コードなんてまるで知らないのに、美しいサウンドを書くという人を知っています。どうやって音を重ねてるの?と尋ねると、「いやあ、この音とあの音は仲がいい」とか考えてると書けるんだよ」なんて答えが返ってきます。ジャズのアドリブをやるのにコードとスケールの知識は不可欠、と言われながらも、そんなことまったく知らないくせに、スゴイかっこいいアドリブやる人も多いです。どの場合も、理論は手助けとして貴重ですが、一番大切なのは実戦なのでしょう。
以上、私自身の経験談をお話ししました。もっと詳しく聞きたい方には、いくらでもお付き合いいたしますが、私はすべて独学自己流でやっていますから危険です。きちんと勉強したい方は是非それなりの良い先生を見つけてがんばって下さい。