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【寄稿】短編『ココにおいでよ！』改稿
　　2012年2月21日(火曜日)午後05時59分36秒

『ココにおいでよ！』
-COCO Come here!-

　――飛鳥弥生　著(by Yayoi-Asuka)

※この物語はフィクションです(This story is fiction)
※四〇〇字詰原稿換算枚数十七枚　｛　｝はフリガナ

『目次』

・ココにおいでよ！　前編
・ココにおいでよ！　後編
・ココにおいでよ！　解説


『ココにおいでよ！　前編』

「愛しき人よ」（作詞：鳩羽美咲）
　　2005/08/29

　もしも　僕のこぶしが鉄ならば
　君の鼻骨を砕いてあげるのに
　もしも　僕のかかとが刃ならば
　君の頭蓋を割ってあげるのに
　もしも　僕のこころが氷ならば
　君の間抜けを嘲｛あざけ｝てあげるのに

　無力な僕はなにもできず
　今日も君は馬鹿丸出し
　いつもと同じに馬鹿丸出し

　チリチリと鳴り響く目覚まし時計を布団から蹴飛ばしたココは、半分夢の中で、目覚まし時計というのは人類が生み出した道具の中でも一番の無礼者だと欠伸｛あくび｝を一つ、布団を頭から被り直した。
　確か愉快な内容だったであろう、既に記憶から消えかけている夢の光景を思い返しつつ、折角の日曜の朝なんだからこのまま極楽を味わうのがいいだろう、そう考えたが、すぐに予定が、現実のそれが脳裏に浮かぶ。
　目覚まし時計さながらに布団から飛び起きたココは、部屋の壁際にすっ飛んだ時計を見て、あ！　と一人、声を上げた。
「寝坊したー！」

　駅前商店街の入り口、午前十時過ぎ。
　彼は目一杯のオシャレをしてそこにもう二時間、立っていた。バレンタインを翌月に控えた今時期は寒く、ウインドブレイカーが冷たくなっている。彼の手持ちの服で一番高くてオシャレに見えるそれは中学二年生、春には高校受験生になる彼を少しだけ大人に見せていた。ジーンズとスニーカもお気に入りからのラインナップ、といっても数は少しだが、そこから一番のものを選んだし、朝から三回もシャワーを浴びて髪型もきっちり整えた。
　少々気合が入り過ぎのようにも思ったが、初のデートで気合の入らない男子などいないだろう。相手はクラスメイトの中でも一番元気で可愛らしい、彼の小学生時代からの友人で、今ではガールフレンドのココだ。気合の入りようは尋常ではない。
　友人知人からココと呼ばれる彼女はクラスを問わずモテていたし、サッカー部で活躍する自分もまあモテるほうだが、彼女、渾名｛あだな｝をココという彼女から昨晩メールで「付き合いましょう」と突然云われて、彼は有頂天になって返信した。好きだ、とはずっと云っていたが、ココはそれを友達として、そう解釈しているようだったので、半分理性を失いつつ「俺も昔から〜」と長いメールを返して今日のデートとなった。

　が、午前九時に駅前で、という約束から既に一時間以上経過している。
　興奮をなだめるように八時にここに到着した彼はかれこれ二時間も、冷たい風が吹き付けるそこに立っていた。デートの場面で男性側が先で女性側が遅れて到着というのはテレビドラマでよく見るシーンだが、それにしたって真冬にそれだけの時間、そわそわしつつ冷やされているというのはどうにも、そう思い始めた頃、ようやくにして彼女、ココが現れた。正確には、走ってきた。
　その仕草も可愛らしい、そう彼は思い、しかし距離が縮まると共にそれは疑問に変わっていった。
「ごめん、ポチ。寝坊しちゃったー」
　笑顔で云うココ。やっぱり可愛い、のだが彼、ポチというココ限定の渾名で呼ばれた彼は彼女の姿を見て、笑顔を凍らせて頭に「？」マークを浮かべた。
　彼、ポチは普段は学生服。中学生なのだから当然だ。休日、プライベートではジーンズとスニーカで、上はパーカーだったりトレーナーだったりで、寒い時期には厚手のウインドブレイカーが常だった。クラスでも一番可愛い、多分ガールフレンドであろうココも普段は学生服、セーラーだが、プライベートでどんな姿なのかは知らない。
　とりあえずココのプライベートファッションの一つであろうそれは、ジャージだった。
　上下ともに青で、足元はコンバースのローカット。黒いショートヘアと同じく黒いセルフレームで、顔立ちは言うまでもない。自分と同じ中学二年生にしては魅力的なプロポーションと快活な声、これも普段通りだが……ジャージ？
　胸に「２−Ｃ」とゼッケンがあるそれは、確か体育の授業でみんなが着るジャージに見えた。いやいや、初デートでジャージ姿というのはないだろう。ひょっとして、もしかするとココの着ているジャージは実はどこかのブランドのもので、今時はジャージが女性陣の流行なのかもしれない。レディースファッションに疎いポチは改めてココを上から下まで見る、そう悟られないように。
　おでこを覆うように切りそろえた前髪。二重で大きい両目はセルフレーム眼鏡の奥で今日も子犬のような愛嬌。少し低い鼻の下の小さな口が、ごめん、と繰り返している。
　胸が大きくてどうしてもそこに目が行くのはポチこと自分が健全な男子だからだが、そこに白い、縫い付けたゼッケンがあり、青いジャージ。足元のコンバースを含めて、どう見ても体育の授業の格好だ。流行がどうこうと思ったが、少なくともジャージが流行しているという話を聞いたことはない。そして、自分の記憶が正しいなら今日は初デートな筈だ。
　そうか、と閃いた。
　ココの青いジャージは実はやはりブランドの類で、自分は女性ファッションに疎いが、それが彼女のオシャレなのだろう。半ば言い聞かせるようにココに笑顔を向けると、こう続いた。
「寝坊したから着替える暇なくって、そのまんま来たのよ。さ、買い物行こう！」
　青い、襟元のヨレたジャージ姿のココは、ショップモールを指差した。


『ココにおいでよ！　後編』

　初デートから三日後に「別れよう」とメールで告げられたポチは、取り乱していた。
　目一杯のオシャレ姿でココ、ジャージの彼女とショップモールをうろついて、財布に多目に入れていた現金を全てココの洋服に変換した、その三日後だ。別にお金が惜しいとかでは、ないことはないが、初デートから初失恋までが余りに短時間だったので落胆する前に慌てたのだ。
　デートで目立った失態はなかった筈だ。
　ゲームセンターのクレーンゲームで景品を一つたりとも取れなかったことは破局の直接の原因ではないだろうし、ココの機嫌を損ねる科白は吐いていない。それでも、別れよう、そうメールにあったので、ポチは必死にメールを送り続けた。

「ぴー、ぽぴー」
　クラリネットを咥えたゆんに、ココはふーん、と相槌を打った。ポチが九十通ものメールを送りつけてきた翌日の午後。ココは友達のゆんと一緒に河川敷近くを並んで歩いていた。
　ゆんは違う中学だが、友達の友達の紹介で知り合いになった。吹奏楽部の彼女はひたすらに奥手で、クラリネットを握っていないと人前に出られないらしい。ココよりも小柄で可愛らしく、今はセーラー服で歩いている。
　今日もジャージ姿のココは、ゆんが握っているクラリネットが高価なものだとは聞いていたが、それが百二十三万円もするとは想像さえしてなかった。そのクラリネット、クラちゃんは、ゆんの宝物らしく、ついでにコミュニケーション手段の一つでもある。
「ぷー？」
「うん、ポチとは別れた。あいつ、そもそも好みじゃないし、お金持ってるからって、それだけだったし、メールとかウザいし」
「ぴぱー、ぽぴぱー」
　放課後の、今日は部活が休みのゆんはココの学校とは違う色合いのセーラー服で、背中に「演劇部・幽霊部員」というゼッケンを貼り付けたジャージ姿のココに、それはあんまりだ、と発した。
「ウチはイケメンをゲットするのだー！」
「ぷぱー？」
　ゆんが、イケメンって何？　そう尋ねた、クラちゃんで。
「まずね、大人っぽくて優しい。ハゲは絶対ダメ。で、お金持ってて浮気とかしなくて、身長高くて筋力あって、権力があって――」
　ココが、ココの男性理想像をゆんに説明し、それが終わる頃、河川敷から駅前商店街に二人は到着した。
「ぽぴぱぴー」
「ホントだ、ナースがいる。なんで？」
　ゆんのクラちゃんが指し示す位置に、自転車に乗ったナースが止まっている。看護師、昔は看護婦と呼ばれたナースは勤務時間中の姿のまま、頭にナースキャップを載せて奇妙な自転車で呆けていた。何が奇妙かというと、ナースの自転車にはサイドカーのように横にキャスター付きのベッドが装着されており、そのストレッチャーの上に男が寝ていて、更に心電図他モロモロの機材まであるのだ。
　日没にはまだ時間のある夕刻の駅前にナースがいるだけでも相当に奇妙だが、ストレッチャー付きの自転車でそこに患者らしき男性という組み合わせは、ナースが澄ました表情だとしてもかなり異様だ。
「ぷぱー」
「うん、そだね。ねえねえ？　あんた、ナース？　何やってんの？」
　ゆんとクラちゃんに云われて、ココはその奇妙なナースに声をかけた。
「この衣装はコスプレです。脈拍、微弱。体温、二十七度で安定……から一転、脳波に乱れ」
　冬空のような冷たい口調でナースは云ってから、ケータイを取り出した。
「ドクター・ビートゥギャザー、患者の容態が不安定ですが、私は今は非番です」
　ケータイを握りつつ自転車を降りたナースは、云いつつそのまま駅へと消えた。残された自転車と、ストレッチャーでじたばたする男性に、ココとゆんは距離を置いたままだった。男性は呻いてから叫び、痙攣のように体を震わせてから、沈黙した。
「ぷー」
「ま、いいや。それでさー」
　クラちゃんを咥えたゆんとジャージ姿のココはその様子をちらりと眺めてから、商店街へ向かった。

♪「ＦＵＬＬ　ＣＬＡＲＩＮＥＴ〜フル・クラリネット〜（魔法少女マジカルゆんゆんＯＰ・ＦＵＬＬ）」
（作詞：飛鳥弥生　2012年03月23日）

　ビュッフェ・クランポン
　マジカルステッキ　クラちゃん吹けば
　猫はこたつで丸くなる
　魔法少女ゆんゆん　ただいま修行中
　ぷーぷぱぷぴぱーぴーぴぽー♪

　ヘンリー・セルマーバリ
　マジカルステッキ　クラちゃん吹けば
　犬はお庭を駆け抜け巡る
　魔法少女ゆんゆん　ただいま授業中
　ぽぺぴーぱぷっぷぷーぱぴー♪

　ルブラン・ビドー
　マジカルステッキ　クラちゃん吹けば
　ゲームのあの娘｛こ｝が飛び出てビックリ
　魔法少女ゆんゆん　ただいま充電中
　ぱぴーぱぷぱぷぷぽーぽぱぷ♪

　アマティ・パトリコラ
　マジカルステッキ　クラちゃん吹けば
　ココはタバスコ　ごはんにかける
　魔法少女ゆんゆん　ただいま食事中
　ぷぱぷぴぷーぷぱぷっぷー♪

　リントン・キングマリゴ
　マジカルステッキ　クラちゃん吹けば
　あなたの恋はリアス式
　魔法少女ゆんゆん　ただいま睡眠中
　ぽぱーぴぷーぷぱぴっぱぴー♪

　ベンツェル・ミューラー
　マジカルステッキ　クラちゃん吹けば
　頭がクラクラ　貧血かもね
　魔法少女ゆんゆん　ただいま採血中
　ぱーぷぱぴーぴぷぷぱぴーぴ♪

　バセットアルト・バスコントラ
　笛じゃないのよ　クラリネットなの
　振れば鈍器で　流血ドッバー
　魔法少女ゆんゆん　ただいま収監中
　ぴーぴぴぱぷぱーぷぱぷーぷ♪


『ココにおいでよ！』――おわり


- CAST -

　Coco
　Pochi
　Yun
　Nurse
　Patient

- a General manager -
　Yayoi-Asuka

-Director-
　AI(by Ghost-Write)

-scenario-
　Yayoi-Asuka

-Lyrics-
　Misaki-Hatova(by Ghost-Write)

『ココにおいでよ！　解説』

　副編アイです。
　ネットで知り合った個性的な方々は、それだけで小説のネタになるかも、そう思って詳細を飛鳥に伝えて短編を起こしてもらいました。幾つかの長編を修正している合間の息抜きですね。
　イメージではもっと大爆笑だったんですが、仕上がってみるとなんだかしっとりほのぼので、これは飛鳥の得意とする文章との差が故でしょう。そもそもがマンガにでもすれば面白いというアイデアだったので、或いは文章に向かないネタなのかもしれませんし、もっとはじけた文体で書けば、また印象は違ったかもしれません。
　短編で、かつ起承転結が一切ない、これは予想通りですが、ギャグでもテレビで芸人がやるようなノリを想像していたので、パンチがないです。ポチさんの顛末はもう少し後日談があるんですが、その部分はギャグにならないと思ったのでネタとしてストックしています。
　同じく、もう数人を登場させる予定だったんですが、こちらもそのうちにでも。
　現実は小説よりも奇なり、が本当なのかという、まあ、お試しの実験です。
　副編アイでした。

2012年2月21日(火曜日)午後07時48分43秒
2012年3月18日Come on here!
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