1999/07/01
『物差し』
{ものさし}
「私たち、とうとう親になるのね。ここに新しい命が眠っているなんて、何だか実感が湧かないわ。でも、いるんだよね、私たちの子供が。私、模範的な親になんてなれないけど、でも、優しいお母さんにならなれると思う。だって、あなたの子供なんだもの」
「いいかい? 君という人間はこの世でただ一人の、かけがえの無い存在なんだ。どこを探したって君と同じことを考え、同じように感じる人間はいないんだよ。君は先祖が守り抜いた大切な命を、皆の希望と共に受け継いだんだ。君にしか出来ないことを成し遂げる為に、君には生き続けて欲しいんだ」
「え? 部長からシステムの見直し案が出たって? 全く……。そりゃさ、手抜きだと云われたら返す言葉はないよ。でもさ、今回の対象ユーザーは子供だぜ。気付くもんか。いいからさ、進めちゃおう。何、問題ないって」
「大使館の発表によりますと、被害者に日本人は含まれていないとのことです。以上、昨夜未明の旅客機墜落事故についての続報でした。この事件については、新しい情報が入り次第お伝えいたします」
「例の試薬、マウスでの実験報告は聞いたよ。ああ、申し分ない、素晴らしい成果だ。お偉方の了解は既に取り付けてある。早速、臨床試験に入ってくれたまえ。我々は医療技術の革命を目撃することになるぞ、頑張りたまえ」
「おい! そこのお前! ああ、貴様だ。そこの壁に沿って立て。うるさい、黙って云う通りにしろ! いらついてるんだよ俺は! ん? 撃つんですか、だぁ? 馬鹿か貴様は。銃を抜いたら撃つに決まってるだろうが。理由? そんなもん無いさ。たまたま目に付いただけの、唯の憂さ晴らしだよ、じゃあな」
おわり