1999/07/01
『※繰り返し』
{くりかえし}
虚無を漂う次元の卵に照射されたエネルギー線はその密度を徐々に高め、遂に卵を開闢へと導いた。点から時空へと爆発した宇宙は様々な物質を吐き出し、手に手を取り合ったそれらはやがて無数の輝く恒星として漂い始める。
煮えたぎる海で発生と消滅を繰り返す塵が秩序を産み出し、程なく形成された知性は終わり無き宴を繰り広げていった。技術を駆使して母なる宇宙へと旅立った人類が始めて出会った生命は、天空から降り注ぐ脅威として長く君臨し、人類を蹂躪した。
中枢銀河帝国領域の外縁から数百回に及んだ時空跳躍の末、四十億隻の終戦艦隊は、敵対生命の本拠地である三重連星を捉えた。宇宙の果て、事象の地平線の傍らで、いびつな軌道を描く青褐色の三重連星から、情報部の予測通り、未知の慣性推進技術による迎撃用抗体生物が止めど無く射出された。その数は、終戦艦隊を完全に包囲してなお余りある。
終戦艦隊旗艦の有機甲板から放たれた光学信号弾が世界の辺境で新星の如く輝き、銀河帝国と、心通わすことの叶わぬ敵対生命との生存権闘争は、今まさに終局を迎えようとしていた。
五十年に渡った両者の決戦は、膨大な塵と無数の悲しみを産み落とした。長らく漂ったそれらは収縮を始めた宇宙の壁により押し集められ、錆色の銀河へと姿を変える。青褐色の三重連星は銀河帝国と衝突し虚質量惑星と化し、自らの産み出した膨大な塵と悲しみと共に、手近の物質を残らずかき集めた。
寿命をまっとうした世界はその密度を急速に増大させて行く。繁栄を終えた宇宙は全ての熱を使い果たして再び卵へと還元され、広大な虚無を静かに漂った。
卵にとってそこは、辺りを飛び交うエネルギー線が極希にかすめるだけの、静かで退屈な場所だった。
そして――
おわり