編制

1999/07/02
『噛み合わせ』
{かみあわせ}

「脳死患者からの臓器移植はさ、技術よりも倫理的側面がとりざたされているけど、そんなものは宗教的束縛を抗えない旧時代の石頭連中の理屈だよ。我々人間は永遠に神秘たれ、ってなもんさ。自分がレシピエントだったら、とまでは云わないけど、親族が、或いは知人がそうならどうするつもりなんだろう。
 友達が体中に機械を埋め込まれて病室に監禁されている、僕なら耐えられないね。ドナーなんて呼ばれててもさ、結局は死体じゃあないか。死体は語らないし痛がらない。単なる肉さ。それを拝借することへの躊躇なんて、僕に云わせりゃたちの悪い冗談だね。
 僕なら? やめてくれよ。死んでからのことなんて外野が勝手にすれば良い。それに対して僕はイエスともノーとも云えないし、どっちだって死んだ僕には関係のないことさ、違うかい?」

「あなたって臓器移植に対して非常に関心があるのね。こんなにも楽しそうに語る人を久しぶりに見たわ。それに奇麗な声ね、歌わせたら聞き惚れるに違いないわね。今度、どお? でも、あなたは何故いちいち大袈裟な手振りを加えるのかしら。それってお世辞にも知的とは云えないから、よした方が良いと思うわ。
 そう、知的といえば、あなたの会話は文脈の組み立てがとても丁寧で聞き易いのよ、気付いてた? 確か……文系、だったわよね? 私は駄目。もう、てんでバラバラ。理系だから、じゃあないわね。きっと遺伝よ。父親も母親も喋るのが苦手でね、あの人達はそれで苦労したらしいわ。やだな、私もきっと凄く損してるに違いないわね。ねえ、どう思う?」

おわり