編制

1999/07/12
『適材適所』
{てきざいてきしょ}

 息を切らせた垂れ目の男とぐっしょりと濡れそぼったコートを交互に睨み、痩躯の女は奇麗に並んだ白い歯を剥き出しにした。「ほうら! だから嫌だったのよ! 毎回毎回これじゃあ――」「何?」と垂れ目の男は聞き返す。痩躯の女は「もうウンザリだって云ったのよ。別れましょう」と吐き捨て返事も聞かずに踵を返すと、呆けている男を残して雨へと駆けて行った。
 ぐしょぐしょでアパートに辿り着いた男の前には見知らぬ外人が一人立っていた。警官か軍人か、そんな様式の制服を着ている。「早速ですがご同行願います。一刻を争いますので詳細はヘリの中で説明します。おい!」
 外人警官が右腕をぶんと振るうと、見慣れない機具で完全武装したコマンド数人が沸いて出て、垂れ目の男を取り囲んだ。ぐう、と云う暇も無く男は黒塗りの2ローターヘリに担ぎ込まれ、暫くするとヘリはどこかの小さな空港に降り立った。どやどやとジェット機に押し込まれ、居心地の悪い沈黙が数時間、垂れ目の男を襲った。おぼつかない足取りでアスファルトに降り立った男に、砂っぽい熱風が吹付けた。
「国王に会っていただき、すぐに作戦を開始します」垂れ目の男は武装コマンドに引きずられていった。「説明してくれ!」とうとう男は叫び声を上げた。外人警官が「おう!」と漏らし、険しかった表情を目一杯崩して垂れ目の男の肩をそっと撫でた。「これは失礼。では簡潔に。ここボガン王国は今年に入ってすぐ数百年来のかんばつに襲われ数万人の餓死者を出し、そしてその数は現在も尚増加中なのです。ボガン王国からの援助要請を受けた我々国連超自然現象機構は、この事体に対処すべくあらゆるエージェントデータを検索し、あなたを適任者として選出しました」「適任者?」「はい。あなたは間違いなく世界最高の……」「世界最高の?」
「雨男ですから」

おわり