2002/10/01(2001/08/04)
『中性化』
{ちゅうせいか}
チクリと小さな痛みが走ったのが数分前。
頭がくらくらして視界が霞む。体が動かないが、特に苦しいことはない。
ぼんやりとあいつの姿が見える。それともう一人、知らない顔が。
ここは? 以前、何度か来たことがある……筈。思考が上手く回らず、思い出せない。そういえばあの顔も、見たことがある気がする。話し声が微かに聞こえる。
「……やっぱり可哀相じゃないですか?」
あいつだ。いつになくトーンの低い声。何事だろう。
「お気持ちは察しますが、お互いのためでもあるんですよ――」
そう、聞いたことのある声だ。しわがれたくせに妙に通る低い声。
「――この手術は」
……手術?
「意見が分かれることもありますが、自然のままであることは、必ずしも幸せではないんですよ。この手術には、様々な疾患を未然に防ぐという意味もあるんです。以後、そのことでいらぬ心配をせずに済み、しかも本人に無益なストレスを与えずに済むんです」
さ! 触った! 今、私に触った? 手術って……私?
「勿論、痛みの類は一切与えません。手術中も術後も」
「……そう、そうですよね。じゃあ、お願いします」
「安心して下さい。摘出に要する時間はほんの数十分ですから……」
て! 摘出? 待て! ちょっと待て! 何だ! 一体何をする……! い、意識が……。
……目覚めた。いつもの場所、あいつの声が聞こえた。
……。
今の私は、生物として、存在する意味があるのだろうか? ないだろう。それを摘出されたのだから。
これが、ここで生きる代償なのだろうか?
お互いのため? ……笑える話だ。
おわり