行方不明だった恋人タニヤから考古学者のケンの元に手紙が届いた。彼女は「ダブエストン」、又は「ダブストン」などと呼ばれる土地にいるらしい。夢遊病の持病がある彼女は、いつものようにケンのベッドから裸でさまよい出て、迷いの大地ダブ(エ)ストンに辿り着いたのだ。
赤道の南のどこかにある謎の土地、誰もいきつくことのできない伝説の地域。そこでは人もツバメも王様も、ありとあらゆる生き物が迷い続ける。そこから帰還した人間は過去にただひとりだけ。ただし、ダブ(エ)ストンの所在も、戻りかたも記録には残っていない。しかしケンはタニヤを追ってダブ(エ)ストン辿り着き、迷い始める。ただ一人、愛する人タニヤだけを求めて。
嫌いじゃないです。結構好きな話ではあります。でも・・・。読み方間違えたかもしれない・・・(--;。
ネ
タ
バ
レ
警
報
例えば主人公・ケンと行動を共にすることになる郵便配達人・アップル。彼は生まれもダブ(エ)ストンなら、育ちも当然ダブ(エ)ストン。ただひたすら迷い続けることを要求されるダブ(エ)ストンという世界で生きてきた。だから外の世界を経験したことがない。そのくせ、外の世界からやってきた、迷う事のない世界が当然だと考えているケンの話を聞いても、驚くでもなく、疑うでもなく、反発するでもない。それはダブ(エ)ストンには常に新しく人が迷いつくようだし、郵便配達人である彼は常に多くの来訪者と出会っているのだろう。だが、彼は外の世界を、いつも行く手がはっきりと見えることが当然で、真っ直ぐ歩いていれば必ず真っ直ぐ進むことの出来る土地を経験したことがない筈だ。それなのに、辿り着くべき先が見える世界が存在するということにあまり疑問を感じていないようだ。アップルにとっては、読者が現実だと思っている世界こそが、全く経験したことのない未知の世界だというのに、そういうことに対して驚きを感じているようには思えないのだ。むしろ彼が当然だと思っているであろう迷い続けることに対して、苛立ち、悲しみさえ覚えているように読み取れる。
アップルに限らず、他のキャラクターも「迷い続けている」割には、拠点となるべきどこかや、辿り着くべき目的地をしっかりと認識しているように思えた。彼等にとっても、迷う事は永遠ではなく、いつか目的地に辿り着くことによって終わりを迎えるべき物なのだ。迷い続けることは、「呪い」にもなりうるくらい恐ろしいことであり、本来起き得べからざること、不自然なことでしかない。本当に迷い続けることを、ダブ(エ)ストンという異世界を、自分にとって本当の世界として受け入れている人物というのはいないような気がする。私たちにとって、目的地が見えないまま迷い続けるということは、不安なことであり、恐怖すら感じることであるはずだ。もし迷う事を常態と認識し、それに喜びや希望を感じる登場人物がいれば、ダブ(エ)ストンという世界はもっと現実からは遠く、だからこそ「どこかに存在してくれているかもしれない土地」として感じられたのではないだろうか。だが、なぜか登場人物の誰もが、ダブ(エ)ストンという世界を「ここにある現実」とは違うものとして「わかってしまっている」ような気がして、「ない」からこその存在感とも言うべき物が感じられなかったのだった。
逆に現実からやってきた、読者の目となり耳となるはずの主人公・ケンの方も、なんだか漠然としていてつかみ所がないのだった。もともと世界を飛び回っていた考古学者だからかもしれないが、結構難なくダブ(エ)ストンという不思議な現象に適応してしまう。タニヤ、というのはもしかしたら夢に描いた理想の女性で、その幻を追って迷いの土地に自ら踏み込むことになったのかもしれないとさえ思える(そういう話なのかもしれない、うん)ほど、彼の思いは希薄で、存在感がない。彼は趣味の穴掘りが高じて考古学者になったということだし、ただ一つ、ダブ(エ)ストンですら決して迷う事がないであろう方向、すなわち地球の中心に向かって穴を掘り進めるなりして、彼だけは迷わず「タニヤ」に辿り着いて欲しかったと思う(あ、でも重力異常で方向感覚が狂わされる土地だというオチもあり?(^^;)。なのに、なんだか違う所で突然(というか、うーん)風呂敷を畳まれてしまって、困ってしまった。迷い続けて生きてきたダブ(エ)ストンの住人が、唐突に終着点に辿り着き、新たな迷い人が誕生するというこの結末は、どうなんだろう?
これは著者が「人生とは迷い続ける瞬間にこそ喜びが在る」と寓話的なことを表わそうとして、そのような書き方をしたからなのかもしれないし、あるいは読者に理解されやすいように、わかりやすいようにという配慮の結果なのかもしれない。でも、冒頭を読んだ私は、もうちょっと奔放に「異世界」を楽しませてもらえることを期待してしまったのだった。もっと一人よがりに、もっと好きなように、もっとやりたい放題に「世界」を書いて欲しかった。面白そうなのに。
まあ、現実でも、いつも人は行く末を見ることが出来ずに迷い続けているようなものなんだろう。そのことこそが著者の書きたいことだったのかもしれない。これは「異世界」の話ではなく、「この世界」の物語だったのかもしれないねえ、と読み終わってから思った次第。うむーーー(--;。