「喪の山」ロイス・マクマスター・ビジョルド:小木曽絢子訳/東京創元社『無限の境界』(1994)収録
1997.12.20読了
1998.5.15記


 SFの感想も書いてみよう、と思って手を付けたのがビジョルドで、しかもよりによって「喪の山」ってところが、イカシテイルでしょう? 

 「喪の山」はビジョルドのメインのシリーズである(って、『自由軌道』も厳密な意味ではこのシリーズに含まれるので、他の作品を私は知らないのだが)"ヴォルコシガン・サーガ"の番外編的な短篇だ。ということで、まず"ヴォルコシガン・サーガ"の説明から。

 シリーズの舞台は、ワームホールで結ばれた複数の宇宙と、そこにある惑星。要するにスペース・オペラなのだが、完璧にキャラクター小説であると言っていいだろう。主に主役を張るキャラクターは、惑星バラヤーの国守(貴族だね)の一人息子であるマイルズ・ヴォルコシガン。このマイルズのキャラクターが非常によく出来ているのだ。

 彼は、生まれながらの貴族であり、摂政の息子でありながら、胎内にいたときに母親が浴びた有毒ガスの影響で身体的なハンデを背負っている。

 というわけで、コンプレックスの塊なのだった。但し、人一倍頭はいいし、弁もたつ。長篇『戦士志願』は、士官学校の入学試験に落ちたマイルズが、意地と知恵と根性とハッタリだけで傭兵軍団の提督になってしまう物語だった。「喪の山」は順番としては『戦士志願』の後、苦難の末に士官学校を卒業し、任官するまでの休暇中の物語である。()

 というような内容。・・・全然SFじゃない(笑)。もう完全に推理小説、というか一種の法廷小説なのだが、一応この短篇でネビュラ・ヒューゴーのダブルクラウンを獲得していたりするので、やっぱりSFの範疇に入るのだろう(^^;。でもジャンルなんて置いておいて、とにかく面白いのだ。

 猫口(口唇裂)であったというだけで、生まれて間もなく殺害されてしまったレイナ――その死の真相を突き止めることは、かつて胎内にいたマイルズが奇形であることを知った時に中絶を望み、最期まで自らの孫だとは認めなかった亡き祖父への挑戦でもあった。――いささか遅きに失しているのだが。

 マイルズの怒りと憤りと悲しみと葛藤を丁寧に丁寧に書き込んだキャラクターノベル。SFなんて、スペオペなんて、と思っている人にも読んでもらいたい。これは素直に「いい小説」なんだから。ビジョルドの女性らしさが良い方向に働いた作品(^-^)。

 しかし、マイルズって本当にお坊ちゃんだなぁ(^^;。



ざ・ぼん