というわけで、『ビブリオン』。ちなみに著者は私と同い年、1974年生まれとのこと。大学では経済をやっていたらしい。なるほど、図書館学が専門というわけではないのね・・・。

　一言で申しますと、期待外れというか何というか、私の期待が的外れだったというか。

　人類が初めて文字を作ったその日から、世界中を漂いながらこの世の本という本をみーんな集めているという『アレキサンドリア漂流図書館』にたまたま接続?してしまった芸亭高校の図書室で、たまたま図書委員になってしまった5人が、図書館の聖人ランガナタンIII世からパワーを「貸出」され、正義の戦士図書館戦隊ビブリオンに変身して、図書館の本を狙う悪の組織バグフォードと戦う、というストーリー。

　図書館が舞台で、図書委員が戦い、そして「ランガナタンIII世」とかいう人まで出てくるらしいよ、というお話を聞きつけて買ったんだが、・・・図書館学の講義中、こういうネタ考えてばかりでろくに講義を聞いていなかったでしょう?(笑)　「次に与えられた5つの単語を使ってXXXという用語を定義せよ」という問題で、5つの単語もXXXもよく分かっていないんだけれども、なんとか文章らしくしてみました、というような印象だった。

　『アレクサンドリア漂流図書館』のアイディア自体はさほど目新しくはないけれども、まあ魅力的なのに、その設定で「ランガナタンIII世」はないでしょう(--;。人類始まって以来の営みを管理するものとして、ランガナタン(私は"ランガナータン"と習った)では若すぎる!!　ランガナタン（Ranganathan, Shirali 1892-1972）だぞ?　その三世??　それは名前を拝借する相手を完全に間違っている。日本史上の歴代の武将の霊を預かる所の管理者が徳川喜慶3世だと言っているようなものだ（でも徳川喜慶なら、先祖が一応はっきりしているからその絡みかも、と推測することは出来るな。そういう根拠としては弱いけど＞徳川）。多分今現在地球上のどこかを歩いていると思うよ、ランガナタンの孫。

　まあ、こんなことは図書館学をかじったものでしかわからない、と言われそうなものだが、ちょっとかじれば分かることなのである。ランガナタンなど、概論で必ず出てくる人物であるし、だからこそこの著者も知っていたのだ。私自身もランガナタンについては、インドの苦学生でイギリスに渡った偉い人というイメージがあったりするのだが、著者もなんとなく好印象を抱いたからこそ、この名前を「なんとなく」使ったのだろうとは思う。インド系の人ってあまり他に出てこないしね＞図書館学。確かに図書館学の講義におけるランガナタンのインパクトは凄い(^^;。『図書館は成長する有機体である』なんていう言葉には感動さえ覚えたものだわ。

#余談だがこの名前に伴って表れるイメージが「沢山の箱」。これはコロン分類、ファセット分類の視覚的なイメージだとしても、もう一つ必ず一緒に思い浮かぶものとして、駐車場ってのが(^^;。それもガレージというか、モータープールみたいな。これってランガナタンとどういう関係があるんだろう??(謎)

　以前日記で、小説における地名の扱い方としてふれたことと重なるが、「名前」というのは、大事なものなのだ。何かの「名前」を拝借して使うならば、そのものについてきちんと取材して、はたしてその小説中に使うのにふさわしい名前かどうかをじっくり吟味するってのは、お話を書く上では最低限やらなければならないことだと思う。いくら「名前と登場人物は関係ない」と書いてもね。だって、関係ないいと言いながらも敢えて使う以上は、その名前によってもたらされるであろう何らかの効果を期待しているということでしょう?（この場合は図書館学関係者へのウケ、と思われる）　それは計算しなければいけないことだと思う。図書館史関係の本の索引から適当な名前を語感だけで選んで使う、なんていういい加減なことをしているようではいけない。そこで、自分が扱うことが出来る「名前」なのかを見極め、扱いやすい「名前」を見つけ出すところにも小説の巧い下手が如実に表れるものだ。

　そういう意味で、ここで「ランガナタン」を出すのは明らかに失敗と、私の目には映った。この「名前」を選んでしまったことによって、この著者は、あまり「名前」について考えない人だということはもちろん、取材もあまりしない人なのだということ、さらには学生時代あまり真面目に講義を聞いていなかったのかもしれないな、ということまでさらされてしまう(笑)。ま、私も真面目に聞いていなかったしね(3年次以降は「図書館」の名前のついた講義をとっていない)、大きな口たたけたものじゃないんだけど。でも、この「名前」の選び方は完全に失敗でしょう(^^;。使いこなせない名前なら、一から創作した方が余程効果的で無難で自由でやりやすいと思うのだが、どうか。

　名前のことに限らず、それ以降の展開にしても、とにかく全然「図書館」していないのが期待外れでした。表れる怪人が怪奇紙魚男というのはまあ、いい。必殺技が曝書フラッシュというのも、いい。だがしかし、他の技といえば、「本で叩く」「本で蹴る」「本をワゴンにたくさん積んで転がす」などという「本を使った物理攻撃」にひたすら終始するってのが・・・、悲しくなってしまうほどお粗末ではないですか???(;_;)　確かに「本は重い」というのは、見過ごすことの出来ない「本」というものの特徴の一つではあるが、それだけか?　もっと本、図書館という設定を活かした戦い方を編み出してこそ、この設定が生きるのではないかと思うんですが・・・、あんまりだな(--;。

　積み重ねられてきた知識と知恵の宝庫足る図書館で、全く知能戦がないというのは、ちょーーーーーーーーーーーっと、いただけない。分類番号の話をちらりと書くとか、やたらと図書館用語を使うとか(子供が新しい言葉を喜んで使うような感じ(^^;)、それだけではいかんでしょう。何のための図書館?　何のための学問?　何のための分類?　もうちょっと考えて欲しいなあ。本がバグフォードの攻撃の前に無残に散っていくその姿に、もうちょっと失われゆく本の中身への想いというものを抱けないか?　書けないか???　ハードの話ばかりじゃなくてさ(^^;。

　ただ、「この設定だと、ラスボスは******(ネタバレのため伏せ字)でないと絶対に駄目よね(--;」とか思っていたのだが、結局ラスボスというような展開にはならず、でも、ばっちり図書館の歴史を踏まえると絶対にラスボスな******がからんでいたので、許す(笑)。つーか******を使うとなるとメジャーすぎるから、下手に扱えないということでこういう使い方をしたのだとしたら、それこで逃げたのは巧い(笑)。取材して書けるものじゃなさそうだしね(^^;。

　ま、この本で図書館学というものの存在に興味を持ってくれる小中学生が増えればそれでいいか・・・。ということに、しておこうか、うん。

　図書館ネタはこれぐらいにして、「小説」としてどうか、という話だが、・・・うーん(^^;。単に私が若くないからなのか、私の頭が固いのか、とにかく「コバルトなんて所詮」という言葉を使ったらいけないと思うので、言いますが、文章が(笑)。視点が頻繁に変るのはなんとかしてくれーーーー(~^T)g。章が頻繁に切り刻まれているのは仕方がないとしても、視点への配慮はもうちょっとすべき。

　キャラクターも立っていないし(この手のジュニア文庫ってのは、キャラクターを立たせないと成功しないものだと思うんだけど)、戦隊物としても面白味に欠けているような気がするし（多分この人は戦隊物に燃えるような情熱を抱いているわけではないと思う。漠然と「戦隊物っぽく」という程度でしか想いを抱いていないのでは?と思ってしまった。『東京忍者』にはそれがあったんだけどね）、お話としても、全体的な構成が変。最後の章は無茶苦茶唐突ですよ、あの登場人物(笑)。ほとんどそれまで登場していなかったから、読者に与えている印象も何も出来上がっていないのに、いきなりああいうことをされてもなあ、何の感動もない。第一、どうして『図書館戦隊ビブリオン』でああいう話をしなければならなかったのかが、私には分からない(笑)。

　え、次の巻への伏線・・・?　続けるのなら、図書館情報学概論の教科書を1冊読んでからにしてね、頼むから(^^;。