Sorry,This page is Japanese only. "The Giver" is a wonderful novel!!
『ザ・ギバー―記憶を伝える者』ロイス・ローリー著,掛川恭子訳/講談社ユースセレクション(1995)
1999.2.27読了・記
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 間もなく12歳になろうとするジョーナスが暮らすコミュニティーでは、何もかもが規則で守られている。人々は何の疑問もなく、それを受け入れていた。配偶者は〈長老会〉の厳密な審査で決められ、子供は〈出産母〉に任命された女性が生む。生まれた子供は〈養育センター〉で育てられ、〈一歳〉になると子供は家族ユニットに男女各一人ずつ与えられる。

 家族ユニットで育成された子供は、毎年12月に行なわれる〈儀式〉で歳を取ったことを承認される。年齢ごとに"9歳の女の子は必ずリボンを結ばなければならない"といった規則が決められているが、〈12歳の儀式〉だけはそれまでの〈儀式〉とは違った意味合いを持っていた。それぞれが初めて「個性」を認められ、〈職業任命〉が行なわれるのだ。

 ジョーナスが任命された職業は〈記憶を受けつぐ者〉だった。〈記憶を受けつぐ者〉はコミュニティーごとに一人ずつ存在し、〈長老会〉をしのぐ権力をもつという。ジョーナスはその後継者として選ばれたのだった。その職業は10年前にある女の子が任命されて以来、誰にも任命されたことのないものだった。そして、その女の子は〈職業訓練〉半ばにして"リリース"され、それ以来その名前を口にすることさえ禁じられているという。

 要するに「管理社会物」だ。テーマにも設定にも特に目新しい点はないのだが、読ませます。

 ジョーナスは次の〈記憶を受けつぐ者〉として、現在の〈記憶を受けつぐ者〉である〈記憶を伝える者〉から掌を背中にあてることにより、〈記憶〉を受け継ぎます。最初は楽しい記憶を、徐々に悲しみや苦しみ、痛みと恐怖に満ちた記憶まで。その過程で自分たちのコミュニティーがいかに異様なものかに気付いていきます。この過程が巧いのだ。

 読者はジョーナスのコミュニティーの生活を、やや現実の生活とは違うとは思わせられているのだが、読むに従ってジョーナスと共に、それがいかに異様な世界であるかに驚くことになる。それも恐怖をもって。これが結構センス・オブ・ワンダーだった。内容的にはありがちで月並み程度のものなんだが。

 コミュニティーでは邪魔な丘を削り、すべての地面が平らにならされており、「丘」という概念そのものが存在しない。気候も全て制御されている。ありとあらゆる苦痛はなくなり、人々は本当の喜びも怒りも知らない。

 ジョーナスは記憶とともにそれらの感情を取り戻すが、規則によって〈記憶を受けつぐ者〉の訓練・仕事については一切口外を禁じられていることから、孤独感を募らせていく。ジョーナスは周囲の人間に限りない愛情を抱いているにもかかわらず、他の人々とその思いを共有することはできないという、とてつもない孤独感にさいなまれる。

 まあ、ここらへんは普通なのだが、他に文字媒体ならではの仕掛けがなされていて、ちょっとそこは驚くとともに、語りの巧妙さに感動した。とても美しい(;_;)。

 そして、ついにある真実を知る(あれはちょっとしたホラー並に怖いシーン)に至り、ジョーナスは〈記憶を伝える者〉と共にあることを計画する。悲しみに満ち満ちた二人の決断、そして痛みに満ちた結末―。好きだなあ、こういうの。

 良い本だ。読んでください。


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