『永遠の仔』天童荒太/幻冬舎(1999)
1999.3.17読了・記

=>ざぼん目次
=>ざぼんの実目次

 優希と生一郎と梁平は、四国の児童病院で入院していた仲間だった。それぞれが親から受けた虐待によって心に癒えない傷を負い、精神科に入院することになったのだ。そこで3人は深く触れ合い、支え合い、いたわり合いながら、優希の父親を殺害するに至る。しかしそれは病院で行なわれた登山療法中の事故ということで落ち着いたはずだった。

 だが、17年後、看護婦と弁護士と刑事となった3人が再会したのと機を同じくして、全ての歯車が狂いはじめる。優希の弟・聡志が、優希が隠していた過去に疑いを抱きはじめたのだ。そして殺人事件が起こる。かつて、一体何が行なわれ、何が起き、誰が何をなしたのか。開いたままの傷口から、再び血が吹き出す。

 児童虐待物です。17年前の児童病院での出来事と、現在の事件が交互に語られる形で物語は進行します。

 ああ、もうこれで今年のベスト確定じゃん(T-T)。なんてこったい、というのが率直なところ。凄いです。本当に。前作『家族狩り』も良かったのですが(暴力描写に負けずに最後まで読みましょう)、さらに力量をあげています。さらに手加減なくイタいです。

 虐待する側の親もそれぞれに悩みや傷を抱えていて、その痛みを子供に虐待することで押し付ける。虐待を受けた子供も、どんなに酷い仕打ちを受けながらも、どれほど親を憎んでも、親が自分を愛してくれているという希望にすがろうとして、自らを傷つける。

 とにかく真正面からありとあらゆる痛みを受け止めようという思いで書き綴られているのか、ひたすら痛いです。愛しているからこそ、受けた傷は深く、愛しているからこそ、自分も誰かを傷つけてしまう……。愛しても傷つけるだけで、幸せになることができない(幸せになってはいけない)自分に、果たして生きていく価値があるのか? どの登場人物もそんな疑問を抱き、決して満たされないまま生きている。

 それでも生き続けるのは、傷つけても愛したいから、傷つけられても愛されたいから、いつか赦されたいから、そこに救いを求めるしかないから、救いを求める強い思いがあるから……、なのですが。

 その強い強い思い、怒りだとか、悲しみだとか、憎しみだとか、喜びだとか、安らぎだとか、いつくしみだとか、とにかく3人とその家族が抱える全ての思いが、まっすぐに突き刺さってきます。

 ああ、いかん抽象的になってきた(;_;)。

 とにかく、上下二巻2段組900ページ(400字詰め原稿用紙2385枚)計3700円ですが、良いです。

 ところで余談ですが、この人のデビュー作『白の家族』の著者名ヨミが割れているので、図書館で借りる時は注意が必要。名義は「栗田教行」で、ヨミは本によると「くりた・きょうこう」。が、TRCで検索すると「くりた・のりゆき」で、品川(ニッパン・マーク)で検索すると、やっぱり「のりゆき」でした。うーん……。


=>ざぼん目次
=>ざぼんの実目次