『ポプラの秋』湯本香樹実/新潮文庫
971121読了
971130記


 6歳の時に父を失った千秋が、母と共に3年間移り住んだポプラ荘。その大家だった老婆が亡くなったという知らせを受けた28歳の千秋は、葬儀に向かう飛行機の中で、ポプラ荘時代を回想する。
 漠然とした死への恐怖と、父の死以来鬱状態になってしまった母への心配。転校したばかりの小学校にも馴染めず、なんとなく不安な日々を送っていた千秋は、ついに学校に行けなくなってしまう。
 そこで、ポプラ荘の大家である老婆に預けられることになったのだが、どうもこのおばあさんがおっかない。が、ある日老婆が千秋に
「死んだ人の棺に手紙を託すと、あの世の知り合いに届けてくれる。私はそれを請け負っているのだ」
と告げたことから、千秋はそれまで考える余裕もなかった死んだ父へ、手紙を書き始める。
 湯本香樹実と言えば、相米慎二監督で映画化された「夏の庭 - The Friends」(福武(ベネッセ)/新潮文庫)があるが、まったく子どもと老人を書かせたら絶品だ。「私によく合う」老人と子供を書いてくれる希有な作家。今回もテーマは、遺された思いと残された者の思い・・・、ラジオドラマ(テキスト化希望)時代から一貫しているテーマだ。

 とにかく子供が巧い。突然の父の死から、千秋が抱くようになった「漠然とした」不安と、健気にも母に負担をかけまいとする姿の描写が真に迫っているのだ。一日一日を、精一杯気を張って過ごしていく千秋の姿は、ともすればありがちの嘘っぽいイイコチャンになりそうなものなのに、全くそんな感じを受けない。子供らしくわがままで、子供らしく真剣な「子供」。

 老人もよくある人格を抜き取られたようなイイオバアチャンではなく、ぱっと見子供嫌いを装いながら、その癖子供を相手にすることを楽しんでいるという、あの独特な間を見事に書き起こしてくれている。

 子供が老人とささやかな「秘密」を共有することにより次第にうちとけ、父の死の事実もまっすぐに受け止められるようになってくるその過程もものすごく自然。4つ年上のオサムくんとの交流も、よくある「淡い恋心」という感じではない。

 ともすればお涙頂戴の物語になりそうな設定/ストーリーなのに、18年という時のベールを透かして見ることで湿り気が適度に抑えられていて、するりと読める。2塁打級です(^^)。


ざぼんの実