とにかく子供が巧い。突然の父の死から、千秋が抱くようになった「漠然とした」不安と、健気にも母に負担をかけまいとする姿の描写が真に迫っているのだ。一日一日を、精一杯気を張って過ごしていく千秋の姿は、ともすればありがちの嘘っぽいイイコチャンになりそうなものなのに、全くそんな感じを受けない。子供らしくわがままで、子供らしく真剣な「子供」。
老人もよくある人格を抜き取られたようなイイオバアチャンではなく、ぱっと見子供嫌いを装いながら、その癖子供を相手にすることを楽しんでいるという、あの独特な間を見事に書き起こしてくれている。
子供が老人とささやかな「秘密」を共有することにより次第にうちとけ、父の死の事実もまっすぐに受け止められるようになってくるその過程もものすごく自然。4つ年上のオサムくんとの交流も、よくある「淡い恋心」という感じではない。
ともすればお涙頂戴の物語になりそうな設定/ストーリーなのに、18年という時のベールを透かして見ることで湿り気が適度に抑えられていて、するりと読める。2塁打級です(^^)。