800 TWO LAP RUNNERS
「800」川島誠/マガジンハウス(1992)\1,262

オンライン書店bk1なら、二十四時間以内に発送!!=>買いに行く
川島誠私設ファンページへ

 テキ屋系ヤクザの次男で、工業地帯に住み、女と見ればすぐに飛びつく、元バスケットボール選手の中沢。山の手の、海が見える街に住み、800メートル以外の何事にも興味を持とうとしない広瀬。

 この物語は、対照的な2人の少年が交代に一人称で語る構成になっている。交代で一人称と言っても、例えばリレーのようにバトンを手渡しにするようなものではない。何しろ、冒頭で同じレースを走ってから、初めて言葉を交わすまでに、総ページの2/5が費やされる。それからも、決してべったりくっつくことなく、他校の同じ800メートル走者の関係が続くのだ。ライバルというような形になることもない。常に2人は同じ時間の別の場所で生きていて、それぞれ悩んだり、恋愛したりしている。かといって、流れに一貫性がない、ということにもならずに、実に絶妙なバランスで物語が綴られていく。この小説の良さは、まず語りのテンポだろう。この巧みな構成は、それだけでも読む価値を持っている。

 ストーリーは、一応恋愛を軸にしては、いる。ただ、ここで描かれる男女の結びつきは、関係だけを見るとメルヘンチックなくらい、現実離れしている(と、私は思う(--;)。近親相姦的な雰囲気を醸し出している兄妹、海辺で出会う美少女(物語の中でも、「安易」と言わせている)、「ガーン」と思うほど奇麗でクールなハードル選手。「こんなことないない(^^;」と思わず冷やかしてしまうような、漫画チックな恋愛模様が展開される。

 だが、ここに流れる彼等の葛藤が実にリアルで、自然なのだ。好きなんだか何なんだかわからないんだけど、多分好きなんだろうと思ったり、フられた相手に背中から声をかけられて、振り向くことができずに背中に全神経を集中させたり・・・。本当に切ない、極上の恋愛小説にもなっている。

 もちろん、スポーツ小説としてもものすごく面白い。私には陸上の経験がなく、だから当然、800メートルという種目がどのようなものなのかも全く知らなかった。なのに、

 なんていうことを言われてしまうと、思わず走り出したくなってしまう。レースの様子も、そういった駆け引きなんていうことを何にも知らないのに、ドキドキしてしまうほど面白いのだ。たかだか走るだけなのに、ってね。

 それだけでなく、川島誠は「児童文学らしく」、様々な社会的な問題もストレートに物語に織り込んで見せてくれる。障害のこと、貧富のこと、生まれのこと。あくまでもさりげなく、いい子ぶることなく普通に、ありのままの形で。

 そういった全てのことどもが、最終的に800メートルのレースに収束する。色々な思いを込めて、800メートルを全力で疾走する2人の姿は感動的だ。

 私はこの小説にベタ惚れですm(__)m。


川島誠私設ファンページへ