西暦弐千年
ニ月七日(月曜日)ニ月二十七日(日曜日)まで


「歌」と内容は必ずしも関連していません(笑)



2月7日
かざす手に 触れしえにしの 切れ切れや
集めて包む 今日のこの我


曲がり角でお隣の犬のジョン君に出会う。

真っ黒い毛並みはつやつやしていて
おとぅさんとご挨拶をしていると
「ぼくはまだなの?」
って、くぅんくぅん鳴いてくれる。

ジョン君を撫でさせてもらっていると
彼と私が仲良しなのが
おとぅさんも嬉しいって気持ちが伝わって来る。

久しぶりに暖かい朝の陽だまりには
それぞれに顔見知りの猫がまるまっていて
ちろりんと私を見上げたり
さかさか近づいてきてご挨拶をしたり
小さく「にゃぅ」と声をかけてくれたりする。

仕事場へ持って行くちょっとしたおやつのレジを打ってくれる
コンビニの店員さんも、お互いに顔は知っている関係だし
同じ時間の同じ車両に並ぶ人達の幾人かは
いつ頃からか、目礼を交わしたりもする。

平穏な風景は
ちょっと憂うつな一週間の始まりの朝も
少し柔らかいものにしてくれる。

ホームの向こうに見えるアパートのベランダで
赤ちゃんを抱いたおかぁさんが
去年私が寄せ植えにしていたのとおんなじ
ノースポールとパンジーのプランターに
お水をあげているのが見える。

色々あって、私の自宅は今はお花がないし
猫もいなくて
たまに戻ってきても、ちょっくら自分の家ではないような気もした。

朝の駅に向う道で出会えた風景は
なんだかとても嬉しかった。



2月8日
針供養など


今日は全国的に針供養が行われている。

と言っても京都では12月8日に行われ
関西以西はこれに習い、東海から東北は2月8日が多いようだ。

元々、12月8日と2月8日と言うのは
「事始め、事納め」の日として祭礼がおこなわれていた。

今はほとんど絶えて無くなった行事なのだが
江戸では竹の棹の先に竹で編んだ笊を差して
家々の軒に高く掲げていた。
この起源は諸説あるのだけれど、どれも取って付けたような理由なので
ご紹介するのは遠慮させて頂く。

そもそも「事始め、事納め」自体が
12月と2月のどちらが始めで、どちらが納めなのか
文献によってばらばらだという珍しいケースなのだ。

2月8日と言うのは本来これも旧暦なので、今年は3月13日にあたり
初午の日と重なっていて、一説には12月からこの日までが
実質的な冬の農閑期であり、稲作中心の農家では
厳冬期間の屋外作業を避けて屋内作業を中心に行い
無理をして体を壊さぬようにとの戒めであったとも言われる。
風邪が命取な時代の知恵でもあったようだ。

この為、寒冷な関東以北では「事始め、事納め」の行事は盛んで
豪雪地帯では最初から屋外作業が不可能なので行事はなく
気候の比較的温暖な関西以西では、2月8日の行事はほとんど行われず
一年の納めの儀式として12月8日に針供養のみが広がったとも
言われていたりする。

針を供養すること自体は京都市西京区嵐山の法輪寺にて
奈良期に行われたとの縁起があるが、日時、真贋は定かではない。
(ご存知の方がいらっしゃればご教示下さい)

江戸時代に入ってからは慶安年間(1648−52年)には
「事始め・事納め」の行事が江戸市中で行われていた記録があるが
針供養は各地の淡島神社の縁起に現れるのは明暦年間(1655−57)以降で
若干のずれがあったりもする。

現在は各地の寺院や神社でも針供養は行われるが
起源は淡島神社であることはほぼ疑いはない。

淡島神社の本源は和歌山県の賀田神社だと伝えられている。
淡島神社の縁起はちょっと異色で
住吉大明神の奥様だったのだけれど、婦人病になって嫌われてしまい
紀州・淡島に流されて鎮座し、その後、賀田の海女の守護神となり
婦人病の守護神となり、女性全体の神となったとされる。
(祭神は少彦命であるが、信仰は淡島大明神)

また淡島は雛人形の起源であるともされ、
淡島神社はお雛様の祖神であるともされている。

この為、現在では地方の淡島神社の分社では
3月3日の雛祭りに、いっしょに針供養をする地域もあったりする。

江戸時代、性病だけではなく
婦人病全般は婚姻に差し障りが大きく
医学もこの分野は非常に立ち後れていた。

この為淡島神社は最初は遊郭や性的な事に従事する女性の守護神として
崇敬を集め、そのうち婦人病の神として急速に広まった。
これには「淡島願人」という願人坊主が全国を回っていた為でもあるが
やっぱり、困った弱者の処に、このたぐいが現れるのは昔から変わらないものだ。

そこから転じて、女性の守護神として崇拝を集めるに至り
当時の女性の金銭に交換出来る技術として
最も一般的であった裁縫の神ともなり
関東中心に行われていた事納め事始めの祭礼の間の日時が
ちょうど室内作業である針仕事に集中する時期と一致していたこともあって
針供養が行われるようになったとの説が有力だったりする。

これが転じて仏教の虚空蔵菩薩が
知恵や技芸の守護仏であるとこらから、針供養だけが独立して
虚空蔵菩薩を本尊とする寺院に広がり
関西を含む全国的な行事へ拡大したのではないかとの説が強い。

テレビや新聞を見ると
現在では裁縫学校の行事だったり、リサイクルの一部や、
「針に感謝する行事」なんて薄っぺらい理由のようになっていたりもする。

一針一針大切な家族の衣服を縫い
一針一針縫う事で生活を支えていた江戸期の女性達が
女として健康でいられるからこそ、針仕事が出来る感謝を
そして家族が健康でいるからこそ、縫える衣服への感謝を
そして万感の思いを込めて針を奉納した心を
ちゃんと伝える行事として残って欲しいなぁって思ったりもした。



じぶん更新日記 様の2月7日付日記読み日記で
私の旧暦についてのページをリンク頂きました。
ありがとうございます。
なお、その際に、非常に詳細な暦についてのサイトのご紹介があります。
ご興味をお持ちの方は是非ご覧下さい。


ご連絡
私事により、明日から10日程、日記及びサイトの更新を中止させて頂きます。
ネットにも接続出来ないと思いますので申し訳ありません。

私は元気なので心配しないでくださいね。

お仕事もいつも通り出勤しているので
何卒よろしくお願い致しします。

ではまた。



2月20日
ひととせの 月日をまとい 流し雛
十二単の 衣や重たき


雛人形を飾る。

小さい頃、立派な段飾りが欲しくて
両親や祖父母を困らせた事を思い出す。

今の私の雛人形は
ずっと前に旅行で買ってきた
大内人形の小さなものだ。

淡い色の和紙を折って屏風のように立てまわし
何年か前に縫った赤いびろうどの布を毛氈代りに敷いて
黒塗りのお内裏様と赤塗りのお雛様を並べて
作り物の小さな菱餅をお供えする。

ぼんぼりは無いし
飾ってあるのは、箪笥の上のちょっとした場所だ。

もちろん五人囃子も三人官女も
随身も大臣も居はしない。

流し雛の意味を知った頃
私には何の実感も湧かなかった。

日々の暮らしの不満は自分で無理矢理見つけた
小さな物ばかりだったし
心は憧れという綺麗な衣にくるんだ
嫉妬や羨望ばかりを抱えた
今の自分を見詰めない
そんな私だった。

今日の私は
時間内全指名を頂き
そして久しぶりにこの日記を書いている。

昨日と違う日を望むのではなくて
昨日に似た穏やかな明日を待っている
私がいる。



雛祭りについて


2月21日

猫のお花




北の国から雪便りが届き
高い空を飛んで行く雲も足を速めてゆく。
身を寄せる猫達にそそぐ光は
はかないほどにほそい。

ちょうどこんな季節だった。
すべての触れるものに棘を感じていた。
大切に育てていた
ベランダの花々もいつか枯れていて
カーテンさえも開かない日々が続いていた。

そんな頃の事をお話してみようと思います。





今日も上手くいかなかった。
受け取る言葉の意味は判るのだけれど
その周りにくっついているささくれや棘や針だけを見つめてしまう。

お部屋は荒れている。
本も写真も想い出達も今は私に微笑んでくれない。
毛布をかぶって横になるベットさえ
とても冷たかった。

「あれ?」
カーテン越しに淡い光が見えている。
それは、すこしクリーム色がかっていて、とても暖かそうだった。
窓を少し開いてみると、そこにはまあるい葉っぱの小さなお花が一輪だけ咲いている
茶色のありきたりな植木鉢が置いてあった。

少し強くなった北風の中で今にも倒されそうな淡いお花だった。
周りを見廻すと顔見知りの大きな三毛猫がベランダから隣の屋根へ
飛び移る後ろ姿が見えた。
わたしはそのお花を両手で抱えてベットの横へ置いた。

光はもう見えなかったけれど、そのお花を見つめながら
久しぶりに柔らかい眠りが私に訪れてきた。

朝起きると
なんだか空気も柔らかい。
お花は「ぴんっ」と立っていてうっすら光の射し込む窓に向かっている。
私は久しぶりにカーテンを全部開いて窓を開けた
そこには花々がみんな枯れてしまったプランターが並んでいる。
昨日までは見たくなくってどうしようもなかったのだけれど
そこにあることはずっと気がかりで仕方なかった。
私は、手を合わせてから枯れた花々を土から外し
カーテンを開いたままで仕事に出かけた。

昨日よりは言葉を受け止める事ができた
すこし元気になった私は言葉が多かった気もする

お部屋に入って一番にお花に水をあげようと思った
わっ!!
お花はピンとしているのだけれど
なんだかトゲトゲになっている
まぁるかった葉っぱは薊のようだし花びらは尖がってしまっている
「・・・・・・・・・・」

次の日
私はちゃんとお話を聞こうと頑張った
言いたいこともいっぱいあったのだけれど
ちょっと我慢をして周りの人に溶け込もうとしてみた
少し疲れたけれど満足感はあった

「うっ・・・・」
お花は見たことも無いへんてこりんな形になっていた
ぐにゃぐにゃしていて捉えどころがない・・・



さすがに次の日、私は元気がなかった
でもちゃんとしなければお花がどうなってしまうか判らない
それぞれの言葉の意味をちゃんと考え
お伝えしたい言葉を噛み締めて
一言一言大切に伝えながら
一日を過ごした。

お花はぐったりしていた
でも形は最初に見た時に近いようだ
お水に少し栄養を混ぜてゆっくりあげると
すこしずつ元気になっていった
うっすら埃をかぶっているステレオで大好きな歌を聞き
私は栞を挟んだままになっている本を少し読んだ

私は少し私に戻れた気がした



そして次の日
ちゃんと笑顔で話せた気がする。
言葉の真ん中がちゃんと見えたし探さなくても言葉が見つかった。

お花は元気だった。
なんだかつやつやしていて色もはっきりしている。
私は窓を開いた。
少し風は冷たいけれど綺麗なお星様がいっぱい見えていた。

取って置きの紅茶を入れた。
お花を見ながらゆっくり飲みたいなって思って。

「あっ!!」

振り向くと大きな三毛猫がお花をむしゃむしゃ食べている。

猫は全部食べてしまうとゆっくりと窓から出ていった。
茶色の鉢には根っこだけしか残っていなかった。





お花は無くなってしまったけれど
私はいつもお花の事を思っている。
根っこだけになってしまった植木鉢はちゃんと手入れをしている。

もっともっと自分が好きな私になれたら
なんだかすごく綺麗なお花が咲くような気がしているし。






2月23日
ゆきうさぎ




ふかいふかい雪の積もる北の国に、小さな女の子とおばぁさんが二人で暮らしていました。おじぃさんと、おとぅさんと、おかぁさんは遠い都会へ仕事に出掛けていて、桜の便りが届くまでは戻っては来ません。女の子の名前は「ゆき」といいます。

ゆきは去年まで都会で暮らしていました。仲良しのお友達もたくさんいましたし、お休みの日には遊園地へ行ったりデパートへ行っておもちゃを買ってもらったりしていました。

ある日仕事から帰って来たおとぅさんはおかぁさんと難しそうなお話しをしていて、おかぁさんは泣き出し、おとぅさんは話し終わると、難しい顔をして一人でお酒を飲んでいました。それからすぐに、このおじぃさんとおばぁさんの暮らす、町からも遠く離れたお家へ引っ越してきたのです。

ゆきはお友達と別れたのがとても悲しくて、最初は泣いてばかりいました。新しい学校は生徒も少なくて、同じ学年の子は10人しかいません。みんな優しく話し掛けてくれるのですが、ゆきには何を言っているのか判らない事も多くて、だんだん言葉が少なくなってゆきました。

春の小川で沢蟹取りをしたときも、小さな指を小さな鋏ではさまれて痛い思いをしてしまいましたし、みんなで行った蛙取りの日も、目の前にりっぱに鳴き袋を膨らませているとのさま蛙がいても、どうしても手を触れる事が出来ません。もらった野苺の実はすっぱくて無理矢理飲み込むしかありませんでしたし、秋の遠足の時に山でもらったあけびはなんだか気持ちわるくて、食べたふりをしてこっそりポケットへ隠してしまいました。そして、山が染まり雪が降ると、表で遊ぶ事は少なくなって、ゆきは一人でいる事が多くなりました。そして、お家はおばぁさんと二人きりになって、ゆきは、ますます言葉がすくなくなりました。

おばぁさんに教えてもらった、南天の赤い実を目にした、雪うさぎを作るのがゆきの楽しみでした。手持ちの幾種類かのゲームは飽きてしまったけれど、取り替えてくれる友達はいません。いいえ、きっと頼めば貸してもらえるのですが、ゆきはだんだん誰かとお話をすることが出来なくなってしまっていたのです。お人形は、何を話し掛けても同じ顔でしか返事をしてくれません。その点雪うさぎは、ちょっと目と口を触ってみると、笑ったり、泣いたり、怒ったり、そして情けない顔になったりします。ゆきは、一人で雪うさぎに話し掛けながら時間を過ごすようになっていました。

そんなある日の夜、ゆきはほっぺたが冷たくて目覚ましました。そこには、軒下に置いていたはずの雪うさぎがちょこんと座って、前足をほっぺたにくっつけていたのです。
「しーっ・・・静かに・・・・」
雪うさぎは、そう言うとゆきにおいでおいでをします。

雪うさぎは、ゆっくりだけれど、ぴょんぴょんと跳ねて廊下の突き当たりの納戸の前まで行くと、器用に扉を開けました。
「わぁっ!」
ゆきは思わず声をあげました。そこには菜の花が咲いていて、蝶も舞っています。
「急いで急いで!」
雪うさぎは、ゆきを急がせると納戸を抜けてその野原に駆け出し、川へと向います。そして、沢蟹の掴みかたを教えてくれたり、蛙と話しをしてそっと触れさせてくれたり、野苺を見つけてすっぱい事を教えてくれてからそっとゆきの口へ一粒だけ入れてくれました。すっぱいと判ってから食べた野苺はとても美味しくて、無理矢理飲み込んだ事が嘘のようです。
「ゆきちゃん、ゆきちゃん!」声に振返ると、大変です。雪うさぎは暖かい春のお日様に照らされて、溶けはじめています。ゆきは慌てて雪うさぎを抱き上げると、一目散に元の道を駆け戻り、そして納戸の扉をぱったんと閉めました。
「大丈夫?」
ゆきは、コートを着てからそっと玄関から外へ出ると、新しい雪を雪うさぎの体にぺったんぺったんとつけました。
「ありがとう」綺麗になった雪うさぎにお礼を言いましたが、もう眠ってしまったのかお返事はありませんでした。

それから毎日、夜中になると雪うさぎとゆきは納戸の扉を開けて、それぞれの季節へ遊びにゆきました。川や池や野原や山で、いっしょに遊びながら雪うさぎは色々な事をゆきに教えました。

ゆきは少しづつ学校でお話が出来るようになりました。みんなが楽しそうに話している春の野原の事も、夏の川の事も、秋の山の事も少しづつですが分かるようになって来たからです。都会と違う言葉も、少しづつ馴れてきて、学校の返りにお友達の家へ寄るようにもなり、ゲームも交換できるようになりました。そうです。ゆきには新しいお友達が出来たのです。

雪うさぎとゆきは夜は一緒にあそびますが、昼間はあまりお話をしなくなりました。ある日雪うさぎはちょっともじもじしながら、こう頼みました。
「ねぇ、ぼくもお友達が欲しいんだけど」
ゆきは、ちょっと「ムッ」としてしまいました。だって雪うさぎはゆきが自分の為に作ったのですから。
「どうして?」
「だってゆきちゃん、お昼はぼくと遊んでくれないもの。」
ゆきはまた「ムッ」っとしました。だってゲームをもっとしたい時にも、夜は早くふとんに入っているのは、雪うさぎと遊んであげる為なのです。
「だめかなぁ?」
ゆきの怒った顔を見て、雪うさぎも哀しそうです。
「いいよ。でも私は忙しいから、ちゃんと作れないかもね」

出来上がった雪うさぎのお友達は、なんだか怪獣みたいでした。でも雪うさぎは、嬉しそうに何度もゆきにお礼を言いました。そしてその日は、納戸の扉の向こうに遊びにいかないままで、玄関の横の軒下に戻ってお友達と並んで眠りについたようでした。

ゆきは、もう納戸の扉の向こうへあまり行きたくありませんでした。もう何度も行ったので、近頃雪うさぎは前に行った同じ季節の同じ場所へ連れて行って、同じ事をお話します。そして、ゆきがちょっと意地悪をして作った怪獣みたいなお友達も一緒なのもなんだかとってもいやなのです。怪獣みたいなお友達は、はじめて行くところばかりなので、とっても嬉しそうなのですが、どんな笑いかけてくれてもゆきには可愛く思えませんでした。

何時の間にか雪うさぎが誘いに来てもゆきは寝たふりをするようになりました。そして、いつからか雪うさぎも誘いに来なくなりました。雪うさぎと怪獣みたいなお友達は少しづつ溶けてゆきましたが、おばぁさんが雪をぺったんぺったん塗ってくれていたので、ちょっとづつ形は変っていましたが、消えてなくなる事はありませんでした。ゆきはそれを見るのが嫌で、裏口から学校へ通うようにさえなってしまいました。

ある日、ゆきは寒さで目を覚ましました。枕元には、雪うさぎが並んでいます。

「ゆきちゃん、ぼくたちさよならしますね」
「ゆきちゃん、ぼくたちおわかれしますね」

ちょっとだけ大きさや声が違いますが、そっくりな雪うさぎがいます。
「まってよ、・・・・・・」
ゆきは声を出そうとしましたが、声になりません。雪うさぎと怪獣みたいなお友達に意地悪をしたことを、知っているからです。

「ありがとう」
「ありがとう」

「楽しかったよ」
「楽しかったよ」

「ゆきちゃん大好きだったよ」
「大好きだったよ」

雪うさぎは最初に納戸の向こうへ連れて行ってくれた時みたいに、前足でゆきのほっぺたをそっとなでました。そしてくるりと振りむいて、ぴょんぴょんと跳ねて廊下の突き当たりの納戸の前まで行き扉を開けます。

扉の向こうには真っ白い雪の原が広がり、さらさら、さらさらと粉雪が舞っています。

雪うさぎは並んで、もう一度ゆきを振返ってぺこりとお辞儀をしました。怪獣みたいだったお友達が雪に紛れて見えなくなり、そして雪の中でもう一度振返った赤い目もあっという間に見えなくなりました。

ゆきは泣きました。泣いて泣いて目が覚めました。玄関へ飛び出して軒下を見ると、新雪の上に、ぽつんぽつんとした足跡が、雪の道から山へ向って続いていました。そして見る見るうちに、その足跡も消えてしまいました。

空から落ちて来る雪はすこし重くて、春は近い事を教えてくれている、そんな日の事でした。



2月24日
その肩を 張りて歩みし きみの道
細きに惑う 震えし今日は


肩が震えている。

いつも凛としていたね。
そして凛としている事を
いつしか求められてしまっていたね。

君は涙で前が見えないときも
顔を上げて前へ進む。

うずくまる私や
君を慕う弱いもの達にも
ちゃんと目を配りながら
歩いてくれる。

すこし離れてしまっても
君の背中が見える事で
私は心強かった。

君も何度も躓いて
何度も挫けそうになって
それでも
志を持ち続けた。

卑しくならぬ事。
賤しくならぬ事。

人を卑しめぬ事。
人を賤しめぬ事。

思わぬ出来事が君を襲う。
志が君を縛り
志が君の自由を奪う。

誰にも見られぬ
静寂の中で
震えている君の肩は
脆い程に細い。

明日の君は
また凛とした君だ。

君の姿が凛としているからではなくて
凛とした君の志ゆえに。



2月25日
今日は歌はお休みです


えーと
ご心配のメールも頂いていて申し訳ありません。
私事で色々ばたついてはいるけれど
私は花粉症が少し出てきたかなぁって感じくらいで
心身ともに元気です。

ネットに殆ど接続できないのと
実家ではキーボードをあまり叩けないので
(両親が布団に入るのが早いもんで)
メールのお返事、ゲストブック&掲示板のお返事が滞っていて申し訳ありません。
そして新しいテクスト&日記もアップ出来ていませんが
時間のある時に綴っていた言葉を
その日の気分でアップさせて頂いています。

まだ当分こんな日が続くと思うのですが
何卒よろしくお願い致します。



ついてない日のお話
前に私のページで皆様から取って置きのおはなしと言うか実話に限定した日記を募集した事がある。ご紹介の方法を失敗してしまって考え無しに登録してしまった日記猿人様にもせっかく応募くださった方にもご迷惑をかけてしまった。

今はここに別ページとしているのだけれど、実は、このたぐいのおはなしと言うか「ついてない日の話」って言うのは私が初めてインターネット上で投稿ページに採用された事があったりする。今考えれば文章は恥ずかしすぎるので、カットさせてもらうけれど、事実がそもそも、すげー恥ずかしい。

学生時代だったのだけれど、その頃肉体関係はないれど、ちょっと恋愛の入り口みたいな関係の男の子の部屋の鍵を預かった事があった。

なにかの拍子に、地方から出てきていた彼にお料理を作ってあげる約束をしていて当日急用が出来た彼から鍵を預かり買い物をして準備をしながら待つ事になった。部屋には何度か遊びに行っていたし何人かで集まった時の軽い食事や酒の肴の用意をしたことはあるくらいの関係でもあった。

メニューは、ちょっと凝って、かぼちゃのニョッキとグリーンサラダ、そしてベーコンと白菜のミルク煮の予定だった。ありがちに、安いワインも用意していた。

ベーコンを炒める為に、フライパンに火日を入れていたとき「ピンッポン!」とチャイムの音がする。玄関の横がキッチンだったので、ジュージュー音がしているのにシカトする訳にも行かないので、扉を開けると
「オネエサン。1月でいいから新聞トッテヨー」
「いりません」
「そんな事言わないでサー」
「この家の者ではないんで」
「またまたぁ」
なんて会話をしてからガチャンと扉を閉めて、ちょっとムカプン状態で大股でレンジに戻ろうとしたときに、私は慣れないスリッパでつんのめった。

ア!!と思った時は、もう倒れかけた私の右手は、体を支えるために何かをつかもうと宙をさまよい、着地したところは、油をひいて熱していたフライパンの上だった。

「アアア!!熱い!!」

れは、今まで経験したことのない熱さだった。しかも、手が張り付いてしまって取れない!!フライパンと私の右手は一体化して、不気味なジュージューという音を立てている。

「ワワワ!!」

私は声にならない声を挙げながら、一所懸命、手とフライパンに水をかけ続けた。でも、取れない!!
無理に取ろうとすると、手の皮がはげてしまいそうなそんな感覚でだった。

フライパンは私の手の延長上にもち手を伸ばしたカタチで見事に張り付いてしまっていた。

「なんのコッチャ!!」

状況を把握して、最初に浮かんだのはこの言葉だった。
それから私は、痛みの中で笑い出してしまった。痛みで涙がでるのだが笑いも止まらない。

フライパンに料理の材料が入っていたスーパーのビニール袋をかぶせて、私はとぼとぼ歩いて救急病院向かった。そして笑いをかみ殺すのに必死な、看護婦さんとお医者様のおかげで、フライパンは右手と別れてくれた。

電話をしたら、私の話も聞かず、いきなり怒っていた彼とも別れたのだけれど。

それ以来あまり恋愛に縁が無くなったのは、手相が綺麗に消えていたので運命が変ったのか、指紋が無くなっていたのでこれ幸いと泥棒に精を出した報いなのかは、定かではない。

注:「泥棒に精を出した」部分のみ、たぶんフィクションです。



2月26日
今日は歌はお休みです



闇に通う

昔の話である。

京の山科の里から離れた村に、貧しいが見目麗しい若者が住んでいた。
その若者に、里の長者の娘が恋をした。

いつしか娘は、若者の家へ夜闇にまぎれて通うようになる。

夜道で人に見咎められないように、悪心を持つ者達に声掛けられぬように
娘は、顔に墨を塗り髪を乱して、一里の道のりを毎夜駈けた。

そして、若者の家の灯かりが見える処まで来ると、
小川で顔を洗い、髪を梳り、わずかに紅をさして訪ないを請う。
そして若い二人は見詰め合い、語り合い、睦みあう。

蒼天が少し星を追い始める時刻に、娘は身繕いをし若者の寝顔を見つめる。
そして戸を開けるとふたたび顔に墨を塗って、里へと駈けもどってゆく。

いつしか、噂がたった。
「髪振り乱した、狐の化身が、若者の家に通うようだ」
「若者は、もののけに魅入られているようだ」

若者は思案する。
村の者たちに如何に答えんや。
郷の長者に如何に答えんや。

ある夜、村の者たちは闇に紛れて潜んでいた。
娘は、髪を乱し裾を乱して走り来る。顔には墨で描いた狐の隈取り。
見馴れし窓の灯かりを認めた娘は足を止め、息を整えながら小川に歩み寄る。

いつものように、若者との逢瀬を想い、顔を洗い、髪を梳り、わずかに紅をさす。
月の光に照らされる頬の産毛が銀色に光り、瞳は黒く星を映す。

そして、輝くような笑みを浮かべて振り向いた娘に
村の者達の棒や鎌や赤錆た古刀が、殺到した。

「いやー危ないところだったのぉ」
「こんなに、きれいな娘に化けているとはのぉ」
「これで、大丈夫じゃ。朝になれば正体現すじゃろう」

夜明けにはまだ時がある。

村人達が振り向く先には力なく笑う、しかし安堵の表情の若者がいた。




「浄観筆記」より翻案
文責:めぐみ



2月27日
この今を 写す瞳で 交わせしは
共に過ごせし 時のつれづれ


時間内全指名を頂く。
ちょっと事情があって、フリーのお客様のお相手をする事になり
一本分多くお仕事をした。

刺すようだった風も少し温んでいて
私はいつもの猫達が居る場所に寄る。

そっくりなしっぽ曲がりの兄弟3匹が今日は揃っていて
私に気付くと
誘い合って駆けて来た。

道端で鞄から紙皿を取り出し
おかかの袋を一つ開ける。

三匹は奪い合うことはなくて
ちっちゃなお皿に順番に顔を突っ込んで
はぐはぐ食べては、顔を上げて私を見る。

お皿が空っぽになると
ちょっと残念そうに
そこらへんをぐるぐる回って
大きく伸びをしてから
もう一度私に撫でさせてくれる。

一匹のお髭に
大きなおかかの切れ端がくっついていて
何度も前足で払おうとしても取れないようだ。

私が手を伸ばして取ってあげようとしたとき
一番小柄な猫が、つかつか歩み寄ると
その切れ端を、ぺろりんと食べてしまった。

三匹と私は目を見交わして
笑った。

きっと笑ったような気がするだけでは
あるのだけれど。


いんでっくす



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