|
猫のお花 |
![]() 北の国から雪便りが届き 高い空を飛んで行く雲も足を速めてゆく。 身を寄せる猫達にそそぐ光は はかないほどにほそい。 ちょうどこんな季節だった。 すべての触れるものに棘を感じていた。 大切に育てていた ベランダの花々もいつか枯れていて カーテンさえも開かない日々が続いていた。 そんな頃の事をお話してみようと思います。 ![]() 今日も上手くいかなかった。 受け取る言葉の意味は判るのだけれど その周りにくっついているささくれや棘や針だけを見つめてしまう。 お部屋は荒れている。 本も写真も想い出達も今は私に微笑んでくれない。 毛布をかぶって横になるベットさえ とても冷たかった。 「あれ?」 カーテン越しに淡い光が見えている。 それは、すこしクリーム色がかっていて、とても暖かそうだった。 窓を少し開いてみると、そこにはまあるい葉っぱの小さなお花が一輪だけ咲いている 茶色のありきたりな植木鉢が置いてあった。 少し強くなった北風の中で今にも倒されそうな淡いお花だった。 周りを見廻すと顔見知りの大きな三毛猫がベランダから隣の屋根へ 飛び移る後ろ姿が見えた。 わたしはそのお花を両手で抱えてベットの横へ置いた。 光はもう見えなかったけれど、そのお花を見つめながら 久しぶりに柔らかい眠りが私に訪れてきた。 朝起きると なんだか空気も柔らかい。 お花は「ぴんっ」と立っていてうっすら光の射し込む窓に向かっている。 私は久しぶりにカーテンを全部開いて窓を開けた そこには花々がみんな枯れてしまったプランターが並んでいる。 昨日までは見たくなくってどうしようもなかったのだけれど そこにあることはずっと気がかりで仕方なかった。 私は、手を合わせてから枯れた花々を土から外し カーテンを開いたままで仕事に出かけた。 昨日よりは言葉を受け止める事ができた すこし元気になった私は言葉が多かった気もする お部屋に入って一番にお花に水をあげようと思った わっ!! お花はピンとしているのだけれど なんだかトゲトゲになっている まぁるかった葉っぱは薊のようだし花びらは尖がってしまっている 「・・・・・・・・・・」 次の日 私はちゃんとお話を聞こうと頑張った 言いたいこともいっぱいあったのだけれど ちょっと我慢をして周りの人に溶け込もうとしてみた 少し疲れたけれど満足感はあった 「うっ・・・・」 お花は見たことも無いへんてこりんな形になっていた ぐにゃぐにゃしていて捉えどころがない・・・ ![]() さすがに次の日、私は元気がなかった でもちゃんとしなければお花がどうなってしまうか判らない それぞれの言葉の意味をちゃんと考え お伝えしたい言葉を噛み締めて 一言一言大切に伝えながら 一日を過ごした。 お花はぐったりしていた でも形は最初に見た時に近いようだ お水に少し栄養を混ぜてゆっくりあげると すこしずつ元気になっていった うっすら埃をかぶっているステレオで大好きな歌を聞き 私は栞を挟んだままになっている本を少し読んだ 私は少し私に戻れた気がした ![]() そして次の日 ちゃんと笑顔で話せた気がする。 言葉の真ん中がちゃんと見えたし探さなくても言葉が見つかった。 お花は元気だった。 なんだかつやつやしていて色もはっきりしている。 私は窓を開いた。 少し風は冷たいけれど綺麗なお星様がいっぱい見えていた。 取って置きの紅茶を入れた。 お花を見ながらゆっくり飲みたいなって思って。 「あっ!!」 振り向くと大きな三毛猫がお花をむしゃむしゃ食べている。 猫は全部食べてしまうとゆっくりと窓から出ていった。 茶色の鉢には根っこだけしか残っていなかった。 ![]() お花は無くなってしまったけれど 私はいつもお花の事を思っている。 根っこだけになってしまった植木鉢はちゃんと手入れをしている。 もっともっと自分が好きな私になれたら なんだかすごく綺麗なお花が咲くような気がしているし。 |
|
ふかいふかい雪の積もる北の国に、小さな女の子とおばぁさんが二人で暮らしていました。おじぃさんと、おとぅさんと、おかぁさんは遠い都会へ仕事に出掛けていて、桜の便りが届くまでは戻っては来ません。女の子の名前は「ゆき」といいます。 ゆきは去年まで都会で暮らしていました。仲良しのお友達もたくさんいましたし、お休みの日には遊園地へ行ったりデパートへ行っておもちゃを買ってもらったりしていました。 ある日仕事から帰って来たおとぅさんはおかぁさんと難しそうなお話しをしていて、おかぁさんは泣き出し、おとぅさんは話し終わると、難しい顔をして一人でお酒を飲んでいました。それからすぐに、このおじぃさんとおばぁさんの暮らす、町からも遠く離れたお家へ引っ越してきたのです。 ゆきはお友達と別れたのがとても悲しくて、最初は泣いてばかりいました。新しい学校は生徒も少なくて、同じ学年の子は10人しかいません。みんな優しく話し掛けてくれるのですが、ゆきには何を言っているのか判らない事も多くて、だんだん言葉が少なくなってゆきました。 春の小川で沢蟹取りをしたときも、小さな指を小さな鋏ではさまれて痛い思いをしてしまいましたし、みんなで行った蛙取りの日も、目の前にりっぱに鳴き袋を膨らませているとのさま蛙がいても、どうしても手を触れる事が出来ません。もらった野苺の実はすっぱくて無理矢理飲み込むしかありませんでしたし、秋の遠足の時に山でもらったあけびはなんだか気持ちわるくて、食べたふりをしてこっそりポケットへ隠してしまいました。そして、山が染まり雪が降ると、表で遊ぶ事は少なくなって、ゆきは一人でいる事が多くなりました。そして、お家はおばぁさんと二人きりになって、ゆきは、ますます言葉がすくなくなりました。 おばぁさんに教えてもらった、南天の赤い実を目にした、雪うさぎを作るのがゆきの楽しみでした。手持ちの幾種類かのゲームは飽きてしまったけれど、取り替えてくれる友達はいません。いいえ、きっと頼めば貸してもらえるのですが、ゆきはだんだん誰かとお話をすることが出来なくなってしまっていたのです。お人形は、何を話し掛けても同じ顔でしか返事をしてくれません。その点雪うさぎは、ちょっと目と口を触ってみると、笑ったり、泣いたり、怒ったり、そして情けない顔になったりします。ゆきは、一人で雪うさぎに話し掛けながら時間を過ごすようになっていました。 そんなある日の夜、ゆきはほっぺたが冷たくて目覚ましました。そこには、軒下に置いていたはずの雪うさぎがちょこんと座って、前足をほっぺたにくっつけていたのです。 「しーっ・・・静かに・・・・」 雪うさぎは、そう言うとゆきにおいでおいでをします。 雪うさぎは、ゆっくりだけれど、ぴょんぴょんと跳ねて廊下の突き当たりの納戸の前まで行くと、器用に扉を開けました。 「わぁっ!」 ゆきは思わず声をあげました。そこには菜の花が咲いていて、蝶も舞っています。 「急いで急いで!」 雪うさぎは、ゆきを急がせると納戸を抜けてその野原に駆け出し、川へと向います。そして、沢蟹の掴みかたを教えてくれたり、蛙と話しをしてそっと触れさせてくれたり、野苺を見つけてすっぱい事を教えてくれてからそっとゆきの口へ一粒だけ入れてくれました。すっぱいと判ってから食べた野苺はとても美味しくて、無理矢理飲み込んだ事が嘘のようです。 「ゆきちゃん、ゆきちゃん!」声に振返ると、大変です。雪うさぎは暖かい春のお日様に照らされて、溶けはじめています。ゆきは慌てて雪うさぎを抱き上げると、一目散に元の道を駆け戻り、そして納戸の扉をぱったんと閉めました。 「大丈夫?」 ゆきは、コートを着てからそっと玄関から外へ出ると、新しい雪を雪うさぎの体にぺったんぺったんとつけました。 「ありがとう」綺麗になった雪うさぎにお礼を言いましたが、もう眠ってしまったのかお返事はありませんでした。 それから毎日、夜中になると雪うさぎとゆきは納戸の扉を開けて、それぞれの季節へ遊びにゆきました。川や池や野原や山で、いっしょに遊びながら雪うさぎは色々な事をゆきに教えました。 ゆきは少しづつ学校でお話が出来るようになりました。みんなが楽しそうに話している春の野原の事も、夏の川の事も、秋の山の事も少しづつですが分かるようになって来たからです。都会と違う言葉も、少しづつ馴れてきて、学校の返りにお友達の家へ寄るようにもなり、ゲームも交換できるようになりました。そうです。ゆきには新しいお友達が出来たのです。 雪うさぎとゆきは夜は一緒にあそびますが、昼間はあまりお話をしなくなりました。ある日雪うさぎはちょっともじもじしながら、こう頼みました。 「ねぇ、ぼくもお友達が欲しいんだけど」 ゆきは、ちょっと「ムッ」としてしまいました。だって雪うさぎはゆきが自分の為に作ったのですから。 「どうして?」 「だってゆきちゃん、お昼はぼくと遊んでくれないもの。」 ゆきはまた「ムッ」っとしました。だってゲームをもっとしたい時にも、夜は早くふとんに入っているのは、雪うさぎと遊んであげる為なのです。 「だめかなぁ?」 ゆきの怒った顔を見て、雪うさぎも哀しそうです。 「いいよ。でも私は忙しいから、ちゃんと作れないかもね」 出来上がった雪うさぎのお友達は、なんだか怪獣みたいでした。でも雪うさぎは、嬉しそうに何度もゆきにお礼を言いました。そしてその日は、納戸の扉の向こうに遊びにいかないままで、玄関の横の軒下に戻ってお友達と並んで眠りについたようでした。 ゆきは、もう納戸の扉の向こうへあまり行きたくありませんでした。もう何度も行ったので、近頃雪うさぎは前に行った同じ季節の同じ場所へ連れて行って、同じ事をお話します。そして、ゆきがちょっと意地悪をして作った怪獣みたいなお友達も一緒なのもなんだかとってもいやなのです。怪獣みたいなお友達は、はじめて行くところばかりなので、とっても嬉しそうなのですが、どんな笑いかけてくれてもゆきには可愛く思えませんでした。 何時の間にか雪うさぎが誘いに来てもゆきは寝たふりをするようになりました。そして、いつからか雪うさぎも誘いに来なくなりました。雪うさぎと怪獣みたいなお友達は少しづつ溶けてゆきましたが、おばぁさんが雪をぺったんぺったん塗ってくれていたので、ちょっとづつ形は変っていましたが、消えてなくなる事はありませんでした。ゆきはそれを見るのが嫌で、裏口から学校へ通うようにさえなってしまいました。 ある日、ゆきは寒さで目を覚ましました。枕元には、雪うさぎが並んでいます。 「ゆきちゃん、ぼくたちさよならしますね」 「ゆきちゃん、ぼくたちおわかれしますね」 ちょっとだけ大きさや声が違いますが、そっくりな雪うさぎがいます。 「まってよ、・・・・・・」 ゆきは声を出そうとしましたが、声になりません。雪うさぎと怪獣みたいなお友達に意地悪をしたことを、知っているからです。 「ありがとう」 「ありがとう」 「楽しかったよ」 「楽しかったよ」 「ゆきちゃん大好きだったよ」 「大好きだったよ」 雪うさぎは最初に納戸の向こうへ連れて行ってくれた時みたいに、前足でゆきのほっぺたをそっとなでました。そしてくるりと振りむいて、ぴょんぴょんと跳ねて廊下の突き当たりの納戸の前まで行き扉を開けます。 扉の向こうには真っ白い雪の原が広がり、さらさら、さらさらと粉雪が舞っています。 雪うさぎは並んで、もう一度ゆきを振返ってぺこりとお辞儀をしました。怪獣みたいだったお友達が雪に紛れて見えなくなり、そして雪の中でもう一度振返った赤い目もあっという間に見えなくなりました。 ゆきは泣きました。泣いて泣いて目が覚めました。玄関へ飛び出して軒下を見ると、新雪の上に、ぽつんぽつんとした足跡が、雪の道から山へ向って続いていました。そして見る見るうちに、その足跡も消えてしまいました。 空から落ちて来る雪はすこし重くて、春は近い事を教えてくれている、そんな日の事でした。 |
| ついてない日のお話 |
|
前に私のページで皆様から取って置きのおはなしと言うか実話に限定した日記を募集した事がある。ご紹介の方法を失敗してしまって考え無しに登録してしまった日記猿人様にもせっかく応募くださった方にもご迷惑をかけてしまった。 今はここに別ページとしているのだけれど、実は、このたぐいのおはなしと言うか「ついてない日の話」って言うのは私が初めてインターネット上で投稿ページに採用された事があったりする。今考えれば文章は恥ずかしすぎるので、カットさせてもらうけれど、事実がそもそも、すげー恥ずかしい。 学生時代だったのだけれど、その頃肉体関係はないれど、ちょっと恋愛の入り口みたいな関係の男の子の部屋の鍵を預かった事があった。 なにかの拍子に、地方から出てきていた彼にお料理を作ってあげる約束をしていて当日急用が出来た彼から鍵を預かり買い物をして準備をしながら待つ事になった。部屋には何度か遊びに行っていたし何人かで集まった時の軽い食事や酒の肴の用意をしたことはあるくらいの関係でもあった。 メニューは、ちょっと凝って、かぼちゃのニョッキとグリーンサラダ、そしてベーコンと白菜のミルク煮の予定だった。ありがちに、安いワインも用意していた。 ベーコンを炒める為に、フライパンに火日を入れていたとき「ピンッポン!」とチャイムの音がする。玄関の横がキッチンだったので、ジュージュー音がしているのにシカトする訳にも行かないので、扉を開けると 「オネエサン。1月でいいから新聞トッテヨー」 「いりません」 「そんな事言わないでサー」 「この家の者ではないんで」 「またまたぁ」 なんて会話をしてからガチャンと扉を閉めて、ちょっとムカプン状態で大股でレンジに戻ろうとしたときに、私は慣れないスリッパでつんのめった。 ア!!と思った時は、もう倒れかけた私の右手は、体を支えるために何かをつかもうと宙をさまよい、着地したところは、油をひいて熱していたフライパンの上だった。
|
|
闇に通う |
|
昔の話である。 京の山科の里から離れた村に、貧しいが見目麗しい若者が住んでいた。 その若者に、里の長者の娘が恋をした。 いつしか娘は、若者の家へ夜闇にまぎれて通うようになる。 夜道で人に見咎められないように、悪心を持つ者達に声掛けられぬように 娘は、顔に墨を塗り髪を乱して、一里の道のりを毎夜駈けた。 そして、若者の家の灯かりが見える処まで来ると、 小川で顔を洗い、髪を梳り、わずかに紅をさして訪ないを請う。 そして若い二人は見詰め合い、語り合い、睦みあう。 蒼天が少し星を追い始める時刻に、娘は身繕いをし若者の寝顔を見つめる。 そして戸を開けるとふたたび顔に墨を塗って、里へと駈けもどってゆく。 いつしか、噂がたった。 「髪振り乱した、狐の化身が、若者の家に通うようだ」 「若者は、もののけに魅入られているようだ」 若者は思案する。 村の者たちに如何に答えんや。 郷の長者に如何に答えんや。 ある夜、村の者たちは闇に紛れて潜んでいた。 娘は、髪を乱し裾を乱して走り来る。顔には墨で描いた狐の隈取り。 見馴れし窓の灯かりを認めた娘は足を止め、息を整えながら小川に歩み寄る。 いつものように、若者との逢瀬を想い、顔を洗い、髪を梳り、わずかに紅をさす。 月の光に照らされる頬の産毛が銀色に光り、瞳は黒く星を映す。 そして、輝くような笑みを浮かべて振り向いた娘に 村の者達の棒や鎌や赤錆た古刀が、殺到した。 「いやー危ないところだったのぉ」 「こんなに、きれいな娘に化けているとはのぉ」 「これで、大丈夫じゃ。朝になれば正体現すじゃろう」 夜明けにはまだ時がある。 村人達が振り向く先には力なく笑う、しかし安堵の表情の若者がいた。 「浄観筆記」より翻案 文責:めぐみ |
![]() |