めぐみのにっき
西暦弐千年
八月三日から
「歌」と内容は必ずしも関連していません(笑)
せっけん王国へゆく
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8
月2日
かすかなる 風になれやと 風鈴の
音や愛でしも 汗の一筋
ビードロ細工の風鈴を頂く。
宵待ち草が淡く描かれ
短冊には
月光を受ける
同じ花たちが少し風に靡いている。
家に戻って箱から出すと
猫がじゃれついて
ちりりんと涼しげな音を立てる。
窓を開けると
三ヶ月は西へ傾いていて
光りは薄い。
風は少し強くて
風鈴はせわしなく音を立ててしまう。
窓を閉めた部屋の中で鳴る風鈴は
すこし拗ねた音を出しているような気がした。
8
月6日
引き潮の 波はとどかず 荒れたるも
満ちて浸せし 夏の夕凪
買ってもらったばかりの浮き輪には
向日葵を模したハドメが6個ついていて
真っ白なロープで交互に縫ってある。
少し大振りで
つるつるのビニールではなく
布にゴムが引いてある
白地に濃いピンクのガーベラが描かれた
なんだか立派な浮き輪だった。
お尻が入るどころではなくて
膝を向こう側にかけて
両腕をやっと廻してロープを掴む。
大きすぎてその年の私には
泳ぎの練習には使えなかったのだけれど
まるでボートのように
波のないその海で
ぷかぷか浮いているのは
とても気持ちが良かった記憶がある。
遊び疲れてパラソルの下で
うたた寝をしていた。
方向の変った風に気づいて起き上がると
足元からすぐの処まで砂浜は濡れていて
風に煽られたその浮き輪は
もう波に攫われていた。
沖へ向う浮き輪を
何人もの人達が捕まえようとしてくれたのだけれど
陸からの風と少し高くなってきた波と
そして満潮を越えてすぐの引き潮にのって
オレンジのブイを超えて、流れて行ってしまった。
少し波頭が砕けるようになった沖の波間を
ゆっくりゆっくり
遠ざかってゆく浮き輪は
なんだかいつまでも見えていて
私は
ずっとずっと悲しかった。
今日、何故だかその浮き輪が
戻って来た夢で目を覚ました。
体調を崩してしまった私は
この二日間お仕事にも行けずに
うつらうつら眠りながら過ごした。
遠くで私が見に行くはずだった花火の開く音がしている。
花火を見ながら摘まもうと思って買って来たチーズのパッケージに
ガーベラの写真がプリントされていた事に気付く。
来年だって夏は来る。
花火だって見に行ける。
流れてしまった浮き輪には
夢でなら会える事も知っているし。
8
月16日
忘れんと 思いて忘らる 想いなら
思う事無く 想い忘らん
坂の道は
もうヒグラシの声に満ちていて
振返る西の空に飛ぶ雲は
夕陽にも染まらないほどに高い。
お盆は七月に済ませたのだけれど
一日だけ取れたお盆休みに
一人でお墓参りへ出掛けた。
ほんとはもう少し休みたかったのだけれど
先々週から少しベットで過ごした私は
お休みする事は出来なかったりする。
紋を打った手桶に水を汲んで
手拭いでお墓を洗う。
そして
お話をたくさんたくさんする。
聞いてね
出来ないかも知れないけど
私のしたい事を。
話させてね。
忘れられないたくさんの想い達を。
この数年で私の家族は二人少なくなった。
今は
父と母には
話せない事が沢山ある。
だから聞いてね。
苦笑いしながらでいいから。
8
月19日
吹く風に 虫の音 かすか ベランダの
茶色き一葉 朝顔のつる
昨日の帰り
ちょっと必要な買い物があって
お店の閉店時刻に飛び込んだ私の
うっすらかいた汗も
かすかな虫の音を運んでくる風に
少しづつ引いていった。
いつものように
お水をあげようとした朝顔は
まだ新しいつるを伸ばそうとしているのだけれど
一枚の葉が
もう茶色になっている事に気付いた。
嬉しそうに散歩にでかける犬達も
門から出てくる時には
口をきりりと閉じていて
私と目が合って駆けて来るときになってから
いつものように舌を出してしっぽを振ってくれる。
手に持って出掛けていた
薄いニットを
今日は羽織ってでかける事にする。
曇り空の下の
向日葵の横には
もう
早咲きのコスモスが揺れている。
そう言えば
猫も
寝床の場所を変えたようだったし。
8
月20日
数の字は 同じなれども 異りし
今日も過ぎしや 暦めくリて
ちょうど一年になった。
自分を見失ってしまっていた私は
去年の8月20日
約2ヶ月間のネットの空白を経て
このサイトに戻って来た。
荒れ果てているだろうと思ったサイトは
掲示板やちゃっとには、様々な楽しそうな話題や
時折私へ向けてのメッセージがあり
それは
このサイトを可愛がって下さる皆様のお心なんだと知って
何度も何度も目を擦りながら
一つ一つの言葉をかみ締めさせて頂いた。
嬉しくて嬉しくて
日記猿人さんやReadMe!さんにも登録させて頂き、
だけれど
あんなにはしゃいで日記にも書いたりした
Yahoo!さんの「風俗嬢カテゴリー」登録からは
削除させて頂いた。
それからの私は
このサイトが以前にも増して愛しくて
何度かちょっとしたトラブルはあったのだけれど
今日を迎える事が出来た。
私事で、
ネットに繋げる時間は以前の10分の一も取れなくなってしまって
ほんとにほんとに申し訳ないのだけれど
メールのお返事は残念ながらほとんど出来ていないし
「爆裂書込みねぇちゃん]
と異名を取った、大好きな皆様のサイトの掲示板への書込みも
ほとんど出来なくなってしまったりもした。
毎日の暮らしでは色んな事があった。
この日記に書いた事も
書きたくても飲み込んだ言葉達も
ずっと私と一緒にいてくれる。
そして
この一年でたくさんの新しい出会いがあり
たくさんの言葉を頂き、御縁を頂き
そして別れもあった。
ありがとう。
ほかに言葉が見つからないなのだけれど
もういちど
ありがとう。
8
月30日
残りしは 手首に白き ゴムの跡
日焼けた肌に 夏の想いや
神保町のランチョンで一人で窓際に座る。
仕切っているおねぇさんとビールの味は
あの日と同じような気がした。
神保町に最初に来たときには
手をしっかりと繋いでいた。
資料を探す祖父に連れられて来た古本屋さんは
紙の香りがしていて
背表紙に並ぶ文字は、殆ど読めなくて
ちょっと物知り自慢だった私は
折り返した白いソックスの足首を握って座り込み
向日葵模様の短いスカートに顔を埋めて
悔しかった記憶がある。
昼下がりのこのお店で
ビールを飲む祖父の前に、オムライスを食べてる私がいて
それがまた
大き過ぎて食べきれないのが悔しくて
早く大きくなりたいって思った。
そのうち
どんな本はどこの古本屋さんで探せば良いのかを
少しづつ憶えてきて
祖父の馴染みの御主人や店員さんにも顔を憶えて頂いて
一人でこの街を歩くようになった。
髪を伸ばし始めた頃
この街で偶然大好きな人に出会って
慌てて解いた髪のゴムひもを、手首に巻いたまま歩き回ってしまって
日焼けの跡が
想いが消えた後も消えなかった事も思い出す。
祖父が逝き
暮らしの変った私は
少しこの街から離れてしまっていた。
ランチョンの窓からは
古本屋さんの間口が見渡せて
幼い私が
読めもしない、買ってもらったばかりの、外国語の絵本を
大切に胸に抱いて
ちょこちょこ歩き回っているような気がする。
お勘定を済ませて降りる階段は
少しだけ
古びているような気もしたのだけれど。
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