めぐみのにっき
十月第三週十日(月曜日)から十七(日曜日)
「歌」と内容は必ずしも関連していません(笑)
10月11日
みずいろの シーツも溶けし 空の色
いわしの雲を 見上げて飛ぶ鳶
今日はおやすみだ!
少しずつ色と雲が薄くなってゆく空に
とんびが舞っている。
この天気を逃してはならじと
カーテンや、シーツや、夏の名残の洗濯物をぶちこんで
朝からがんがん洗濯機を回す。
南向きのベランダに
まずは冬のカーペットや、毛布や
モヘアの座布団カバーなんかをばんばん並べて
お日様をあてて秋の準備をする。
洗いあがった洗濯物を物干し2台と、ありとあらゆる洗濯干しに広げて、
ちょっと最近南へ傾いてきているお日様に
少しでも仲良くしてもらおうと頑張る。
寝室の窓も全開にして
ベッドのマットも外し、ちょっとでも
お日様に御対面してもらう。
掃除機をかけ、床を拭き、トイレ掃除をし
ゴキブリホイホイを回収して、新しいのを仕掛け
ちょっと手を合わせてごみ袋にまとめる。
それから私は、全力で駅までかけて行って
電車に乗り、鐘ヶ淵の病院へ行って
良いお天気に、いつもよりご機嫌なおばぁちゃんと少し話し
両親とちょっとお茶を飲んで
また、電車を乗り継いで帰ってきた。
風はちょっと冷たくなってはいたけれど
洗濯物は湿気てはいない。
私はほっとして洗濯物を取り込み
片づけ物をして、猫と差し向かいで
食事をした。
つまんない一日に見えるかなぁ?
普通の事が、普通に過ぎてゆく一日が
こんなに嬉しいなんて
これはこれで、私は幸せなんだなって
思ったりもしている。
そしてこんな日記を読んで下さる
皆様に感謝している。
10月12日
止まり木で 語りし人の それぞれの
今日はいずこに 一人呑む酒
禁酒中断
って別に嫌な事があった訳ではない。
お仕事の帰りに突然思い立って関内駅で電車を降りた。
10月に入って牡蠣を見かける様になり、一年ぶりに
なんだか無性にホフブロイハウスのフライと
スパゲティグラタンが食いたくなってしまった。
ホフブロイハウスってのは
山下公園の近くにある老舗のビアレストランで
昔ながらの食い物とビールを出してくれる私のお気に入りの店だ。
カウンターもあるので、一人でも入れる。
はずだった。
久しぶりに入った店は、造りはそのままなんだけどなんか雰囲気が違う。
メニューも変わってしまっていて
お目当ての2品はどちらも無くなってしまっていた。
私は仕方なく
味のぜんぜん変わってしまったサワークラフトに
ビールを一杯だけ飲んで出てきてしまった。
本牧の友達に電話してみるといともあっさり
「代変りしちゃったみたいで、私も最近行かなくなったよ」
って返事だった。
あらららら・・・
最初にこのお店に来たのは、まだ学生の頃だった。
お決まりの横浜デートドライブで、お決まりのコースを周り
山下公園で口説かれて
「通なお店があるよ」
なんて台詞の後に来たのがこのお店だった。
お店のセレクトでちょっと見直していたのだけれど
食事中から、顔全体に
「セックスできるかなぁ?」
ってでかく書いてあるのっぺりした顔が嫌になっちゃって
食事代金を割り勘にしたあと、さっさと、その場で手を振った。
ちょっとむしゃくしゃして
大桟橋の入り口を通り過ぎて、ぶらぶら歩いているときに
間口のせまいバーが目に付いた。
U時型の10席ほどのカウンターの中に、テンガロンハットを被ったマスターがいて
私と目が合うと、大きな手振りで入っておいでと誘う。
その日私は初めて、一人でカウンターでお酒を飲み
後から入って来たお客さん達と
バーで話す会話ってのを楽しんだ。
私はこのお店でカクテルを憶え
バーボンをロックで飲む様になり
お店で出会う
ミルクセーキとサンドウィッチを食べに来る女の子から
杖をついて訪れ、マティニを一杯だけ飲んで帰る老紳士までの
様々なお客さんたちと、カウンターを挟む距離と
椅子と椅子の距離を保った人との付き合いが楽しくて、
私はそのバーに通った。
11月6日だけは、マスターに縁のあった映画スター様の命日なので
その知る辺の方や、未亡人様まで来られて一晩中いつもとは少し違う時間を過ごした。
出演されていたテレビ番組のビデオを流し
ブルースっぽいその方の唄うレコードを掛け
その方の思い出を語り、そしてみんなで笑いながら泣いていたりした。
私はおでんの火の加減を見たり
あたりめを焼いたり、ポップコーンを造ったりしながら
ちょっと離れて、いつもと少し違うみんなを眺めながら
スターとしてではなくて、人としてこれほどみんなの心に残る凄さを
ちょっと想像してみたりしていた。
そして、ある日そのバーは突然なくなった。
何年かして、マスターは別の場所に
同じ名前のバーを開き、私も何度か行った。
お酒の味も、マスターの人柄もなにも変ったわけではない。
でも、その頃の空気はもうなくていつしか、足が遠のいてしまった。
私は帰りに中華街方面へ曲がり
そのマスターの店へ久しぶりに寄った。
お店はカップルで混んでいて、4人いる店員さんが
忙しそうに働いている。
カウンターにいたマスターは私に気が付くと
軽く手を挙げ、目で挨拶する。
「XYZ・ロンリコ151プルーフ」
私の前にその頃好きだった
綺麗に2色に別れたお酒が置かれる。
「ホフブロイ変っちゃたんだね」
私がポツリと言うとマスターは首をすくめ
ちょっと口の端で笑った。
それは、初めて会った頃からのマスターの癖だって気付いて
私もちょっと真似して笑う。
気に入って練習してみたその頃ほど
マスターそっくりには笑えないけれど。
10月13-4日
風騒ぎ 未だ緑の 葉を撒いて
驟雨ゆくなり 神無月の街
突然の雨
実家へ泊まってきた。
そして、今日の午前中は、父の検査に付き添い
慶応病院へ行ってきた。
私が今の仕事を始める半年程前の冬
なんとか、色々な事で踏ん張ろうとしていた父は
血を吐いて救急車でこの病院へ運ばれた。
意識が戻った父は、なんどもベッドから起き上がって
仕事場へ戻ろうとし
医師に怒鳴りつけられても
最後にはベットから起き上がり
無言でYシャツを着てネクタイをもくもくと結んだ。
深く礼をして、病室のドアに手をかけた父は
私が慌てて差し出した洗面器に血を吐いて
そのまま昏倒し、そして次の日に手術をした。
そして2ヶ以上の間をベットの上で過ごし
私たち家族は、住み慣れた浅草を後にして
いまの小さなアパートに移り住む事になった。
そして私は
今のお仕事を始めた。
昨日、少し吐血があった。
最近少し食欲が落ちていて心配していたのだけど・・
取り敢えず
薬で一ヶ月様子を見て
来月再度検査をする事になる。
ちょっと不安そうな父の背中をドンと押して
「大丈夫だよっ!」
って笑う。
半日お仕事をして街に出ると
季節はずれの驟雨が通る。
父の病名は
私だけが知っていて、再発かどうかは
来週判る。
10月15日
いっぱいを 過ぎればこぼるる 世の習い
知りても止まらぬ 欲のその淵
今日の歌は「狂歌」だなぁ・・・
って事で実はこの日記は全部書き直していたりする。
最初の日記は来年にでも使う事にしよう<=おい!
夜が明けると
濃い秋の色が窓から忍び込んできた。
御土産を頂いた。
「石垣島に伝えられる不思議な茶碗」
って箱に書いてあるのだけけれど、何が不思議なんだ?
確かに茶碗は何やらへんてこな形で中央が盛り上がっている。
「なんか面白い形の茶碗なんで、泡盛でも飲めば?」
って感じで、ミニチュワ泡盛セットと一緒にくださったので
まさか、こんな奇怪な茶碗だとは思わなかった。
確かに不思議な形だ。
「さて、今日は寒いし、まだ風邪気味だから
一杯だけ泡盛を飲んで暖まってから寝よう。せっかく頂いたんだし」
ダイエットは、ほぼ成功したので、お酒は少しづつ飲みはじめている。
ところが、ここが酒飲みの意地汚さ
理由と膏薬はどこにでも張り付くってなもんだ。
「えーと、いつものじゃなくて、せっかくだからこの石垣の茶碗に一杯ね」
ってんで、いつも使うのよりも一回り大きな今日頂いた茶碗を択ぶ。
「♪ふんふんふん♪」
泡盛をお茶碗に注いでゆく。
「一杯だもんね、一杯」
こぼさない様に気を付けながら、縁ぎりぎりまで注いでゆく。
「ありゃりゃりゃーっ!」
その時、あっと言う間に泡盛が茶碗の底から勢いよく漏れはじめた。
私は慌てて口で受けようとしたけれど
あっという間に、テーブルへ全部こぼれてしまった。
「ふえーっ、欠陥品だよぉ・・・この茶碗・・・・・・」
私は泣きながら(?)後片づけをして
茶碗を箱に戻そうとした。
「んんっ?」
使用説明書ってのがある。茶碗に使用説明書ぉっ?
「この茶碗は、八分目以下でご使用になると普通に使えますが
それ以上入れると全部漏れてなくなります。
人生にも欲張りすぎると思わぬ落とし穴がありますよ
という戒めの腹八分茶碗です」
うわぁ、思い切り「べた」だ。
「仲良き事は美しき事哉@実篤」って言う、なすびときゅうりの額の絵と
おんなじくらい「べた」だ。
でも私はなんだかほんのりした気持ちになって
そして大笑いし
もう一度泡盛を茶碗八分目まで注ぎ
ちびちび呑みながら
この日記を、書き直して眠る事にした。
わはははははっ
失礼。
おやすみなさい。
腹八分茶碗画像
松山容子さんばーじょんボンカレー画像付き(爆)
10月16日
木犀の 小さき花や それぞれに
地へと戻るも 香り忘れそ
街から木犀の香りが少し薄くなる。
落花を始めた小さな花が道に点々と落ちている。
葉の横に集まって咲いていて
この小さな花たちが、華やかな薫りを立てるとは
とても思えないほど遠慮がちに見えていた。
ぴんと張ってきた、秋の夜の空気の中で、はらりと落ちる花は、
四枚の花弁をくるくると廻して、
街灯の光がうすく照らす地上に舞い降り
白く折り重なってゆく。
指で摘まんでみても
ひとつひとつの花にもう香りはなくて
少し遅く咲き始めた金木犀が
次の街灯に照らされて、オレンジ色に浮き立っている。
今日は7本お仕事をさせて頂いて
初めての方には一人だけお会いした。
今日もお客様から
「こねこ@1996年ロシア映画」のビデオを頂き
御土産の「ちんすこう」や「甘栗」や
「酔楽天@秋田のお酒」を頂き
新しい本の事や映画の事をお教え頂き
とてもとても暖かな気持ちでお仕事もできた。
アパートの入り口まで来た時に
ぱぁっと風が吹き
私に金木犀の花が降りかかる。
あと2ヶ月で
私はまた年を重ねてしまう。
なんて、思っていたってしかたないので
今日は、最初から八分目にお酒をついで
暖まって眠ろう。
そうだ、「猫にあげて」って頂いた干物を
半分、分けてもらってから。
10月17日
取りいだす 炬燵布団の 温もりに
丸まる猫と 雪の便りや
炬燵布団を出してみた。
手と足をつっこんでみて、感触を楽しむ。
うちの炬燵は、すごく古くて家具調どころではなく
足なんて一本色が違う。
天板はひっくり返すと麻雀が出来るタイプだし
しかも、擦り切れていてところどころ地のベニヤ板が見えている。
去年は途中で壊れてしまったのだけれど
期末に発熱ユニットは980円で新品を買ってきて取り替えた。
浅草の家は掘炬燵だった。
さすがに炭団を使っていたって記憶はないのだけれど
もの心ついた頃は何故か「品川あんか」が入っていて
ぼやーっと温かい感触がとっても好きだった。
食事をし、テレビを見て
みかんを食べながら
みんなで笑いながらお話をし
なんども年越し蕎麦も食べて
そして、いつも一緒だった。
けっこう、でかかった記憶があって
親しい近所の人や知人が来たときも
寒い季節は炬燵でいっしょに鍋をつついていたりもした。
一人切りの時には懐中電灯とおもちゃをを持ち込んで
自分で勝手に作ったお話しの
洞窟だったり、お城の牢屋だったり、宇宙船だったりもした。
そのうち、電気の赤外線ユニットになって
いつも赤く光っている炬燵はとっても温かいのだけれど
もう遊び場ではなくなってきて
いつしか、私は自分の部屋で過ごす時間が多くなっていった。
炬燵布団のすみっこをふみふみして
猫が丸くなっている。
テレビから初雪の便りが届き
私はちょっとお澗をしたお酒を舐めてから眠る事にする。
めぐみのにっきいんでっくす
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