めぐみのにっき
十一月第一週六日(土曜日)から第二週十四日(日曜日)
「歌」と内容は必ずしも関連していません(笑)
11月7日
柔らかき その手その髪 そのしぐさ
離れし今も 思いつのリて
もう彼はいない。
もう二度と触れる事さへ出来ないかも知れない。
私が抱きしめていたあの身体も
見詰め合っているだけで幸せな気持ちなれていてた瞳も
そして、大好きだった
私をとても気持ちよく舐めてくれるざらざらした舌も・・・・
って、お店で飼っていた猫が家出してしまった。
9月25日の日記に書いたのだけれど、従業員様の寮で養われていて
うちの店へ出勤してしていた猫だった。
お店にも、従業員様にも馴れてきていて
一部の常連様にも可愛いがわれていたりもした。
最初はほんとにちっちゃくてちょこちょこ歩いていたのだけれど
いつのまにか、しっかりした足取りになって
段ボール箱に飛び乗るようになり
助走をつけてフロントのカウンターへまでものっかれる様になっていた。
自動ドアが反応するほどは大きくはないけれど
お外へも遊びに行くようになっていて
お店へ向かう私と出会って、同伴出勤したこともあった。
「最近出勤しないねぇ?猫」
「いや、いなくなっちゃたんですよ」
「えっ?」
ボーイさんのお話によると
外遊びを憶えた猫は、だんだん行動範囲を広げていて
人の足でも5分くらいかかる処で目撃されていたらしい。
最初は出掛けても、すぐに戻ってきていたのだけれど
それが30分になり1時間になっていて
みんなのもあまりいない事を気にしなくなっていた先週
閉店時間になっても帰ってこなくて、次の日の開店時間にも
戻ってはこなかったらしい。
お仕事を終わって、無意識に猫を撫でようと探してしまう。
私の手は、まだはっきりとその猫の小さな頭や
背中の感触を憶えている。
駅に向かう道では
顔見知りの猫達が「うにゃぁ」って挨拶をしてくれる。
誰かあの猫が何処へ行ったのか知らないかい?
どうしてるんだろうねぇ、きみは。
綺麗な猫だったので、誰かのお家で丸まっているといいね。
なんとなく見上げた雲り空には星は見えていなくて
いつもより1本多くお仕事をさせて頂いた私は
ちょっと冬の香りさえする風がヒューって吹いたときに
この秋初めてジャケットの襟を立てて家路を急いだ。
11月8日
指折りて 少なき日々を 数うより
語る夢あれ 鬼も笑へと
窓から吹き込む風が
薄くなったカレンダーを揺らしている。
コンビニのカウンターの横には
クリスマスケーキの予約を誘うチラシがつんであって
お歳暮のご案内やおせち料理のパンフレットも重ねられ、
残り少ないこの年の毎日を、一日一日押し流してゆく。
ベッドに起き上がれるようになった父は
年賀状の事をさかんに気にしている。
「なにか手がうまく動かなくて宛名書きがつらいなぁ」
「大丈夫だよ!病気なのはご存知な方も多いし
”本年は宛名はパソコンにて失礼”って書こうよ」
「印刷も間に合わないかもなぁ・・・」
「大丈夫だってば!チラシから好きなの選んでくれれば
その100倍良いの私が作るってばさ。そうすれば文字も自由だし」
「そうだなぁ・・・・」
と言いながら父は病室の窓を見詰める。
商売をしていた私が幼かった頃、仕事関係はさすがに印刷をしていたが
宛名と一言は必ず付ける事を習慣としていた。
個人宛ての年賀状は、仕事で疲れたあとでも
神棚と仏壇へ手を合わせてから、掛け軸の掛った床の間を背に端座して
墨を
摺っていちまいいちまい、毛筆で違う文言をお相手宛てに書き
趣味でもあった、水墨画で干支や言祝ぎにふさわしい絵柄を付け加えていた。
「父さんが書いた絵もそのまま使えるんだよ」
って言おうとしてふと見詰めた父の指先は
細かく震えていて、私は言葉を飲み込む。
「そういえば、ばたばたしていて住所録の整理もしていないなぁ」
「大丈夫、私がやるってば」
父の親しい方の御親族から
気の早い「賀状ご遠慮」の通知も実は何枚か届いているのだけれど
まだ渡していない。
「まぁ、しかたないなぁ今年は、お酉さんにも行けないなぁ」
父の枕元には
9月に家族三人で温泉へ行った時の写真と
お正月に四人でお参りに行った時の写真が
二枚一緒に額縁に入って立ててある。
「温泉楽しかったな」
父がぽつりと言う。
暖かくなったらまた行こうね!
すこし歩ける様になったらおばぁちゃんの車椅子も買って
みんなでゆこうね。
そして隅田川の桜も、堀切の菖蒲も
見に行きたいね
今日はまだ話そうすると涙が出てきそうで
言葉には出来なかった。
もうちょっと落ち着いたら
いっぱい来年のお話をしよう。
そして再来年やずっと先の楽しいお話をみんなでしよう。
鬼のお腹が痛くなるくらい
みんなで笑わせてやろうね。
今日は新月だから、明日から少しづつ月は明るくなる。
そして必ず満月の日が来る。
11月9日
せっけんの 香りに夢は 覚めれども
覚めざる夢に 夢を重ねて
元気なつもりなのだけれど
やっぱりすこしへこたれているようだ。
9月13日の日記にも書いた事のある
お仕事を始める直前までお付き合いしていた
懐かしい彼の部屋に、二人きりで座っていた。
いっしょに揃えた食器や、カーテンは
2年半の月日が経っていて、枚数が欠けていたり、色が褪せていたりはするけれど
部屋は、笑い合っていた懐かしいあの日のままだった。
家庭環境が激変してしまった私の力になってくれようとしていた彼に
「ソープ嬢」になる決心をしてから一方的に別れを告げ
最初の年にはバースディカードや賀状も頂いたのだけれど
返信もしていなかった。というか出来なかった。
私は、別れを告げた本当の理由や
今もソープで働いている事
そして、この2年半に起こった様々な事を
一気に話し、彼の言葉を待った。
「大丈夫だよ。力になるよ」
あぁ、良かった。
思い切って飛び込んでみて。
ぽろぽろ涙をこぼす私の髪を、昔のように軽く撫でてくれて
子供をあやすように、背中をぽんぽんとたたいてくれる。
そうだよね。
そういう処が大好きだったんだよね。
あぁ、良かった。
なんであの時に今みたいにお話できなかったんだろう?
彼は、キッチンへ行ってお湯を沸かし
私がおいたままにしていた、ネルフィルターでコーヒーをいれてくれる。
その時、嗅ぎ慣れたせっけんの強い香りがした。
あれ?彼もソープなんかに行ってるのかなぁ・・・・・
「入浴から戻りましたよ」
私はおばぁちゃんの病室のベットへつっぷしてまどろんでいたようだ。
今日は意識のはっきりしているおばぁちゃんが職員様といっしょに
すぐ横にいて、にこにこ笑っている。
せっけんの香りが病室に広がり
私は慌てて涙をぬぐって笑顔で振り向く。
二年以上続いている今の暮らしは
夢ではないけど、現実でもないような気もしている私がいる。
ごめんなさい。
言い訳でしかないのだけれど
やっぱりなんだか心が不安定だったりはしています。
自分で課している規範や
一拍置いてから考えようと思う事が出来なくて
なんだか、ちょっと自分が情けない。
サイトやメールでも、ここ数日、変にテンションが上下してしまって
かえってご心配をお掛けしていたりして申し訳なく思っています。
この拙い日記を読んで下さる皆様への甘えであることは
重々承知はしているつもりなのですが
少しだけ大目に見てください。
もう一度、ごめんなさい。
でも元気なんで心配しないで下さいね!
めぐみのおねがい、ちゅっ!<=おいおい!
11月11日
寄り添いて 色も違えど とけあうや
すすきの原に 忘らる鉄馬
早起きをして、独りで箱根へ行ってきた。
本当はどこでも良かったのだけれど
なにかいつもの毎日と違う事がしたかった。
今月から新しいピルに変わっていて、一昨日から生理にしたので
今日の午前中だけは私のお休みにした。というかお休みすべきだと
私の何かが訴えていたりした。
東海道線で小田原まで行き
まだ早すぎて普通のお店は開いてないので
立ち食いうどんを出勤途中の皆様に混じって食べる。
そこで別の電車に乗り
そして気まぐれに降りた駅でバスに乗り換えた。
職員様は私の突然のお願いにも関わらず
快くダイヤのコピーを下さって、ちょっと敬礼までしてくださった。
曲がりくねった道からは紅葉が進む山が見えて
そして手が届く処にある
色付いた木々の葉が後ろへと飛んでゆく。
ところどころで見える川面にも
様々な色の葉が流れていて
淵や澱には、月並みな言葉で申し訳ないのだけれど
まるでカントリーパッチワークの様な色合いに
朽葉達が寄り添っている。
私はすすきの原で有名な場所でバスを降り
光が暖かみを増す場所まで昇ってきたお日様を右に見ながら
人家が途切れるところまで歩き、すすきの原の小道に踏み込んだ。
すすき達はもうみんなはじけていて
雲より淡い色の穂を、ゆっくり振りながら
しずかな音を立てている。
道から原へと踏み込んだ私は
招かない客に、少し怒っているすすき達に、
何個所かの切り傷を付けられて、ちょっとした空き地を見つけて座り込む。
ちっちゃなポットに入れて来たコーヒーは
まだ充分暖かくて
私は両手でカップを抱いて少しずつ飲む。
枯れた下草に身体を投げ出して
色の薄くなった空を見上げながら大声で色んな事を叫び、
そして途中からは、自分の肩を抱き
しゃくり上げながら思い切り泣いた。
喉が痛くなって咳き込み
それでもまた叫びながら泣いて
そして身体は、もう泣けなくなった。
私は立ち上がって少し切り傷を増やしながら小道まで戻り
逆方向のバス停を目指して歩き出す。
本通りに出て、小さくバス停の標識が見え始めた頃
フレームの曲がってしまった、もう原形もなくなりつつある
RZ350がすすきの中にうち捨てられていた。
すいぶん長い事大切にしてもらっていたみたいなのに
何ヶ月君はここにいるの?
御主人様はどうしちゃったの?
枯れ始めたすすきがRZ350を少しずつ道ゆく人に
見せるようになったんだね。
それはなにか一つの風景になっていて
そしてすすきの原が枯れ果てるときバイクも何処かへ運び去られる。
私は、遠くからクラクションを鳴らして近づいてくるバスに気付き
帽子を片手で押さえ駆け出した。
バス停までまだ随分距離がある。
バスは誰もいない停留所には止まらずに、私に向かって走って来てしまい
私は随分先まで待たなければ来ない次のバスダイヤを思ってがっかりする。
真横に止まったバスには運転手様しか乗っていない。
「一応内緒ね」
ウインクしてくれた運転手様に目が腫れてしまっていた私は
ウインクで返す事が出来なくて
敬礼してから一番後ろの席に座る。
風ですすきがなびいて道の反対側にあるはずのバイクは見えなかった。
私は、駅に戻り電車に乗りいつもの暮らしに戻る。
もう大丈夫だ。
咳き込む程泣いたら、ますます苦しくなるってことは
良く判ったから。
って事で、おまけ@蛇足日記です(笑)
自分の日記の余韻<=あるのかそんなの?(^^;;
を自分で消しちゃうのもなんなんだけど
ちょっと賞味期限一日の小ネタが重なってしまって。
昨日なんとなくつけていたテレビから、いきなり
「幽霊が結婚した]
という言葉が聞こえたので、驚愕した。
画面に注目したら、もうその話題は終わっていて一晩中、
「幽霊が結婚、幽霊が結婚、幽霊が結婚」
という不可思議なフレーズが頭をぐるぐるしていた。
季節外れなフレーズでもあるし。
箱根の帰りに小田原駅でごみ箱からいつものように新聞を拾ったら<=やめなさい!
ご存知の方も多いかもし知れないが「たけし軍団」様の「柳ユーレイ」氏が
元アイドルの「かわたあつこ」さんと既に結婚していて、
「かわたあつこ」さんがヌード写真集を出すと言うのが、正確な内容だった。
しかし、新聞の見出しには「柳ユーレイ」氏と書いてあるのだが本文はすべて
「ユーレイは」「ユーレイは」「ユーレイは」
と連呼されていて、もし見出しの裏がすてきなねーちゃんのヌードで
切り取られてでもいたら、今晩も気になって眠れないところだった。
すこし落ち着いて、電車の中でまどろんでいると
「ねずみらんど」
という単語が耳に飛び込んできた。
ほう!
「ねこたま」@猫テーマパーク
「わんわんらんど」@犬テーマパーク
に続き、こんどは「ねずみ」かい?
確かにハムスター人気は根強いものなぁ
などと寝ぼけた頭で考えていた。
横のボックスのまだ若いおかぁさんと
幼稚園の年小組さんくらいの可愛い女の子の会話が元なのだ。
「ねずみらんど、乗り物もあるし」
本格的なんだなぁ・・・
「ねずみらんどのねずみ可愛いし」
ふーん、一度私も行ってみるかなぁ・・・
おかぁさんが、私の斜め後ろを指差して言う
「ねずみらんどじゃないってば!」
そこにはまぎれもないねずみのキャラクターがポーズをつけて微笑んでいる
「ディズニーランド」
のポスターが掲示されていた。
11月12日
思いしは 優しき人の 腕枕
心地良き場所 探しさまよい
久しぶりに 懐かしい声を聞いた。
私はすべてを置き去りにして、追いかける決心を即座にし
上着を一枚肩に羽織っただけで、表に飛び出し全力で走りだす
躊躇していては、間に合わない事もある。
何度その事を悔やんだ事だろう・・・・・・
「待ってよーっ!」
私は大声で呼び止める。
「はいはい、どのくらい、いりますか?」
「♪い〜し〜や〜き〜いも♪」
っていう独特のイントネーションと言うか
旋律のテープのボリュームを少し落として
「いかにも」って感じのおじさんが、軽四輪トラックを脇に止めて
にこにこしながら揉み手で降りてきて私に尋ねる。
そう言えば、路地の多い私が生まれ育った浅草では
ほんの最近まで、リヤカーを引いたこれまた「いかにも」って感じのおじいさんが
お馴染みの「♪い〜し〜や〜き〜いも♪」の後に
「♪く〜り〜よりうまい〜じゅう〜さんり〜♪」
って言う名調子をつけて、地声のまんまで回って来たりもしていた。
声を聞いてから、お小遣いを握ってつっかけを履いて追いかければ
必ず追いつける、安心みたいなものがあった。
ちなみに夏は「アイスキャクディー屋さん兼金魚屋さん」へ変身していたし。
今年初めて買う焼き芋は、もうお小遣いで買える様な値段ではなくて
固めのほくほくお芋と、ちょっとしっとりしている柔らかお芋を
選んでもらって「東スポ」に包んでもらってお支払いするお代は
割引の時なら、牛丼に卵と味噌汁が食えるくらいする。
「ありがとぅね、おねぇちゃん」
の声に送られて、私は胸にほかほかのお芋を抱いて
夜道を戻る。
番茶で食べるお芋はやっぱり秋の香りがして
なれない実家での暮らしに少し不安そうな猫は
私の膝で丸まっている。
窓から見える大きな駐車場へ車が入ってくるたびに
野良猫達が、団体で移動するのが見える。
あまり風の無い今日は、一番偉そうな猫が
まだエンジンの余熱の残るボンネットの上にどっかり座り込み
他の猫たちは車の下へと潜り込んでゆく。
良い場所見つけてるね君たち。
でももっと寒くなったらどうするんだろう?
なんて考えているうちに少し瞼が重くなってきた私は
猫に腕を貸して、ゆっくりと眠りに落ちてゆく。
11月13日
頬の色 紅をさししは 紅でなし
つなぎし指の 心地よきゆえ
やわらかな秋の光に、おろしたての帯が浮き立つ。
今日は土曜日なので、少し早めの七五三のお祝いへ
稲毛神社へ向かう、笑顔に溢れた御家族の姿をお見掛けする。
私も七歳の帯び祝いの日には、新しい帯を締め、近所の鎮守様へ
その頃5人だった家族全員がよそ行きの服を着てお参りへ行った。
帰りには街の写真館へ寄ってみんなで記念撮影をした。
そしてその写真が、請われて長い間、
写真館の入り口の横にあったガラスケースへ飾られていて
少し恥ずかしくもあり、誇らしくもあった。
ご存知の方も多いと思うのだけれど
古い起源を持つ人生の通過儀礼としてのならわしが
それぞれの年齢を迎えられた慶び事として、
家族全員で祝うようになったと言われている。
全国に残る伝承や儀礼の中でも
特に七歳までは「神の子」として扱われ、もし成長出来なくても
すぐにまたこの世に生を受けるとさえ位置付けられている、か弱い幼児期を、
無事に通過できたという事が厳しい毎日の暮らし中でいかに喜ばしい事であったかは
想像に難くない。
私は着物がとても好きなので
ついつい女の子の帯に目が行ってしまう。
綺麗な丸帯や袋帯が
誇らしげに並んで歩く御家族の真ん中で揺れている。
着慣れない着物姿なので、少し歩き辛らそうでもあったりするのだけれど。
そんな風景に見とれながらふと気が付くと、
稲毛神社のすぐ側まで歩いて来てしまっていた私は
紫の地色に御所解きの文様、金地の袋帯を締めた女の子が
前身ごろが崩れてしまって、まだお若い御両親と三人で
半べそをかきながら直そうとしていらっしゃるのに出会った。
あらら・・・
車に乗り込まれる時に踏んづけちゃったんだね。
私は歩み寄って、手早く直して差し上げ
少し上気した、まるで薄く紅をさしたような頬に
笑顔の広がって行くのを嬉しく見詰める。
丁寧にお礼をおっしゃる3人に私も頭を下げて
本当は左へ行かなければならない道を右へ曲がり
もうお互いが視野にない事を確認してから
全速力で、一本向こう側の道を走ってお店へ向かう。
お別れした道を左に曲がると
私が頬に紅をさす、ソープランドしか行くところが無い事は
誰でも知っていることだから。
11月14日
差し向かい 茶釜はなけれど 心あり
毛氈なきも 笑みある茶会
楽茶碗を、二重に包んでおいたふきんとタオルから取り出す。
黒塗りの小ぶりなお盆を出して
その上に茶筅と茶尺と茶漉し器を並べる。
お客様は気持ち良さそうにお風呂に浸かっていて
私は背中を向けて、ほんとは水屋でするお仕事を進める。
「ここは風呂屋だから親戚みたいなもんか」
なんて馬鹿な言葉が頭をよぎる。
香りが飛ばないように、一番小さいジブロックに入れてきたお茶を
茶漉し器を使い茶尺で素早くなつめへ移す。
緞子裂のおしふくで作法通りに包む。
楽茶碗にぷっくりふくらませたふきんを置き
茶筅と茶尺を置く。
お盆に景色を作って
バスタオル一枚の私は、先生に頂いた兎柄の袱紗を
作法からは外れてしまうのだけれど
先に畳んで、膝の前に置く。
私はお客様に声を掛け
お茶の用意が見えないように広げたバスタオルを
高めに持って身体を拭かせて頂く。
腰にバスタオル一枚の姿でマッサージ台の方向へ振り向いて
お茶の用意を見て目を見開かれた。
今日はお客様の還暦から数えて七度目のお誕生日だ。
前回こられた時に、今日がお誕生日であることと
ご来店頂ける事は伺っていた。
今年の初めくらいからの常連様で、奥様はもうなく
お子様には恵まれなかったことはお聞きしていた。
そして、何度か奥様のお手前で飲んでいたお茶が
忘れられないとおっしゃっていた。
用意したお干菓子をおすすめして
形を作っていたおしふくを開いて
なつめをお見せした
ぴんぴんに沸いたお湯を入れて来た
ちっちゃなポットから茶碗を温め
茶筅通しをしてから
ぺこぺこの個室備え付けの洗面器へ捨てる。
畳んであったふきんで三回で拭って
お茶を三尺入れて空気を入れて泡立てる。
のの字書いて泡をまとめて、作法通りにお出しする
「泡を立てるんだねぇ」
「だってソープじゃん!ってのは嘘で私の習った流派はこうなんだよ」
って言って二人で笑う。
奥様はきっと「表」だったんだなぁ・・・
いつも烏龍茶を飲んで、少しお話する時間くらいで
ふたりともぱんつさえ履いていない、へんてこなお茶会は終了した。
「おれも習ってみようかなぁ。美味かったよありがとう」
お仕事が終わって、階段を手をつないで降りる時
お客様がおっしゃる。
今日はいつもより少しお元気で、私の方が疲れてしまったのだけれど。
めぐみのにっきいんでっくす
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