めぐみのにっき
九月第二週六日(月曜日)から九月十二日(日曜日)
「歌」と内容は必ずしも関連していません(笑)
8月30日
眉を描く 定規を変えて 見る我は
変わりたれでも 他の人に似て
男性の方はご存知ない方もいらっしゃるかも知れないが、
眉を描く、定規みたいなものがある。
発売された頃は、ほんとにすごく便利だと思った。
ちょうど、少し眉を細くするメイクが流行り初めた頃
芸能人様や、モデル様のお名前を借用した
「***風」なんてキャッチで、一挙に一般的になった。
「眉だけで、あなたもあの憧れの***さんのメークになれるっ!」
ってなもんだ。
私も何種類か持っていて、その日の気分や
服装で使い廻している。
私は、色んな理由で貧乏なので(笑)
美容室には3ヶ月に1度くらいしか行けない。
接客業を営む者としては、プロ意識に欠けているかも知れないのだけれど
背に腹は代えられなかったりもする。
なので、自分で前髪を切っている。
なにやら、いつまでたっても暑くって
ちょっくら短めに前髪を揃える事にした。
「こんなもんかなぁ・・・」
鏡を見ながら、髪に櫛を入れ、失敗しないように
ピンを打って、はさみを持つ指にまさに力を入れた時
「ドンっ!」
「ななななにすんだぁーー!」
うちの猫が思いっきり背中にぶち当たった。
猫は、網戸の隙間から入って来た、ちっちゃな蛾を
ハンティングしている。
「まったく・・・・・・」
と、思って、鏡を見た私は愕然とした。
「うへっ、こけしだ、こりゃ・・」
私の、ゆるいカールのかかった絹のような美しい前髪は(美化1万倍)
もうそこにはなくて、ざっくりと揃えられた
こけしというか、座敷わらしというか、河童の三平と言うか
眉にやっとかかるか、かからないかの処で
断裂された髪を持つ、素っ頓狂な表情をした私がいた。
「うわーっ!、どうすんだこれっ!」
思わず、アロンアルファを手にしてみたが
くっつけられるはずもない・・・・
私は、しかたなく前髪を上げてみたけれど
どんな風にしても、へんちくりんだし
細い眉が見事に似合わない。
しょうがないので、私はほんとに久しぶりに
定規無しで、ちょっと太目に眉を描き
出掛けるしかなかった。
「めぐみちゃんって、志垣太郎に似てるね。」
最初に会った方に言われた言葉に
眉の威力は思っていたより、絶大である事を知った。
8月31日
抱きたる 季節を胸に 夢枕
去りしを置きて 明日へ手を伸べ
夏休みが終わる日。
今年は壊れてしまっていたんで
損しちゃった。
だって、海にもほとんど入っていない。
ほんの近所で、遠くに咲く花火を1度見ただけだし、
ビヤガーデンにも行っていないなぁ・・・・
今日帰ってきて
まとめてお裁縫をした。
ちょっと取れかかっていたボタンや
少し痩せたおかげで、ゆるくなっていた
テーパードされたシャツのシェイプや
ブラジャーのストラップの縫い上げや
猫が穴を開けた座布団のかがりや
気になっていた、針を使う用事をまとめて片づけてしまった。
終わったのは2時をまわっていた。
不精をして、目立たない処はみんなグレーの糸を使ったので
糸を使い終わった糸巻きが一つ残った。
私は、その糸巻きに
カッターで切れ込みを入れて
割り箸を切り、ゴムを通して、ちっちゃいときに
おじいちゃんが作ってくれた
おもちゃを作ってみた。
最初は、すごいスピードで飛んで行ってしまったけれど
ゴムの数や、割り箸の長さを変へ
糸巻きにも、輪ゴムを巻いてみたりして
記憶にあったくらいの速さで走るようになった。
アイロン台を使って作った坂を
ぽくぽく、登ってゆく糸巻車は
なんだか、とっても懐かしかった。
私は調子に乗って、割り箸でゴム鉄砲を作り、
紙で的を作って、撃ってみたり
発泡スチロールを船の形に切って
三角の帆を張って、お風呂に浮かべてみたり
仕舞い込んでいた色鉛筆で
猫の絵を画いたりした。
いつか、窓の外が、うっすらと明るくなってきて
ベランダへ出てみた私は
久しぶりに、東から明るくなってゆく空が
急ぎ足で、星の瞬く夜空を追う景色を
見つめていた。
愚痴を言っていても始まらない。
だって、終わってしまった夏を、ずっと心に持ったままにしていると
素敵な秋を、入れる場所が無くなっちゃうもんね。
私の長かった心の夏休みも
今日でちゃんと終わる事にしようと思う。
9月1日
ひと月の 過ぎ去る事を 知りたるや
暦の日々は 文字でしかなく
今日は「桃の日」
って、別に雛祭りではない。
最初にピルを処方してもらった日をマークするときに
ちょうど余っていた桃のシールをシステム手帳に貼ってしまって
それから、ずっと産婦人科へ行く予定は
「桃の日」になっている。
元々私は30日周期で、しかもけっこう不順だった。
なので、「安全日」ってやつには縁がなくって
未だに、粘膜で精液を受け取った事がない。
って、ある意味では、ちゃんと覚悟した
恋愛をしたことがないだけだったりもする。
今日はちょうど2年目の桃の日だ。
私は私の体に24回
薬で嘘の月のけじめを教えている。
前にも一度日記に書いた事があるのだけれど
私の場合、ピルを飲みはじめてから
びっくりするほど、大量の血が一度に出て
3日くらいでうそっこ生理は終わってしまう。
そこにはあるはずの、いらなくなった卵はいないのだし
体に、毎月無駄な努力をさせているってわけだ。
ちょっとだけ
「すまないなぁ」
と思ってしまう。
私の頭の方の都合で、ソープで御仕事していたり
女としての、月の周期も狂わせてしまっている。
まぁ、ぼちぼちゆこうね。
私は、自分の体に声をかけてみる。
そして、今のところ不都合も無く
頑張ってくれている体に感謝している。
9月2日
ゆるやかな 寝息の音に 誘われし
眠りの深さ 胸の安らぎ
夜になって、風が秋めいて来た。
今日は久しぶりに、抱き合って眠った。
彼は先にベットで眠っていて
私が、服を脱いで、傍に滑り込むと
ちょっと眠そうな目で、私を見つめる。
私は彼の手をとって、乳房に導き
見つめ返して、
「好きだよ」
ってささやく。
窓の外からは、かすかな虫のねが聞こえてきて
見つめ合った二人は
何にも邪魔される事無く、二人だけの大切な
小さな幸せな時間を迎える。
心臓の音が共鳴してきて
煩わしい思いや、日々の喧騒がすっと遠のいてゆく。
安らぎ
思わず、微笑みが沸いてくる。
私はそっと彼の頭に手を置き
すべての愛を込めて撫でてみる。
そして彼はそれに応えるように、乳房を優しく舐め
起き上がって私を踏みつける。
「痛いっ!もうちょっと優しくしてよ!」
って彼は目が覚めてしまったようで
ぷにぷにの肉球でぐりぐり私を踏みつけ
猫キックで起こそうとする。
はいはい、ご飯食べてないもんね。
夏の間、涼しい板の間で寝ていた彼は
今日からは、ベットで眠る事にしたようだ。
ご飯を食べ終わって
大きな伸びをして、ベットの足元をもう一度ふみふみし
寝床を確保すると、さっさと眠ってしまった。
私は、折りたたまれた前足をちょっと撫でで
灯かりを消す。
おやすみ
9月3日
胸にある 慈しみ深き 瞳さへ
過ぎ行く今日は 胸さへえぐり
少しずつ夜が長くなる
ロッカーの中には
使いかけの口紅が何本も入っている。
ちょっと流行った色や
頂いたのだけれど、なんか私には似合わない様な気がして
そのお客様のお相手をする時だけ使っているリップもある。
2年の間にお客様から頂いた数だけで何本になるだろうか?
全部使い切ってしまったのも沢山あるので、
残念ながら憶えてはいない。
その中に、忘れたい恋の相手にもらった色があることに気がついた。
会うときにだけつけていたのだけれど
どんなに化粧を変えても
私には似合わない色だった。
ほんとうはそんな化粧はしたくなかったし
そんな唇の色はとても嫌いだった。
でも私は、その恋を失う事が恐くって
その色に塗った唇をその人の唇に重ね
いつも目を閉じて、その恋を見詰めているふりをしていた。
私ではなくて、私の女だけを見つめていた瞳に
愛を見たふりをして
私も、女であること以外、なにもその人に見せようとは
していなかった。
そして
私が、少し瞼を開いた時
その偽物の恋は、あっという間に消えていった。
リップスティックに、それをくださったお客様の名前が小さく書いてある。
もう何ヶ月も使っていないのは
そろそろ捨てなければいけないって思う。
でも、そのお客様達の瞳の方が
たとえ、お名前が嘘っぱちであっても
その人の瞳よりは
好ましい思い出として残っている事に
少し、安心したりする。
虫の声は、昨日より高い
(今日の日記はフィクションです。ってことにしておくね@笑)
9月4日
遅れしも 花の盛りや 迎えどもや
季節は往きて 変わりし葉の色
窓を少し閉じる。
今日は久しぶりに、時間内全指名を頂いた。
ミーティングもあったのだけれど
8月は7月より5本指名が少なくて
4月から4ヶ月続いていた日勤トップの座からは落っこちたらしい。
って言うか、やっと肩の荷が降りてほっとしたってのが正直なところだ。
自分で言うのも情けないが
私は、そんな大した玉じゃない。
私よりきれいで、性格も良くって、若い娘がうちのお店には
いっぱいいる。
その中で、間違いであっても、トップなんぞになれたのは
やっぱお客様に恵まれている事に他ならない。
その事をちょびっと忘れて
肩に力が入って私は壊れてしまった。
今日指名頂いたお客様にも
個室でお相手している時は、いつもの調子でぽんぽん
憎まれ口を叩いていたりするのだけれど
帰りの電車の中では、お一人お一人の事を思い
ちゃんと手を合わせている。
話は変わるのだけれど
今日朝起きて、お花にお水をあげる時に
朝顔の葉が、いっぱい茶色に変わってしまっていた。
今年の朝顔は、
日記にも書いたのだけれど去年の種が
自分で発芽して育っていて、少し時期遅れで、今が満開になっている。
帰って来てベランダに出てみた。
吹いてくる風は、秋の香りが濃くて
朝よりもっと茶色の葉は増えていたのだけれど
明日咲くつぼみの数も、今朝より多い。
今日控え室でお話して、みんなで笑っていた娘たちの年齢より
少し遅くソープデビューした私の事をちょっと重ねてみたりして
少し肥料をプランターに追加してみる。
もう少しがんばろうね。
9月5日
コスモスと 白きレースの カーテンを
かすかに揺らし 風や吹きぬく
高い空を、薄い雲がゆく。
朝、15分早く目が覚めて、カーテンを開ける。
種から蒔いていたピンクのコスモスが
初めての花をつけている。
洗い晒しだけれど
大好きなエプロンをつける。
日差しはまだまだ強いのだけれど
ベランダの物干し竿の影は、随分御部屋の中に方にある。
私は、ミルでコーヒー豆を挽いて
やかんとミルクパンをコンロにかける。
豆は少し深炒りなので、濃い香りが少しづつ私の目をさます。
なんだか、とっても素敵な朝だ。
ヒュンヒュンと音立てる細口のやかん
ネルフィルターに粗挽きの豆を入れ
ゆっくりとお湯を落とす。
ちょっと、小さなカップでブラックのまま飲んでみる。
フライパンに薄く油をひいて
卵を落とす。
うきうき鼻歌を歌いながら
ブラックペパーの香りも楽しんだ。
食卓には、真っ白なお皿が並んでいて
真っ赤なトマトと、緑のアスパラ、そしてたっぷりのレタスサラダが出来上がる。
パンの焼ける香ばしい香りがする。
3人分の朝の食事
スプーンとホークの一セットは角がまあるくて
可愛い猫の絵がついている。
私はごきげんで、ちょっとフライパンに水をさして
蓋をする。
いっこ、にこ、さんこ
卵はちょっと、頭が白くなっていてとっても上手に出来上がり。
ごはんができたよ!
どうぞ召し上がれ!
あれっ?
なんか変だなぁ・・・・・
「めぐみさん、フリーのお客さんお願いします」
ちょっとまどろんでいた私は、フロントからのコールで
夢から覚め
薄暗い個室からお客様を迎えに
階段を降りていった。
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