めぐみのにっき
九月第四週二十七日(月曜日)から十月三日(日曜日)
「歌」と内容は必ずしも関連していません(笑)
9月27日
わずかづつ 深くなりゆく せなの毛に
猫と見上げる 十八夜の月
眠っている猫の背が
夏の頃より丸くなっている。
急に大きく欠けてゆく月が
澄んできた空気の中、淡い光を投げかけている。
この季節にはいくつかの思いを馳せる風景がある。
私はその思いをずっと前に
こんなお話
にまとめてみたりしていた。
今読み返すと、感傷的で
かなり照れ臭かったりもするのだけれど
今より少し幼い私が
こんな事を考えていたのだなと
懐かしくも愛しくもある。
一日が始まり、そして一日が終わる。
その中で目にした風景や
心に届いた事柄を
今は毎日、ネットという空間の中
ここで日記として綴っているのだけれど
私の手元には
形として残る物は何もない。
もし私が明日いなくなったら
更新されない日記はこの場所に佇み
それから何ヶ月か経ち
預金通帳からサーバーの代金が引き落とせなくなって
そして何日か後には
この日記も、私のサイトも
永遠にこの世から消え失せる。
私がこの部屋に居て
めぐみであることを知る人はだれもいない。
そして私がいなくなった事を知る人達は
私がめぐみである事を誰も知らない。
でも私は日記を綴り続ける
私が私を知るために
9月28日
かの日より 言葉によりて 蘇り
動きだすかな かの日の風景
あの唄が流れる。
先週の土曜日に
お店の常連のお客様から谷山浩子さんのCDを頂いた。
私の好きな音楽のジャンルとは少し離れているのだけれど
思いの深い曲が何曲もある。
私は彼女の全盛期を知らない。
なにせ最初に聞いたのは
某渋谷系放送局の「みんなの唄」のCDに入っていた
「恋はにわとり」
だったりするのだから。
まだ恋さえよく判っていなかったのだけれど
にわとりが風見鳥に、かなわぬ恋をするっていうその唄は
なぜだかとっても心に入って来て
マイナーコードなんて一個も使ってない曲なのに
涙が出てしまった。
それから、私は彼女の唄を聞くようになり
レンタルCD屋さんへ通って、発売順に
せっせとテープに録音してた。
ちょうど私の猫好きや
童話やファンタジーの好きな部分にも飛び込んで来て
ほんとにいつも聞いていた頃がある。
劇場版「未来少年コナン」の テーマソングが彼女だったって事も知って、
アニメ好きの私にもヒットしたりした。
彼女の唄にはつらい恋の唄が多い。
その頃好きだった唄達の
大好きだった詩は、私の心に入り込んでいた分
たくさんの風景と結びついて
いつしか
聞きたくない唄になっていってしまっっていた。
その頃は
そんな日常の恋や愛や友人との関係や
家族とのいさかいなんかが、暮らしのすべてで
そこにある辛さや悲しみが
私の世界のすべての風景だった。
いまの仕事を始めて
私はすこしづつまた彼女の唄を聞くようになっていた。
唄といっしょに蘇る風景も
今ではちょっと涙ぐむことはあっても
懐かしくて愛しい。
今、心に入って来ている、新しい唄達も
忘れたい思い出ではなくて
ちゃんと取っておける私になりたい。
9月29日
その日々は うたかたでもなし 嘘でなし
異なる道と 見果てぬその夢
人はそれぞれ大事な大事な嘘を持っていたりする。
帰りの電車の中で
50歳前後の上司様と二十歳ちょっとくらいの部下様が
お話をしている。
「いやぁ、俺も若い頃は単車が好きでさ。16から乗ってたよ」」
「そうなんですかっ?!嬉しいな、オレほんと好きなんっすよ」
「ドリームとかに乗っていて、バリバリ走ってたよ、ははは・・」
「ドリームって750っすか?**さんだったら350かな?」
「750に決まってるじゃない」
「えっ?750って昭和44−5年っすよ。その前は何にのってたんっすか?」
「あっ!・・・・・・・いや、いろいろ・・・・・」
「ケッチとかW1とか?」
「いや、確か400・・・・・・」
「冗談上手いっすから。中免は50年代っすよ」
途中からやばいなって思って聞いていた。
部下様は全然屈託がなくって
上司様の言われる事を全部信じている。
しかも筋金入りのバイク好きのようだ。
上司様は恐らくその頃単車には乗っていなくて
雑誌とかでご覧になった「ホンダドリーム」って言葉だけを
憶えていらっしゃったのだ。
今のお仕事を始めた頃
私はお相手をするお客様が
りらっくすして、楽しそうにされているお話が
私の知っている話題だったり、好きな話しだったりしたときに
今日の部下様のように一生懸命お話を聞こうとして
何度か黙られてしまった事がある。
運動会でいつも一番だったり
野球が上手かったのだけれど肩を壊したり
生徒会の委員長で先生の横暴を許さなかったり
硬派で路線を締めていたり
入試で突然腹痛を起こして志望校に入れなかったり
15で人妻に惚れられて筆卸をしてもらったり
その時にお客様が話される事は
そうでありたかった自分だったり
そんな風に過ごしたかったその時代だったり
今は手の届かない夢だったり、歩きたかった道だということが、
今は少しは判ってきている。
それは、決して嘘ではなくて
飲み屋のカウンターで
クラブのボックスで
ひょっとしたら、付き合いはじめた頃の彼女や奥さんにも繰り返し話した
一人一人の皆様の
大切な神話みたいなものかも知れない。
その神話みたいなものが
くそ面白くもない日常や
あんまりあてにならない未来や
分かれ道で選んでしまった今歩いている道で
ちょっくら辛いときに
支えてくれる大切なものの様な気がしている。
若い部下様が次の駅で降りると
上司様はちょっとくたびれた鞄からおもむろに、お仕事の資料を
「ふっっ」
と安堵のため息をついてから、取り出す。
その紙面を読む顔と目には
ちょっとお疲れな色はあるのだけれど
さっきのひるんだ色はもう少しもない。
良い顔してますよ上司様
間違いなく信頼されてるし
でも単車には
今からでも乗れるって事も忘れないでいてね
9月30日
名を呼ばれ 振り向く我に 君があり
我ある証 君が呼ぶゆえ
誰かが、ちょっぴりでも、私を必要としてくれる。
うちの隣の一戸建のお家には
ちょっとした庭がある。
いつもは半分くらいを自動車が占めていて
その残りの部分を治めているのは
短くて真っ黒い毛足をもつ
ジョン君って犬だ。
ジョン君は名前の通り
アメリカならごろごろいそうな耳の垂れたタイプの雑種で
気の良い愛敬者の犬だったりする。
とてもしつけも良くってむやみに吠えたりはしない。
何か用のあるときは
「クゥーンッ」
って低い声で鳴いて、用事を済ませていたりもする。
私の住んでいるブロックは、
ごみの回収に来る車が入れる限界くらいの細い道の行き止まりにある。
その行き止まりに車がUターン出来るスペースがあって
近所の子供たちの遊び場にもなってもいる。。
その遊び場に向かって数軒のお家と私の住んでいるアパートがあって
その範囲もジョン君は管理しているらしい。
クロネコマークのトラックが来ても
ジョン君は軽く「クゥーンッ」って挨拶をする。
郵便屋さんがバイクの音を立て現れても
新聞屋さんが、うちのアパートの階段を踏み外しそうになって
「がんがらがっちゃん」
なんて音を立てても
子供達が大きな声ではしゃぎながら
縄跳びとしていたりしても
ちろりんと目を開けたりはするのだけど
自分のお家でのんびり昼寝を楽しんでいたりする。
ときどき飼い主の奥さんに
「あんた犬なんだからワンっていいなさいね」
などと言われているほど普段はなんでも
「クゥーンッ」
で済ませていたりする。
でも不思議なことに
たまーに知らない人が来ると、猛然と立ち上がって
そのときだけはまるで犬のように(犬なのだが)
「うーーっわんわんわんわんっ!」
って大きな声で吠えて、縄張りの住人達に危険を知らせてくれる。
どうもその事を自分の仕事だと思っているようだ。
ジョン君が吠えると
そのブロックのどこかの窓か玄関が開いて
ジョン君が顔見知りの人が現れる。
そうすると、自分の仕事は終わったって思うのか
さっさと元の位置に戻って、昼寝の続きに没頭していたりする。
そのほかにもジョン君の仕事は
急な雨の時にみんなにそれを教えるとか
ぶっかけご飯は少し残しておいて、すずめにふるまうとか
ご主人の健康のために散歩につきあってあげるとか
いろいろあるようだ。
今日私は少し疲れていて
珍しく駅からタクシーで帰ってきた。
鍵を鞄から取り出しながら
階段に一歩足をかけると
「クゥーンッ!クゥーンッ!クゥーンッ!」
ってジョン君のお叱りを受けてしまった。
しゃがみこんで
いつもの様にごわごわの黒い毛を撫でる。
「クゥーンッ」
と一声鳴くと、スタスタ寝床へと戻って行った。
帰った来た私に頭を撫でさせてくれるのも
いつのまにかジョン君の仕事になっていたらしい。
10月1日
ひさかたの 出会いの君の 笑顔には
また会う時の 笑顔浮かびし
学生時代からの付き合いだからもう何年になるのだろう?
私が一番好きな人に、今日会ってきた。
一年ちょっと会っていなかったのだけれど
昨日飛行機に乗る前に電話がかかってきて
今日急に会う事になった。
NYからの電話は
「明日空いてる?そう、じゃ**で何時頃いい?そう。じゃ、明日!」
オイオイ!
NYから、しかも久しぶりの電話なんだよ。
もうちょっと余韻はないのかい?
なんてちょっぴり思ったのだけれど
そういうところも、ほんとにその人らしかったりする。
その人
実は、うちの猫の元々の飼い主なのだ。
ちょうど、私が今のお仕事を始めて
実家を出る頃に、その人はNYへ行った。
何年もグリーンカードの申請をしていて
本人曰く
「奇跡的に取得出来たのは神の啓示」
って事で
大きな会社の部長の職をなげうって
自分のやりたい事に挑戦している。
その人は5つ年上の女性だ。
今はNYでサルサとサンバなんかの
ラテンのダンサーと教師をしながら
2ヶ所のシェアハウスを経営している。
たくさんお話をした。
私はふっと今の自分の仕事を話したくなってしまった。
「実は・・・」
って切りだそうとしたときに彼女は私を制した。
「いいよいいよ。普通に話せるようになったら聞くよ。
今顔、恐かったもん」
と言って、にやりと笑った。
そうだね。
まだ私の中で、自分と今の仕事の折り合いは
ちゃんとついてはいない。
きっと、私は彼女にかなりの嘘を混ぜた事を話そうとしていた。
「ごめん、やな顔だった?」
「いや、この前会ったときよりはましだよ」
と言ってまたにやりと笑う。
「そんじゃ、また連絡するね。猫によろしく!」」
そう言って彼女は、軽く抱きしめてくれて
頭をちょっと撫ぜ
「大丈夫だから頑張れ!」
って言ってから、街へ溶け込んで行った。
私が大丈夫かどうかに、残念ながら確信はない。
でも次に会う時の
彼女の笑顔だけは、何故か確信していたりする。
土産画像
(ほんとに土産物の画像です@笑。でも二人の雰囲気は伝わるかも)
10月2日
まどろみの 淵から伸ばす この腕に
微かな温もり 見上げし猫の目
風邪をひいてしまった。
いつもの様に目を覚まし、お湯を沸かしてコーヒーを立てる。
シャワーを浴びて真っ白いバスロープをはおり
テーブルに座ってちょっと暖めたミルクとべーグルに手をのばす。
あれ?不味いなぁ・・・・
なんとなく喉の通りが悪い。
コーヒーに手を伸ばして一口飲んでみる。
なんか焦げ臭い匂いが鼻をついて
やっぱり美味くない。
レタスはなんだか苦いだけだし。
そう言えば頭も喉も痛いような気もする・・・・
私は朝食を諦めて椅子から立ちあがった。
「くらっ!」
ひえーっ、床が回っているよぅ。
これはただ事ではない。
私は枕元の体温計で慌てて熱を測ってみた。
38度7分
慌ててお店に電話を入れる。
予約開始時間を20分ほど過ぎてしまっていたりする。
「めぐみです。熱が出てしまって今日は休ませて下さい。」
「ありゃ、そりゃ大変だっ!御大事にね」
当日欠勤は去年の12月以来だった。
もう予約が何本か入っていたのだけれど
偶然連絡先が判っている常連様ばっかりで
少しほっとして、電話をかけさせて頂いてお詫びした。
なんか熱を確認してしまうと一挙に病人の様な気分になってくる。
汗取り用にパジャマを着込んで
ベットに潜り込み、一日うつらうつらしていた。
すりおろした林檎も
桃の缶詰めも
体のあったまる卵入りの鰹出汁のおじやも
出ては来はしないので
私はただただ眠っていた。
腕の温かい感触に気付いて少し目を開くと
ベッドの横にちょこんと座って
ちょっと心配そうな猫と目が合った。
ベットから起き上がり
白菜とねぎのいっぱい入ったかぼちゃほうとうを作って
卵も落とし、ほくほく夕食を食べる。
猫も少し安心して
食事を終えるといつもの様に丸まって眠った。
10月3日
鳴る風に 駆ける雲行く 暮れる空
明るき窓と 揺れるコスモス
お仕事に行って来た。
目覚めると、まだ喉は痛いのだけれど
熱は7度5分まで下がっていた。
温めた牛乳に少し蜂蜜を入れてココアを溶かす。
新聞を広げてみるのだけれど
まだ頭には入ってこない。
体が暖まってきて、少し頭を振りながら
お店に電話する。
「今日は出勤します。宜しくお願い致します」
「だいじょうぶ?無理しないように」
ひょっとすると、身体はちょっと無理をしているかも知れない。
でも私のお仕事には有給休暇はありはしない。
「ご迷惑お掛けしました。大丈夫なので参ります」
今日はいつもより、1時間だけ早く上がらせてもらった。
常連のお客様達は
なんとなくいつもよりぼーっとしている私を
気遣ってくださる。
ありがとうございます。
そして、ごめんなさい。
駅から帰ってくる道に
今日は顔見知りの犬や猫がみんないる。
ちょっとづつ挨拶したり
撫でさせてもらったりしながら、お家に辿り着く。
今日は、部屋の電気をつけたままで出掛けた。
道から見上げる私の部屋の窓は
カーテン越しに、まるで待つ人がいるように
明るい光が点っていて
今年初めての少し強い北風に、コスモスが揺れているのも見える
お隣りの犬の、ジョン君を撫でていると
珍しく窓からうちの猫が覗いて
「にゃーん」
って呼ぶ
そうだね、君は待っててくれるものね。
そして、ネットに繋いで
こんな私の事をお気に留めて下さっている皆様に
この日記を書いていたりする。
ありがとう
めぐみは、だいぶげんきです。
めぐみのにっきいんでっくす
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