041 畑に入れるもの:微生物農法とたい肥

 自然界と違って、畑ではよりたくさんの作物を育てるため、土は酷使される。そこで、農作物を作る時、畑の土に施すものとして三種類ある。その1:肥料。その2:土壌改良剤。その3:たい肥。肥料とはもっとも代表的な要素としては、チッソ、燐酸、カリ。要するに作物の成育に必要な栄養素。土壌改良剤とは、多くの場合酸性に傾きがちな土質を、中性または弱アルカリ性にするためのもの(石灰など)そして、たい肥。たい肥こそは、有機農法に必要不可欠なもの。何となく作物に効くものと考えがちだが、土中の微生物に必要なもの(えさとなる植物繊維)、あるいはそれを含む微生物そのもの。わらなどを野積みにしておくだけでもたい肥はできるが、効率よく確実に作るためには有用な菌をそれに植えつけてやるとよい。お金を出してもそういった有用菌は手に入るが、けっこう身近にもある。

 道長では、夏の「ぬか漬」に使うぬかみその余分や「奈良漬」に使って不要になった酒粕などは、絶好の『種菌』となる。塩分がいけないように思えるが、微量要素をバランスよく含んだ良質な自然塩はかえって良い効果が得られるのだそうだ。道長のぬかみそ、漬け粕も「天野グループ」で試してもらったが、非常に評判がいい。とかく○○微生物農法とか○○菌とかけっこう高価なものもあるが、自前でも意外に工夫できるもの。無駄なお金のかからないように、それも農業には欠かせない知恵だと思う。


042 横地さんのセロリの漬物


 渥美半島の伊良湖近く、横地幸夫さんのセロリ畑は土作りが良くできているので、土がふかふかしている。とはいっても横地さんのおじいさんがこの地に入植した頃は、松林を切り開いてもゴロタ石がいっぱいで、相当の量の客土をしなければならなかったそうだ。戦後間もない頃だから満足な機械もなく、それはたいへんな作業だったにちがいない。そんな苦しい歴史など少しも感じさせないほどすばらしい畑で作られた露地栽培のセロリ、風味よし、歯ごたえよし。「日本一のセロリ生産者をめざします。」と横地さん。道長でもそれに負けないようなセロリの漬物をめざします。どしどし注文をお願いします。

 なお、『セロリのみそ漬』に使うみそは、富士・柴田春次郎商店のこうじ味噌を使用しました。せっかくのセロリの甘みを生かすには、持って来いだからです。この『セロリのみそ漬』、食べる時は、味噌を洗い落とさない方がいいようです。


043 釜 ね こ


 メスののら猫を飼い始めて避妊手術をしようという矢先、もう腹が大きくなっていて三匹の子猫が生まれてしまった。まあまあの器量の二匹は半年の間にもらわれていったものの、とうとう一匹は売れ残ってしまった。業界用語ではサビ(まだら)というそうで、ちょうど宮沢賢治の『ねこの事務所』という話に出てくる「かまねこ」といったところ。

 毛あしが短く生まれてしまったため、寒い冬の夜にはまだうす暖かい「釜戸」の中で眠る事となるため、体といい、顔といい、ススで薄汚れてしまって「かまねこ」と異名があるのだそうだ。

 ともあれ、その猫が少し変わっている。最近気がついたのだが、UFOキャッチャーで子供が取ってきた人形をじゃれるのが好きで、それを人の前へ持ってきてはあっちへ投げろとでもいうような素振りをする。実際にそれを投げてやると、勢いよく走って取りに行き、また持ってくる。そして下に置く。また投げてやる。また取りに行く。犬ではこの手の芸は当たり前だが、猫ではこちらも始めてみた。ただ犬の場合との大きな違いは、犬の場合取りに行ってきて飼い主にほめてもらうのが喜びなのに対して、猫は人に投げさせて取りに行き、また投げさせるために持ってくる、という感じ。だからすぐにあきて、何回目には取りに行ったきりそのままとなる。猫は犬ほど頭が良くないから芸を仕込むのは無理だともいわれるが、実は猫は仕込まれるのが嫌いなだけなのだろう。


044 たい肥と発酵


 およそ地球上に存在する微生物には、大きさの小さい順に次のような種類があるそうだ。@ウイロイド。Aウイルス。Bここから急に巨大になり、特に漬物をはじめとする発酵食品、たい肥(畑の土も)に深くかかわっている、細菌=バクテリア(乳酸菌、大腸菌他)。C放線菌(酢酸菌他)。糸状菌(カビの類)そして、E酵母菌。

 たい肥の原料となる植物性繊維(セルロース)を野積みにしておくと、まず酵母菌、バクテリアが繁殖し、たんぱく質と糖からそれぞれアミノ酸と水、CO2を作りだす。この発酵が進んでくるとセルロースの山は発熱を始め、放線菌・糸状菌の活動を促し、繊維質が分解され肥料となる。

 健全なたい肥の熟成までの過程で邪魔な存在は、バクテリアの仲間である腐敗菌。この悪玉菌が繁殖してしまうと、亜硝酸や硫化性物質が発生し、不快な異臭をともなう。この物質は一般の生物には毒性があり、農作物にも悪い影響を及ぼす。腐敗菌は酸素を嫌い(嫌気性)、それに対して善玉菌が好気性なので、たい肥の熟成途中で『切り返し』をして空気を混ぜてやる。

 人間にとっての発酵食品とまったく同じ理屈で、植物にも欠かせない発酵食品、それが『たい肥』というわけで目からうろこがはがれる思いがする。

 私達の体にも欠かせない微生物たち。それを積極的に利用する生活こそ、自然な生命の営みなのです。

 みなさん、漬物を食べましょう。

045 梅ぼしの漬け方(作り方)


 まず梅ですが、若干黄味のかかった完熟梅を選び、ひとつかじってみて果肉が厚く、渋みの少ないものがよろしい。次に塩選びですが、塩は梅ぼしを漬ける場合ただ一種類の調味料だけに、良いものを選びましょう。この塩選びひとつで梅ぼしの味が驚くほど違ってくるものなのです。

 まず一晩(約6時間)水に漬けておいた梅を、きれいに水洗い(ごろごろかき回すように)して異物を取り除く。ざるに上げ、しばらく水気を切ります。用意した樽(壺)に漬け込むわけですが、塩分を少し控える意味で17%くらいに抑えましょう。漬け樽の底に少し塩をふってから梅を平らに広げて塩をふり、また梅を入れては塩をふる。この時、上になるほどふる塩が多くなるようにして、最後に塩でふたをするようにする。重石を乗せて梅酢が上がったら、頃合いのしそが出回るのを待ちましょう。しそは葉のみを摘み、塩もみをしてアクをしぼり、さらに梅酢でもんでから樽にいれます。下の方は少なめ、上になるほどしそは多めに入れ、最後に上を覆うようにします。

 土色になったら、天日に干しては梅酢に戻し、三回これを繰り返して、最後は梅酢と別にしてでき上がり。梅酢は真っ赤で非常に鮮やか。これは貴重な天然調味料。いろいろな料理の隠し味に、一度使い勝手を覚えたら、その貴重さ、鮮やかさ故にもう手ばなせません。煮物に、ドレッシングに...。

 そんな風にできた道長の梅ぼしをよろしく。


046 稲 刈 り


 8月が終わると、早いところでは稲刈りが始まる。今年は雨の少ない短い夏で少し危ぶまれたものの、日照りに弱い音羽の夏もなんとかかんとか過ぎた。

 夏の間水のたたえられていた水田も、稲刈りのためにその水が止められると稲の色がすっかり秋の色になり、ちょっと感傷的な感じ。春も深まる頃、枯れ田が耕され水が引かれ、田植えが始まるとこの音羽町は緑の里に変身する。つゆも深まると、申し合わせたかのように「ほたる」の光の饗会がひっそりと繰り広げられる。梅雨明けとなれば、燃えるような緑が風に波うち夏を謳歌する。そして、実りの秋。収穫の秋。

 そんな繰り返しが何百年も昔から続いてきた。天候の異変も何度も何度もあった(今年も、春になってからの冬の再来。田植えの時の日照りなど)。そんな中で、人々の努力で何とか乗り切ってこの収穫の秋。

 農業とは、自然を切り開いてしまう人間の行為のといえばいえる。だからこそ最低限、自然のおきてに従いながら、壊してしまってはいけない部分だけは大切にいたわって行かなければならない。簡単に失われてしまうかわりにもとに戻すことが非常にむつかしい。私たちは、そこから「とる」のではなく、あくまでもその恵みを「いただく」という気持ちだけはわすれないようにしてゆかなければならない。


047 御油町の夏祭り


 音羽町の東隣に御油町がある。旧東街道の宿場町で、街道沿いに当時の面影を残すりっぱな「松並木」があることで知られている。

 その御油町でも、夏祭りのイベントとして、花火大会の催しが奉納される。8月の第1土曜日、その花火大会を見に行ってみた。昔から三河地方は、花火が盛んであまり大きな町でもないが、この町でも打上、仕掛、手筒など、岡崎などのそれとは規模が小さいものの、それなりに迫力のある大競演が催される。迫力がある、というのは、打上花火は別として仕掛、手筒、大乱玉などは広くない音羽川で町の人たちの目の前で奉納されるから。各種花火の色彩、音響に、夏の暑さもまさに吹き飛ぶという感じ。

 毎年、この夏祭りのために積み立てをして、この散財を町を挙げて楽しむのだそうだ。「花キチクラブ」とか、「厄年会」「○×会」など、スポンサーというよりは自分たちで、あるいは個人で花火を奉納する。企業による宣伝目的の花火は一切ない。豊作、健康、繁盛、それぞれの祈りを込めた花火が、夜空を照らし出す。出費するものも、見るものものもみな平等。そんな「花火の原点」を見るような、御油町の夏祭り。

 そして翌晩、何と昨晩上げ切れなかった花火が、さらに、さらに上げられたのは、まったくの驚き。


048 老舗の灯


 大手食品量販店の度重なる出店の嵐で、地元の中小スーパーの「灯」が次々と消えてゆくなか、岡崎では老舗ともいうべきスーパーがこのほど、店をたたむという決定をした。かつては伝説的な集客力を誇った時代もあったのだが。

 店をたたむことになった理由は2つ。ひとつは、止めともいえる大手の出店が商圏内に決定したこと。じり貧になる前に、ある者は引け時とばかり退職金代わりに、またある者は多店舗出店したあげくの巨額の負債を清算するため、泣く泣くこのような決定となった。そしてもうひとつには、後継者の問題。協同組合の形をとっており、各メンバーの高齢化してゆくなか若手の後継者がなかったり、それがいればいたで全権を彼らにゆだねることができなかったり。とにかく個人商店主の寄合所帯としての泣き所が、「十人の船頭の船、山を登る」の例えどおりその主観的ポリシーの無さから、終止符を打たなければならないことにもなった。何とも複雑な気持ちにもなる。

 大手の量販店にはより安く売るというポリシーもあろうが、肝心な、「人に喜ばれるものを値打ちに売る」という商道の基本をわすれ、目先で客集めをしようというのでは、その将来性もいささか疑わしい。大小にかかわらず、肝心なのは「考え方」なのです。


049 フィラリア


 屋外で犬を飼う場合、愛犬のために気をつけてやりたいのが、蚊が媒体となって体に寄生する線虫の一種、フィラリア。

 仕事場のはす向かいで「ジュン」という5歳の雄犬が飼われていたのだが、最近、ポックリと死んだ。病名はフィラリア症。うちの愛犬「キク」の散歩でその前を通ると必ずうんとかすんとかいってあいさつをしていたのに、この2・3日元気がなく夏バテかなにかかしらんと気にも止めていなかったのだが。愛犬の散歩の「行き」には生きていた「ジュン」が、「帰りがけ」に変だと思ったらなんと死んでいた。

 「ジュン」の家は、最近そのご主人が肝臓の持病で病院へ担ぎ込まれたお陰で、犬の世話がかなりおろそかになってしまっていた。ひょっとするとフィラリアの駆虫薬も毎月飲ませていなかったのかもしれない。フィラリアの線虫は血管をつたってからだのあちこちに移動して、成長することで血栓を作ったりして死の原因を作る。末期の心臓は線虫の巣となり、見るもおぞましいほど。

 人間がこの線虫に寄生されると、「象皮病」という南方の風土病となるそうだ。

 道長の作業所では「蚊」対策として、カーチルランプ(昆虫の嫌がる色のランプ)、蚊取線香、そしてフィラリア症予防の薬とこの上ない努力をしている。


050 雪の朝の珍事


 1月22日、前の晩からの冷え込みは相当きつく、早朝から降り出した雪は融けることなく2センチほど積もっていた。音羽の作業所まで出勤せねばならないものの、これしきの雪なら大丈夫とかみさんと別々の車でいっしょに家を出た。

 ところが、それに呼応したかのように粉雪が降り出し、みるみるうちに積もりだした。途中までは何とか裏道をゆっくり走っていったんは国道1号に出たものの、こちらも積もった雪にたくさんの車が恐る恐る行進している。音羽町に入って、再び裏道に入った。途中、下り坂のカーブにさしかかり、『いけない!』と思ってバックミラーを見ると、かみさんの軽四がゆっくりと道の反対側の側溝に向かってはまり込んでゆくのがみえた。右側の両輪がはまってしまったため、助けを呼ぼうと後続のトヨタカリブに合図すると親切に止まって・・・くれたつもりが、その車も側溝にはまってしまった。

 いそいで知り合いの所へ行って助け船の大型トラクターをだしてもらった。ところが途中で、トラクターがエンストで立ち往生。まいったまいったと現場に戻ると、二台の車はすでに助けられていたものの、そのまた後方から手助けに来てくれていた人の停車中のトラックに軽四が当たって、そのトラックが滑って道の脇に突っ込んで・・・。

 コメディにでもありそうな、雪の朝のはずかしい出来事。けが人もなく、ありがとうございましたとやれやれと胸をなでおろした。