051 橋本力男さん

 音羽の有機生産者の有志とともに、今年1月、生ゴミの堆肥化を合理的な機械を開発して試行して見える橋本力男さんを訪問した。音羽に帰って早々、オールステンレス製のコンポスターを製作、設置した。以来3か月、近所の家庭の協力もあって、コンポスターの中身も7分目ほどとなった。

 先日、ちょうど橋本さんが音羽町に立ち寄ってくださり、よい機会なので、その夜、25名ほど有志を集めて講義をしていただいた。21年間の経験に基づいたその内容は、現実的でわかりやすく、興味深いもの。農業をしてゆくうえで、堆肥の役割が以下に重要なことか実感させていただいた。

 音羽で一泊していただき、翌日は橋本さんに立ち会ってもらって念願のコンポスターからの生ゴミの取り出しと二次発酵場への移送。二次発酵場では、さらに水分調節と発酵促進のためのもみ殻と米ぬかを適量加え、混ぜ合わせて、保温と保湿のためのじゅうたんをかぶせてその日の作業を終えた。

 当たり前のことだけれど、この3か月の間に、始めは「汚い」イメージだったコンポスターの中身がいざ取り出してみると「かわいい」気がしてくるのにはおどろいた。最初は、有機野菜をつくってもらうための『知識』のつもりだったのが、今ではすっかりはまり込んでしまった感じ。

 生ゴミ堆肥をつくるのって、ほんとにおもしろい。

052 生ゴミ堆肥の二次発酵


 生ゴミを堆肥化するためにはまず、生ゴミの異臭を外に出さず、しかも好気性発酵をさせるための密閉式のコンポスターにより一次発酵をさせる。

 音羽生ゴミ生かそう会のコンポスターは容量320gと限られており、そこへの生ゴミ投入は、あくまで生ゴミを(腐敗しないように)発酵させて減量化するということを目的としている。コンポスターの中には、生ゴミの水分調節と発酵を促すため、もみ殻と米ぬかを容量の2/1ほど入れておく。

 生ゴミを毎日投入し続けて、容量の7分目くらいまで中身が増えたら、いよいよそれを取り出して二次発酵、熟成。二次発酵のための主な作業は、切り返し。ここでも、もみ殻と米ぬかを適量添加して本格的な発酵を起こさせる。コンポスター内の一次発酵温度がせいぜい40℃だったのが、二次発酵の段階ではなんと67℃まで上がった。もっと生ゴミ堆肥の山が大きければ、80℃近くになるそうだ。発酵温度が下がってきたらまた、切り返し。このときは、発熱で発散した水分を補給してやるのだけれど、それでも発熱しない場合は、さらに米ぬかを追加してやる。これをくり返し、さらに熟成させてやると、約3か月で生ゴミ堆肥ができあがる。最初のコンポスターへの生ゴミ投入から、すでに6か月以上が経過していることになる。


053 下山村の児山さん


 東加茂郡下山村で、バイオダイナミックという方法で農業を試行している人がいる、というので見学にいった。下山村は、音羽町からさらに北へ額田町を越えたあたりで、片道50qの道のり。

 児山さん(27歳の独身女性です)は、イタリアでこの農法と出会い、勉強して、標高680mのこの土地でそれを実践すべくやっと三年目をむかえた。茶畑には適しているものの、花崗岩質のため、トラクターで耕そうとするとやたらと大きな石が出てきて作業を邪魔する。山を整地しただけの農地が大部分のため土が痩せており、堆肥を入れてひたすら土作りをしている段階。堆肥の資材については近くから畜産、養鶏の廃棄物がただで手に入るため都合がいい。ちょっと変わったことというと、堆肥や肥料にごく少量『調合剤』を添加すること。調合剤は、ノコギリソウやカミツレ、イラクサ、カシの木の樹皮、タンポポ、カノコソウなどを特殊な方法で発酵?させてつくる。

 その農事暦は天体の運行に基づいて示され、ドイツのアドルフ・シュタイナーの『人智学』によるとのこと。もともと農事は、自然神というか、宗教との関わりがあり、日本にも宗教団体と間違えられそうな部分が、著名な農法にあったりもする。

 農業の持つ神秘性とは、なんといっても土から生命が生まれ、生物が育まれるということ。それが宇宙の法則で管理されているならば、それを知り、従い、農事をすることは、もっとも自然なことかもしれない。

054 色川だより


 せっかく完熟した梅を一粒も無駄にすることなく、とり入れてすぐ新鮮なうちに漬け込むには、すべての作業を産地でやろう。ということで、今年初めての試みとして、和歌山県勝浦町色川の共同畑研究会のメンバーと、梅のとり入れと漬け込みを現地にて行った。

 色川到着当夜は例によって土砂降りの雨。一体ここはなんと雨の多いところだろう、とあらためて実感。梅の取り入れは、今しかない、と午後より雨の中を強行、なんとか収穫と選別、計量、アク抜き(水につけて)までの一区切りの作業をすることができた。雨上がりの竹内秀豪さん宅にて。

 翌日はおどろくほどの上天気で、漬け込みの作業は順調に進んだ。竹内さんの家は、渓流釣りのファンなら泣いてよろこびそうな沢のほとり。その流れは、いつも豊かな水量があり、鮎釣りでも有名な太田川の支流(クジラで知られる大地町玉ノ浦に流れ込む)。昨日まであれほど激しく雨が降ったのに、水の濁りはほとんどない。ちゃんと洗い場まで作ってあって、梅の漬け込みに使うタルなどを洗うのに非常に重宝した。夏には果物や飲み物を冷やすのにも、さぞやいいことだろう。その流れと背景の山、沢のほとりの一本杉、青い空、心地よい風。自分は一体、いつの時代にここに立っているのかわからなくなってしまうほど、時間はゆったりと流れていた。


055 転 入


 音羽町に作業所を移転してからまる三年が経ち、このほど、音羽町民となるべく、住所変更と相成った。日常の大半を音羽で過ごしている現実と、いずれは音羽に住むからという理由もあるものの、いちばんの理由は、『生ゴミ堆肥』の一件から。

 音羽の有機農業が稲作ばかりでなく、畑作にも繁栄すればという願いを込めて、町の『生ゴミ』をすべて堆肥に還元しよう。そして、今以上に音羽町が有機のさとになってゆけたら。という夢を少しでも現実的なものにするには、まず、自分自身が町民になりなさい、という町会議員氏の強い助言があったため。岡崎の実家には中学生の息子もいるため、道長の奥方は今まで通り岡崎市民。というわけで、奥方が実家での世帯主ということに(変な感じ)。

 生ゴミコンポスターの利用にあたっては、先回より進歩して、一回づつの生ゴミ投入時に量りで計量、ノートへの記入を利用者にお願いした。これがかえって利用者の意識を喚起してくれたのか、今回の方がコンスタントに生ゴミが集まるようになった感。

 今回、22日目で、すでに投入量83kg。利用回数は67回にもなった。道長も利用しているけれど、あくまでも実家で出た生ゴミに限っている。


056 釣りの趣味


 いそがしい身にとって、暇を見つけてすべてから解放されるべく、釣に出掛ける。その動機はというと、『釣れている』からではなくて、『時間があった』からという計画性も確実性もない、なんとも情けない理由だったりする。どうにもいそがしくて、その日にしか釣りに行けないというやむを得ない場合はさておいて...。世の中で、その道では『ちょっとは鳴らす』という人であってもこと釣りになると、その道具立てにしろ、仕掛けにしろ、客観的に判断して「ここで何をしようとしているのだろう」と首をかしげたくなるような出で立ちの人もいる。性の抜けたような往年の重量級グラスロッド。もともと透明のはずなのに、これも性が抜けて真っ白になったようなクモの巣みたいな釣り糸。この仕立てで根掛り(釣り針が海底の岩などに引っ掛かること)をあおると、一発で糸も竿も『いって』しまったりして。それほど、『釣り』とは訳のわからない趣味ということがいえる。

 釣りに行くのに笑い話もある。ある釣り人はクロダイ(チヌ)釣り用に竿を買った。「今日はおろしたての竿で...」。とはやる気持ちで新竿を取り出そうと...となんと買ったばかりの竿をわすれてきてしまった。代わりの竿も...ない。千円と消費税を出して買ってきた釣り餌を釣り場に撒いて、そのまま帰った情けない話。断じてぼくではありません。


057 環境フェア―


 渥美半島の田原町で、青年会議所主催の環境フェア―というのが催されたので、我らが『生ゴミ生かそう会』も出展した。

 どうせ出るなら、試作のコンポスターを、それも中身の一次発酵中の生ゴミも入れたまま展示しようというので、事務局にわざわざ屋外でのブース設定をお願いした。りっぱな文化会館の玄関に、音羽の農協から借り受けたテントと展示用パネル、机と腰かけ、そしてコンポスターを並べるとなかなか様になった。皆で写真もとってさあお客は、と、なんと来展者が全くない。それもそのはずで、会館の玄関はその裏の文化広場でフリーマーケットが開かれているおかげで、全員が裏口を通って会場を出入りしている。『生ゴミ生かそう会』の他に、やはり外で出展のトヨタ自動車のハイブリッドカーにもだれも来ない。まったくまいった。ただ、子供たちがクイズラリーのため、各ブースをまわるので、こちらにもやって来る。反響はどんなだろうという思惑は大はずれ。がっかり。

 ただ、渥美農業高校の出展には興味深いものがあり、お互い、堆肥の話などで有意義な時間が持てた。これから社会に出て、農業を継ごうという青年たちに、いろいろな試みを示唆しようという担当の先生方の情熱はさすが。見学の約束もして、一応の成果あり。


058 川掃除


 音羽町に住所を変更したことで、同じ区内の行事に参加することになる。春先には『道つくり』、梅雨明け頃には『川掃除』。今回は『川掃除』。

 道長の作業所は、長根地区の3組にある。長根地区は家々が散在している割には、100軒近くもあるそうでおどろいてしまった。川掃除前、集合場所の神社の木陰で連絡事項などがあり、そのついでに音羽町の新町民として紹介をしていただいた。

 川掃除といっても、護岸工事のおかげでいわゆる『三面張り』となっているため、第一目的の草刈りも簡単に済んでしまう。地元の人によれば、昔は魚もたくさん住んでいたそうだが、三面張りのおかげで魚の姿は皆無。沢ガニを一匹見かけただけ。これまで徹底して護岸をしなければならないものかと思ってしまう。でも、昔は大雨が降るたびに、こんなに細い川でも大暴れして、その流れ道が変わってしまうほどだったとのこと。だからこういった措置も仕方のないことかもしれない。ただ、魚たちを呼び戻す方法がないわけではない。川の途中にできるかぎりたくさんの『せき』を作ってやることで、よどみができ、砂もたまり、草も生えて水棲生物のための環境づくりも可能。そんなこともできたら楽しいだろうなと、またひとつ夢ができた。


059 続生ゴミコンポスター


 三重県の有機農業家、橋本力男さん開発のものを手本に試作した我が『生ゴミ生かそう会』のコンポスターも設置以来四か月半が経過した。現在二回目の生ゴミ投入テスト中。

 今回は、データをしっかりとろうとコンポスターの横に計量ばかりとノートを置き、生ゴミの投入PRのおかげで、6月中旬の利用回数3回/日だったのが、今では5回/日と順調に増えている。一か月間の生ゴミ投入量は160kgというペースとなった。

 5月17日、二回目の投入テスト開始以来、6月11日現在で、すでに262kgの生ゴミが投入されたことになる。にもかかわらず、一か月の利用限度250kgまでにはまだ十分な余裕がある。四か月間でなんと、1tもの生ゴミ収容力がこのコンポスターにはあるのだからおどろいてしまう。それほどに、コンポスターの中では活発な発酵が行われており、その温度は55〜60℃にも達する。まったく、微生物のはたらきは「すごい」の一言。

 一回目の生ゴミたい肥はすでに完成したため、プランターでのテストをしたり利用者に還元したりで、またたく間になくなってしまいそう。


060 決 定


 勝浦の共同畑研究会から、梅ぼしが届けられた。道長が6月に勝浦に出向いて研究会のメンバーと共同で収穫、漬け込みをしたあの梅が、彼らのおかげで見事に干し上げられ、完成したもの。

 届けてくださったのは、色川への入植を希望してしばらくの研修を終え、横浜の奥様のところに帰るついでの増子さん。30歳半ばで、高給の保険会社を辞め、過疎の山村に入植を決めたとのこと。よくよく考えての方向転換なのだけれど、世間一般から見れば「どうして」ということになる。会社を辞める時、「もっとよく考えてからでもおそくないだろう」と言われたそうだ。そして、このぼくもあの時、そう言われたことをおぼえている。漬物屋の道を選んでしまった道長の場合は、よくよく考えたあげく、「今のままでは我慢できないから、とにかくそうしよう」と会社を辞めてしまった。その結果、後悔したこともあるけれど、今は良かったと思っている。どうやら自分の場合、よくよく考える割りにはいざとなるとそれがどこかに吹っ飛んでしまい、気持ちの方が決定権を持つようなところがある。もちろん、『西』にあるであろう自分の『方向性』のために、これでいいと思いながら『東』へ向かってしまっては身もふたもないけれど、ちゃんと進むべき方向に向いているのならそれでいいし、『思考』よりも『気持ち』のほうを大事としたい。