001 

 現在、低価格な中国野菜などの進出で日本の農業が脅かされているけれども、もはやそういった波は、今後防ぎようのないこと。そんなこと絶対に無理だと常識的に考えられるかもしれないが、安い有機の輸入米にも太刀打ちのできるものにしてゆかなければいけない。と鈴木さんははっきりと言う。今後、農耕機械や資材も低価格化の方向に進むし、なんといっても日本のアグリビジネスも大きなリストラが進むのだろう。その中で一部の農家が『専業』として残ってゆくのだろう。

 国の『減反政策』なども、一見して農家には逆風なように受け止められがちだが、それを積極的に考えれば、今後の農業は非常に可能性の高いものにもなる。転作作物である小麦や大豆などは、良質なものを大量に作ることでコストダウンが可能だし、その無農薬化も夢ではない。さらにそれを加工することで農産物の幅も広がることになる。うどん、パン、みそ、糸引納豆、小麦粉その他いろいろ。

 農業を前向きに、文化として捉えようとするするとき、こんな言葉が引き合いに出されたりする。本来わたしたちの『食』とは『身土不ニ』に基づかなければならない。生活をするその土地で生産されるものを食べることで、人の健康は保たれる。人のからだと土とはひとつであり、切り離すことができない。そのために『地産地消』はわたしたちの生活の基本である。

 現在、WTOだウルグアイだとわけのわからないような交換条件だか、割り当てというような国際間のお付き合いのおかげで、不自然な農産物の生産と流通が行われていたりする。日本の文化とはそもそも農業を基盤としてあったと思う。狭いけれど四季がはっきりしていて、水が豊富で多様な農業適した国。自然資源は驚くほど濃密で動物性タンパクは海からとることができる。

 この戦後何十年のどさくさで、日本の文化もすっかり行く先を失っていたのかもしれない。今、世の中は本来の歩むべき方向をやっと求めはじめたという段階なのかもしれない。ぼくたちが、少なくともその一環の中でなんらかの存在意義を見つけ出そうとしているのなら、その答えを再認識し、ぼくたちが関わっている人たちに明確な形として提示しつづけてゆくという、気長な作業を怠ることなく続けてゆかなくてはいけない。

002 インドネシアのバリ


 まず、インドネシアについて。地理的には東西5,400Km、南北1,800Kmにわたる海域に1万3千以上の島々から成る群島国である。バリ島は首都ジャカルタのあるジャワ島の東にあり、周囲250Kmほどの大きさで、イメージするほど小さな島ではない。人口約290万人ほど。

 身内の結婚式があり、バリ島で式をするというので、わざわざ仕事を休んで出かけてしまった。バリ島といえば、若者にはマリーンスポーツ、中年には静かな自然の中でのリゾートで有名なところ。そしてショッピング。
ぼくとしては、連合いや身内もいっしょなので海で遊ぶわけにもゆかず、でもじっとしていられず、どうしてよいかわからずにいたのだけれど、やっぱりどこかへ行きたくて、観光とはちょっと違ったところへ行くことにした。ちょうど宿屋のあるデンパサールのサヌ―ルというところから東に40Kmほどのクルンクンというところに塩田があり、そこへ行くことに。

 デンパサールではあれほど多かった日本人や豪州人、白人が、ちょっと離れるだけで一気に少なくなる。バリでの交通手段は自動車かバイクしかない。今日は日曜日で、何でも乗り物の神様のお祭りということで、道中やたらにバイクメーカー(ホンダ、スズキ、カワサキ、ヤマハなど)のノボリ旗が目立つ。道路を閉鎖してのバイクのレースやラリーなどが行われている。若者たちにとってバイクは必需品らしく、どこへ行ってもやたらと多く危なっかしくてしようがない。

 昨日の土曜日にはやはり学問のお祭りがあり、それに相当するお寺がにぎやかだった。バリのメインの宗教はヒンズー教なのだけれど、そのなかでもいろいろな神様があるらしい。お祭りの日には正装して頭にも飾り布を巻くため、バイクに乗るのにこういったお祭りの日にはヘルメットの着用はしなくてよいのだそうだ。
狭くて起伏の多い土地柄のため道路もあまり広くなく、往来が激しくなるとすぐに車の渋滞がおこる。おかげでクルンクンへは2時間以上かかってしまった。クルンクンの海はデンパサールとは色が違う。まず砂の色が黒くサンゴ礁が少なく遠浅になっていないため、深いコバルト色で水もきれい。

 目当ての『塩田』は以外にほそぼそと行われていたのだった(ほかにも大きなものがあるのかも知れないのだけれど)。まず海水を汲んできて、砂に含ませ天日で乾かす。それをくり返すと砂は非常にたくさんの塩を含むようになる。それを屋内にある椰子の木をくりぬいた大きな容器に移し、さらに海水をかけると濃厚な塩水が流れ落ちてくる。それを屋外の浅い器に移して天日にあてれば、水分が蒸発して塩ができるという仕組みになっている。天日で塩を結晶させる最終工程は、本来これも長い椰子の木をくり抜いたくぼみを利用して行われるはずなのだけれど、最近では黒いプラスティックの分厚いシートを地面に引いて塩水を張るという、効率優先の方法がとられている。最近ではこのような仕事は若者には魅力がないとみえ、年寄りの仕事になりつつあるようだ。
すぐ近くに有名なお寺があるらしく、参拝客の車が多い。有料駐車場には、たくさんの屋台がたべものや何かを売っている。ぼくたちは駐車場と道を挟んだ売店で昼食をとった。メニューはひとつだけで『チャンプール』というもの(盛り合わせというような意味)。イワシ団子を串に巻いたのと炒め野菜、ご飯とカレー(ツナ入り)のセットで一般的な食事なのだそう。ちょっと辛めだけれど、さっぱりしてうまかった。

 クルンクンとデンパサールの道中は道幅は広くないものの、舗装はきちんとされている。道の両側は畑や田んぼがならんでいる。この起伏の多いところでも、どこへ行っても米を作る田んぼの多いのに驚かされる。雨季である10〜4月以外には雨が少ないにもかかわらず、どこへ行っても水が流れているのにも感心してしまう。とにかくバリは島の奥は高知となっていて雨も降り、火山でできたカルデラの湖やたくさんの湖のおかげで水には困らないのだそうだ。田植えしたてだったり、稲刈りが済んだばかり、出穂のころだったりと、一年中米ができ、日本の冬野菜である白菜なども作られている。

 一年の平均気温も24〜30℃で、日本に比べたらずっと涼しく快適この上ない。自然環境にもめぐまれ、気候もよく、水も豊富で海の幸も豊富。そんな土地柄に似て、バリの人は非常に温和な性格なのだった。喧嘩などめったになく、ヤクザもいない。政治的な暴動もない。あんなに人の多い夜のビーチも、花火も上がらなければ、騒ぎもない。騒々しいのは打ち寄せては引いて行く波の音だけ。

 もし今度来るなら、海に潜ったりして、そちらの自然も満喫してみたい。観光の島なのだけれど、南国の楽園のその雰囲気と人の魅力に打たれてしまったのだった。

003 味覚のはなし


 人の舌には、年令や個人差があるそうですが、2000個前後の味蕾という突起があり、その中には40〜60個の味細胞がある。味蕾の頂点には味孔というものがあり、この孔から味物質が味細胞に受け入れられる。

 味の種類としては大きく分けて酸味・塩味・苦味・甘味があり、それが複合されることで複雑な味わいを作り出している。これらの4種類の味はそれぞれの味をより鮮明に感じ取ることができるよう、それぞれ舌の違った部分で受け入れるようになっている。
酸味と塩味:おもに舌の両サイドで感じる。
苦味:おもに舌の奥で感じる。
甘味:おもに舌の先端部。
唐辛子やわさびの辛味って

 ところで、これらの4つの味の他に、『辛味』というのもあります。たとえば、唐辛子を口に入れたときに感じる痛みにも似た感覚です。これは味覚とはちょっとちがっていて、たとえば唐辛子の場合その辛味成分である『カプサイシン』というのが舌の粘膜を大いに刺激することで、ようするに『しみる』状態を作り出しているわけです。したがって、この辛さというのは、ちょっと時間を置いてから、じわっと効いてきます。唐辛子を扱った手で目をこすったりすると、痛くて目を開けていられなくなるのも同じ理屈なのでしょう。

 最近、エスニックというか激辛ブームで辛いものを好んで食べることがよくありますが、こういった刺激物は舌の粘膜とともに味細胞も痛めたりするため、適当にしておいたほうがいいでしょう。

『しるこ』に塩ひとつまみ、なぜ?
 よくしるこを作るとき、塩をひとつまみ入れます。すると不思議なことに、その甘味をさらに強く感じるようになります。これは『味蕾』をちょっとだますことで利用する効果です。

 しるこを口に入れます。まず、甘いしるこに少量含まれた塩味を舌の両サイドで感じるわけです。そのとき味覚がスタンバイし、そこへ大量の砂糖の味がおしよせて、塩味を感じる味細胞さえも甘味を感知してしまう。結果として実際よりも強い『甘味』として感じてしまう。というわけ。

 この『対比効果?』のためにいちばん適当な塩の量は、砂糖の量の0.5%といわれています(砂糖4カップに塩小さじ1/2)。それ以下では味覚が適度な塩味を感ずることができず、それ以上では塩味がまさってしまいます。

 なんとなく言葉でだまされているような、甘味に対する塩味の効果ですが、これは味覚以外にいろいろな場合にありうること。

 たとえば一面の白い花畑のなかに真っ赤な服の人物がひとりいたとすると、その白が鮮やかさを増したり、音楽で主旋律にたいして奏でられる和音などは、その美しさを際立たせるはたらきをする。などなど。対比の効果、アクセントの効果とでもいうのでしょうか。


 人の味覚というものは、こういった効果で、料理を実際よりも美味しく感じさせることができます。みりんや酢など、ちょっとの工夫で味というか、風味というのはぐっとアップします。

 さらに、味覚をかもし出す効果には、もっと外的なものもあるわけです。『物は器で食べさせる』、あるいは人が料理を食べるときの心理状態、環境などなど。あげたらきりがないくらいです。

 これらのいろいろな要素がどれだけ取り入れられているか、気配りがなされているかというのが、ようするに料理の『味』にあらわれるというわけです。

 月並みすぎて、いまさらこんな言葉・・・。『愛情は塩にも勝る調味料』。肝に銘じて・・・。

004 有機認証について


●有機認証
 現在、日本国内にも20くらいの有機認証団体があります。米国にも40近くの認証団体があるようですが、国際的にも認証活動をしていて権威のあるものは多くはありません。たとえば独国では Naturland、仏国 ECOCERT、米国では OCIA(Organic Crop Improvement Association)、日本では JONA(日本オーガニック&ナチュラルフーズ協会)といった具合。さらに日本の場合、有機認証の証としてJAS(農水省の日本農業規格)の認証マークが必要です。

 たとえば、道長ではキムチベースを作るのにイタリア産のトマトの缶詰を使っていますが、その有機認証をしている伊国の Suolo e Salute という団体の認証では、日本国内では『有機』と表示することはできません(無農薬無化学肥料栽培となります)。とはいえ、日本国内で流通する国内産農産物については、国際的な肩書きが必要なわけでもなく、JONAの認証でなければいけないなどということはまったくありません。

 生産者にとって、『有機』の肩書きを保つためには、有機認証団体の査定を毎年受けなければなりません。これは生産者にとっては大きな負担になります。また、年に一回だけでは不足、という解釈もあります。これは何のために『有機認証』を取得するのかという目的から判断しても、解釈のしかたは違ってくるわけです。

JASのガイドライン

農   薬

化学合成農薬
天然系農薬
化学肥料

有機農産物
(3年以上)
×
×

転換期間中有機農産物
(3年未満6ヶ月以上)
×
×

無農薬栽培農産物
(栽培期間中)
×
×

無化学肥料栽培農産物
(栽培期間中)
×

減農薬栽培農産物
(栽培期間中)

減化学肥料栽培農産物
(栽培期間中)

注:
天然系農薬とあるのは、木酢液などもですが、ボルドー液(硫酸銅と石灰の混合液)なども含まれます。また表中の『△』はそれぞれの地域での『慣行栽培』の50%以下が目安となっています。『×』は使用不可。『○』は使用可。

●特別栽培農産物認証制度
 有機認証を公的に認められた民間の組織が行うのに対し、『特別栽培農産物』の認証制度というのがある。これは、たとえば愛知県の場合、JA愛知経済連がJASの示すガイドラインに基づいて認証します。この認証を受けた農産物にはJA愛知の認証マークを貼ることができます。

 ただし、これは農協を通して農産物を出荷する場合には意味もあるでしょうが、農家が直接消費者団体などへ出荷する場合には、ほとんど意味のないものとなってしまいかねません。有機JASマークとは、それ自体重みがちがうためです。

 そもそも有機認証というのがなぜ必要なのかといえば、それは安全な農産物を選ぶための消費者にとっての指標となるから。量販店などで消費者が農産物やその加工品を買う場合、信頼できるものがほかにない場合は『有機JAS』のマークは意味がある。

 生協や産直方式で安全な農産物を直接流通する場合、有機認証の必要性も二の次ともなってくる。むしろ生産者・流通・消費者の三者の信頼関係のほうが優先もするのかもしれない。『有機』を含めて、安全のための表示については今後、明確なものが求められてくるだろう。それにどういった方法で対処するのか、というのもこれからの課題となるのだろう。

005 遺伝子組み換えイネ


 ぼくが除草剤ラウンドアップ耐性の遺伝子組み換えイネが、愛知県農業総合試験場で研究開発されているという事実を知ったのが、2000年の春だったと思う。それからたった3年足らずしか経過していない。

 もともと、愛知県農試ご日本モンサント社がその共同研究を開始したのが96年春。そしてこの研究の具体的な成果として、99年、6系統(まだ品種ではないので、このように呼ばれる)のGMイネが選抜された。そして00年、文部科学省の指針に基づいて、隔離圃場での栽培試験が行なわれたのだった。そこでは、安全性評価試験が行なわれ、その結果に基づき、その翌年(01年)5月には、農水省より環境に対する安全性が確認された。そして今年には、隔離圃場ばかりでなく、一般圃場でも栽培試験という親展ぶりということになった。

 それに対する『遺伝子組み換え食品を考える中部の会』の対応は、00年にさかのぼる。遺伝子組み換えの開発が愛知県で、しかも公の農業試験場で、さらに多国籍バイテク企業『モンサント』とのタイアップで、そしてそれがさらに、日本人の主食であるイネに対して行われているという事実は衝撃的でさえあったといえる。

 今まであまり考えていなかったGM作物の『国内栽培』が、この愛知県で行われるようになるかもしれない、という危機感が現実のものとなってしまったのだった。とりもなおさず、この除草剤耐性のイネが愛知県農試が進めている『乾田直は(苗床を作らず、直接乾田にイネの種を播く)』という方式のために必要なものであることも無視できない。さらに一方では、多国籍バイテク企業モンサント社の『もくろみ』というものも無視できない。モンサント社は自社開発のGM穀物を駆使し、米国の政治力を盾にした経済の『国際化』戦略に乗り、世界のアグリビジネスを独走しようとしている。遺伝子組み換え作物というものは、食品として安全か否かというだけでなく、地球規模での自然環境へも脅威をもたらしかねない状況ともなってきている。

 これは申し上げにくいことなのだけれど、最近の米国の外交(貿易)政策というか戦略は露骨としか言いようがなく、武力だけでなく、経済でも『世界支配』を目指していることが明らかだ。

 現代の世界が将来に向けて、地球環境の維持・回復の方向性がない限り、平和も経済もあったものではないことくらいは誰にでもわかるはずのこと。武力による、あるいは米国的資本主義経済の国際化などという方法が、実は取り返しのつかない方向に帰着しかねないということを、わたしたち一般の市民が認識すべき。

 今、問題になっている愛知県農業総合試験場とモンサント社との共同研究。それがもたらすかもしれない危険とは、愛知県の農業という地域的なものだけではないのかも知れない。

 米とならんで『麦』についても、GM化の動きがおよんでいます。世界の主食である『米』と『麦』のGM化は、地球規模での遺伝子汚染を招く危険性をはらんでいることを認識しておかなくてはいけないわけです。

006 ダッシュ村


 ストップ!遺伝子組み換えイネ全国集会の趣向として、テレビ番組『鉄腕ダッシュ』という番組の編集者の今村司という人の講演を行った。

 さすがに人気グループTOKIOの出演する番組だけあって、話を聴きにきている観客のなかにもちがった意味で熱いものを感じてしまった次第。当の今村氏、この番組のおかげで講演の依頼が多いとみえ、後半の観客とのやり取りのなかで配ろうという、番組のキャラクター人形や、映像権だか著作権だかの関係上問題もあろうという、番組のこぼれ話を集めたビデオや写真なども持参。

 今村氏の講演のなかで、こんなのがあった。アイドルスターの番組で『農業体験』など大丈夫なのだろうかということ。若いアイドルたちは初めはそんなの冗談じゃない。また事務所からは、そんな汚いことさせられない。という声があがってしまったとのこと。

 番組の収録のため、山間のある村の一角に一軒の古い造りの農家を再現したり、炭焼きをしたり、ヤギのお産、うどん作り、米作り、井戸掘りなどなどの体験をすることになった。番組で紹介するのだから『うわべ』で十分と思うのだけれど、これがけっこうな大仕事となってしまったとのこと。番組で紹介されたであろう、それらのひとつひとつが、にもかかわらずけっこう本格的な方法で行われている。

 ビデオテープの若者たちの顔は一応に明るいものだった。それぞれの作業などは素人見にもけっこうな重労働だし、泥まみれ。今村氏の話にもあったけれど、はじめは嫌がっていた連中も、農作業を通して『癒され』てゆく姿を実感できたとのこと。番組作りのスタッフのなかにも、農のくらしそのものにどっぷりと漬かりきってしまっているものさえ出てしまうという有様であるそうだ。

 そんないきさつもあってか、たとえばアイガモを使った米作りなどでは、実際にそれを行うためのさまざまな努力が伺えた。たとえば、一年アイガモ農法で使って親になったものから、再びヒナを採ろうという試みや、(実際には放映できないけれど)不要になった親鶏の食用としての処分の話など。また、大根やイネなど農作物の出芽から生長の過程をコマ撮りしたもの。ヤギや犬、さらには害獣であるイノシシの映像まで。

 現代では、秘密をまもるというのは非常にむつかしい。番組ではこの『ダッシュ村』の所在地はまったく伏せられているのだけれど、インターネットなどを駆使するのか公然の秘密という感じ。だからひどいときには物見遊山のマイカーが一日1000台も押し寄せ、ごみを捨てる、農道を荒らす、農作物を持ち帰るなどなどとダッシュ村だけでなく町内までにも迷惑を振りまくというありさまにまで。テレビという媒体がもともといい加減なものとしての見方があるため、この手の情けのない出来事は数え切れないとのこと。

 いずれにしても、この番組が以外に長く続いてきた理由としては、この番組の視聴率もさることながら、農という行為のもつ魅力というか、動物としての人間の自然への回帰本能をくすぐる部分があるためだろう。死期を間近にした少年の、こともあろうに、一度でいいからダッシュ村で一日を過ごしてみたいという一言に動かされ、スタッフがそれを実現したという裏話もあった。グリーンツーリズムなどということばもあるくらいで、人はその生活の中の本の一部でも『自然』『緑』『農』というものに間近でいたいという願望があるのだろう。

 そんなひとつのテレビ番組の影響なのだけれど、それが放映されるほんの表面的な映像からでさえ、『農』を志す若者も現れるのかもしれない。そんな淡い期待さえおぼえてしまうのだった。


007 改正農薬取締法


 農薬取締法の一部を改正する法律(改正農薬取締法)がこの3月、施行となるとのこと。今回の法律の改正にあたって、その理由付けは次のようにされている。
「近年における農薬の流通の多様化の状況等にかんがみ、農薬の品質の適正化とその安全かつ適正な使用を図るため、農林水産大臣の登録を受けていない農薬の製造、加工及び輸入並びに使用を禁止するとともに、輸入の媒介を行う者が農薬の有効成分の含有量等に関して虚偽の宣伝をすることを禁止する等の措置を講ずる必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。 」

 この一件が物議を醸(かも)しているというのは、日本で使用するすべての『農薬』が、登録認可を受けたものでなくてはいけない点。有機農業で病害虫の防除の目的で使われている石けん、牛乳、マシン油、さらにはアイガモなども農薬として解釈されるものとすれば、それにも認可がいるのか、という反発が起こる。こういう問題提起に対して、法律は『特定農薬』という枠を定義した。これに特定された資材であれば、使用ができるというわけ。それでは、指定を受けていないものはどうなのか、という問題が起こる。食品由来のものであればよい、という定義がなされたとしても、そうでないものもある。

 笑い話にこんなのもあった。イネの除草に利用するアイガモも『特定農薬』ということなら『オレの奥さん』もそうなるのかい。だって、田んぼの除草もするし、カメムシ退治だってするんだぜ・・。

 さらに本来農薬を使いたくなくて考案した資材が特定農薬という、つまり『農薬』として解釈されてしまう。これは多くの有機農業者にとっては、大きな問題となる。
日本有機農業研究会の定義では有機農法とは『環境破壊を伴わず、地力を維持培養しつつ、健康で味のよい食物を生産する農法』となっている。というより、農業そのものが、遠く縄文以前の時代から行われてきたわけだから、有機農業自体が本来の農業であると定義付けされて然るべきなのかもしれない。

 あるいは、こういう考え方もできるのかもしれない。そもそも、有機農法では『防除』という考え方はないのではないか。すべてが自然の循環のなかで行われているのであれば、病害虫の防除などする必要がない。だから本来の有機の概念からすれば、アイガモ、牛乳も、それは防除目的なのだから農薬として特定されてしまっても仕方ないのかもしれない。

 あるいは、法の特例として、有機農法で許可されている資材については、「表示の必要なし」というようなことになるのかもしれない。だがしかしながらである。『表示』という点については有機においても安易には考えられないのではないか。有機農法で作られた作物であっても、使用した資材については何らかの形で消費者に知らせる義務があるはず。むしろそれは積極的に表示されてあたりまえでなのではないか。

 道長では、添加物は一切使用していない。では『添加物』の使用目的は何か、となればひとつには『防腐』があるわけで、みりん・塩・砂糖・酢などはそれにあたる。これを今回の『改正農薬取締法』に照らし合わせてみれば、『特定添加物』と定義されても仕方がないかもしれない。

 とにかく、農産物も食品である以上、安易なところで妥協点をみつけるわけにはゆかないだろう。今回の法の改正には、今しばらくの時間が必要となるのかもしれない

008 遺伝子組み換えイネ『祭り晴』の研究開発の中止決定


2002年12月愛知県議会で
■研究の開始と二つの思惑(おもわく)
 1996年、愛知県農業総合試験場とモンサント社の共同による、除草剤グリフォサート耐性遺伝子組み換えイネ『祭り晴』(以後GMイネ)の研究開発が開始されました。
 このとき、両者にはそれぞれ違ったふたつの思惑があったのだ。イネの育種技術ではトップレベルの愛知県農試にはひとつの課題があった。イネの栽培技術で、今まで何度となく試されては失敗を重ねてきた『不耕起乾田直播栽培』。代掻き、入水をせずにそのまま種を播き、出芽後入水することで大幅な労力を省略することができる。ただこの農法は常に雑草との戦いということになってしまう。だから除草剤を多用しなければならない。なんとかその回数を減らせないか。というところから、愛知県農試は除草剤耐性GMイネに期待を寄せた。それに対してモンサント社の思惑はちょっと違う。金の卵ともいうべきラウンドアップ耐性の特許遺伝子を載せた、ドル箱商品としてのGMイネへの期待なのだった。

■遺伝子組み換えイネの国内認証
何が問題なのか
 消費者運動の立場からすれば、「GMは買わない、食べない」という意志表示の方法があるけれど、これが国内栽培ということになるとそうはゆかない。つまり「GMは作らない」という、生産者側からの意志表示が必要となる。
 それにもかかわらず、認証された作物ならば輸入が可能となってしまう。いうまでもなく、認証済みのGM大豆、コーンなどは、現在大量に輸入されていて、分別がなされたもの意外にはGMの混入を覚悟しなくてはならない。仮に分別されたものでも『5%以下』という限定付きとなってしまう。5%という数字、これは決して低いものではありません。濃度5%の食塩水を試してみてください。辛くて飲めるものではありません(海水でも3%強)。
 輸入の作物では分別しても混入は避けられないとすれば、国産でなければだめということになる。すくなくとも、日本人の主食である『米』のGM化、国内栽培は絶対に許すわけにはゆかない。

■もう全国集会しかない
 ここで(厚労省での認証以前で)GMイネをとめなければ、GM汚染された主食の米をそのままの形で食べなくてはならなくなってしまう。愛知県農試での研究も終盤をむかえていることもあり、もはや反対ではだめで、止めてしまわなくてはいけない。全国の力を結集してでも、大きな行動にでるべきだ。
 ちょっとしたおどろきだったが『遺伝子組み換え食品を考える中部の会』の提案に大きな反響があり、一気に7月の全国集会、32万筆の署名獲得へと突き進んでいったのだった。この波はさらに11月の第2回全国集会へと及んでゆくわけだが、それほどに「GMイネ」は絶対にゆるせないという明確な意志表示がなされるということになった。

■第2回全国集会へ / 累計58万筆の署名の威力
 寒空、11月に行われた第2回全国集会は500名以上の参加者を得、依然としてGMイネを止めようという市民の根強い意志を感じさせた。さらに累計58万余の署名が集められ、愛知県と愛知県農試に対し、なかば最後通牒ともいうべく提出されたのだった。
 この全国の力というものが、12月の愛知県議会にも大きな威力を発揮した。県議中村友美氏の質問に対し、県農水部長から得られた回答は明快な『中止』の宣言であった。
 1973年、初めての遺伝子組み換えが行われて30年が経過している。1960年代、農薬や化学肥料を使った合理的な農法が低開発国に対して起こされたことがある。『緑の革命』とよばれた技術革新だが、その結果、あらゆる化学物質の多用などで土壌は疲弊し、地球環境には決してプラスとはならなかったという事実がある。GMの技術は『第2の緑の革命』とさえ言われているが、その本質には大国による経済至上主義、グローバリゼーションといったそろばん勘定だけが見えてくる。これ以上、環境をマイナスの方向に進めるわけにはゆかない。開発国に対する経済的搾取も許せない。

 全国集会の力をさらに拡大し、環境や農・食文化を無視した動きを圧倒的な波の力で打ち負かしてゆかなくてはいけない。


009 糸引納豆


■その歴史
 納豆といえば甘納豆を連想してしまいそうですが、これは糸引納豆のはなし。関西方面ではなじみの薄い納豆ですが、日本の食文化には欠かせない存在とも言える食品です。
糸引納豆といえばその原料は大豆。日本人にとって主食は米ですが、大豆はわたしたちの食文化にとって、とても大切な存在といえます。

 大豆は縄文か弥生時代には、すでに中国から伝来していて、栽培もおこなわれていたらしい。ただ、それを発酵させたものがあったのかどうかについては分かっていない。中国では大豆をもとにした浜納豆(塩納豆・大徳寺納豆)のようなものは、紀元100年ころにはあったらしい。その技術が日本に伝わったのは奈良時代とされていて、当時は高級な食材であった。
しかしながら、糸引納豆となるとその記述は余り定かではないらしい。鎌倉時代、源義家という人が好んで、東北各地に広めたという話があるそうだ。とくにこの糸引納豆という代物がどう考えても偶然の産物であり、てがるであり、また食に対する人間の執着の強さから、その偶然に出会う確立はそれ以前にもあったのかもしれない。とにかく、江戸時代となり納豆はすっかり庶民の味となったのだった。

■そのすぐれた栄養価
 大豆はそれ自体『畑の肉』とまで言われるほど栄養価が高いのですが、それが納豆菌の発酵により多くの酵素をつくりだす。タンパク質、脂肪、でんぷん、繊維などを分解するために、それらの酵素は欠くことができない。
また、ビタミンB1、B2、E、K、カルシウムなど・・。強化されたり、作り出されたりでこれも非常に重要な栄養素となる。

■そのほか健康によいはたらき
 ダイエット効果、毒素、老廃物の排泄効果、脳のはたらきを良くしたり、善玉・悪玉コレステロールの調節、発ガンをおさえる、便通を良くする、整腸作用がある、高血圧に効果。そのほか、精力アップ、糖尿病によい、美容に良いなど。とにかくあげたら切がないほど、健康に効果があることばかり。これほど、お手軽ですばらしい健康食品もめずらしいのではないか、といっても言い過ぎではありません。

 だれが発明したのか、または発見したのか。偶然の賜物なのか。とにかく奇妙な食べ物なのに、好きな人にはたまらない。日本人の朝食に、あついごはんと、みそ汁、ひもの、漬物、そして糸引納豆。こんな単純なメニューで半日のエネルギーをまかなってしまうのだから、すごい。

ちょっといかした『キムチ鍋』
『糸引納豆』を使ってみました
とってもマイルド、キムチ鍋』
レシピ (4人前)
道長のキムチ鍋のもと
1袋
糸引納豆
1個
チーズ(ピザ用が便利)
80g
たらの切り身
200g
各種野菜
(きのこ、ねぎ、白菜、せりなど)
適量
だし用昆布
10cm角×3
お好みでみそを入れる

1.
昆布でだしをとる
2.
たらの切り身を入れる
3.
だし汁で糸引納豆をほぐしながら入れる
4.
各種野菜を入れる
5.
キムチ鍋のもとを入れる
6.
チーズを入れる
7.
お好みでみそを入れる
あとは召し上がれ

 納豆はどうも苦手という方でも、こんな風に使ってみると以外においしくいただけます。さらにチーズを入れることで、キムチ鍋の味がまろやかになります。
 お子様も大喜びです。ぜひ一度お試しください。

010 ここまで進んでいる遺伝子組み換え作物の汚染


 日本では認可されていない、また米国でも栽培が禁止されているトウモロコシ『スターリンク』が、飼料用の荷物に恒常的に混入している、ということで、農水省では2001年4月からモニタリング検査をしてきているとのこと。
 昨年12月、農水省は『スターリンク』に関する2002年上期までのモニタリング検査の結果を公表している。
採取時期
陽性率
混入率

12年度上半期
(4〜9月)
20/30
(66.7%)
0.51%
12年度下半期
(10〜3月)
34/72
(47.2%)
0.17%
13年度上半期
8/53
0.05%
(4〜9月)
(15.0%)
13年度下半期
(10〜3月)
5/45
(11.1%)
0.09%
14年度上半期
4/42
0.10%
(4〜9月)
( 9.5%)

 以上の表でわかることは、平成12年(00年)上半期では、飼料用トウモロコシの66.7%に『スターリンク』の混入があった。米国では01年から『スターリンク』の作付けを禁止している。にもかかわらず、平成13(01)年には15%の荷物から検出されている。これは、自然交配によるものと考えられていて、スターリンクの混入は米国での作付用種子からも確認されている。
 農水省の見解では、平成13年からスターリンクの陽性率が13、14年と着実に下がっていることを評価している。しかしながら、栽培が禁止されて2年目でもなお、9.5%の陽性率があることのほうが問題にされなくてはならないのではないだろうか。さらに、陽性の荷物でのスターリンクの混入率にいたっては、いったんは減少の傾向もあったが、13年下半期、14年と上昇傾向にある点は問題にされなければならないのではないだろうか。いったい、米国のトウモロコシ畑ではどうなっているのだろうか。

 おりしも、昨年12月20日、名古屋港の輸入検疫で、米国からの食品用トウモロコシから『スターリンク』の混入が発覚した。スターリンクの混入は、輸入荷物19000tのうち1200tから検出されている。当然のこと、スターリンク混入の確認された荷物は、廃棄か米国への返品の措置が取られることとなる。なお、混入率についてはまだ発表されていない。

輸入大豆ではどうだろう。
 右の表(2000年収穫の大豆)によると、分別流通生産管理されたもののうち、中国産は陰性だが米国産では7件中3件が陽性、カナダ産は3件中2件が陽性となっている。つまり、北米産では『遺伝子組み換えでない』荷物の5割がGM汚染されていることになる(ただし、いずれも混入率が5%以下なので問題にはならない。欧州連合では0.1%以下が許容限度)。

分類
生産国
運搬方法
定性結果
定量結果%


@
米国
コンテナー袋詰

A
米国
本船、工場で袋詰
0.20
B
米国
本船
0.25
C
米国
本船
0.76
D
米国
コンテナーばら
E
米国
コンテナー袋詰
F
米国
コンテナーばら
G
カナダ
本船
H
カナダ
コンテナーばら
<0.10
I
カナダ
コンテナーばら
0.10
J
中国
本船
K
中国
コンテナー袋詰

@
米国
本船
49.8
A
米国
本船
72.3
B
不明
本船ばら積み
76.1
C
不明
本船ばら積み
78.7
D
不明
本船ばら積み
57.9
E
不明
本船ばら積み
67.3

(平成14年全国衛生化学技術協議会年会講演資料より)
中部よつ葉会提供

 不分別荷物では、すべて陽性。さらに混入率にいたっては50〜80%と高率となる。米国では全体の大豆作付けの約7割が遺伝子組み換えなので納得できるものの、あらためて驚かされる。表示のない場合、7割はGM大豆ということになってしまう。消費者はかなり高純度のGM大豆の加工食品を食べていることになる。