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付録 やおい中級者向け「物語テンプレート」

 友達に誘われてやおい小説を書き、コピー本を2・3冊出した。次は長編を書いてオフセット本を出したい。――そんな「やおい初級者」から「中級者」へのステップアップには、物語テンプレートの活用が有効です。
 同人誌界には、長年に渡って蓄積された「やおい素材」が数多く存在します。様々なジャンルを通じて受け入れられてきたこれら「お約束ネタ」は、どのようなジャンルにおいても受け入れられる事が保証された極めつけの優良素材ばかり。これを有効に活用すれば、読者受けのよい、読み応えのあるやおい話が簡単に書けてしまいます。
 「中級者」の方で今ひとつ読者の反応が良くないとお悩みの方にも、このテンプレートは有効です。おとぎ話を楽しみたいやおい読者に、独創的な設定はご法度です。読んでもらうためには、安心感のある設定ベースを使いましょう。あなたの拘りは、セリフやシーンに込めればいいのです。まずはそこから始めて、テンプレート一つ一つを確実にあなた自身の物にして下さい。これを完全に消化できた時、あなたは「上級者」になっているはずです。
 やおい研究者の皆様ならびに一般常識人の皆様の「やおい理解」にも、このテンプレートは効果を発揮すると信じております。しばし常識を棚に上げて「そういう世界」を夢想して下さい。

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素材1 登場人物
 やおい物語の中心となる人物は、とにかく美しくなければいけません。対象読者は10代の女性です。ハゲ・デブ・不潔は厳禁です。たとえ脇役・悪役であっても口臭男、水虫男、毛ダルマ男は不可です。体育会系マッチョは清潔感溢れる事を条件に一応OK。ブラック系ファンキーも同条件。
 推奨は金髪碧眼の白人や、容姿端麗なエグゼクティブ。家柄や育ち、学歴も人並み以上であることが望ましいです。一般人である場合も、最低限ジャニーズレベルの容姿は確保して下さい。「オーラがある」というのも可です。

A 受けキャラ
●元気型
 いわゆるラブコメ少女マンガ、あるいはジュブナイル小説の少女主人公の性格です。チビスケで子供っぽく、それを本人はコンプレックスに感じています。明るい性格で早とちり。わざと乱暴な口をきいてもそれがまた可愛いとか、意識していない無邪気が色っぽいとか、…まあ物は言い様でしょう。小型犬、あるいは腕白な子供の可愛らしさを前面に出したキャラクターです。
●内気型
 大和撫子型。乙女チック少女漫画の夢見る主人公タイプです。可愛らしさよりも美しさが強調される外見で、金髪ロン毛の碧眼もあり。病弱だったり、悩みを抱えていたりと、内面の繊細さを表す設定つきです。純真無垢な天使型もこのタイプ。とにかく無力で、周囲に流されるだけ。そのくせ自己憐憫は一人前だったりするので、最近はうっとおしいと思う人も多いようです。
●悪女型
 外見は内気型と同じですが、こちらは性格が悪い悪魔型。攻めキャラを振り回す気の強さや、計算高さを持っています。また、言い寄る男を片っ端からぶちのめす凶暴なタイプもこの分類。猫を被っている者も多く、面白い話を書きたい場合は脇役としても使いでのあるタイプです。元気型とのハイブリッドのトラブルメーカー型も面白いでしょう
B 攻めキャラ
●王子様型
 言わずもがなの攻めキャラ代名詞。河惣益巳作「ツーリングエクスプレス」のキャラクター“ディーン・リーガル”がこの典型でしょう。人間離れしてカッコよく、キザで金持ちでセックス上手。女の憧れの具象と言っても過言でない「女の欲望の作り上げたオモチャ」です。
 「鷹揚な男」は現実には「相手をどうでもいいと思っている」「相手を完全に見下している」男です。しかしそれを語ってはいけません。いつも余裕の表情で、受けキャラを溺愛する男。実現不可能な、まさに夢の王子様です。
●ストーカー型
 いわゆる下僕。代名詞は尾崎南作「絶愛」のキャラクター“南條晃司”。とにかく愛する相手のためなら世界を滅亡させる事も厭わない危険人物です。勝手に煮詰まっていきなり襲いかかったりもするあたり、れっきとした性犯罪者でもあります。主人の言いつけにどこまでも忠実な大型犬のイメージでしょう。
 常識外れた愛情を相手に注ぐため、この愛情地場に捉えられると何人も常識が歪みます。アクの強いキャラクターなので、物語全体がこいつを中心に回りかねません。鬼畜でありながら内面ぐるぐるな「マゾ攻め」もこの一種。振り回されないよう注意して物語を進めて下さい。
●コーチ型
 山本鈴美香作「エースをねらえ」の宗方コーチが代表格。受けキャラの全てを知り尽くし、正しい方向に導いてくれます。SMのマスターにも匹敵する唯一にして万能の神。父であり師であり神でさえある三位一体のお方です。口うるさいのも束縛するのも愛しているがゆえ。他2パターンが独占型であるのに対し、それが相手のためになるならと身を引くほどの高潔さも持ち合わせています。
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素材2 関係
 男同士の恋愛物語となれば、従来の男女関係にない新しい関係も描けますが、やおい読者は意外に保守的です。好まれるのは従来の少女マンガそのままの男女関係。斬新な関係像は返って敬遠されます。あくまで既存パターンに忠実であるよう心がけて下さい。
●依存
 やおいの大多数がこれに分類されます。攻めキャラが受けキャラを金銭的に支えているとか、受けキャラが攻めキャラを精神的に支えているとか。一方が一方に依存するため、独占欲からの嫉妬、相手への不安、不信、反抗、自己卑下のような判りやすい感情が描けるのが嬉しいですね。関係を揺らがせるお互いの誤解、周囲の反対、ライバルの出現、意外な事実の判明、などのイベントもかなりお約束化されています。もっとも簡単に書ける関係でしょう。
●対等
 幼なじみの二人のカップリング、ライバル関係、パートナー関係など、お互いの力が拮抗する関係です。ライバル関係などは緊迫感があり、話がドラマチックになります。反面なれ合いがないため疲れる読者も出そうです。適度にアヤシゲなシーンを入れる事で、読者側の緊張感を持続させて下さい。
 幼なじみのカップリングではリバーシブルもありでしょう。時にはケンカもするけれど仲の良い二人は、明るくライトな話に仕上がります。「目新しい話」を要求された場合は、この関係を書くのがお勧めでしょう。
●SM
 支配・被支配関係。独占欲の強い攻めキャラが出るとこれになります。悪魔型の受けキャラとの主導権の奪い合いもこの範疇。
 屈折した心理を濃厚に描くことができるのがこの関係の売りです。心理描写の好きな方はぜひトライして下さい。支配者側の傲慢と表裏の不安。非支配者側の恭順、自己憐憫、諦念、自己犠牲、そして純愛などなど。美味しい要素は山ほどあります。
 筋骨逞しい従者と美少年の主人など、関係の不安定さが緊張を生むのがこのパターンです。力ずくの支配がひっくり返るドラマは誰が読んでも小気味のいい物。また、一見支配されている方が実は支配している側であったりする意外性も面白いでしょう。
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素材3 物語とその攻略法
◆不治の病
 同人誌界3大疾病の一つ。受けキャラが白血病だの脳腫瘍だの肺結核だの宇宙放射線病だのに感染し、攻めキャラが「オレを置いて逝くな〜ッ!」の悲痛な叫びと共にコトになだれ込むという大変危険なお話です。俗称「冥土の土産」「末期の一発」。
 遠くない別れの予感に泣きながら愛し合う二人、というのが乙女心をくすぐるようで人気の高いパターンです。病名を周囲に隠し、痩せてゆく体を周囲に悟らせまいとする受けキャラの健気さ。それを黙って見守る無力な攻めキャラの自虐も高得点。入院中の儚げな風情なんかも点数高いです。逆パターンとして、死にゆく攻めキャラに献身的に尽くす受けキャラというのもあります。こちらは「夫を看取る妻」ですから、ドラマ性は前記に劣りますが情緒性では勝ります。
 当然の事ですが、放射線治療で髪の毛が抜けるとか、3日もフロに入ってなくて臭いとか、床ずれで背中が腐ってるとかいったリアルな描写をしてはいけません。病院看護のありかたや、医療保険の批判をしてもいけません。あくまで美しく。過ぎてしまえばみな美しい思い出となるよう、現実にはあえて目をつぶって下さい。病院でコトに及ぶ場合は、看護婦の見回りやナースコールの存在は忘れるように!
 ラストは後追い心中にすれば悲劇、「オレはあいつを忘れない」的な成長を匂わせ大団円、です。

◆記憶喪失
 同人誌界3大疾病の一つ。王道は記憶喪失になった受けキャラを「どうしてオレを忘れるんだ、思い出せ!」と押し倒すものです。このショックで記憶が戻ってめでたしめでたし。ギャグにしかならないと思われるでしょうが、料理次第ではかなり重い話もイけます。
 ポイントは雛鳥状態の受けキャラの戸惑い、頼りなげな風情、記憶を取り戻そうと足掻く姿、対する攻めキャラの苛立ちあたりでしょうか。記憶喪失の原因が攻めキャラ(のご無体)にあったりするのも心情に深みが増して大変よろしいと思います。
 記憶喪失という病はそうそうその辺に転がっている病ではないため、リアルな描写は難しいです。しかし読者もその実体を知っているとは言い難いので、何を書いても問題はないでしょう。これを逆手にとった掟破りパターンとして、脳腫瘍などの疾病により昨日は覚えていた事を今日は忘れてしまうという話もございます。この場合は完全な悲劇になるため、両人の苦悩が更にクローズアップされ、一層大きな感動を呼びます。
 この亜種として“変身ネタ”があります。カフカよろしくある朝目が覚めたら「女になっていた」「子供になっていた」「動物になっていた」。いずれも相方の「オレから逃げないで」攻撃で翌朝には戻ります。

◆人形(含むヤク中)
 受けキャラが絶対に逆らえない設定を言います。緊縛・調教物が代表。ヤクをくれる人間には絶対逆らえないことから3大疾病の一つである「ヤク中」もこの中に入ります。他には「借金のカタに遊郭へ」の時代物、主人に逆らえない人造人間のSF物なんかがあります。色情狂で男には逆らえない体、というのもアリでしょう。
 男性エロでも用いられるほど人間の欲望の大当たりネタであるため、設定もストーリーも数多いです。当然ではありますが現実にはありえない状況を書く訳ですから、とにかく自分の文章に酔うようにして下さい。このネタは冷静な自分に返ると書けなくなります。「男を岡場所に売り飛ばす」時点ですでにギャグです。しばし自分の良識に目をつぶってもらって下さい。
 設定が設定であるため、嫌が上にもハードな内容になります。SMはお約束ですので外さないで下さい。縄やオモチャ、媚薬や輪姦程度は当たり前です。資料はレディスコミックやフランス書院文庫を使いましょう。斬新な演出を狙う場合も、スカトロは避けて下さい。やるとしたらゴールデンシャワー程度に押さえないと読者に退かれます。
 ハードプレイがメインになりますが、暴力で変容していく受けキャラの心理描写もポイントです。じわじわと絶望に追いつめられる描写、縋るように攻めキャラに傾倒する描写ができるとベターでしょう。逃げ出して更に手ひどい責めを受けるイベント、好きな男(女)の前で強姦されるイベントを入れると盛り上がります。
 ラストは好きになった男との無理心中で悲劇。もしくは両思いになってハッピーエンド。

◆人外
 いわゆる「実は人間じゃなかった」ってネタです。受けキャラが超能力者であったり、攻めキャラが吸血鬼であったりするモノ。意外性を追求しすぎて大変なことになっている作品もありますが、大抵はお決まりの道順を外れる事はございません。
 テーマは「愛の癒し」。自分は周囲とは違うという閉塞感や孤独感、それが相手の愛情によって救われるというドラマチックさが好まれております。
 受けが異能者の場合は「ごめんね。オレ、キミの思いには答えられない…」というような奥ゆかしさ、「お前がなんであっても構わない!」と受け止める攻めキャラの激情を強調して下さい。攻めが異能者の場合は、その能力ゆえの強引さがポイントになります。思いきりエキセントリックな人物として書いて下さい。悲劇・喜劇のどちらもOKです。
 天使や悪魔ネタなどはビジュアル的にも美しいため、マンガでも描かれる事の多いネタです。エグい形のエイリアンだった、なんて設定でさえなければ無条件に受け入れられるでしょう。

◆成長物語
 過去のトラウマを乗り越えて成長する青春モノです。トラウマは「家族と性交渉があった」「前科がある」「(性)犯罪の被害者」「家族に精神病がいて自分も狂う可能性がある」。社会問題として「ハンセン氏病」「差別部落」などもありますが、できれば避けた方がいいでしょう。やおいで扱うには荷が重すぎるネタです。当然ラストはハッピーエンドで。
 大衆小説にも登場するほど普遍的なネタです。クオリティの高い物であれば文学賞だって取れます。とりあえずキャラの苦悩する心理をメインに、相方の誤解などのイベントを作り、RPG感覚でクリアして下さい。周囲の友人のおせっかいも、やおい読者には嬉しいものです。優しい恋人と暖かい友人。ポイントはこれに尽きます。
 トラウマの種類によってはストーリー部分が重くなってしまう事があります。しかし、あくまでメインは2人の愛情です。激しいベットシーンを入れるなどしてバランスを取って下さい。愛さえあればどんな事だって乗り越えられるんだ、を強調する事が読者に感動を与える秘訣です。また「トラウマがトラウマでなくなる」というのもアリです。「親父と性交渉があるが、本当に愛し合っている事に気が付いた」なんてのはコレに当たります。常識は許さなくともやおい読者が許せばいいのです。

◆不憫モノ
 理屈はいりません。とにかく読者を泣かせて下さい。「両親が本当の親でない」は当然のお約束。その上に「継母に虐められて」「奉公先の主人にご無体」「クラスの中の性的虐待の標的」「片思いの相手の慰み者」…。とにかく書いてる自分が「何て可愛そうなのッ!」と泣く位の悲劇を背負わせて下さい。NHKなんかに負けていてはいけません。
 「他人の不幸は蜜の味」が人間の本性です。不幸であればあるほど、読者は感動してくれるという事を肝に銘じて下さい。折角出会った運命の恋人と「家族の反対」や「戦争で徴兵」で引き裂かれなければなりません。運命に翻弄される主人公、これがポイントです。心を鬼にして「ここまでやったらギャグだ」という所まで書いて下さい。

◆ロミオとジュリエット
 「禁じられた愛」、古典中の古典パターンです。設定が決まるだけで話は決まります。「お互いが仇敵同士」「すでに決まった相手がいる」。「血族だから」「ホモだから」は、やおいにおいてはタブーになりません。「純潔を守らなければ世界が崩壊する」の方が説得力があります。また愛しているけどセックスできない、というのも深刻です。「不能」もしくは「体に秘密がある」あるいは「汗がニトログリセリン」。愛し合っているのになかなか出会う事ができない「君の名は」は、セックス描写必須のやおいにおいては少々使い辛いでしょう。己の想像力の限界に挑戦して、素晴らしい設定を作って下さい。
 「こんなに愛し合っているのにッ!」という焦燥感がこの話のポイントです。「じらし」ですね。「二度と会えないかも知れない」という切迫感を伴うベットシーンは読者のお気に入りです。「今頃相手はどうしているか」という不安や疑心暗鬼なんかもイベントとして入れるべきでしょう。ラストは駆け落ちで男同士の無理心中もよし、ハッピーエンドでもよし。
 とにかく焦らして読者を身もだえさせるのがこのパターンです。最近の読者は飽きるほどベットシーンを見ていますから、焦らしたあげくにチープなベットシーンでは納得しません。この話を書く場合、かなり濃厚なシーンを要求されると思って下さい。

◆運命
 「運命の恋人」はやおい読者の心の秘孔です。ここを突けば確実に読者は感動します。かなり無茶な設定も「運命だった」の一言があれば読者は簡単に納得します。騙されたと思って、キャラクターの出会いのシーンで「これは運命だと思った」系のモノローグを一行、入れてみて下さい。それだけでも話の好感度はぐんとUPします。
 代表格は「輪廻転生」ネタ。生まれる前に恋人だったから現世でも必ずそうなる、という話です。パロディのパラレル物(キャラは同じで舞台設定だけ変えるもの。原作を離れて破天荒な話作りが可能)でもよく使われます。最近トレンドの陰陽師物なんか当たりネタでしょう。
 ポイントは「生まれる前から決められていた」を強調すること。何代か前の互いの祖先が恋仲だったとか、親同士が無理に引き裂かれた恋人だった、なんてのも「運命の出会い」としては説得力があります。高名な占い師に言われたとか、伝説の木の下で出会ったなんてのもいいでしょう。SFなら宇宙の意志が二人を引き合わせたとか、ムーの戦士として一緒に戦った仲、なんてのもアリ。体にその印のアザがあったり、前世の記憶が甦ったりすれば完璧です。
 この亜種として「絶対の一対」があります。他に代替えのきかないパートナー、もしくは凌ぎを削るライバルなど。一見健全だが実は恋人同士よりもヤバい関係、というのがやおい読者の隠されたツボです。深読みするととんでもなくヤバい台詞、読んでる方が恥ずかしくなる会話がお約束です。
 現実問題「運命」も「絶対」も作者の都合に過ぎません。しかし書くからにはそれらは全て忘れましょう。自分で自分の設定に酔って、それっぽい形容詞で思いきり煽って下さい。これは文章力が勝負です。
 もし可能なら「代替えのきかない相手」を考えてみるのもいいでしょう。たとえば幽霊とこの世で唯一その姿の見える霊媒師、対人恐怖症の接触テレパスとヒューマノイドなど。どれほど無茶な設定でも、やおい読者はついてきます。それくらい魅力的なネタなのです。

◆多夫一妻
 比較的最近見られるようになったパターンです。以前からあった三角関係の話や総受け話の流れで話は進むのですが、カップリング性が薄いのが特徴です。悪魔型の受けキャラに、周囲全員が翻弄されるような話。三角関係の結末が「3人で結婚式」ってな事になったりします。
 歴史上には、文壇・画壇などのサロンにおいて、周囲の愛情を一身に受ける女性が多々存在します。あれのやおい版だと思えば考えやすいでしょう。「みんな好きだから一人なんて選べないッ!」というゴージャスな状況を想像して下さい。現状これが受け入れられるのは受けキャラのみですが、あるいは「気まぐれオレンジロード」やおい版、ドンファンやおい版(サル山のマウンティング?)がこの先出現するかも知れません。
 話のポイントは「キャラクターの魅力」につきます。「選べない」を読者に納得させるだけの魅力が、キャラクターになければなりません。とりあえず乙女の憧れの男性をずらりと羅列する方法が一番簡単でしょう。医者・弁護士・学者・作家・アーティスト・モデル・会社経営者・地方の大地主…。イメージに合わせてキャラを作りこんで下さい。もちろん全員超美形が条件です。
 受けキャラ一人をひたすら愛し、お互いに嫉妬の火花を散らす。ああ僕ってなんて罪なオトコ、というのがこのパターンの醍醐味です。二股だ穴兄弟だといった道徳や貞操は忘れて下さい。その時その瞬間の心に素直であればいいのです。愛こそすべてです。「節操無し」という言葉は封印しましょう。
 この物語が受け入れられた背景には、恋愛シュミュレーションゲームの影響があると考えられます。あるいは「一番好きな相手とでなくてもセックスしてかまわない」という自由恋愛の風潮でしょうか。思えば「ヤリマン」「公衆便所」とは、処女を尊しとする男性側の価値観。「男性経験豊富な愛され上手」は女性にとっては羨望の対象です。男性側のプライドと独占欲を無視すれば、何ら問題はありません。どんどん行っちゃって下さい。

◆ゲロ甘
 現在主流になっているのがこのパターンです。ストーリーは少女漫画のラブコメそのまんま、もしくは「やまなし・オチなし・意味なし」を地でゆくキャラがいちゃついているだけの話です。ある意味、男性向けポルノに一番近い形でしょう。ボーイズラブ、と言われるジャンルの大半はこれですね。
 このパターンを書くポイントは「考えてはいけない」という事。「なぜこの人はこの人を好きなのか」「そもそも何がきっかけで、愛情を持つに至ったのか」「なぜこの人でなければならないか」「ホモだという事に疑問を持たないのか」等、絶対に考えてはいけません。一目会ったその瞬間に愛は生まれるのだと己に言い聞かせて下さい。目的はベットシーンである、と割り切る覚悟は必要です。
 もしあなたが同人なら、このパターンを書く素質は充分です。イベント会場での自分の言動を思い出して下さい。周囲はすべて同じ趣味の人たち。お隣のスペースの方と意気投合して、盛り上がった事はありませんか? あの感覚です。相手と自分が同じ考えである事がアタリマエ。自己紹介も何もかも吹っ飛ばしてお友達になってしまえる敷居のなさ。あれが「ボーイズラブ感性」です。それを体感として知っているなら、書けないはずはありません。あのノリのままの恋愛を、美しい男性にやらせればいいのです。

◆哲学
 メジャーではありませんし、読者受けもあまりよくはありません。いわゆる「純文学」やおい版と思っていただいていいでしょう。ベットの上で始まりベットの上で終わる話、勝手に悩んで自殺する話などがこれに当たります。文体に工夫を凝らしたJUNE的作品、実験的意味合いの作品もあります。作者個人の思想を示す物も多く、短編が多いのも特徴でしょう。ほぼ100%暗いです。
 特徴は「哲学フィニッシュ」。某エヴァンゲリオンキャラで想像すると判りやすいでしょう。自分の存在について深く考察しながら絶頂を迎えるという、男性に言わせると「萎えるだろっ!」ってアレです。
 数的にさほど多くはありませんが、アニパロジャンルの絶頂期から衰退期によく見られるパターンで、ゲロ甘の対極的な意味合いが強いです。「なぜこのカップリングなのか?」「なぜこのキャラなのか」について考え始める時期なのでしょう。ごく希に個性の光る作品、アイデア賞物の作品が出るので、ネタを思いついたら書いてもいいと思います。最近ワンパターンばっかり書いてるな、と思った時のリフレッシュにどうぞ。


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