『どうせダンスなんか観ないんだろ! 激録コンテンポラリー・ダンス』(NTT出版)の立ち読みできるページ
●第二章『どうせダンスなんか観ないんだろ!』18ページ〜19ページより
 わかってるって。見ないんだろ?
 ダンスなんてなにやらゲイジュツ気どりの、自己陶酔の、意味不明のものを延々と見せられるのがタマランのだろ? しかもそれを「わかるわかる」とうなずきあっている客席に、どうにもなじめんのだろ? せめて確実に笑わせてくれるとか、無条件にビックリさせてくれるアレグリアとかでもない限り、小劇場の倍近い値段を払ってダンスなんて見ていられねえよ、ってあたりが本誌(月刊『シアターガイド』)の大半を占める読者のホンネなのではないだろうか。
 そういうダンスは確かにある。ウンザリするような思いもする。でも「良いものと悪いもの」を比べたら、悪いものの方が多いのは世の常だ。演劇だってそうだろう。優れたダンスは、ちゃんとあるのだ。小難しいことは抜きに、ダンスならではのダイレクトさで、問答無用に「すげえ!」という気持ちにさせてくれる。オレが「ヤサぐれ舞踊評論家」と称しているのも、演劇雑誌にノコノコ出てきたのも、そのあたりを伝えたいからだ。受賞歴とか誰の弟子とかいうことはどうでもいい。「いま見て、ワクワクするダンス」にこだわってずっと発掘・評価・紹介してきたのである。ときにマイルドにケンカを売りつつ書いているので、シャバが狭くなっていく一方だ。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイド』という本を出したときには業界の人から、
 「どうせコンテンポラリーの本なんて売れないよ」
と面と向かって言われたりした。何事も勝負事に持ち込む性分なので、テメーぜったい売ってやるらぁぁぁ! と、千葉の野菜売りのおばちゃんのごとく本を持ち歩き、自分の講義や講座で売ったりしたが、なんと様々なダンスカンパニーが自分の公演で販売してくれたりして、またたく間に増刷となったのだった。作り手を応援するつもりで書いた本が逆に応援されるなんて……バカヤロ、これは涙じゃねえよ、目から鼻水が出てるだけだよ。

 おかげで様々な大学の授業でも使われるようになった。しかしよく聞くとコピーして使っているらしく、軽くブルーになりつつ、そんなことに一喜一憂する小さな人間なわけだが、ここではそんな感じの日々のことを書いていきたい。

■終章『ハイブリッドな舞踊評論のために』239ページより
 そもそも一般のダンスファンからすれば、評論家とは多くの公演で招待状をいただいて見ることができる、非常に優遇されている存在だろう。だったら評論家たるもの、普通の人が見られないものにこそ身銭を切って、その素晴らしさを人々に伝え、さらに広く深く自らのダンスへの見識を磨くくらいの努力をするのは、当たり前のことなのではないか。ふんぞり返って招待券が来るものだけを見ていれば事足りるなど、そんな甘えた話はないだろうよ。
■目次
 第1章 私の偏愛するダンス
 第2章 どうせダンスなんか観ないんだろ!?
 第3章 乗越たかお激論集 アレ的なナニか
 第4章 ダンス獣道を歩け
 終章 ハイブリッドな舞踊評論のために
 附録 注目の最新ダンサーはこれだ!

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