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実践データベースマーケティング(第2号)
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『実践データベースマーケティング』第2号をお送りします。
発行者の岩瀬です。沢山の方からご意見をいただきました。ありがとうござい
ました。今後の構成に活かしたいと思います。引き続きご意見などはこちらま
でお願いします。
 (岩瀬 理)

さて今回はデータベースマーケティングと言うより、損益シミュレーションの
お話しです。数字ばかりで申し訳ありません。今後ホームページを製作する
つもりですので、そちらではグラフ化したいと思います。

●○ 目次 ●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●

1.通販の損益構造
1.1.損益のシミュレーション例
1.2.損益分岐点到達時間

2.商品分析
2.1.口座ランク別のシミュレーション
2.2.顧客活性点

【今週のキーワード】:予測
【今週のお勧め書籍】:商いの心くばり(伊藤雅俊氏)

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1.通販の損益構造
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データベースマーケティングの話しを分かり易くするために、事例でご紹介す
る通販の損益構造についてお話ししたいと思います。通販のメリットには次の
ようなものがあります。

●店舗費用・人件費を圧縮できること
●あらかじめ想定したリストに販売するため計画販売できること
●商品などの関係で販売規模を動的に変えられること
●レスポンス広告のため効果を把握し易いこと

逆にデメリットには次のようなものがあげられます。

●カタログを配布した後では細かな変更がし難いこと
●カタログ制作などに時間がかかること
●リストを育てなければ商売にならないこと

アメリカでは優秀なリスト業者がいるので、比較的リスト収集が簡単です。
日本の場合は自前でリストを構築する場合が多く、ある程度の規模にならない
とうまくいきません。顧客リストを育てながら継続販売で利益を上げる企業が
一般的です。商品にもよりますが、1人の注文顧客を作るのに3千円から1万
円以上のコストがかかります。

1.1.損益のシミュレーション例
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1人当たり8千円のコストをかけて注文をもらった場合の損益を計算してみま
しょう。最初に800万円をかけて千人の注文顧客ができたとします。1人当
たり2万円の注文だったとして、2千万円の受注です。返品や欠品を1割と考
えると、売上高は1800万円です。仕入れ原価が半分とすると、単純荒利は
900万円です。そこから人件費や物流費を差し引いて540万円の利益とし
ます。ここでは利益率は売上高の30%で考えます。受注金額から考えると
27%だと仮定します。

(春の段階)
さて、ここまででは800万円の先行投資をしていますから、
540万円−800万円=260万円の赤字です。
そこで継続販売を考えます。年間に4回販売をするとして、最初の販売が春
だったとしましょう。注文のあったお客様は次回も、かなり高い確率で購入
してくれます。季節を追って、累計の損益を確かめてみましょう。

(夏の段階)
仮に夏では千人のうち、30%の方が注文をくれるとしましょう。
一人当たり2万円の注文とすると、
千人×30%×2万円=600万円 の受注です。
600万円×27%=162万円 の荒利になります。
ただし千人への販売活動費用が必要です。カタログ制作とDM発送費用などで
1人当たり400円かかるとすると、
162万円−(千人×400円)=122万円 の利益です。
2回目の夏までの累計では138万円の赤字です。

(秋の段階)
3回目の秋では25%の人が2万円ずつ買って、経費も同じだとすると、
千人×25%×2万円=500万円 の受注金額
(500万円×27%)−40万円=95万円 の利益です。
秋の段階では累計で43万円の赤字です。

(冬の段階)
4回目の冬では20%の人が2万円ずつ買って、経費も同じだとすると、
千人×20%×2万円=400万円 の受注金額
(400万円×27%)−40万円=68万円 の利益です。
ここでやっと、累計で25万円の黒字に変わりました。これ以後、利益が出る
間は販売を続けていく訳です。

1.2.損益分岐点到達時間
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このように見ていくと通販が計画的な販売方法だということが良く分かると
思います。そして利益を目標に計画を立てると言っても、期間の取り方に
よって評価が変わることを理解していただけると思います。通販の場合には、
常に利益の出ている口座・未回収の口座・先行投資の口座が入り混じっている
のです。これらのリストをどう配分していくのかによって、短期・中期の利益
が決まってくるのです。

通販の要は継続注文率です。継続注文率が高ければ、先行投資も十分に出来る
のです。先行投資をいつまでに回収出来るかを、私は損益分岐点到達時間
(BET)と名付けました。販売時点の利益も大切ですが、BETをなるべく
短くすることがバランスの取れた事業体質を作るのだと思います。通販では
どんな顧客開拓手法がBETを短くするのかに気を使います。また一人ひとり
のお客様とは、なるべく長い期間に渡ってお取り引きいただくことに気を使い
ます。

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2.カタログ部数決定のメカニズム
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それでは次にカタログ部数決定のメカニズムをご紹介します。ある会社では
お客様を5つのランクに分けて管理しているとします。注文をいただく確率を
受注率、注文一人当たりの平均金額を口座単価と呼ぶことにします。

2.1.口座ランク別のシミュレーション
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●Aランク:30%の受注率、2万円の口座単価が見込める
●Bランク:20%の受注率、2万円の口座単価が見込める
●Cランク:15%の受注率、1.5万円の口座単価が見込める
●Dランク:10%の受注率、1.5万円の口座単価が見込める
●Eランク:10%の受注率、1万円の口座単価が見込める

それぞれのランクで口座が10万人ずついるとしましょう。計算を簡単にする
ために部数によらず、カタログ制作費やDM発送費など営業にかかる費用を
顧客1人当たり500円とします。本当は部数によってコストが変わってしま
いますが、今回は割愛します。ここではカタログ部数のシミュレーションです
から、カタログ制作費やDM費を変動的に扱います。固定費用が1.5億円
かかるとしましょう。利益換算は27%とします。

●Aランクでは、
受注金額=10万人×30%×2万円=6億円
営業利益=(6億円×27%)−(10万人×500円)=11200万円

●Bランクでは、
受注金額=10万人×20%×2万円=4億円
営業利益=(4億円×27%)−(10万人×500円)=5800万円

●Cランクでは、
受注金額=10万人×15%×1.5万円=2.25億円
営業利益=(2.25億円×27%)−(5千万円)=1075万円

●Dランクでは、
受注金額=10万人×10%×1.5万円=1.5億円
営業利益=(1.5億円×27%)−(5千万円)=950万円の赤字

●Eランクでは、
受注金額=10万人×10%×1万円=1億円
営業利益=(1億円×27%)−(5千万円)=23百万円の赤字

Aランクから順にカタログをわりふるとして、固定費の1.5億円も計算に
入れましょう。

●Aランクだけでは(赤字)
11200万円−1.5億円=3800万円の赤字
●Bランクまでだと(黒字)
11200万円+5800万円−1.5億円=2000万円の利益
●Cランクまでだと(黒字)
Bまでの2000万円+1075万円=3075万円の利益
●Dランクまでだと(黒字)
Cランクまでの3075万円−950万円=2125万円の利益
●Eランクまでだと(赤字)
Dランクまでの2125万円−2300万円=175万円の赤字

Aランクだけでは固定費に耐えられないが、A+BからA+B+C+Dまでは
利益が出ることが分かります。Eランクまで販売すると効率が悪く赤字になり
ます。一番利益が出るのはA+B+Cにカタログを配布した時だというのが
分かります。このA+B+Cを販売対象にすることをMAX利益の法則と言い
ます。アメリカの通販ではこれがスタンダードな方法です。

2.2.顧客活性点
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しかし日本では少し事情が違います。A+B+Cと30万人は利益の出る
お客様ですが、いつまでも利益で出るお客様とは限りません。Aのリストの
何割かは販売実績がないことでBのランクに落ちてしまいます。同じように
BのリストからCへ、CのリストからはDへとランクを落とします。他社との
競合や不満によって脱落するお客様が出てきます。現在30万人が利益が出る
と言っても、30万人だけにカタログを出していては先々苦しくなるのです。
次回カタログを配布するためのリストを育てることが必要です。次回でも少な
くとも同じだけのリストを確保するカタログ部数、私はこれを顧客活性点と
呼びます。

利益が出せてリストの目減りがない、これが理想的なカタログ部数です。本当
はこの他にリスク管理をする必要があります。受注率や口座単価は予測です。
もっと低くも高くもなり得ます。そこで最小と最大を予測して、いわゆるリス
ク分析をするのです。このような方法でカタログ部数を決定していきます。
私はシーズンの計画を作る時には向こう2年間のシミュレーションをするよう
にこころがけていました。

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【今週のキーワード】:予測
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DBMを支える技術として予測やシミュレーションがあります。私は予測・
シミュレーション・リスク管理などまで含めてDBMという見方をしていま
す。実際にビジネスとしてDBMを使う場合には避けて通れないと思うから
です。
ただし予測はあくまで予測でしかありません。必ず当たる予測などありませ
ん。予め当たらないことを踏まえた上で戦略を立てる必要があると思います。
必ずしも細かく計算することが良いことではありません。幾通りもの自体を
考えた上で人間が判断する。あくまで人間の判断が重要だと思います。

【今週のお勧め書籍】:商いの心くばり(伊藤雅俊氏)
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伊藤雅俊氏はご存知の通り、イトーヨーカ堂の会長です。この本の中で言われ
ているのは『当たり前のことを当たり前にやる』ということです。DBMでも
全くその通りだと思います。あまりに専門的になるのも考え物で、小さな工夫
の積み重ねこそがノウハウなのだと思います。専門的な研究も勿論大切です
が、それ以上にお客様の立場に立った考え方が必要ですよね。次回はお客様の
視点で見たマネジメントについてご紹介したいと思います。

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今回は通販の損益構造についてご紹介しました。この他にも違う形で利益を
出す企業もあります。媒体や商品の使いまわしで利益を出す方法やメディアと
しての価値を持たせたものなどです。こちらについてはまた別のところでご紹
介します。

発行人/編集人:岩瀬 理(Osamu Iwase)

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