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実践データベースマーケティング(第3号)
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『実践データベースマーケティング』第3号をお送りします。
発行者の岩瀬です。今回も沢山の方からご意見をいただきました。ありがとう
ございます。まだWEBを完成できていません。バックナンバーをお見せでき
るようにするにはもう少しお時間をいただきたいと思います。ご迷惑をおかけ
します。引き続きご意見などはこちらまでお願いします。


●○ 目次 ●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●

1.データベースマーケティングのマネジメント
1.1.現場情報の収集
1.2.評価基準と可変項目

2.管理指標の事例
2.1.コールセンターの完了呼数率
2.2.欠品率
2.3.平均と分布

3.サービスの品質管理

【今週のキーワード】:業務指標
【今週のお勧め書籍】:帝王学『貞観政要』の読み方(山本七平氏)

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1.データベースマーケティングのマネジメント
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今回はマーケティングというよりもマネジメントに近い部分をご紹介したいと
思います。最初にもう一度データベースマーケティングのメリットを確認した
いと思います。

●仮説検証によって結果を確かめることができる
●シミュレーションをしながら計画的な事業ができる
●場面毎にルールに基づいた差別化ができる
●データをマネジメントに生かすことができる

仮説検証や計画的ということについては、すでに第2号までで簡単に触れさせ
ていただきました。そこで今号ではマネジメントへの生かし方を取り上げよう
と思います。マネジメントとは言っても業務管理の話ですが。

今回も私の得意の通販で話をさせていただきます。通販というのは中央集権的
な商売の方法です。小人数で行なえる計画的な販売方法です。通販では特に
マネジメントが重視されるのです。

どこの会社でも日経表や統計表を出していることと思います。どの部門がどれ
だけ儲かっているのか?あるいはどの部門が計画対比で下回っているのかとい
うものです。これは経営をうまく進めるために必要不可欠なものです。

1.1.現場情報の収集
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しかし集計表にはお客様の視点が一切入っていません。これだけではトップは
裸の王様になってしまいます。耳に入れたくない話題ほど、トップの耳には
入らなくなるものです。社員の怠慢とかそういう意味ではなく、当たり前の
ことです。情報収集によっぽど努力をするトップだけに本当の情報が入るもの
です。

帝王学の教科書と言われる貞観政要にも、このことが書かれています。トップ
に立つものは次のことを肝に命じなくてはならないとあります。

●心の師を持つこと
●直言する家臣を持つこと
●良き幕濱を持つこと

直言する家臣とは、『耳に心地好いことを言うのではなく、本当に必要なこと
を告げてくれるもの』です。本当のことを言うのには勇気が要ります。トップ
に不興をかった時に、自分の立場がどうなるのか?更にそのことで傷つく人が
出るのではないか?こんな思いが常に付きまといます。直言するためにはかな
りの勇気を必要とします。あえて直言してくれる家臣を持ちたいと思えば、
それなりの工夫が必要になるのです。

唐の太宗は創業と守勢について名言を吐いた人物で、名君として有名です。
そんな人物が直言してくれる部下を持つべきだと忌ましめているのです。その
難しさが分かると思います。自分に対する批判は自分から求めなければ、なか
なか手に入らないということです。松下幸之助氏にも同様の言葉が残っていま
す。ビジネスで考えた場合、お客様の不便さ・クレームをトップが知る機会が
あるかどうか、これは決定的な違いです。本当のことを知る機会をシステム的
に作り出す必要があるのです。

1.2.評価基準と可変項目
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通販でのマネジメント手法はまず第一に、評価基準に始まります。その部門
あるいは担当者が何を以って評価されるのかということです。業務の遂行指標
が必要になるのです。指標を決めると同時に、指標を変化させる要因も調べる
必要があります。危険の兆候が分かったとしても、対処する術がなければ意味
がないからです。

現場の本当の姿を知るためには、

●お客様の立場に立った指標を作ること
●お客様の生の声を聞ける仕組みを作っておくこと
●変化があった時に変化させる方法を準備しておくこと

が必要だと思います。私の場合は、

●独自の管理指標を作る
●自分の家族や友達にモニターになってもらう
●企業で出来る可変項目を挙げておく

という方法をとりました。全国にモニターを持っていただけでなく、自分でも
カタログ請求から到着までの日数・コールセンターの電話応対・商品などの
荷姿の確認を試していました。勿論ライバル会社についても同様の調査をして
いました。

2.管理指標の事例
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管理指標を事例で示してみましょう。これも通販の事例になってしまいます。
情報は切り口によってかなり印象が変わってしまいます。幾つかその違いを
ご紹介してみたいと思います。

2.1.コールセンターの完了呼数率
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まず第一はコールセンターです。指標の一つに完了呼数率があります。専門
用語になってしまいますが、1本の電話を『呼』と言います。電話がかかって
応答出来たものを完了呼と言います。例えば100本の電話がかかったが、
20本は話中で、80本に出ることができたとします。この場合、
80/100=80%が完了呼数率です。

完了呼数率が100%では、オペレーターの人数が多すぎる事を意味します。
90%というのはどんな状態でしょうか?電話をかける時のことを考えてみて
ください。電話を受けるのが職業のコールセンターに電話をかけます。話中
だった時にあなたはどうするでしょうか?1回であきらめてしまいますか?
おそらくすぐにかけ直すと思います。完了率80%というのは、100回の
電話があって、80本取ったということです。かけ直しを計算に入れて、一番
良い状態を考えてみましょう。2回目では全員がつながったとすると、80人
が電話をかけて、その内20人が2回電話をしたということです。それでは
完了率40%というのはどんな状態でしょう。40人が2回電話をかけて、
その内20人(半数)が3回目の電話をかけたということです。これはなるべ
く良い状態を想定したものです。実際には偏りが生じます。2回でつながる人
もいれば、5回6回とかけ直す人もいるのです。

完了率40%と聞いて、4割の人は1回でつながったと考えるのは早計です。
実際にご自分で電話をすれば分かりますが、完了率が5割を切ると極端につな
がらないものです。競争が激しい現在では、こんな会社とわざわざ取り引きを
しようとは思わないでしょう。

同じように計算してみましょう。完了呼率は、かかって来た電話のうち何本が
取れたかを表します。人数はかけてきた人数、2回以上は2回以上電話をかけ
た人の数です。平均回数は2回以上かけた人の平均の電話回数。かけ直し率は
2回以上電話をかけた人の割合です。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
完了呼率  人数  2回以上  平均回数  かけ直し率
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
80%  80人  20人     2回    25%
60%  60人  40人     2回    67%
40%  40人  40人   2.5回   100%
20%  20人  20人     5回   100%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

企業側で考える完了呼率がお客様の視点に立っていないことが分かると思いま
す。お客様への影響で考えた場合には一般的に右のような数値になります。
電話をかけ直すことですでにお客様はいらいらしているのです。指標として
完了呼率を使うのかそれともかけ直し率を使うのか、そこには明らかに違いが
生じるのです。

完了呼率でのチェックは時間帯別に行なう必要があります。ある会社では完了
呼率を80〜95%にすることを目標にしたとします。1日で考えれば次の
ような場合も目標達成になってしまいます。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
時間帯 |呼び出し数| 完了数 |完了呼率
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 8時 |  100|  100|100%
10時 |   80|   80|100%
12時 |  300|  250| 83%
14時 |  100|  100|100%
16時 |  200|  200|100%
18時 |  300|  300|100%
20時 |  200|   50| 25%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
合計  | 1280| 1080| 84%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

誰がみても問題は明らかだと思います。忙しい時間は昼休みと夜しかなく、他
の時間はオペレーターが遊んでいる状態です。昼は忙しい時間帯で効率も良さ
そうです。お昼休みのシフトやパートさんのワンポイントリリーフで問題は
解決しそうです。20時についてはかなり悲惨な状態です。お客様は平均して
4回も電話をかけ直していることになります。この問題を何とかしない限り、
この会社の評判は見る間に落ちていくことになります。

2.2.欠品率
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同じように欠品率で見てみましょう。通販ではお客様に購入の意向があっても
商品が手配出来ないことが数値として見えます。これを欠品率と言います。
ここでは色々な商品でおしなべて同じ欠品率になるとします。これは計算を
簡単にするためです。欠品率10%としましょう。この会社では平均で一人
当たり4点の注文があるとします。すると、商品単位でなく注文単位で欠品が
ある確率はどうなるでしょうか。商品1点当たり欠品がない確率は90%です。
2点とも欠品がない確率は90%×90%=81%です。4点では
90%×90%×90%×90%=65.6%です。すると注文商品のうち、
少なくとも1点が欠品になる確率は34.4%になってしまうのです。1割
ならまぁ良いかと思ったものが実際には3割以上のお客様にご迷惑をかけて
いる訳です。色々な状態を想定して、表にしておきましょう。

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欠品率  注文点数3点の場合  注文4点の場合
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 5%      14.3%    18.5%
10%      27.1%    34.4%
20%      48.8%    59.0%
30%      65.7%    76.0%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

以上のように企業を中心にした数字とお客様の視点からの数値には隔たりが
あるのです。同じ事は返品率などにも起こります。商品という単位で考えた
場合と注文という単位で考えた場合では捉え方がまるで違ってくるのです。

2.3.平均と分布
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次に平均と分布という問題を考えてみましょう。統計では分布という考え方が
非常に大切です。ある分布の範囲で平均が生きて来るのです。専門的になりま
すが、統計はあくまでも正規(標準的な)分布の場合に成り立つのです。

例えば、お客様から送料をいただくことを考えてみましょう。幾らまでの注文
なら送料をいただくかということです。ある会社では平均注文金額が
1万2500円だったとします。しかし平均で考えるのは危険を伴います。
まずは分布を調べてみましょう。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−
注文金額   |注文人数|分布率
−−−−−−−−−−−−−−−−−−
3千円未満  |  50| 3%
5千円未満  | 100| 6%
7千円未満  | 500|29%
1万円未満  | 300|17%
1.5万円未満| 200|11%
2万円未満  | 400|23%
2万円以上  | 200|11%
−−−−−−−−−−−−−−−−−−

この会社の注文分布は7千円未満と2万円未満の二つの山があることが分かり
ます。もしも平均だけを見て7千円とか8千円で送料を取ってしまうと、中心
になっている7千円未満のお客様に大きな影響を与えることが分かります。
こんな風に二つの山を持った分布の場合には平均に気をつける必要があるので
す。送料計算ならば分布を調べて、この分布をどんな形に変えたいのか目標を
持つべきです。そして仮説検証を行なう必要があります。

3.サービスの品質管理
===========

お客様から見た数値で業務の指標を考えることがまず第一歩だと思います。
数値によって表すことは客観的にするために必要なことです。しかも誰を
基準に考えた数値なのかということが大事なのだと思います。

品質管理は様々な企業で行なっています。そのための手法も色々と開発され
てきました。TQCとして日本では世界にも類を見ない徹底がなされてきま
した。商品と同じようにサービスについても品質管理の徹底が求められてい
ます。そしてサービスの管理基準は上述のようにお客様の視点で見たものに
ならなければいけない筈です。

最後に管理基準に併せて業務上の可変項目の設定です。管理基準はあくまで
も異常値を見つける指標です。異常をつげた時には即応しなければいけませ
ん。それもタイムリーに応えてこそ顧客サービスの向上と言えます。企業側
で可変に出来るものは何か?変動させることでお客様にとって何が変わるの
かを明らかにする必要があるのです。出来れば異常値の範囲によって変化さ
せるべき事柄とその程度・責任者まで明らかになっていれば、申し分ありま
せん。

例としてコールセンターの完了呼率を考えてみましょう。完了呼率が高い
場合には、オペレーターが遊んでしまうことになります。この場合には

●オペレーターの人員削減
●後処理やアウトバウンドの割り振り
●普段出来ない教育

などの手を打つ必要があります。
反対に完了呼率が低い場合には、電話がつながらない訳ですから、

●オペレーターの人員増
●電話応対の短縮指示
●話中の場合のアナウンス
●電話番号を控えて折り返し電話
●留守番電話・FAX・音声応答などの対応

というようなことが必要になります。実際にどの対応を行なうかは、

●対応の緊急度
●オーバーフローの量
●オーバーフローの周期

などによって変える必要があります。毎日起きているのかシーズン中に数回
のことなのかによってかけるべきコストが違うからです。
目的達成性と着手容易性から判断して採るべき手法を決定していくのが
一般的な方法です。実施することで目的達成のために大きく貢献できるもの
は、目的達成性が高いと言います。一方、実施することが簡単なものを、
着手容易性が高いと言います。なるべく効果があって簡単なことから始める
べきなのです。

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【今週のキーワード】:業務指標
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目的を達成するためには段階毎に目標を設けると効率が良くなります。それも
なるべく分かり易いものにする必要があります。それも部門毎にお客様の目
から見た業務指標を設ける必要があると思います。
その上でチェックする仕組みを作り、異常値があった場合の措置まで考えて
あればベストだと思います。
新しい企画だけでなく、こんな地道な工夫が伴った時にマーケティングが成功
するのだと思います。皆さんの会社ではいかがですか?

【今週のお勧め書籍】:帝王学『貞観政要』の読み方(山本七平氏)
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トップは常に孤独と戦わねばならないが、情報を入手する道は常に備えていな
ければならない。と、これは本の中の一節です。昔は帝王の学問であったもの
も、民主主義の世の中では私達自身が帝王学を身につける必要があるのでは
ないでしょうか。企業の中でも一人ひとりが起業家精神を持つことを求められ
る時代ではないでしょうか。自分が主体的に事業に取り組むならば、帝王学も
必須かも知れない。そんなことを考えながら読んだことを覚えています。

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今回はマーケティングとは少し離れてしまったかも知れません。しかし、私の
中では実践が伴うものでないと意味がないという感覚があります。現場の姿を
知ってこそのマーケティングだろうと思ってしまうのです。現実の姿を捉える
方法も用意しておく必要があると思います。

発行人/編集人:岩瀬 理(Osamu Iwase)

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