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実践データベースマーケティング(第9号)
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『実践データベースマーケティング』第9号をお届けします。
発行者の岩瀬です。毎号お付き合いいただきまして、本当にありがとう
ございます。

先週お報せしましたように今週も分析と活用の続編をお届けします。
分析内容にも色々ありますが、顧客データベースを使う場合には優良顧
客の分析は優先度が高いと思います。優良顧客の分析とシミュレーショ
ンについてお話しさせていただきます。

●○ 目次 ●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○

1.優良顧客は誰?
1.1.実績での顧客グループ
1.2.予測での顧客グループ
1.3.グループ間の人数変化
1.4.収益力の変化

2.ビジネスに活用する
2.1.分析手法について
2.2.現状把握と予測
2.3.活用のステップ

【今週のキーワード】:原則と独創
【今週のお勧め書籍】:五輪書(鎌田茂雄氏)

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1.優良顧客は誰?
=========

パレートの法則は以前ご紹介しました。2割のお客様で8割の売上を占
めているというものです。アメリカンエアラインのフリークエンシー
(頻度)プログラムもこの考え方を元にして始められました。いかに
優良顧客を維持発展させるかというものです。

1.1.実績での顧客グループ
==============

お客様の貢献度で比較した次のような表を考えてみましょう。まずは
あるお店での週間の顧客分布(これはダミーデータ)です。一週間の
うちで購入金額の高かった人から順に並べてみます。1週間で延べ
7,350人が来店された計算になります。カードなどで名寄せが出来て
いるものとします。回数・単価はそのグループでの平均とします。

表1.週単位の人数と金額分布(金額単位=千円)
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
|累計客|分布|セル客|回数|単価|購入額|累計額|分布|
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
|    50|  1%|    50| 6.0|10.0| 3,000| 3,000|  9%|
|   100|  2%|    50| 5.0| 6.0| 1,500| 4,500| 13%|
|   200|  4%|   100| 4.0| 5.5| 2,200| 6,700| 20%|
|   500| 10%|   300| 3.0| 5.0| 4,500|11,200| 33%|
| 1,000| 20%|   500| 2.0| 4.5| 4,500|15,700| 47%|
| 2,000| 40%| 1,000| 1.5| 4.0| 6,000|21,700| 64%|
| 5,000|100%| 3,000| 1.0| 4.0|12,000|33,700|100%|
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

表1のように2%のお客様で13%の売上、20%のお客様で47%の
売上を稼いでいることになります。

次に月間での分布を見てみましょう。これもデータはダミーです。

表2.月単位の人数と金額分布(金額単位=千円)
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
|累計客|分布|セル客|回数|単価|購入額|累計金額|分布|
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
|   150|  1%|   150|20.0|10.0|30,000|  30,000| 16%|
|   300|  2%|   150|20.0| 6.0|18,000|  48,000| 26%|
|   600|  4%|   300|10.0| 5.5|16,500|  64,500| 34%|
| 1,500| 10%|   900| 8.0| 5.0|36,000| 100,500| 54%|
| 3,000| 20%| 1,500| 4.0| 4.5|27,000| 127,500| 68%|
| 6,000| 40%| 3,000| 2.0| 4.0|24,000| 151,500| 81%|
|15,000|100%| 9,000| 1.0| 4.0|36,000| 187,500|100%|
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

期間を長く取れば、継続的に買ってくださるお客様と1回きりのお客様
との差が拡大します。2割のお客様で実に7割近くの売上を稼いでいる
ことになります。もしこれを年間で比較するとどんな結果になるでしょ
うか?期間を変えてみることで、シェア率はかなり変わってきます。

1.2.予測での顧客グループ
==============

以上は実績(ダミー)データでお話ししました。通販の例ではカタログ
送付前の予測得点でお客様の順番を作る方法があります。顧客得点法や
マトリクスセル法です。これも以前ご紹介しましたね。少ない人数で
売上のシェアを稼ぐほど、お客様の識別能力に優れていることになりま
す。この場合も一回のカタログでは、2割のお客様で6割弱の売上とい
うような分布です。ただし年間とか何年かで見れば、更に差が広がる訳
です。

店舗の例では実績を分析しましたが、次の段階ではある時点で順位を付
け(予測し)て、その順位と実績の関係を調べます。通販の例のように
識別能力を確認しながら順位の付け方を工夫していく訳です。統計的な
言い方をすれば、実績金額を目的変数にしてグループ分けをしていく訳
です。ここまでのことで優良顧客の特定が出来ますから、

●優良顧客を離さないための施策を打つ
●優良顧客になり易い(だろう)特徴を掴む → 予備軍の育成
●お客様にかけるコストの配分をし直す

というような行動に移ることが出来ます。

1.3.グループ間の人数変化
==============

更にこのグループ単位に売上の継続率をチェックしていきます。継続率
を把握することによって、新規開拓にかけられるコストの算出や将来の
顧客分布を試算することが出来ます。

今、お客様を6段階にグルーピングしているとします。各グループ毎に
平均の売上額が予測出来るとします。ある期間毎に次の顧客分布がどう
なっているか観察してみましょう。今回は計算を簡単にするために、
次のようにグループ間で移動するものとします。(実際にはこんな形に
はなりませんが)

●一つ上のグループに移行する人は20%
●同じグループに入っている人は40%
●一つ下のグループに移行する人は40%

本当は各グループによって違う筈ですが、あくまで計算を単純にするた
めです。また一つずつグループを移行するとは限りませんが、これも計
算を単純にするためです。

表3.販売前後の顧客分布(単位=人数)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
販売前の分布   |       販売後の顧客分布        |
−−−−−−−|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
貢献度|販売前| 高い |やや高| 平均 |やや低| 低い | なし |
−−−|−−−|−−−|−−−|−−−|−−−|−−−|−−−|
高い  | 1,000|   600|   400|   |   |   |   |
やや高| 4,000|   800| 1,600| 1,600|   |   |   |
平均  | 8,000|      | 1,600| 3,200| 3,200|   |   |
やや低| 8,000|      |      | 1,600| 3,200| 3,200|   |
低い  | 5,000|      |       |      | 1,000| 2,000| 2,000|
なし  | 4,000|      |       |      |       |   800| 3,200|
−−−|−−−|−−−|−−−|−−−|−−−|−−−|−−−|
合計  |30,000| 1,400| 3,600| 6,400| 7,400| 6,000| 5,200|
成長率|   |  140%|   90%|   80%|    93%|  120%|  130%|
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

貢献度が高いというグループのうち20%+40%=60%が貢献度の
高いグループに残る計算になります。残り40%は一つ下のやや高い
グループに落ちてしまいます。全てのグループについて計算した結果が
最下段の合計です。
さて、次にグループ間の移行が何回か繰り返されるとどうなるか見てみ
ましょう。条件は表3とまったく同じものとします。

表4.グループ毎の顧客推移(単位=人数)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
貢献度 |第1期|第2期|第3期|第4期|第5期|第6期|第7期
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
高い    | 1,000| 1,400| 1,560| 1,592| 1,562| 1,501| 1,426
やや高い| 4,000| 3,600| 3,280| 3,032| 2,819| 2,629| 2,457
平均    | 8,000| 6,400| 5,480| 4,848| 4,384| 4,024| 3,735
やや低い| 8,000| 7,400| 6,720| 6,160| 5,715| 5,370| 5,102
低い    | 5,000| 6,000| 6,400| 6,560| 6,650| 6,720| 6,787
なし    | 4,000| 5,200| 6,560| 7,808| 8,870| 9,756|10,493
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
合計    |30,000|30,000|30,000|30,000|30,000|30,000|30,000
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

これはあくまでも一つずつしかグループ間移動をしないと考えた場合で
す。実際には机上の空論で、貢献度の高かったお客様が急に実績なしに
なったりもします。経験上ではファンは作り難いですし、新しいお客様
がもっと入って来ます。ただ注意していただきたいのは、放っておけば
買ってくれなくなるお客様がいかに多いかということです。そして目減
り分を新規獲得で埋め合わせようとすると、莫大なコストがかかるので
す。

1.4.収益力の変化
==========

さて表4の顧客分布を利益換算してみましょう。各グループ毎に一人当
たりの(予想)利益額が分かっていれば試算することが出来ます。

●貢献度の高いグループが一人当たり30千円の粗利
●貢献度のやや高いグループが一人当たり15千円の粗利
●貢献度の平均グループが一人当たり8千円の粗利
●貢献度のやや低いグループが一人当たり5千円の粗利
●貢献度の低いグループが一人当たり2千円の粗利

として試算してみましょう。

表5.粗利益額の推移(金額単位=千円)
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
|貢献度 | 第1期 | 第2期 | 第3期 | 第4期 | 第5期 |
|−−−−|−−−−|−−−−|−−−−|−−−−|−−−−|
|高い   |  30,000|  42,000|  46,800|  47,760|   46,860|
|やや高い|  60,000|  54,000|  49,200|  45,480|   42,285|
|平均   |  64,000|  51,200|  43,840|  38,784|   35,072|
|やや低い|  40,000|  37,000|  33,600|  30,800|   28,575|
|低い   |  10,000|  12,000|  12,800|  13,120|   13,300|
|−−−−|−−−−|−−−−|−−−−|−−−−|−−−−|
|合計   | 204,000| 196,200| 186,240| 175,944| 166,092|
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

このように顧客グループの人数が変化することで収益力が変化してしま
うのです。同じように事業を続けているつもりでも、自然に収益力が落
ちてしまう訳です。実際には広告やキャンペーンをしたり、新しいお客
様が入って来るのですが。

2.ビジネスに活用する
===========

以上のようにして、これから収益力がどう変化するか試算をしてみまし
た。基本的な試算を元にして、大きく捉えた市場のトレンド・競合との
関係などを考慮して更に試算をしていくことになると思います。

2.1.分析手法について
============

ここまでの試算をするために必要になるものがいくつかありました。

●お客様を(予測)貢献度によってグルーピング出来ること
●グループ間の人数移行を時間的に把握出来ること

実際に分析に使う手法は一般的な書籍でも色々なものを紹介していま
す。目的変数を持つものならば、重回帰分析や判別分析・分散分析など
で可能です。ただしデータ変換の方法によって精度がかなり変わりま
す。目的変数を持たずにグルーピングするならば、数量化3類や4類、
主成分分析やクラスター化分析を使います。ただし最終的には目的変数
を使うことになります(注)から、組み合わせて使うことになります。
(注)特徴的な分け方を見つけることも必要ですが、最終的には実際に
   買っていただけるお客様を抽出することが目的ですから。

実際にはクロス集計が一番役に立ちます。しかも比較するデータ自体を
変化させる必要があります。クロスする場合の縦軸・横軸だけでなく、
各セルに入る数値そのものです。販売額であったり、一人当たりの金額
であったり、継続購買率であったりします。実はこの組み合わせがアイ
デアであって一番大切な部分です。もちろん基本的な分析手法は必要で
すが、活用の考え方とデータの組み合わせのアイデアが最大の武器にな
ります。

そして分かるということだけでなく、シミュレーションが出来るという
ことも分析の大事な部分です。計画を立てる時にも、ある程度の目算が
立たなければ意思決定のしようがないからです。

2.2.現状把握と予測
===========

もう一つ時間の観念が必要になります。活用の場面を考えれば、ちょっ
とした工夫が必要になるのです。パレート理論やFSPの考え方は、
基本的には貢献度の高いお客様を大事にするということです。これは
一つの真理です。疑う余地はありません。ただしもう一つの見方をすれ
ば、次にお買い上げくださる確率の高い人を重視するという見方があり
ます。例えば、

●時々大きなお買い物をするお客様
●買い替えサイクルの長い商品だけを利用するお客様
●ご利用時期に特徴のあるお客様

をどうするかという問題です。このような観点に立てば、次回購入し易
いお客様を探すという発想になって来ます。ABC分析だけではなくな
る訳です。購入実績とそれ以前に得られる情報から予測をするのだとい
うことになります。ここに分析手法やアイデアが必要になる訳です。

データは過去のものです。ビジネスに利用する舞台は将来です。将来の
土俵の上でいかに使うかが大切になってきます。

データベースと言うのはただデータがあれば良いというものではありま
せん。顧客の住所・氏名だけのデータは顧客ファイルとか顧客マスタと
呼べば良いものです。データベースというからには目的を持ったデータ
のまとまりでなければならないと思います。そのためには、目的変数と
説明変数を持ち、時間的な変化が読み取れるものでなければいけないと
思います。変化が読み取れなければ、将来に生かすことが難しくなりま
す。

2.3.活用のステップ
===========

分析を分析で終わらせないためには、グランドデザインが必要になりま
す。データベースマーケティングが成果を上げるためには、分析手法よ
りもこのグランドデザインが出来るかどうかにかかっていると思いま
す。更に企業戦略こそが必要だとも言えます。データベースマーケティ
ングは戦術の一つです。目的や戦略が明確であれば力を発揮しますが、
技術というのは道具に過ぎません。活用の場面では、

●現状を把握し
●時間による推移を見とおし
●将来の予測を持ち
●対策を考え
●計画を立て
●柔軟に実行する

というステップが必要になるのではないでしょうか。もう一つ付け加え
ておくならば、効果を検証出来るように予め設計しておくことも重要で
す。経済問題は全く同じ状態を再現することが出来ません。予め効果の
測定方法を組み込んでおかないと、成果の量りようがないのです。あま
り問題にされませんが、良いマーケターの条件は効果の測定方法を設計
できるかどうかにあると思っています。

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【今週のキーワード】:原則と独創
時代を潜り抜けて『原理原則』になっているものがあります。時間に
よって風化していないものは、一面の真理を伝えていると思います。
こういう原理原則を使わない手はありません。ただし置かれた状況が違
えば、当然取るべき手も違ってきます。過去の成功例をそのまま活用す
るのはリスクが大きいと言わざるを得ません。変えてはいけない部分と
変えなければいけない部分を見極めるのは難しいことでしょう。

原理原則を自分の中で消化して状況に合わせて使っていく、これが理想
なのでしょうね。状況に合わせて自在に変化させていくことが独創に
なって行くのではないでしょうか。最終的にはその企業なりの方法を創
り上げる必要があります。データベースマーケティングでも、その企業
の特徴を把握しないことには実践は出来ないと思います。

【今週のお勧め書籍】:五輪書(鎌田茂雄氏)
宮本武蔵の五輪書の現代語訳注です。
『仏神は貴し、仏神をたのまず。』
という言葉が独行道に出てきます。原理原則は大切だが自分の頭で判断
を下さねばならない、という意味に解釈しています。ビジネスの世界で
も原理原則や他社事例は必要ですが、そのまま使っても役に立たないこ
とがあります。大いに参考にはしても、自社の状況を把握して、その企
業なりの方法を創り出す必要があると思います。エピクテトスなどのス
トア哲学や禅宗にも同じ考え方が見えます。精神分析のウェイン・ダイ
アー博士の『自分のための人生』も同じ境地ではないかと思います。

ホームページでは、このように併読や比較のお勧めをしています。是非
一度ご覧ください。あなたのお勧めも教えてくださいね。

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さて、優良顧客ということでお話しをさせていただきました。実際の
分析手法にはほとんど触れずにお話ししてしまいました。ただ分析の細
かい部分は、それこそ企業特性によってかなり違います。それよりも私
の考える原理原則の方がお役に立つかと思いました。ご意見をいただけ
れば幸いです。


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発行人/編集人:岩瀬 理(Osamu Iwase)

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