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実践データベースマーケティング(第10号)
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実践データベースマーケティング第10号をお届けします。
発行者の岩瀬です。皆さんのおかげで、不精な私もなんとか10号まで
続けることができました。本当にありがとうございます。おかげさまで
1700名強の方に読んでいただいています。予想もしないことでした
ので、びっくりしています。今後ともよろしくお願いします。

今回は商品側から見た分析方法として、PPMと併買分析をご紹介しま
す。併買分析はバスケット分析とも言われているものです。

●○ 目次 ●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○

1.PPM分析
1.1.基本的なPPM
1.2.軸を変えてみると
1.3.ブレイクダウン

2.並買分析
2.1.基本的な並買
2.2.視点を変えると

3.データの収集

【今週のキーワード】:自分の視点
【今週のお勧め書籍】:男の肖像(塩野七生氏)

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1.PPM分析
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PPM分析は、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントの略です。
ご存知の方が多いと思いますが、市場の成長性と自社シェアのマトリク
スで製品を分類するものです。BCG(ボストン・コンサルティング・
グループ)が体系を整理して、GEなど米国の企業が事業・製品戦略に
使いました。

1.1.基本的なPPM
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PPMは色々なマーケティングの本で説明されていますが、先の話しの
ためにも少しご紹介させてください。

図1.PPMの四区分
  −−−−−−−−−−−−−−−−−
高|        |        |
い|        |        |
↑|  問題児   |  スター   |
 |        |        |
市|        |        |
場|        |        |
成|−−−−−−−−|−−−−−−−−|
長|        |        |
性|        |        |
 |  負け犬   | 金のなる木  |
↓|        |        |
低|        |        |
い|        |        |
  −−−−−−−−−−−−−−−−−
  低い← 自社商品のシェア率 →高い

自社製品を図1のように、市場成長性と自社のシェア率でプロットしま
す。市場の成長性が高いということは、売上高を伸ばす可能性が高いと
いうことです。自社のシェア率が高いということは、その分野のチャン
ピオンですから利益を出す可能性が高いということです。

以前、成長のS字カーブをご紹介しました。『金のなる木』はS字カー
ブも成熟期や衰退期になっている製品です。安定した市場なので、競争
も過酷ではありません。ここでシェアを取っていると、投資は少なく利
益が上がるという訳です。このように分類することで、

●資源の配分(投資のバランス)
●現在の稼ぎ頭、将来の稼ぎ頭の把握
●先行投資の許容範囲

などを確かめることが出来る訳です。

1.2.軸を変えてみると
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さて、図1でご紹介したのは一般的なPPMです。この他にも色々な
使われ方があります。

図2.成長性と粗利額(売上高)
  −−−−−−−−−−−−−−−−−
高|        |        |
い|        |        |
↑| 企画の見直し |  拡大候補  |
 |        |        |
売|        |        |
上|        |        |
成|−−−−−−−−|−−−−−−−−|
長|        |        |
率|        |        |
 |  撤退候補  | 維持・再活性 |
↓|        |        |
低|        |        |
い|        |        |
  −−−−−−−−−−−−−−−−−
   低い← 粗利額(売上高) →高い

これは販売寄りの考え方です。自社の商品を売上成長率と粗利額でマト
リクスにします。利益は大きいのに成長率が低いものは、販売の工夫や
商品のスイッチなどの策が考えられます。商品の在庫に注意しながら
販売していきます。逆に成長率は高いのに、利益の少ない商品には幾つ
かのパターンが考えられます。導入期で全体数が少ない、客寄せに使っ
ているので利益率が低いなどです。その目的に合わせて検討してみる
必要があります。

図3.売上(粗利)高と販売人数(点数)
  −−−−−−−−−−−−−−−−−
高|        |        |
い|        |        |
↑|  利益商品  |  強み商品  |
 |        |        |
 |        |        |
売|        |        |
上|−−−−−−−−|−−−−−−−−|
高|        |        |
 |        |        |
 |  撤退候補  | 客寄せ商品  |
↓|        |        |
低|        |        |
い|        |        |
  −−−−−−−−−−−−−−−−−
  低い←  販売人数(点数) →高い

お店での棚割りにも色々なノウハウがあります。私は通販でしたので、
紙面割りということになりますが。見せ筋商品・売れ筋商品・索引商品
・レジ横商品・比較商品などという考え方があります。チラシなどでは
注文方法の説明の近くに置くものをレジ横商品と言います。単価が安く
て、ついでに買うような商品です。ファッション物では、売れないけれ
ど雰囲気を作るために置いておく見せ筋商品というのがあります。

図3では金額と点数で見ています。最終的には利益が大きい方が良いで
すから、売上金額の多いのが良い商品となります。ただしお客様との
関係を築くためには、安くても沢山の人が買う商品が必要になります。
スーパーでの卵や牛乳のような存在です。こういう商品がないと、お客
様との関係を作ることが難しくなります。役割が違ってくる訳ですが、
そのための確認に使っていくのです。

1.3.ブレイクダウン
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さて実際の使い方ですが、図2や図3は単品のチェックにも使います
し、商品分類別でも使います。通販の場合でご紹介しましょう。通販で
は誰に何が売れたかが分かりますから、図3を粗利高と人数で考えるこ
とが出来ます。

まずは商品ジャンルでプロットをします。二つの軸をそれぞれ、1掲載
商品当たりの粗利高と1掲載商品当たりの購入人数にします。それぞれ
の軸の平均線を入れます。平均より多い少ないが一目で把握出来ます。
商品ジャンル毎に拡大候補・縮小候補・見直し候補を特定します。カタ
ログ掲載では全体の商品バランスを考えます。このバランスを考える
材料になる訳です。

更に各商品ジャンル毎に図3を作っていきます。この場合には平均線
は、その商品ジャンルの平均ということになります。プロットするのは
価格帯別の平均だったり、小分類だったりします。
更に単品をプロットするところまで、ブレイクダウンしていきます。
図4がその例です。

図4.Aジャンル価格帯Bの単品一覧
  −−−−−−−−−−−−−−−−−
高|        | |      |
い|        | |      |
↑|  継続候補  | | 継続商品 |
 |        | |      |
 |−−−−−−−−|−|−−−−−−|
売|        | |      |
上|−−−−−−−−|−|−−−−−−|
高|        | |      |
 |        | |      |
 |        | | 継続候補 |
↓|        | |      |
低|        | |      |
い|        | |      |
  −−−−−−−−−−−−−−−−−
  低い←  販売人数(点数) →高い

平均線の上と右側にもう一本ずつ補助線を引いています。これは継続販
売を検討するためのものです。カタログ販売では、通常同じ商品を継続
販売すると、売上が減少します。これは過去の実績から統計的に把握す
ることが出来ます。そこで『これ以上実績があれば、継続販売しても
平均以上に売れますよ』という補助線を引いています。補助線よりも
実績の高い商品は、次回も平均よりも売れるということです。こういう
商品は継続販売することになります。

2.並買分析
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POSデータや通販の購買データでは、購入時の内容を見ることが出来
ます。どんな組み合わせで買うのかとか、単価や点数の把握が出来るの
です。代表的なものに並買(バスケット)分析があります。一緒に買わ
れるものの特徴を調べて、売り場を近づけたりするのです。

2.1.基本的な並買
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基本的なものとしては、単品同士の組み合わせ比率を見るやり方があり
ます。ドライバ商品を決めて、一緒に買われる商品の分布を調べます。
比率的に多いものについて、時間帯やお客様の特徴を深堀りしていくの
です。代表的な例に、金曜にはおむつとビールが一緒に売れるというの
があります。ウォルマートやターゲットストアでは実際に売り場を工夫
することで売上を上げることが出来ました。金曜の仕事帰りに、おむつ
を買ってくるように頼まれたお父さんがビールも一緒に買っていたとい
う例です。

ある特定な時期に特定の商品を一緒に買うというのは他にもあります。
3〜4月ならば、カーテンと食器が一緒に売れたりします。これは実際
に試行錯誤してみるのが良いと思います。取り扱い商品によって違いま
すし、顧客層によっても違います。

2.2.視点を変えると
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並買分析は単品の組み合わせに使うものでしたが、時期や顧客層などを
加えることで実際に使えるものになります。他にもちょっとした工夫で
幅が広がります。

単品の組み合わせでなくとも、色々な組み合わせ方が考えられます。
商品とオーダー特徴の組み合わせもあります。商品ジャンル毎の組み合
わせや、価格帯別の組み合わせもあります。通販やカードであれば、
前回購入と次の購入との組み合わせもあります。

例えば、子供服と相性が良いのは紳士物だったりTシャツ・トレーナー
だったりします。同様にオーダー特性としては点数が多い傾向にありま
す。(以上の例は10年位前の話しですので、今有効かどうかは分かり
ません)
ある程度高額のアクセサリー類では、ファッション物と相性が良いもの
です。同様に過去購入されたMAX商品単価でセグメントした時には、
良い成績を収めました。
また商品によっては、電話で注文し易いもの・ハガキで注文し易いもの
もありました。
3〜4月ではまとまった買い物が多かったり、住関係が多いのは入学・
転勤というイベントによるものです。並買の内容からもお客様のイベン
トを推測する方法もあるのです。

オーダー状況の特徴と単品の関係はまだまだ色々なものがあるでしょ
う。単品の組み合わせからイベントを予測する方法も有望な手法です。
お客様の属性をメンテナンスするにはコストがかかります。単品の組み
合わせや購入の変化によって推測する方法は、データ入手という意味か
らも期待が持てる方法です。

3.データの収集
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DBMではお客様のデータを重視します。しかし、趣味やライフスタイ
ル・家族構成などメンテナンスするにはコストがかかります。勿論コス
トがペイ出来るならば構いませんが、なかなか使いにくいものです。
実際の購入や問い合わせのデータから類推する方法は確かでコストも
安くあがります。ただし、お客様との接触がないとデータは取れないの
ですが。まずは今あるデータから類推する仕組みを作るべきではないで
しょうか。

例えば、お客様の体型や家族構成・ライフスタイルなどです。商品に
予め想定される区分を付けておけばメンテナンスできます。あるいは
商品の組み合わせによって類推することが出来ます。違う大きさの服を
買っていれば複数人の利用と考えられます。紳士物・子供物と購入が
あれば、購入での家族構成を類推することが出来ます。商品に想定する
ライフスタイルを付けておくのも一つの方法です。

商売に活かす以上、実生活よりも購入内容の方が確かなのです。一緒に
は住んでいなくてもお孫さんに贈り物をするならば、商売上は家族で
良いのです。実際に起こったことが重要で、再現性があるならば率先し
て利用するべきだと思います。ですからデータは組み合わせによって、
思いもしなかった情報に変化してくれるのです。並買分析からはずれて
しまいますが、データの組み合わせにはまだまだ大きな可能性が眠って
いると思います。

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【今週のキーワード】:自分の視点
同じデータからでも色々な解釈が成り立ちます。未開地へ派遣された
靴の営業マンの話しは有名ですね。A氏は『みんな靴を履いていない、
商売の見こみなし』で、B氏は『可能性は無限大、至急靴を送れ』とい
う例のあれです。
企業でデータを扱うにも圧倒的にデータが足りないのが普通です。あれ
も足りない、これも足りないという状況になりがちです。でも、こんな
時こそ担当者の視点というのが大事になってきます。こんな視点で考え
ればこう推測出来る、このデータの裏側にはこんな状態が隠されている
筈だ、となります。文献や権威に流されずに、自分なりの視座・視点と
いうのを持ちたいものです。本当の知恵はそこから生まれて来るのでは
ないでしょうか。

【今週のお勧め書籍】:男の肖像(塩野七生氏)
塩野さんには独自の見識があって、とても勉強になります。男の肖像で
は、カエサルや織田信長・チャーチルなど14人について筆を振るって
います。歴史としてではなく、一人の人間として捉えることで瑞々しい
ものに仕上がっています。何度読んでも飽きのこない人物論としてお勧
めです。

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さて、商品分析の方法として二つをご紹介しました。PPMとは言って
も色々な方法があると思います。同じく並買分析というのが一つしか
ない訳ではありません。大枠の捉え方は同じでも、置かれた立場や使う
目的で色々なやり方があって良いのだと思います。過去から学ぶことは
重要ですが、私達は今に生きているのですから。

発行人/編集人:岩瀬 理(Osamu Iwase)

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