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実践データベースマーケティング(第13号)
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実践データベースマーケティング第13号をお届けします。
発行者の岩瀬です。13号の発行が遅れまして、申し訳ありませんでし
た。4月から個人事業を始めましたが、なにかと雑用が多くてドタバタ
しています。今後も発行が不定期になるかと思います。どうぞご了承く
ださい。

さて今回はインターネットでのデ−タベースマーケティング(以下DB
M)についてお話しをさせていただこうと思います。読者の方からのお
問い合わせが一番多い項目でした。そこで私の考えるインターネット利
用法についてお話しさせていただこうと思います。

●○ 目次 ●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○

1.紙のDMと電子メール
1.1.コスト比較
1.2.嫌われないメール
1.3.商品の視点、お客様の視点

2.チャネルミックス
2.1.カタログとチラシ
2.2.FAXとDM
2.3.テレマーケとDM

3.チャネルの全体最適
3.1.チャネルミックスの可能性

【今週のお勧め書籍】:サービスが伝説になる時
【今週のキワード】:応用力

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1.紙のDMと電子メール
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DM(ダイレクトメール)では電子メールは画期的な媒体です。コスト
を考えれば使わない手はありません。紙のDMでは印刷費用や郵送料が
かかります。以前、紙媒体での利益構造についてお話ししました。企業
にすれば限られたコストで販売を行います。当然利益のあがりそうな
リストから順に顧客抽出を行います。その結果、部数が増えると効率が
落ちてきます。

1.1.コスト比較
=========

紙のDMの場合、例えば次のような試算が出来ます。

表1.部数の変化と予測利益(各セル単位)
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
|顧客数 |注発率|単価|受注金額|販売費用|変動費用|
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
| 50,000|  50%|18.0| 450,000| 30,000| 225,000|
| 50,000|  40%|17.0| 340,000| 29,500| 170,000|
| 50,000|  30%|16.0| 240,000| 29,000| 120,000|
| 50,000|  20%|15.0| 150,000| 28,500| 75,000|
| 100,000|  15%|14.0| 210,000| 56,000| 105,000|
| 100,000|  12%|13.0| 156,000| 55,000| 78,000|
| 100,000|  10%|12.0| 120,000| 54,000| 60,000|
| 100,000|  8%|11.0| 88,000| 53,000| 44,000|
| 200,000|  6%|10.0| 120,000| 104,000| 60,000|
| 200,000|  5%| 9.0| 90,000| 102,000| 45,000|
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

表2.部数の変化と予測利益(累計)
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
| 顧客数 | 受注金額|固定費用|販売費用|変動費用| 利益 |
|−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−|
|  50,000| 450,000| 500,000| 30,000| 225,000|-305,000|
| 100,000| 790,000| 500,000| 59,500| 395,000|-164,500|
| 150,000|1,030,000| 500,000| 88,500| 515,000| -73,500|
| 200,000|1,180,000| 500,000| 117,500| 590,000| -27,000|
| 300,000|1,390,000| 500,000| 173,000| 695,000| 22,000|
| 400,000|1,546,000| 500,000| 228,000| 773,000| 45,000|
| 500,000|1,666,000| 500,000| 282,000| 833,000| 51,000|
| 600,000|1,754,000| 500,000| 335,000| 877,000| 42,000|
| 800,000|1,874,000| 500,000| 439,000| 937,000| -2,000|
|1,000,000|1,964,000| 500,000| 541,000| 982,000| -59,000|
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

表2のように利益が出るのは、30万部から60万部ということになり
ます。その原因はリストの注発率や単価と販売費用です。ここで言う
販売費用はカタログ費・DM費・作業費などです。

さて電子メールの場合ですが、まずカタログ費が要りません。紙代も
印刷費用も要らない訳です。そしてDM費もお客様負担です。電子メー
ルを受信するのはお客様の通信費用ですから。電子メールの場合には、
表1・2のような部数シミュレーションが必要ない訳です。

1.2.嫌われないメール
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電子メールが媒体として注目されるのは、

●コストが安い
●内容をお客様によって変えることができる
●お客様の反応が早い

という理由からです。ただしお客様にとって必要のないメールであれば
送信を断られてしまいます。紙よりも更に、お客様に嫌われない工夫が
必要です。それから現在のところはまだ販売力は弱いと考えられます。

●無料で情報を検索・閲覧することが目的なこと
●郵便や電話に比べて顧客数が少ないこと
●通信費がかかってしまうこと
●レイアウトなど雑誌のようには楽しめないこと

などが原因です。しかし

●問い合わせが比較的し易いこと
●WEBと連動したりして、何に興味を持っているか把握できること

などのメリットもあります。ここ何年かでWEBや電子メールの使い方
も大きな変化をするかも知れません。

1.3.商品の視点、お客様の視点
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主にコストの面から比較をしました。紙のDMが商品やカタログの視点
から効率を考えていることがお分かりいただけたと思います。これに対
して、電子メールではお客様に嫌われないこと。お客様の視点からコン
テンツを作成していくことになります。全てのお客様に配信しても、紙
のようにコスト効率を考える必要がありません。商品からの視点でお客
様を選ぶのではなく、お客様からの視点で商品やコンテンツ・表現方法
を選ぶ必要があると思います。その意味でワントゥワンマーケティング
に近い媒体であると言うことが出来ます。

それこそ商品の市場シェアでなく、顧客シェアを考えるマーケティング
になるのだと思うのです。私は丸1年ほど電子メールでの販売実験に
参加していました。従来のDM理論ではなく、新しい考え方が求められ
ているようです。お客様によってメニューや口調を変えることで、注目
率は3〜7倍程度に変化します。購入率でも5倍程度の差が出ていまし
た。このようなテストが簡単に出来るのも電子メールやWEBの特性で
す。実際に購入したお客様の言葉をコピーにした時には、7倍の購入率
になりました。生産者の視点だけでなく、利用者の視点に立つことも
重要な要素です。

2.チャネルミックス
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技術の進歩で、ダイレクトマーケティングでも色々な販売チャネルを
使うことが出来ます。カタログ・定型DM・新聞折込みチラシ・TV
ショッピング・ポスティング・WEB・電子メール・FAX・電話など
様々なチャネル(媒体)があります。媒体の特性を活かして全体最適を
考える時代になったようです。

2.1.カタログとチラシ
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カタログとチラシの媒体ミックスは使いやすい方法です。カタログで
売れ筋を見極めて、定型DMや新聞折込みチラシで面の拡大をします。
売れる商品はとことん売るという考え方です。カタログとチラシの販売
時期がずれますから、在庫リスクの軽減にも役立ちます。ただしチラシ
製作に時間がかかると売れ行きは落ちてしまいます。ポジの転用、レイ
アウトパターンの利用などで製作期間を短縮する必要があります。また
カタログ販売ではどんなお客様に何が売れたかがハッキリしますから、
ターゲットを明確にすることも威力を発揮します。

例えばカタログで20代に売れている商品ばかりを集めて、20代向け
の休眠開拓用の定型DMを作るなどです。あるいはサイズや商品種類で
特集を組むことも出来ます。ただカタログとチラシでは編集方針に違い
が出ます。ある程度以上の厚さのカタログでは、企画単位かインデック
ス型の方が見やすく読ませるものになります。チラシの場合には価格訴
求でポップ感覚の方が売りやすいようです。チラシの場合、価格の表示
方法やレイアウトが販売力に強く影響します。カタログの場合は企画を
作ることが大切なようです。

愛知県の通販会社では商品決定からチラシ製作に2週間という早さを
誇っています。東京の通販会社でもカタログは赤字だが、そこで試した
商品を新聞折込みチラシで展開して利益を上げるというのもあります。
チラシではありませんが、米国のハノーバーダイレクトは年間に10回
程度カタログを発行します。少しずつ商品を入れ替えながら販売をしま
す。売れ筋は徹底して売り、在庫のあるものは見せ方を変えながら売り
切るのです。一般にモデルの着用している色柄は良く売れます。同じ
アイテムでも赤だけが売れてしまったら、次回は在庫のある青をメイン
にして売っていくのです。

2.2.FAXとDM
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生鮮食品などではFAX通販も注目されています。年間に何度かDMを
発行しますが、お得意様にはFAXで限定商品を売っていくというもの
です。法人向けの通販でもFAX通販は使われています。スタンダード
な商品はカタログで販売し、シーズン商品や限定商品・キャンペーン商
品などをFAXで告知する方法です。
FAXでは写真よりもキャッチコピーで表現できる商品が向いていま
す。薀蓄のある商品とかお客様がイメージし易い商品です。これは電子
メールにも言えることで読ませる商品ということになります。

米国西海岸にトレイダージョーズというチェーン店があります。元々は
コンビニエンスストアとして開業しましたが、今ではお酒とつまみに
特化した店舗展開をしています。このお店では徹底したクチコミ戦略を
とっていました。年4回ミニコミ誌を発行しますが、これは食品の薀蓄
集なのです。24ページ100品目についてびっしりと説明していま
す。商品のこだわりや調理方法の裏技を特集したものです。こだわりを
前面に押し出すことでクチコミを狙っています。どうしてトレイダー
ジョーズがその商品を選んだのかについて書かれています。そして、
『あなたのようにこだわりのある方に食べていただきたい』という書き
方をしています。お客様との間に共通目的を見つける手法はクチコミ
戦略に使われます。こういうやり方はFAXや電子メール向きかも知れ
ません。

2.3.テレマーケとDM
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単品通販や化粧品の通販ではテレマーケが充実しています。特に継続し
て消費する商品については有効です。購入していただいた商品が切れる
頃にアウトバウンドをします。購入のお礼・使用感の確認・継続販売を
するのです。購入時満足のマーケティングから使用時満足のマーケティ
ングへと移り変わっています。商品購入後のサンキューコールは当然と
して、使用感のチェック・商品アドバイスなどをテレマーケに組み込ん
でいます。

テレマーケではお客様によってオペレータの担当制や手書きの挨拶文を
つけるなどの工夫があります。前回対応したオペレータがなるべく応対
するようにするのもつながりを強くするための方法の一つです。また
担当制をとることで、オペレータの評価基準を継続購入率で計ることも
可能になります。挨拶文を入れる方法はアナログでも可能です。商品発
送時に伝票セットする仕組みを作れば、より親近感を狙った接客が出来
ます。

3.チャネルの全体最適
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以上のようにチャネル(媒体)の特性を把握して組み合わせる方法が
一般的になってきました。

●結果データの利用方法
●他の媒体に応用するための時間
●ツーウェイコミュニケーションの有無
●スケールメリット
●お客様による可変性

などによってチャネルを組み合わせます。そして全体として利益を図り
ます。このような媒体の一つとしてWEBや電子メールを位置付けるこ
とが出来ます。あるいはコンテンツをデジタル化することで、次の媒体
への応用力とスピードを高める働きもあります。

3.1.チャネルミックスの可能性
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チャネルミックスの可能性として、WEBや電子メールで商品やコピー
のテストをすることが考えられます。結果が出るのが早いですから、次
に応用し易いのです。またお客様によって変化をつけて露出することが
出来ます。キャッチコピーのテストや類似商品の比較テストが出来ま
す。またログを解析することでどんなお客様の興味を読む利用法も有望
です。クッキーやログ解析・個別WEB・メールのオートレスポンダー
などの技術がありますから、誰がどの情報を見たのかを把握することが
出来るのです。購入以前の興味の変化を読み取ることが出来るのです。

これらのテストからカタログとして品揃えや表現・対象顧客を豊かにし
て販売することが出来ます。ここからは計画販売です。計画販売するた
めには少しでも情報を取り込む必要がありますから、インターネットで
のテストにも色々なものを取り込めます。その上で売れる商品・顧客タ
ーゲットの明確な商品についてはチラシなどで面の拡大をしていきま
す。特定多数や不特定多数への販売です。つまり、

●特定少数との継続的なお付き合い(リテンションマーケティング)
●特定多数を対象にした計画的販売(ダイレクトマーケティング)
●不特定多数への販売(マスマーケティング)

そしてチャネル特性によってワントゥワン手法を実践していくという
考え方になります。

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【今週のお勧め書籍】:サービスが伝説になる時
(ベッツィ・サンダース) ダイヤモンド社

 あのノードストロムの元役員が書いた本です。機会がある限り、熱意
をあらゆる手段を使って伝えていくべき、と言っています。サービス
向上に終わりはない。美徳は行いではなく習慣である。具体的な話では

●顧客サービスは宣伝費である
●不満を持つ顧客のうち、企業に苦情を言うのは4%に過ぎない
●不満がある人は平均9〜10人に話す
●苦情が解決された顧客はそれを5〜6人に話す
●顧客の期待を上回るサービスでなければ認めて貰えない
●最も給与の低い現場の従業員がお客様に接する機会が多い
●従業員をいかに支援するかにかかっている

というものです。サービスが伝説になるのは普通の人が普通のことを、
並外れたやり方で実行した時だと語っています。

【今週のキワード】:応用力

CRMやリテンションマーケティング・ワントゥワンなどの概念があり
ます。技術的にもコールセンターやインターネットなど使える武器が
増えて来ました。実際にビジネスに活用するには、組み合わせ方や応用
力が必要になります。戦略を立てるにはまず戦闘教義を持つことです。
自社のコアコンピタンスを理解して、自社の強い土俵で戦うように持っ
ていくことです。どの企業でも同じやり方で成功する筈はありません。
自社の状況に合せていかに応用していくかが勝負だと思います。

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発行人/編集人:岩瀬 理(Osamu Iwase)

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