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実践データベースマーケティング(第16号)
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実践データベースマーケティングの岩瀬です。ご無沙汰しています。
休刊状態が続いてしまいました。本当に申し訳ありません。改めて連載
を始めようと思います。今後ともよろしくお願い申し上げます。今まで
思いつくままに15号まで発刊してきましたが、振り返ってみると私
自身の考え方を整理する良い機会になりました。お付き合いいただいた
皆様に大変感謝しています。改めて企業活動に生かすデータベースマー
ケティングを考えてみたいと思います。読んでくださる方も増えました
ので、基本的な部分も交えてまとめ直してみようかと考えています。
今回はまずデータ活用の考え方から書いてみたいと思います。

●○  目次  ●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○

1.データ活用の意味
1.1.データと情報
1.2.時間軸がなければ意味がない

2.データ活用の流れ
2.1.現状を把握する
2.2.予測をする
2.3.コントロールする

3.分析の種類
3.1.方向性を探る
3.2.効果を測定する

4.データ活用の対象
4.1.マーケティング
4.2.マネジメント

今週のお勧め書籍:

今週のキーワード:

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1.データ活用の意味
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情報化社会とか変化の激しい時代と一般に言われています。一般論とし
ては情報を活用して科学的な企業活動をすることが善とされているよう
です。しかし実際にはデータ活用自体は今やっと環境が整いつつある
ところではないかと思っています。少し前までは理論上の話だったもの
が、幾つかの成功事例やコンピュータの発達で現実のものになりつつ
あります。しかし企業活動の中では費用対効果がハッキリしていない
分野ということが出来ます。コンピュータや人材育成のコストに比べて
本当に効果を発揮しているのかどうかは疑問です。それは最初にデータ
活用について考えているイメージや期待に問題があるからではないで
しょうか。満足感は当初の期待に左右されるものです。そもそもどんな
期待を持つかによって成功か失敗かも分かれてしまうものだと思うの
です。

データ活用を実際に効果のあるものとして取り入れるために、どんな
考え方が必要なのかを整理してみたいと思います。そもそも何のために
データを活用するのかということです。整理するためには周辺の言葉の
定義も必要になってきます。それではまず情報とはどんなものなので
しょうか。

1.1.データと情報
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データというのはそれだけでは意味をなさないものです。事実を記録に
留めたものに過ぎません。データを企業活動に利用しようとするのは、
事実を元にしてより効果の高い客観的な決断を下すためと言うことが
出来ます。データを有効に利用するためには、論理的な考え方やはっき
りとした目的意識、活用するための基準が必要になってきます。

データに対して情報とは、入手することで将来に対する期待が変わる
もののことです。同じ事実であっても入手する人の立場や利用出来る
環境、予備知識などが加わって初めて情報になるのです。ですから、
同じような仕組みや同じようなデータがあっても各企業の情報活用は
全く違った結果を産み出すことになる訳です。利用ということを考える
と、人材・知識・利用手段・資金・情報に対する意識などの環境が整わ
なければならないのです。こういった周辺の環境がないままにデータ
周りだけを整備しても活用出来るアウトプットが産まれ難いのです。
ブームだけでデータ整備をする危険性がここにあります。機械を導入し
てデータを整備しただけでは活用には至らない場合の方が多いのです。

1.2.時間軸がなければ意味がない
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情報に関する考え方で大切なのが時間の捉え方です。データはほぼ過去
のものです。たとえ昨日の売上状態を調べたとしても、今日も同じに
なるとは断言出来ません。データは過去のもの、利用する土俵は必ず
将来になるのです。常に将来に活かすためのデータであり分析であるの
だという意識が必要になります。ですから分析の過程は、

●現状の把握
●将来の予測
●現状を覆すための計画

というステップになります。現状の把握にしても、どんどん変化してい
く中での現状を把握するということになります。過去の変化の仕方を
観察することで近未来に起こることを予測して対策を立てる訳です。
ですから分析の過程では再現性があることなのか、過去からどんな変化
をしているのか、ということが重要になってきます。或いは再現し易い
部分を見つけたり、再現する確率を考えることが必要になって来るので
す。以上のことを踏まえてデータ活用の流れを考えてみましょう。

2.データ活用の流れ
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前述したように、データを活用するためには現状を把握し、将来を予測
し、対策を立てるという流れが必要です。これは問題解決手法の考え方
と全く同じです。データ活用と言っても、問題解決手法に沿って事実を
元にした経営活動をすることに他なりません。

2.1.現状を把握する
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孫子の兵法にもありますが、『己を知り敵を知れば百戦危うからず』
です。お金について現状を知ることが経理の一つの流れであるように、
データ活用にも現状を把握することが不可欠になります。データベース
マーケティングで一番重要なのは、お客様がいつどの商品を購入したの
か、あるいは返品や入金、お届けなどのデータです。お客様の行動の
事実が中心になります。中心はお客様の行動になりますが、付随して
自社でどんなアプローチをしたからそうなったのか、或いは他社のアプ
ローチはどうなのかという情報が必要になってきます。

企業に入ってくるデータはある種のフィルタのかかったものであるとい
うことです。競合と自社の実施したアプローチの結果を反映したもので
あるからです。広告があり品揃えがあり、購入・入金・クレーム・追加
生産・物流などのデータが関連してくるのです。データは一連の流れに
なっています。背景を考えない現状把握は危険を伴います。

また現状の把握では、平均でなく分布で考えることが必要です。お客様
や商品は一様な変化をしている訳ではありません。平均購入金額が1万
円だったとしても、全てのお客様に1万円のお買い上げをいただいてい
る訳ではありません。3千円のお客様もいれば10万円のお客様もいる
状態での平均1万円なのです。平均だけに頼って次の施策をするのは
大変な危険を伴います。消費は多様化していると言われます。まさに
その通りで、分布を把握しながら見込みのある部分を探しながら施策を
考える必要があります。昔から変わらない真理であって言葉は悪いです
が、魚のいるところに投網を打たなければいけないのです。もし平均1
万円の購入だとしても、7千円の購入と1万5千円の購入という二つの
層が多いのであれば現実に即した施策を打つ必要があるということで
す。購入金額によってポイントを付ける場合にも、このような分布を
観察することが不可欠なのです。私が実施したクーポンでもクーポン額
の計算に段階を付けました。これは実際に、ある層のお客様の底上げを
するためでもあったのです。

2.2.予測をする
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現状の把握から直接計画策定に進む訳ではありません。変化を考えに
入れないと後手を踏むことになってしまいます。現在の売上は小さな
商品であったとしても、非常に高い伸びのある商品であれば更に大きな
需要があると考えるのが普通でしょう。或いは長期の天気予報が予め手
に入るならば、使わない手はありません。繰り返しますが、私達は常に
将来の土俵で勝負するのです。これから直面することは誰も経験した
ことのない事態なのです。販売にしても生産にしても単純な繰り返しと
いうことはあり得ません。常に変化に自分を合わせながら、なおかつ
社会に対して実験をしていくことが大切になって来るのです。

前述のように企業に入って来るデータにはフィルタがかかっています
し、ほんの一部分の可能性しか観察することが出来ません。やったこと
のない施策の成果を分析予測することは出来ないからです。ですから、
変化を追って可能性を類推するだけでなく、積極的にテストをしかける
ことが必要になって来ます。データを分析するにしても結果としての
データを対象にするだけでなく、計画的にデータを入手する必要が出て
きます。そうでなければ未知の分野を予測することは不可能だからで
す。

予測というのは当らないことが前提です。どんなに予測精度が高くても
100%確実ということはあり得ません。もしも100%確実であれば、既に
予測ではなく事実なのです。極論を言ってしまえば、企業活動では予測
精度を上げることは目的にはなりません。90%の確率で予測できても50%
の確率であっても、当らない場合があり得るのです。全ての投資をそこ
に注ぎ込むことは出来ないのです。外れた場合のことを常に考慮に入れ
て事業を運営する必要が出てきます。精度を上げることよりも先に、
リスクを計算することや最悪の場合の対処を考える必要があります。
以前にも申し上げたことですが、1回の施策で勝負が決まるような戦い
は避けなければならないのです。

未来の土俵を考えて推測しリスクを考える、ここから初めて計画立案が
出来るのです。

2.3.コントロールする
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現状を把握して未来を予測したら最終目的のコントロールになります。
本来、企業活動の目的は現状を把握することでもなければ予測をする
ことでもありません。効果的な施策を打って企業業績を上げることが
目的です。コントロールと言っているのは、積極的に未来を変えること
を意味しています。ある商品の売上が下がることが予測出来るならば、
対応策を立案して実施していかなければなりません。価格を変えてみる
とか違う商品を用意するとか施策は色々でしょうが、未来を変えるため
の仮説を作るのです。未来を変えるための計画はあくまでも仮説です。
これも100%断言出来る方法はない筈です。仮説から実施策に落して、
検証をしていきます。検証をしながらより良い方法を探っていくことに
なります。

未来を変えるためには様々な計画を作り、その効果を試算する必要が
あります。一番効果のありそうなものを選ぶためです。同様に大切な
ことは効果を検証しながら修正を加えていけるようにすることです。
予め試算をすることは重要ですが、必ず成果があるとは言いきれませ
ん。ミサイルの照準を修正するように、実際に行動しながら微調整して
行く必要があります。企業側からアプローチを行いながらコントロール
していける体制を作る必要があるのです。

3.分析の種類
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以上のようにデータを活用して企業業績を上げるためには、一連の流れ
が必要になって来ます。データ活用自体の考え方と言っても良いでしょ
う。このようなグランドデザインなしにいきなりデータを集めて分析を
始めるのはあまり効率の良い方法とは言えません。どんな変化を捕まえ
たいのか、企業側でどんな施策を採ることが出来るのかが分からなけれ
ば、必要なデータも分からないからです。
それでは実際にデータを分析するにはどんな考え方があるのでしょう
か。方針を決めるための分析とコントロールするための分析に分けて
考えてみましょう。

3.1.方向性を探る
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データを追うことの第一の目的はどんな変化があるのかを把握すること
です。現状を把握して予測するプロセスでの分析です。現在の状態を
正確に把握することが大切ですが、その変化も検証する必要がありま
す。売上の状態を観察するにも、どんなお客様の構成になっているのか
或いはどんな商品の構成になっているのかが必要です。お客様を明らか
にするには年齢や地域などの属性だけでなく過去の購入履歴が重要に
なります。データベースマーケティングの場合にはお客様の実際の行動
が一番確かなデータなのです。時間の流れに沿って次のような期間を
考えてください。

    A期間      B期間      C期間
−●−−−−−−−−●−−−−−−−−●−−−−−−−◆→時間

現在が◆のところだとすると、B期間のお客様の購買状況でお客様を
識別します。B期間に2回購入したお客様とか、B期間にキャンペーン
商品を購入されたお客様などの識別です。お客様を識別した上で、次の
C期間での購買状況を調査します。過去にキャンペーン商品を購入した
お客様は売上が上がったのかとか、取り引きが無くなってしまったのか
というような調査です。B期間の購買状況とC期間の販促状況+C期間
の購買状況を使って、購買の因果関係を分析します。そして特徴を抽出
するのです。
更に変化を見るのであれば、B→Cの因果関係を調べたようにA→Bの
因果関係を調べます。A→BとB→Cの因果関係を比較することで変化
を読み取ることが出来ます。

以上の内容は顧客についての分析ですが、商品についても期間の特徴と
時間による変化を調べることに変わりはありません。データベースを
使うには時間軸の考え方が非常に大切になります。

3.2.効果を測定する
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もう一つの分析は効果測定です。テストマーケティングの結果を分析し
て効果を測定するのです。FSPでポイント制度を取り入れるのなら
ば、導入前後の経費と売上、利益を測定します。或いは実施した場合の
データとわざと実施しない場合のデータを比較します。効果測定はコン
トロールのために必要になります。試算をするためと微調整をするため
には効果を把握する必要があるのです。

RFM分析やFSPの施策をする場合でも効果を測定出来なければ意味
はありません。教科書の通りにRFMのセルを分けたり、FSPの条件
を決めても未来を良い方向に変えることにはならないのです。効果を
測定しながらその企業にあったRFMの付け方やFSPの施策を作って
いかなければならないのです。効果の検証が出来ない分析など経費を
掛けるだけ無駄なのです。常に効果を検証することを念頭に置いて施策
を実施しなければなりません。実施計画を立てただけで効果の測定が
出来ないものは本当の計画ではありません。ただの博打に過ぎないの
です。

もう一つ大切なことが検証の対象期間です。単発の販売についての効果
を検証するのか、お客様の定着率を上げたかどうかの検証なのかで対象
期間が変わって来ます。バーゲンをすることで短期の売上を上げること
が出来たとしても長い目で見て、通常展開時の買い控えを起こすので
あれば何のための施策だか分からなくなります。評価の基準をしっかり
持たないと本当の効果を量ることは出来ないのです。

4.データ活用の対象
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データ分析の活用対象として二つの分類を挙げておきたいと思います。
マーケティング施策に利用することを前提にお話を進めて来ましたが、
それだけでは片手落ちになります。マーケティング施策の立案とともに
マネジメントへの活用がなければならないのです。

4.1.マーケティング
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マーケティングへの活用は施策の立案と効果の測定です。ある商品の
売上が落ちてきているので、販売価格を変えるなどの施策です。現状の
分析を行い、可能性の高い方法を選択し試算を行います。実際に実施を
してみた上で効果を検証して、施策を調整して行きます。施策自体が
効果のあるものだったのか、或いは効果の程度はどうかといったことを
検証していくことになります。

4.2.マネジメント
==========

分析のもう一つの側面は業務の流れの中でより良い対応をするための
ものです。通常業務の中でも予期しない状態は必ず起こります。予期し
ない状態になった場合にどんな対応を採るか決定するための分析です。
予め業務の指標を作成しておくことが必要になります。流れとしては、

●業務を評価する指標を作成する
●企業側で可変に出来ることを決めておく
●判断するための基準を設ける
●日々指標の管理を行う
●例外が起こった場合に警告を上げる

というものです。マーケテイングに活用する分析が非定型なものである
とすれば、マネジメントのための分析は日常的、定型的なものです。
マーケティングへの活用は派手に見えるので取り上げられ易いのです
が、実際にはマネジメントへの活用の方が実利があります。データ活用
を採り入れるならば、マーケティングだけでなくマネジメントを意識
する必要があります。マーケティングへの活用に比べるとこまめな対応
になります。コールセンターの稼働率をチェックしてお客様の掛け直し
を防ぐとか、欠品をチェックして発注量を変えるなどの決定を行いま
す。データを企業活動に活用するためにはマネジメントとの係わりは
避けて通れない問題なのです。

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今週のお勧め書籍:日本資本主義の精神(山本七平氏)
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今回はどんな本にしようかと思いましたが、論理の組み立ても面白く
商売の考え方としても興味深いこの1冊を選びました。鈴木正三や石田
梅岩の思想に触れていますが、実際に使えることを考える上でとても
参考になります。

今週のキーワード:予測
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いくら過去の経験や知識があっても、将来を予測出来なければ実際の
社会で使うことは出来ません。予測をするためには三つの観念が必要だ
と思います。

●時間の観念
●自他の観念
●仮定の観念

の三つです。時間の観念とは、現在だけでなく将来に渡る予測でなけれ
ばいけないということです。自他の観念とは、自分のことだけでなく外
の世界のことを予測出来なければならないということです。仮定の観念
とは、現在の前提を覆すことが出来なければならないということです。
多彩な予測や試算が人間の判断を豊かなものにしているのではないで
しょうか。

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作:発行/岩瀬 理(osamu iwase)

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