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久しぶりに、買い物にでも行くかな。
休みの予定を立てながら、桃城はランニング中、チラッと後ろの方を見る。ちょっとペースを落として横に並んだら、気がついて、リョーマが視線を上げた。
「今度の休みな、買い物とか、行かねぇ?」
軽い感じを装って尋ねると、リョーマはちょっと考えるような顔をして、それっきり。
…ま、ダメもとだったし。
しょうがないかと思いつつ、ランニングを終えてコートに向かおうとすると、トンと背中を突付かれて、
「どこまで行くんスか?」
聞かれて、一瞬思考がついていかなかった。何のことかと疑問を浮かべると、リョーマはちょっと眉を寄せて、行くんでしょ?と言った。
「買い物」
この後輩は本当に不意打ちが得意で、時々、心底焦る。
「…どっか、行きたいトコあんのか?」
「別に」
目的はないけど、別に一緒に行ってもいい。と、そういう事か?
都合よく解釈して、顔が緩んだ。
「どこでもいいのか?」
頷く姿に、こんなに浮かれるのもおかしな話だと思うけど。
駅で待ち合わせて、電車に乗って出かける。
流石に日曜日はどこも人が多くて、電車の中ももちろん例外じゃなかった。満員というほどではないが、身動きすれば隣の人に当たってしまうくらいには窮屈な状態で。
しばらくの辛抱と思いつつ、窓際に二人で立った。いかにもうざったそうな顔をしたリョーマに苦笑して大丈夫かと声をかけると、不機嫌ながらも小さく頷く。
特に会話も無く、時間が過ぎるのを待っていると、耳にキンと来る笑い声。見ると、近くの座席に女の集団。見た目そこそこおしゃれで可愛いが、大声で話すその声は、耳障り以外の何者でもなかった。
あー…うぜー……。
…と、声に出して言えれば、どんなにすっとする事か。しかし余計な波風を立てることも無いと思った矢先に、更にけたたましい笑い声。
と言うか、既に奇声。なんかヘンな生き物の鳴き声。
…うるせーっつーのっ!!
思わず言いそうになった時に、ぐっとTシャツの腹の辺りを掴まれた。
視線を落とすと、それはリョーマの手で。俯いて、窓の外をじっと見つめている顔は、真っ青だった。
「越前?」
呼びかけると、シャツを掴む手に、更に力が入った。額を窓に押し当てて、目だけ、ちらっと桃城の方を見た。
「…気分、悪い…」
既にかなり顔色が悪い。桃城は焦って、背中を摩ってやる。
「大丈夫か?!」
答えず、桃城のTシャツを掴む手がぐっと八つ当たりぎみに引っ張られた。
「次で降りるから、もうちょっと我慢しろ」
凭れてろと言って、体を支えてやる。意識するといつもよりも電車の揺れが激しいような気がしてきて、いらいらする。
下手に口をきくとまずいかと思って黙っていると、駅までの時間がどうしようもなく長く感じた。
ドアが開いたと同時に外に連れ出して、傍のベンチに座らせる。
「越前、深呼吸」
背中をさすってやりながら言うと、リョーマは何度か深く息を吸って、吐いてを繰り返した。
少し落ち着いたのを見て、ほっとする。
「ちょっと待ってろよ」
桃城は走って自動販売機まで行くと、缶のウーロン茶を手に戻って来た。
開けて手渡してやると、リョーマは少し口に含んでから更に二口ほど飲んで、やっと少し楽そうに息をついた。
スンマセンと小さく言うのに桃城もほっとして息をつく。軽く背中を摩ってやりながら、大丈夫か?と繰り返した。
「乗り物、苦手なのか?」
乗り物酔いしやすい性質の人間は、何に乗っても大抵ダメだ。だとしたら電車で出かけたのは悪い事をしたなと思って顔を見ると、リョーマは眉間に皺を寄せて、重い溜息をついた。
「なんか、人がいっぱい居ると…」
うるさいし、暑いし、うざい。と、うんざりしたように呟く。要は混んでるのが苦手らしい。
それでやっぱり、近所にしとけば良かったなと思って、桃城は溜息をついた。まあ、桃城でさえあれだけいらいらしていたので、乗った車両の運も悪かったのだが。
まだ顔色の悪いリョーマに溜息をついて、もっとスッとする飲み物ってないかなともう一度自動販売機に向かおうとしたら、
「おっ」
ぐっと腕を掴まれた。見上げてくるリョーマの目が、いつもより若干心細そうに見えたのは、まあ、しょうがないだろう。
「どこ、行くんスか?」
弱ってる時は随分しおらしいなあと思って、ちょっと顔が笑ってしまう。それを見て不機嫌そうに眉を歪めると、腕をつかんでいた手をぱっと離した。
それにまた笑いながら、桃城はリョーマの頭を軽く撫でる。
「飲むもの、それで良いか?他のヤツが良いか?」
ファンタとか。
流石に今炭酸を飲む気にはなれず、リョーマは首を振った。
それを見て、桃城は隣に腰を下ろす。凭れて良いぞと言われて、リョーマは桃城にちょっと背を向ける形で大きい肩に体重をかけた。
その状態でしばらくボーとした頃、リョーマがボソッと呟く。
「先輩、買い物…」
「あぁ」
桃城が言われて思いだした様に声を上げる。
別に特に欲しいものがあったわけじゃなかったから、何の問題もなかったので。
「また今度」
それにリョーマは、ふーんと返す。
「…今度は」
ぼんやりした口調に桃城は顔を見ようとして、凭れているリョーマを思いだし、止めた。
「もっとすいてる日にしましょうよ…」
うんざりした呟きは、桃城にとっては唐突だった。だから、一瞬言葉が出なくなってほんとにコイツは不意打ちばっかりしやがってと心の中で悪態をついて。
じわっと自分の耳が熱くなっているのを自覚する。
込み上げる昂揚感を噛み殺しながら、今度は、な。と返した。
その後、さらにしばらくの間二人でぼーっとして、それから家に帰った。
また、今度。そう言って、一緒に出かける約束をした。
そんな事でこんなに浮かれるのも、本当におかしな話だと思う。
解ってるけど、浮かれた。コレばっかりは、しょうがないだろう。
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