桜も咲き出した、ある春の日。
外では太陽が輝き、澄んだ綺麗な青空が広がっている。
鳥が鳴き、蝶が舞い、花が蕾を開いていく。

そんな、ほんわかとした春独特の雰囲気の中、
ウューク学園男子高等学校学生寮は、やけに慌しかった。
それもそのはず。
本日、3月31日は年に一度ある学生寮の、部屋替えの日。
寮自体が替わる人もいれば、部屋を隣りに移動するだけの人もいるし、
二人部屋から一人部屋。その逆の人もいて。
二人部屋でも、ルームメイトの替わる人。その人によって様々。
部屋の場所は指定できないけれど、一人部屋、二人部屋の
選択権はあり、ルームメイトも選ぶ事ができる。
後、引越し作業は『術の使用禁止』だ。
禁止されている理由は、使うほどの事ではない為、
ということになっているが、平たく言うと
『楽をするな!』ということである。
『術の使用禁止』な為、作業は大変だが、
楽しみにしている人がほとんどである。


そして彼らも、『楽しみにしている人』の中に含まれている。






だだだだだだだだ

「ふ―――――じっ!!大変だにゃ〜!」
「どーしたの、英二?」
えらく困った顔で不二の部屋に入ってきたのは、
一年間ルームメイトだった、菊丸英二。
「あれ!あれが無いんだけど、不二知らない!?」
「あれ、って・・・・・・大石とおそろいのカップ?
 それならリビングのテーブルの上に・・・・・・・」
「それはもう入れた!」
「じゃあ、大石に貰ったタオル?」
「ちっが――う!」
「・・・・・・・・・・・あぁ、大石のシャツなら、
 昨日英二がたたんでソファーの上に・・・・・・」
「そーだった!ありがとにゃ、不二!」
にぱ、っと笑うと駆け足で出て行った。

それを見て、不二は楽しそうに微笑み、自分の荷造りを続けた。






二箱詰め終えたところで、不二はその箱を持ち、自分の部屋を出た。
「英二。僕、荷物を次の部屋に運んでくるから」
リビングで座り込み、荷造りをしている菊丸。
「んにゃ、りょーか――い」
そんなやりとりをして、不二は荷物をしっかりと抱え、廊下に出た。
不二の次の部屋は幸い同じ寮内だったので、
荷物が大分重かったが、あまり気にせず次の部屋に向かった。

が、

階段を二階分上がった所で、


「・・・・・・・・・・・重い」


荷物を置き、立ち止まっていた。

不二の次の部屋は同じ寮内とはいえ、その寮自体が大きい。
5階建てで、寮内が西館と東館に分かれている。
今までの部屋が東館の2階、東より。
次の部屋は西館の4階、西側の一番端。
ほとんど真逆の位置にある。

(さすがに、この2箱は無謀だったかな・・・・?)
箱の中には食器、本、教科書といった、重いものばかり入っていた。

(でも、部屋に戻る訳にもいかないし)

「・・・・・・・・ん、しょっと」
不二が荷物を持ち上げた瞬間、

「不二」

左側から、聞きなれた声。
不二は優しく微笑んで、その人の名を、呼んだ。

「手塚」

不二の、次のルームメイトである。
「それ、重そうだな」

そう言った手塚の手には、軽そうな小さな箱1つ。
華奢な不二は、重い大きな箱2つ。
何ともアンバランスな光景である。

「手塚はそれで終わり?階が同じだと楽でいいね。
 それに君って、荷物少なそうだし」
重い、と言ってしまったら、自分が手塚よりも非力なのを認める様で、
不二は話を巧く逸らした、

つもりだった。

「かせ」
「は?」
「その荷物」

「えっ?い、いいよ!これくらい、自分で持って行くから・・・・・・」
そう言っている不二は、明らかに無理をしていて、
「まだ他にもあるんだろう?俺は、これで最後だから、」

手塚は、そんな不二を放っては置けなかった。

「運んでおく」
「でも・・・・・・」
不二としてはここで引き下がるのは不本意だが、
手塚も全く譲る気は無さそうだ。
「・・・・・・じゃあ、お願い」
不二は、持っていた荷物を床の上に置いた。
「あぁ」
手塚は自分の持っていた小さな箱を不二の荷物の上に乗せ、
持ち上げようとした。
「あっ、手塚!それ、上の箱の中食器入ってるから、
 気をつけて運んでね」
にっこり笑って、不二は言った。
「・・・・・・・・・・・、どうしてお前はそう、無茶な運び方をするんだ」
手塚は、呆れたように言う。
「落としそうになったら、術でなんとかしようと思ってたから」
「無駄な事に術を使うな。第一、引越し作業においての
 術の使用は、禁止されているだろう」
「うん。だから使ってないでしょ?思ってただけだし」
「・・・・・・・屁理屈、だな」
そう言って、手塚は何の苦もなく荷物を持ち上げた。

(・・・・・・・・・やっぱり、ちょっとへこむなぁ。あんなに重いの、
 そう簡単に持ち上げられると)

「じゃあ、また後でね」
少し落胆していた不二だったが、
「不二」
「何?」
「部屋は奥と手前、どちらにする?」
そう尋ねた手塚の、目が、とても優しかったので。
「どっちでもいいよ。手塚に任せる」
不二は、どうでもよくなってしまった。
「わかった」
「荷物、よろしくね」
「ああ」
不二は、軽やかに階段を下りて行った。






「英二、準備終わった?」
「うん。不二は?」
「僕も終わったよ」
昨日まで物が沢山あった部屋が、嘘の様に綺麗になっていた。
机の上には何もなく、本棚も空っぽ。
ベッドにはマットレスしかなく、
開いてることの多い窓は、どれも閉じている。
「次にこの部屋使う人、遅いね。誰なんだろう?」
「知らない人、なんだろうにゃ〜」
食器棚に食器は一枚も無く、いつもなら洗い物が置いてある流し台は、
きれいさっぱり、何も、無い。

人の気配の、無くなった部屋。

「なんか、ちょっとさみしーね」
「そうだ、ね」

先刻まで、二人で暮らしてた部屋。
不二達が出て行ったら、そこから一年、
また誰かが暮らす。

「・・・・・・・・・・、不二」
「なぁに?」
「一年間、お世話になりました」
ぺこり、と頭を下げる菊丸。
「うん。僕の方こそ、料理教えてもらって、助かったよ」
ニコ、と笑った不二。


「「ありがとう」」


「・・・・・・・ふふっ。ハモっちゃった、ね」
「へへへ。さすが俺達、しんゆーだにゃ!」

そのまま少しの間、二人は笑った。
まるで、この寂しすぎる空間を、人の気配で埋めるように。


「ねぇ、英二」
不二は何か企んでる様な顔で、菊丸に話しかける。
「にゃに?」
きょとん、とした顔で菊丸は尋ねた。

「大石が、他人に構い過ぎで淋しい時は、
 いつでも僕の部屋に遊びに来ていいからね」
そう言って、楽しそうに笑った不二。

「不二も、手塚があんまりにも無口でつまんない時は、
 いつでも俺の部屋に来てよ。大歓迎!!」
菊丸も、にぱ。と、笑いながら言った。


大石が他人に構いすぎるのも、手塚が無口なのも、
そんなコトは、いつもの事で。


つまりは、


いつでも遊びにきていいよ。


と、いうこと。


二人にしか通じない、暗号みたいな会話。



「そろそろ、行こっか」
「そだね」
二人は、それぞれ最後の荷物を持つ。
「じゃあまたにゃっ、不二!」
「うん、またね。英二」
そう言って微笑み合い、不二は左へ、菊丸は右へ、
それぞれ歩き出した。






「手塚お待たせ。僕、これで荷物最後だよ」
「ああ。・・・・食器、全部俺がしまっておいたが、良かったか?」
「全然いいよ。どっちが入れても、違わないと思うし」
不二が部屋に入ると、自分の部屋以外はとても綺麗になっていた。
先刻とは違う、人の気配のある綺麗さ。
「手塚、もしかして僕の部屋以外、全部片付け終わっちゃった?」
「ああ」
「ごめん。僕、何もしてなくて」
手塚の方を見ながら、不二は自分の部屋に向かう。
「いや、構わない。手持ち無沙汰だったからしたまでだ」
「ありがとう」
不二はにっこり微笑み、そのまま自分の部屋に入っていった。


「よいしょっ、と」
持ってきた荷物を下ろす。
(さて。荷を開けて片付けないとね)
不二はまず、服の入ってる箱を開けた。
「不二」
開けっ放しのドアの向こうには、手塚。
「なぁに?」
「・・・・・・手伝おう、か?」
遠慮がちに、手塚が申し出た。
「えっ、いいよ。手塚、他の所全部やってくれたんだし、
 ゆっくり休んでて」
不二は「とんでもない」といった様子で、やんわりと断った。
が、
「いや。その・・・・・・不二がいないのに、俺一人で、休んでても・・・」
手塚は言ってて恥ずかしくなったのか、口元に手を当てて
不二から視線を逸らした。
手塚の言ったコトは、率直に言うと

不二と一緒にいたい。

という事で。
ぽろっと出てしまった本音に、手塚の顔は、少し、赤い。
「え。あっ・・・・・・そ、そう?なら、さ・・・・・」
つられて不二も赤くなる。
「それ。中に、入ってる物。適当、に、並べて、くれない?」
手塚の比較的近くにある、一番小さな箱を指さし言う。
「机の上に、2つ。窓辺に、2つ。ベッドの、サイドテーブルに、1つ」
「あ、あぁ。わかった」
ちょっとぎこちない二人。
手塚は部屋に入り、言われた箱を開けた。
中には、サボテンが5つ。
「不二。本当に、適当に並べていいのか?」
サボテンは、不二の大切なもの。
それを自分が勝手に並べてもいいのか?
と、手塚は思った。
「うん。手塚の好きに置いていいよ」
(君だから、任せてるんだよ?)
クローゼットに服をしまいながら、不二は言った。






「やっと一段落、だね」
あれから一時間半。
太陽が西に傾いて、赤くなりだしていた。
話しながら片付けていたので、随分と時間がかかった。
不二は紅茶の入ったカップを片手に立ち、
手塚はソファーに座っている。
「手伝ってくれて、本当にありがとね?」
カップをテーブルの上に置き、にっこりと不二は笑った。
「いや。気に、するな」
笑っているその顔が、とても綺麗で。
手塚は少し、動揺した。
不二にも分からない程度に、だが。
「お礼に今日は、僕が作るね。ごはん」
言いながら不二は、手塚の横に腰掛けた。
手塚は少し、困惑した様子。
「2年前は全然できてなかったけど、
 英二にちゃーんと教えてもらったから。
 味、心配しなくても大丈夫だよ」
ニコニコ顔で話す不二。
相当自信がある様だ。
「ああ、期待しておく」
そんな不二を見て、手塚も少し、笑って答えた。


こてん。
不二は頭を手塚の肩に凭れ掛けさせた。

サラ
手塚が不二の髪の毛を手で梳く。

二人とも、静かに目を閉じている。



幸せな、沈黙。



「不二、」
それを破ったのは手塚。
「今年一年、よろしく頼む」

「・・・・・・・・一年間、だけ?」

そう尋ねた不二が、手塚には淋しそうに見えた。
もちろん、あまり直接的なことを言わない手塚を
困らせる為に、不二はわざとやっているのだが・・・・・。

「そんな訳ないだろう」

手塚は不二の左腕を掴んだ。


(長い時間をかけて、やっと捕まえたんだ)


「この先、ずっとだ」

言い終わってすぐ、手塚は掴んでいた不二の左手を
自分の口元に持って行き、薬指に

ちゅ

キスをした。

「!・・・・っな!?手塚、どうしてそれっ・・・・・」
「大石に聞いた。お前たちの故郷では、誓いの印だ、と」
手塚は、得意そうに言った。
「・・・・・・・・・・もう、大石。いらない事教えて・・・・」
そう言った不二の顔は、ほんのりと赤かった。
「あれだけ何度もされれば、聞きたくもなるだろう」
赤くなった顔を隠そうと不二は手塚に抱きついた。
「手塚」
「何だ?」

「今の誓い。絶対、破んないでね」

不二は、おもちゃを取られまいとする子供のように、
手塚を強く、強く抱きしめた。



「破っちゃ、や。だから、ね・・・・・・・・」



「当たり前だ」

手塚はぎゅっと、腕の中の恋人を、抱きしめた。




珍しい、手塚の積極的な態度に
不二は驚きながらも、素直に嬉しさを感じた。


「・・・・・・・・・・・・・・手塚」

「ん?」






「だぁーい好き」






そう言って不二は、花がほころぶ様に、笑った。
塚不二、3年になる前のお話。

あっま〜。
私的塚不二は、二人きりになると甘々になるんですが、
それにしたって、甘くない?
今回、手塚がめっちゃ、不二くんに優しいですね。
たぶん、マイ設定で、手塚の方が独占欲強い所為だと
思うのです・・・・・・・・・。


そしてどの話にも言えることなんですが、

伏線多すぎ!!

読んで下さってる方が理解するためにも、
早く小説書かないと・・・・・・。
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