| 「・・・・勝者、不二周助!」 そんな声が、遠くから聞こえてきた。 ―あぁ。やっと・・・― 「・・・・な!?俺の『石』が無いっ!?」 「ここだ」 そう言って、俺は左手に持っていた『石』を上に放り投げた。 ―やっとお前と― 「くそっ!!」 取り返そうと、走って突っ込んで来る相手。 だが・・・・・ 「遅い」 ヒュッ! パキ・・・・・ッ 相手が俺の所に辿り着く前に、俺の剣が『石』を壊した。 「第五学年Bブロック準決勝、勝者、手塚国光!」 勝敗がつき、試合相手と握手を交わして、俺は歩き出す。 ―やっとお前と戦う事が出来る― 「・・・・・・・不二、周助」 アイスブルーの瞳に、綺麗な亜麻色の髪。 女の子のように見えてしまうのは、 いつも微笑みを絶やさない柔和な顔と、 腰の辺りまで伸ばしている髪の所為だろう。 術具は水晶球。 攻撃型は遠距離。 戦うにあたって注意すべき点は、 生半可な攻撃では破ることが出来ず、 どんな死角から攻撃しようと 自動的に導師を護る特殊能力。 「オートガード」 中でも不二が使うのは、 「タイプ・ランパート」 と呼ばれるものだ。 ランパートは防御力がかなり高いが、 その分、氣の消費が他のタイプよりも多い。 故に、戦闘中にはあまり使用されないタイプなのだが、 不二は、戦闘の最中にこれを解いたことが無い。 唯一、あるといえばそれは、 負ける時。 『石』を狙った攻撃に対してのみ、オートガードを解く。 それ以外の攻撃では絶対解かず、 相手を攻撃する事さえしない。 試合が始まる前から決めているのだ。 負けよう、と。 オートガード・タイプ・ランパートを発動させたまま、 余裕で勝つだけの素質と技術がありながら、 わざと負ける。 更に言えば、これだけの事が出来るなら、 オートガードを発動させない方が 「戦い」としてはもっと面白いものになるだろう。 実際、『影』と戦う時に、こんな戦い方はしないと聞く。 つまり彼は、 本気で試合をしたことが無いということだ。 不二が、試合において本気にならないことは、 広く知られている話だ。 ある程度以上の相手になると、大抵、あっさり負ける。 戦った相手の名前を覚えていない。 実力がありながら、生徒同士の試合には興味が無い。 そういう人物なのだ。 俺が戦うことを望み続けた相手、 不二周助という人間は。 (俺は、あの時から・・・・) 脳裏に浮かぶのは、柔らかい陽射しの中で 草花に守られるように佇む、淡い後姿。 (この日のために強くなった) これを出会いにするために。 「両者、準備はよろしいですか?」 10m程離れて俺と不二は向かい合っている。 その中央辺りにいる審判。 不二は首にチョーカーの様に、 俺は飾りベルトの様にして、 鉢巻状の布に付いた『石』を結び、 「「はい」」 返事をした。 風が吹いたが、二つに括られている 不二の長い髪は、微動だにしていなかった。 その上、表情が無い所為か、彼はまるで ガラスケースの中の人形のように思えた。 「それでは、第五学年Bブロック決勝戦、 手塚国光対不二周助・・・」 待ち続けたこの時。 (俺は、絶対に・・・) 「試合、始めっ!!」 (勝つっ!!) 言うと同時に審判は後ろに下がる。 ダッ! 俺は、それと全く同じタイミングで 不二に向かって駆け出し、左手に氣を集め術を編む。 不二に、動く気配は無い。 俺は走りながら、左掌に出来上がった拳大の光球を、 不二の足元目掛けて投げた。 ドオ―――ン!! 俺はそのまま爆風に突っ込む。 普通なら、その先にいるはずは無いのだが、 オートガードに護られている不二は、 避けることをする必要が無い。 (だが、この試合、きっと不二は・・・・) 土煙の向こうに、うっすらと人影が見え、 俺はその真横目掛けて跳んだ。 ザッ! パシッ 俺は着地のしゃがんだ状態から、伸び上がり様に 左手で不二の『石』を握った。 (この試合、きっと不二は負けるつもりだ) それは俺に、ある程度以上の実力が有るから。 そして、案の定、不二の『石』にあっさり触れることが出来た。 不二は、『石』に触れているのに壊さない俺を、凝視している。 (まずは、うまくいったか) 「お前はこんなものなのか?」 (だが、まだまだこれからだ) 「もっと強い筈だろう」 (なんとしても、成功させる。その為に、強くなった) 「本気を出せ!!」 (本気のお前を倒すために!) すると、不二の髪が風に僅かになびいた。 俺にはそれが、やけに印象に残った。 それと同時に、それまで人形の様だった不二が、 俺の言葉に、不敵に微笑んだ。 そして、 「だったら、その気にさせてよ」 その言葉を合図に、俺は『石』から手を放して後ろに跳び退き、 俺も不二も、自分の宝石を中心に氣を集め、術具を具現化する。 不二は、ある程度以上の相手でも、負けないことがある。 それは、「挑発」された時。 挑発した者の中で、不二に勝った者はいない。 挑発に乗った不二は、相手を完膚なきまでに叩きのめす。 それは、挑発をする相手が、不二の実力を 見極めるだけの力が無い者である所為なのだが。 不二の実力を見極めるだけの力がある者で、 わざわざ不二の本気を引き出し、 本気の不二を倒そうとするものは、まずいない。 不二が、試合に興味が無いのを知っているからだ。 それを、手加減している、などと言って不二を挑発する輩は、 たいした実力を持っていない。 だからこそ、俺はこの方法を選んだのだが・・・。 (そろそろ、行くか・・・・!) 少しの間、睨み合いを続けていたが、俺が先に動いた。 左手に剣を持ったまま、両手を左脇に構え、氣を集めながら、 タッ! 先程と同じように、不二目掛けて走る。 不二は、直径15cm程の水晶球を両手の間に浮かせ、 胸の前に構えて目を閉じる。 フッ・・・・ と、不二の周りの氣が強くなった。 オートガードを強化したのだろう。 俺は両手の間に出来上がった、先程よりも大きな光球を、 不二に向かって放った。 瞬間、不二はまたも不敵に微笑む。 そして・・・・ ふわっ・・・! オートガードの範囲が広がった。 俺の放った光球は、不二の所へ辿り着く前に オートガードに阻まれ、 す・・・っ 差し出された不二の右手が誘導する侭に、 俺の放った術は、360度巡らされたオートガードの外側を、 緩やかに、時計回りに滑る。 そして、俺の術に不二の氣が次第に入り込み、 不二の術になって行く。 ひゅっ! 不二に向かって走る俺に、不二の右手が向けられ、 俺が作った時よりも大きな光球が、俺に飛んで来た。 しかし、俺もただ黙って見ていたのでは無い。 右掌に、術は完成している。 ザッ!! 普通は避けるところだが、立ち止まり、 迫り来る光球を真っ直ぐ見据える。 不二は、こちらをしっかりと見ている。 俺が、何をするのか。 (今だ・・・!!) 右手を前方にかざすと、同時に、光球が俺の手に触れた。 サァー・・・・ッ 爆発するはずの光球は、俺が触れたところから 混ざり合っていた俺の氣、不二の氣、自然の氣が それぞれに分離し、輝きを失い、塵となって空中に溶けていく。 「三源術、破壊・・・・・・・?」 まさかこんな大技を、この程度の試合で使う訳が無いと 思っていたのだろう。 不二は、驚きに目を見開き、呟いた。 そんな不二に、俺は悠然として言い放つ。 「本気のお前と戦いたいのだから、」 不二を、真っ直ぐ見据える。 「俺も本気を出すのが当然だろう」 サァ―――・・・・・ 風が、俺と不二の間を通りすぎた。 |
|
| 二人の「出会い」のお話です。 まだ、お互い10歳です。 これで、なんとなく、「あぁ、戦うってこんな感じなんだ」 とか、理解できたら良いのですが・・・・。 続きます。 |
| novel | next |