| 初めて本気を出して、負けて。 悔しくないなんて言えば、嘘になる。 でも、それ以上に、 わくわくして、ゾクゾクして、楽しかったんだ。 初めてだった。あんな感覚。 だから僕は、今日の試合を忘れない。 キミを忘れることなんて、できない。 「ふじ―――っ!」 庭の丘の上にぽつんとある、大きな木の下で 両手をおもいっきり振って僕を呼ぶ、赤髪の少年。 「英二!」 呼び返して、僕は英二の元へ駆け寄った。 「ごめん、お待たせ」 着けばそこには、 「不二、お疲れ」 さっきの場所からは見えなかったが、もう秀もいた。 「おーそーいーっ!!もうオレ、おなかペコペコ〜」 今日、僕ら3人はこの場所で、一緒に昼食を食べる約束をしていた。 「英二。不二は試合があったんだからしょうがないだろ?」 秀は優しくたしなめるが、 「だって!!今日はオレ達、初の公式試合なのにハラペコで 負けました〜。にゃんて、絶対ヤだろっ!」 「英二・・・・」 情けないことを力説する英二に、困り顔の秀。 ん〜、これは助けてあげた方がいいかな? 「でも、結構意外だね」 「えっ?にゃにが?」 「今日英二と大石のダブルスが初公式試合ってこと。 去年クラスが同じで、今年は術の授業が同じ僕としては なんか見慣れちゃってるからね。二人のダブルス」 「まぁ、英二と組むようになってから5ヶ月位は経つしな」 「それだけあれば見慣れもするっしょ」 互いに微笑み合って言う姿はほんわかしていて。 「ふふ。そうだね」 僕も思わず笑みが零れた。 「それじゃあお二人さん。今日の自信の程は?」 「それは」 「モチロン!」 「「全戦全勝!!」」 「息ぴったりだね。さすが」 ほんとに、さすが。と思える程、二人は頼もしく見えた。 「あったりまえー!って、不二はどーだった?」 「ん?何が?」 ダブルスの話してたのに、僕? 僕、ダブルス組めるような人、いないけど。 「午前中のシングルスの試合に決まってるだろーっ!」 ・・・・・・・・・・・・・・。 「ああ、そのこと」 なんだ。主語がなかったから何かと思った。 「ああ、じゃないって!どーだった!?」 「決勝戦で負けたよ。でも・・・・・」 「もう、不二!」 言い終わる前に、何故か英二に怒られた。 「どーしてそー、いっつも!わざと負けんのかにゃーっ!? 不二強いのに、出し惜しみはよくなーいっ!」 うーん、これは止めた方がいいかな? 終わるまで待ってると長そう。 「ちょっと英二、人の話は最後まで聞いてよ」 「へっ?」 「負けたけど、いつもみたいにわざとじゃないよ。 真剣に、勝負しました」 「・・・・・・・・マジで?」 余程意外なのだろう。英二は目が点。秀は・・・・・・・。 さっきまでの笑顔じゃない。 真面目な顔。 「大マジだよ」 英二に合わせた言葉で、にっこり笑って言った。 それをきっかけに、僕と英二は笑い合った。 でも、秀は変わらない。 『真剣勝負』 この言葉が、僕にとって、どういう意味を持つか。 知っているから。 「なぁ〜んだっ!よかったぁー」 秀の様子には気付かず、英二が安堵のため息を吐いた。 「オレ、このまんまずーっと、不二が適当にしか試合しなかったら どーしようかと思った」 「どうして?」 「だって!不二が真剣に試合しないからって、 カゲで不二の文句言ってるヤツいるから!! もぉオレ、そんなの聞くたんびにどんだけむかついたかっ!!」 ぷりぷりという擬音が似合いそうな口ぶりと表情。 「不二のコト、なんにも知らないクセにぐちぐち言うヤツが 減るかと思うと、ホントせーせするにゃ!!」 「英二・・・」 僕のために色々なことを思ってくれてる英二。 僕は素直にそれが嬉しかった。 「さってとっ!おべんと早く食べよ〜」 言いたいことを言いきった英二は、楽しそうにお弁当を広げだした。 でも。 秀はまだ、何か言いたそうな目で僕を見ていて。 コラ秀。 そんな風に見てたら英二に気付かれるよ。 普段は気が利きすぎるくらいなのに、 僕のあれ関連のことになるといつもこう。 周りが見えてない。 まぁ、僕も早く秀に伝えたいのだけれど。 秀の欲する答えを。 でも、今言葉にすることはできない。 「大石」 だったら 「はさみ借して」 こうするしかない。 「えっ!?あ、あぁ・・・・・」 そう言って渡された、緑色のはさみ。 それを持って、少し離れる。 風を読んで、英二達の風下であることを確認したら・・・・。 ジョキッ!! 躊躇なく切った。 「なっ!ふじぃっ?!」 英二の驚く声。 静かに、風に乗って飛んでいく、僕の髪。 秀の目は、これでもかってくらい見開かれてる。 僕はさらに切ろうとはさみを開いた。 「ストップ、ストーップ!!」 いつの間にか駆け寄ってきた英二が、僕の手を押さえ込んだ。 「何?英二」 「それはこっちのセリフ!!不二こそ何してんだよっ!」 「髪切ってるんだけど?」 「何で急にここで切ってんのっ!?」 どうして自分の髪切っただけで英二に怒られてるんだろう? 「切りたくなったから」 「・・・・・・・・・・どーしても、今切んの?」 僕の髪のことなのに、何故か少し考えた後に再確認をする英二。 「うん。もう切っちゃったし」 「・・・・・わかった。切るのはいいけど、せめて、って言うか絶対! 俺が戻ってくるまで待っててよ!!」 「えっ?」 何それ?どういう意味?? 「いーい?ぜったいのぜったいの、ぜ―――ったいに、待ってること!!」 言うが早いか、返事を聞かず走っていく英二。 「不二ー!ぜったい切るにゃよ――!」 一度振り返ってそう叫んだら、一目散にどこかへ走って行ってしまった。 僕と秀は、その後ろ姿をただ呆然と見送った。 |
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| 全3話の予定が、4話になってしまいました。 いや、思ったより話が延びる延びる。 そして英二と大石が・・・・動かねえ!! 不二くんが何回、ブラックモードで暴走しそうになったことか・・・。 不二くんは手塚がいないと黒くなりやすいかも。 っていうか、 大石がいると、かも・・・・・。 |
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