| さっきまでの重苦しい空気は、英二の声で一蹴された。 そんなこととは知らない当の本人は、 誰かを連れて、こちらに走っていた。 誰だろう? なんて、呑気に考えていたのだが、 英二が引き連れてきたのは、驚くべき人だった。 近づいて来るにつれ、疑惑は確信に変わり、 僕は思わず声を上げた。 「てっ!手塚君っ・・・!?」 そう、僕が負けて、そして、選んだ人。 「不二・・・・?」 手塚君が不思議そうな顔で僕の名を呟いた。 「あっれー?二人とも知り合いだった??」 きょろきょろと僕と手塚君を見る英二。 「英二、知ってるも何も。 今日僕は、手塚君に負けたんだけど」 え〜!そうにゃの!? 僕は、そんな言葉が出てくると思ってたんだけど・・・。 「なんだって!!!!」 響いた秀の叫び。 「わっ!にゃんだよ、大石!!びっくりするじゃん!」 「あ。いや、その・・・・。何でもない」 秀・・・・。驚きすぎだよ。 「大石、俺が不二に勝っては何か不都合だったか・・・?」 少し訝しげに手塚君が口を開いた。 「いや、違う手塚!そういう意味ではなくて、その・・・・」 あれ? 「ねぇ、大石は手塚君と知り合いなの?」 「あ、ああ。友達だよ」 なるほど、そりゃあ叫びもするね。 秀がこうもあっさり『友達』なんて口にするとこみると、 仲良いんだ。手塚君と。 それなのに、知らなかったとはいえ、散々悪口言っちゃったもんね。 「それより手塚!不二の髪切ったげてよ!」 「不二の・・・?」 未だ不満そうな顔の手塚君の眉間に、さらに皺が濃くなった。 「この髪・・・・、どうしたんだ?」 そう言って手塚君は、何のためらいもなく 僕の不揃いな髪をすくい上げた。 「えっ、その・・・」 その仕草があまりに自然すぎて、訳もなく恥ずかしくなった。 「そーれーはっ、不二が自分で切ったのっ!!」 「本当か?」 「なんだよそれーっ!!オレの話がしんよー出来ないわけっ!?」 「うわっ!英二落ち着け」 「えぇ〜いっ!!止めるな大石ぃ〜〜!」 今にも飛びかからんばかりの英二を、 秀は後ろから羽交い締めにして必死に止めていた。 英二の声は聞こえませんと言わんばかりに 英二の方を見向きもせず、手塚君は僕を見つめている。 「あの、本当に、僕が切ったんだよ?」 「そうか。なら、いい」 そう言うと、僕の髪をすっと離した。 「それで、だ。菊丸」 ゆっくりと、英二の方に振り向く。 「何故俺が不二の髪を切ることになるんだ」 英二は自信満々に、あっけらかんと答えた。 「だって、彩名さんがじょーずだから!」 アヤナサン?? 「・・・・待て、どうしてそうなる?」 あ、眉間の皺増えた。 「彩名さんがじょーずなんだから、手塚もじょーずだって!」 手塚の様子なんてお構いなしに、英二は変わらぬ調子で、 羽交い締めされたまま手なんか振っちゃったりしてる。 「その根拠の無い自信はどこから来るんだ」 「親子なんだから、だいじょーぶだって!」 親子・・・・? 「散髪の技術は遺伝ではなく、どう考えても経験だ」 少し呆れ気味に手塚君が言った。 それから似たような、不毛な会話が進んだが、 僕がそれに割って入った。 「英二はどうして手塚君のお母さんのこと知ってるの?」 「ん?オレと手塚はねぇ〜」 「幼馴染み、というヤツだ」 「なんでオレのセリフ取るんだよっ!!」 そう言って英二は、また手塚君に飛びかからん勢いで怒った。 こんな偶然って、ある? 僕の幼馴染みの秀は手塚君と友達で、 僕の友達の英二は、手塚君と幼馴染み。 仕組まれたとしか思えないくらい、近くにいた君。 これじゃ、見つからないはずない。 君と出逢わない訳、ナイ。 君と出逢うのはきっと、運命的必然。 優しく、風が吹く。 楽しそうにお弁当を食べる、英二と秀の間を。 慎重な面持ちではさみを握る、手塚君の横を。 地べたに座る、僕の直ぐ傍を。 そして、僕の髪を攫ってく。 「手塚ぁ〜、調子はどう〜?」 「菊丸気が散る!話かけるな!!」 「・・・・・・そんな怒んなくてもいーじゃん」 結局、僕の髪は手塚君が切っている。 自分で切ろうとしたら、手塚君にせめて誰かに頼めと 止められて、期待してた手塚君がやらないと言うから、 こうなったら!と、英二が張り切ってやるって言ってくれたのを、 手塚君が問答無用で却下した。 どうやら前に、手塚君のお母さんがやっているのを真似て 友達の髪を切ったことがあるらしいのだが、 手塚君の口振りから察するに、そうとう酷いことになったらしい。 秀は、人に刃物は向けられないと拒否して・・・。 「不二、どうしても今切らなければならないのか?」 「うん。これはね、願掛けに伸ばしてたものなんだ。 でもその願いがもう叶ったから。でね、こういう類のおまじないって 叶ったら出来るだけ早く止めるのが鉄則で、 止めるにしても中途半端にしないで、 すっきりさっぱり、完全に止めないといけないんだ」 「・・・・・・・・やけに詳しいな」 「姉さんがね?こういうの得意なんだ」 「そうか」 「じゃあ自分で切るから、大石、はさみ貸して」 「・・・・・・・・・・・・・・・待て」 そんな訳で、手塚君が切ることになった。 手塚君は膝立ちの状態で、僕の髪を切っていた。 ジョキ、ジョキと、音が鳴るに連れて軽くなっていく僕の頭。 長さは、短くなればそれでいいから、手塚君に任せた。 と、音が止まって、手塚君が僕の髪を手櫛でとかし始めた。 「不二」 目を開けると、手塚君が立っていた。 目の前に差し出された手の間に水が集まってきて、 僕を映す鏡が出来上がった。 そこには、ショートカットよりは少し長めの髪の僕がいた。 「これでいいか?」 とても、子供が切ったような出来ではなかった。 「うん、すごくいいよ。ありがとう。手塚君、切るの上手いね」 「そうか?母の見様見真似だ」 言うと同時に水鏡は霧散した。 「うっわー!なんか別人みたい!!」 「へえ〜。手塚、上手いじゃないか」 いつの間にか英二と秀が側まで来ていた。 「二人とも、そろそろ行った方がいいんじゃない?試合場所」 僕の言葉に、時計を見て一声。 「ああ、そうだな。行こうか、英二!」 「おっけー!!」 顔を見合わせ、二人は駆け出した。 「不二〜!またあとでにゃー」 走りながら少し振り返って、手を振りながら英二が言った。 「英二ー大石ー!試合頑張ってー!!」 僕の言葉に二人は見合って頷くと、こっちに微笑んで パァーン!! ハイタッチ。 そのまま、二人は遠ざかって行った。 「ねぇ、手塚君。良ければ一緒に、二人の試合見ない?」 僕は手塚君の方に振り返って、とりわけ明るく尋ねた。 「ああ、構わない」 手塚君は、真っ直ぐ僕を見ていた。 真っ直ぐ、真っ直ぐ。 「あと、ね・・・?」 嬉しくて、自然に笑みが零れる。 「?何だ、不二」 「それ!」 「ん?」 「僕も手塚君のこと、呼び捨てにしてもいい?」 「・・・・?ああ」 なんだ、そんなことか?と言わんばかりの手塚君の・・・・、 ううん、手塚の表情。 「じゃあ行こっ、手塚!」 「!!」 僕は手塚の手を取って走り出した。 風が、軽くなった僕の髪と遊ぶ。 僕の心は、その風に乗って飛べそうな位、軽い。 お日様が暖かいけど、繋いだ手の方がもっと暖かく感じた。 僕からの突然の接触に、手塚が顔を赤くしたのを知っているのは、 ―――――風だけ。 |
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| 『風が見てる』終わりましたー!! 長かったです。初め予定してたより伸びまくって、焦りました。 え〜、『風が見てる』の2で手塚を呼んだ 友の声というのは英二だったのです。 この話で分かったことが1つ。 ウチの手塚は英二が絡むと良く喋ります。 幼馴染みって、そんなものなんでしょうか? |
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