心地良い風。木々を通り抜け、柔らかに射す陽射し。
僕は木に寄り掛かって、手塚は僕の膝枕で。何も話さずただ、そこにいた。
僕は目を閉じて、少し遠くなってしまった、学生時代を思い出していた。









学校にも、ここに似た場所があった。そこでもやっぱり、手塚と二人でいた。


あの頃は目まぐるしく、けれど、とても楽しい日々を過ごしていた。
秀も、英二も、みんな一緒に。

学校という、閉鎖された空間で。

今、考えると、世界と少しずれていた様に感じる。。
それくらい、優しい、平和な空間だった。


まるで、夢みたいに。




今は、あの頃よりも穏やかでゆっくりとした、
それでいて現実感のある日々を送っている。
旅をする、なんて初めての事だから、色々大変な事もあったし、
職業柄、怪我をする事もあった。
それでも、僕は、手塚の側にいられるだけで、幸せだった。
もちろん、今も・・・・・・・幸せ。
そんな自分の幸せを改めて確認してしまうと、



手塚は、どうなんだろう・・・・?



なんて疑問が、当たり前ながら浮かんできて。
手塚はあんまり言わないからね。
すき、とか。しあわせ、とか。


僕にはよく聞くくせに・・・・・。


大切だ、とか。そばにいる、とか、
間接的な事は時々言ってくれるんだけど、ね。
僕が聞きたい肝心な事は、いつも、言ってくれない。



「ねぇ、手塚」



呼びかけて、愛しい人の頭を撫でた。
緊張して、少し手が震える。
こういうコト、聞くのはなれてないから。




それに、否定されるのが・・・・・・・コワイ。






「・・・・・・・手塚は、僕とこうしていられて、幸せ・・・・・?」



できるだけ、いつも通りのトーンで問いかけた。



そんなことしても、きっと僕の考えてる事なんて
手塚には全部お見通しなんだろうケド・・・・。



なんて思いながら、手塚の返答を待った。









が、手塚の口から言葉の発せられる気配がない。




「・・・・・・・・・・・・手塚?」




そっと顔を覗き込むと・・・・・・・・・・・。










寝ていた。





もう!僕がなけなしの勇気でがんばったのに。

手塚の、ばか。



「寝ないでよ」



さっきまでドキドキしてた自分が、馬鹿みたい。


「もぉいいよ。僕一人でしゃべっとくから」



こういう考え事は、言葉にした方がまとまりやすいし。










「ねぇ手塚、」


右手で手塚の頭を撫でながら、僕はしゃべりだした。


「僕ね、手塚とこうして一緒にいられて、とても幸せ。
 傍にいられるだけで、本当に幸せなんだ。
 こうやって膝枕するのも、君は嫌がるけど手を繋ぐのも、
 君のとなりを、歩くだけでも。けど・・・・・・・・」


左手を、きゅっと握る。





「君は?」





サァ―――――――――




風が僕の髪と戯れ、流れて行った。





「君は、僕といて幸せ?僕は・・・・・・怖いんだ。
 手塚は優しいから、僕のこの力を哀れんで傍を離れられないんじゃないの?
 僕の言葉に縛られて、身動きが取れなくなってるんじゃないの?
 ・・・・・・・僕は、手塚が好き。傍にいられるだけで、幸せ。
 でも・・・・・・・・・・」





握ったままの左手に更に力がこもり、頭を撫でていた右手の動きが、止まった。




「でももし、僕が手塚を縛ってる足枷になってしまっているとしたら・・・・・。
 そんなの、いやだ。君には、自由でいてほしいから
 君を、束縛したくないんだ」



手塚を見ているのが少し辛くて、僕は目を閉じた。



「ねぇ手塚。君は、僕といて幸せ・・・・・・・・・?」






















「幸せに決まっているだろう」






ふいに言われた、返って来るはずのない、
問いかけの答え。



「えっ・・・・・・・・・?てっ、手塚っ!?」


慌てて目を開けうつむくと、手塚とばっちり目が合った。


「また、そうやって溜め込んでいたのか?
 不二の悪い癖だ」

そう言いながら、手塚はゆっくりと起き上がった。



「手塚・・・・・どこから、聞いてたの?」

あんまりいい予感はしないけど、聞かないことには
誤魔化し様がない。


「もういいよ。僕一人で・・・・・・って辺りからだが?」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。




「それって、ほとんど始めからなんだけど」
「そうか」
「そうか、じゃなーいっ!」


どう、しよう・・・・・・?それじゃ全っ然、誤魔化し様がない。






僕が聞きたかったのは、今、幸せかどうかってことで、
僕の、こんなぐるぐる考えてる事なんて、
絶対、聞かせたくなかったのに。







手塚、怒るから・・・・・・・・・。





「不二」




ビクッ


僕の体はその呼びかけに震えたけど、
真正面で僕の目を見て話す手塚の声は、
予想してたのよりも、ずっと優しい声色だった。


「・・・・不二。俺は、お前が、好きだ」





「えっ・・・・?て、手塚っ、急に、何言って・・・・・・」
「とにかく、黙って聞け。・・・・いいな?」


そう言った手塚の顔は、すき、なんて言い慣れない
言葉を使ったせいか、ほんのり赤かった。



でも、表情はとても真剣だった。


そんな顔して言われたら、




「・・・・・・・・・・・・うん」




って答える以外、どうしようもないよ・・・・・・・・・。


「・・・・・不二は、勘違いをしている。
 俺は、不二の力に同情なんてしてないし、
 まして、不二の言葉に縛られてなどいない」


滅多に聞けない、手塚のキモチ。


滅多に見れない、真剣でそれでいて
とても、ヤサシイ瞳。


「俺は、自分の意志で、不二の傍に居る。
 俺が、不二を選んだんだ。
 不二じゃないと、駄目なんだ。
 だから・・・・・・・・不安になるな」



言い終わると、ほぼ同時に手塚の腕が伸びてきた。



ぎゅ



「俺を、信じろ」





気が付くと、僕は手塚に抱きしめられていた。






えっ・・・・・・・?

・・・・・・・・・・・・・・・・うわぁっ、ど、どうしよう。
なんか凄い事、言われたよね・・・・?
手塚、普段こんなこと絶対言わないから、
僕、免疫ないよ?ほんと、どうしよう・・・・。






絶対、今、顔真っ赤だ・・・・・・・。






僕は恥ずかしいけど、とても嬉しくて、それを伝えたいんだけど、
真っ赤であろう自分の顔を見せるのは、
手塚の言った言葉よりも、もっと恥ずかしくて。


手塚の肩に、ぐっ、と自分の顔を押し付けた。



そしたら手塚は、僕の頭に手を添えてさらに強く抱きしめ、
耳元で、囁いた。




まるで、誓いでも立てる様な声で。




「この先、どんな事が起ころうが、俺が不二を好きなのは絶対変わらない。
 自由に、不二と共に生きて行ける今が、俺は幸せだから・・・・」




手塚は、急に僕の真っ赤な顔を肩から離し、
上の方に向けさせた。



キスする寸前くらい近い、二人の距離。






「・・・・・・・傍にいてくれ。お前は足枷じゃない」


手塚は滅多に見せない優しい笑みを浮かべ、そう言った。


「手塚・・・・・・」

こくん、と僕が頷くと、手塚は僕の左手の薬指にキスをして、
すっと立ち上がった。


「ホラ、行くぞ」

そう言って左手を差し出した君。

「うんっ」

僕は自分の右手を重ね立ち上がった。

珍しく手を繋いでくれた手塚。
どんな顔してるのか、すごく気になって見上げてみたけど、
そっぽを向いてて、わからなかった。




でも、耳が・・・・・赤かった。



そして僕も、きっと、赤いんだと思う。


















「ちょっと休憩しすぎちゃったね。
 乗る予定の船、間に合うかな?」

お互いに、顔の熱も引いた頃。

「乗れなくても大丈夫だ。
 あそこの港は日本国行きの船が多いから、
 次の船でも、約束の日には充分間に合う」

手は、しっかりと繋がれたまま。

「そっか、ならよかった」

僕たちは、港町に向かう街道を歩いていた。





「ねーえ、手塚」

「なんだ?」

「今日は・・・・・ゴメンね?」




「謝るな。悪い事なんてしていないだろう」

手塚はきっぱりと言い放った。

「うん・・・・・・ありがとう」

やっぱり優しいね。君は。









僕はこの時、本当に幸せだった。
手塚が、僕と居て幸せであることが分かって。




でも、僕は知らなかった。
この後起こる出来事を。
この幸せが壊れてしまう事を。



「足枷じゃない」


そう言ってくれたのに、結局僕は君の足枷になってしまった。
君の自由を奪ってしまった。




ごめんね?手塚。








許して。


なんて、絶対言えない。






見捨てていいよ?


そう言えば、優しい君は僕の事を
それはもう酷い形相で怒るでしょ?




いっそのこと、「お前のせいだ」と、
罵ってくれたら、どんなに楽だろう。



優しい君は、決してそんなことはしない。





ごめんね、手塚。



本当に、ごめん。







・・・・・・・・・・・・・・ごめんなさい。












随分と長くなってしまいましたが、
不二くんサイドの『始まり』です。
タイトルは、
穏やかな日との、しばらくの別れ。
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