窓辺の花瓶に飾られた紫の花と、カーテンが静かに揺れる部屋には、
風邪でベッドに横たわる黒髪の少年と、
それに付き添う、一人の、亜麻色の髪の少年。
ただ、二人きり。

「お願い、傍にいさせて」
「だめ、だ・・・・。帰れ。お、まえに・・・うつ、る」
「そんなのいいから!いさせて」
「だめだ、と、言っている・・・だろう。何度言えば、分かるん、だ」

先程から、このようなやり取りがずっと続いている。

「・・・・・・ねえ、手塚」
だがそれは、


「今日、僕の誕生日なんだ」



突然断ち切られた。


「不、二・・・?」
手塚は、熱も手伝って、急なことに、不二が
何を言いたいのか、全く理解できない。
「英二と大石からね、プレゼント貰ったんだ」
構わず話し続ける、不二。
「でね、手塚からも何か欲しいんだけど、
 ・・・・・・・・無理でしょ?」
滅茶苦茶なことを言っているのは、
不二も分かっている。
「・・・・・・」

「だから」
言いながら、首を傾げる。

「一つだけ、ワガママ聞いて?」

「っ!・・・不二。そ、れは・・・」
手塚は、不二の言いたいことが、分かった。
だからこそ、拒否しようとした。
だが、
「ねえ手塚。今日が何月何日か、知ってる?」
「はぐら、かすな・・・っ、俺の話を、聞け」
「はぐらかしてなんかない。それが、答え」
不二は、懐かしむような、大切なものを見つめるような。
そんな切なそうな、優しい微笑みを浮かべた。


「今日はね、2月29日。4年に一度の、僕の、誕生日」


「っ・・・!」

「それでも、だめ?」
「・・・・・」
手塚は、答えることができない。
「僕はただ、苦しい思いをしている友人の、
 傍にいたいだけなんだ。僕に気を遣わないで」
「・・・・・不二」
「お願い、手塚。僕のワガママ、聞いて・・・・?」






「・・・わかっ、た」
「!・・・・・っ、ありがとう」
手塚の言葉で、不二はそれはもう、嬉しそうに笑った。

それをぼんやり見つめる手塚には、二つの思いが渦巻いていた。
一つは、自分が密かに思いを寄せている不二が、
笑ってくれたことへの純粋な安心感と、幸福感。
もう一つは、好意を抱いている相手の
生まれた日を知らないばかりか、風邪で寝込み、
何もしてやれない。
出来ることなど、不二の些細な望みを聞いてやることだけ。
そんな無力な自分への、痛いほどの悔しさ。


この出来事は、当時12歳の少年であった手塚国光の心に、
強く残った。











――あれから、4年。
あと3週間程で訪れる、お前が生まれた、大切な日。
俺たちが、互いの気持ちを打ち明けてから、
初めて迎える、本当の誕生日。
一度目は、ただ、お前の我が侭を聞いてやることしか出来なかった。
だからこそ、今回は。
飛び切りのものを贈りたい。

大切な、大切な思い人のために。










授業のない日曜日。
俺は学園の外へ出て、町を歩いていた。
不二への、贈り物を探すために。
不二の誕生日の後には、卒業試験が控えているため、
今日見つけてしまわないと、外出するのは少々辛い。
だが、3、4時間歩き回っているのに、一向に良いものが見つからない。

少し苛立ち始めたその時。


「ここは・・・」

俺は、いつの間にか、不二と来たことのある花屋の前に立っていて。


タッ

「いらっしゃいませ〜!」



何かに引き寄せられる様に、気が付けば店の中に入っていた。
店内には、いろいろな花があふれていて。
チューリップ、バラ、カーネーション、ライラック、
かすみ草、ガーベラ、ユリに、サボテン。
しかし・・・・。
切り花は、今買っても枯れてしまう。
サボテンは、あれだけ持っていれば、俺がわざわざ贈る必要も無いだろう。
そんなことを考えながら、店内を見て回っていた矢先、
あるものが、俺の目を惹いた。
「花の種・・・」
今は冬だというのに、春夏秋冬関係なく、
色々な種類の種が並んでいた。


その中に見つけた、ある名前。
その花を、俺は知っていた。
不二に聞いた、その花の話。


「すまないが、この種、全て頂けるだろうか?」

ようやく決まった。
不二に贈るもの。
不二くんお誕生日小説第一話。
高等学校卒業前の、4年の時のお話です。
お誕生日ネタはだいぶ前から考えていた話なので、
張り切っていたのですが、ナカナカ・・・・・・。
初めは3話くらいで終わるかな〜、とか思ってたんですが、
4話になってしまいました。
なんかシーンが変わりまくるから、逆にどこで切ろうか迷ったり・・・・。
相も変わらず、やっぱりうちの手塚は、不二くんにめろめろです(死語!)
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