| 音の無い静寂に包まれた森、わずかな光も無い新月の夜。 まるでそこだけ時が止まっている様な、そんな事を思わせる程 物音一つ立たず、何も動かない暗い森。 そんな場所を走る、見たところ15、6才の一人の少年。 闇に包まれた森と同じ色の髪と瞳。 髪は肩より下ぐらいまで伸びていて、純金に赤い宝玉を抱いた 龍が彫られた髪止めで無造作に止めてある。 服は長袖のシャツにジーンズと普通だが、布は上質の生地が使われている。 背負っているリュックは古い物らしく、白が色あせていた。 走り続けているため、流れ落ちる汗で前髪が額に張り付き、 シャツも目に見えて濡れている。 体力はもう尽きかけているが、少年はただ走り続ける。 足を止めてしまえば、しばらく動けなくなる事が分かっているのだろう。 切羽詰った表情だが、少年の瞳には何かへの強い意志を表わす様に 輝いている、強い光がある。 どれくらい走っただろうか、森は途絶える事無くずっと同じ景色を保っていた。 少年が走り出した時に天に光っていた星は、少年の右側から 昇ろうとしている朝日に輝きを失いつつある。 と、その時 サァァァ――――― 少年の耳に微かな水音が聞こえた。 少年はその音を聞いた途端、もう無い力を振り絞り 音めがけて走り出した。 その表情は先程の切羽詰ったものでは無く、 何か探していた物が見つかった様な、そんな顔だ。 少年が走り出して間もなく、突然森が途切れた。 目の前は碧一色。 すぐそこには50メートルはある崖。 しかし少年は躊躇無く飛び降りた。 いつの間にかほどけた髪が中に舞う。 その下が海とはいえ、落ちれば死は確実だろう。 だが、その顔には恐怖は微塵も無く、真剣そのものだ。 死を望んでいる訳ではない。 少年の瞳には、生への強い意志が輝いている。 その瞳が閉ざされた瞬間、少年の体が淡い光に包まれた。 それまで荒い息をしていただけの口が、言葉を紡ぐ。 「・・・・・・も・・・も、せん・・・ぱ・・・・」 大切な人の名を呼び、そのまま・・・・・・ 消えた。 後に残ったのは、朝日を受けて黄金に輝く 王家の紋章が刻まれた髪止めだけだった。 |
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| 不二くんサイドよりはだいぶ短いですが、 リョーマ君サイドの『始まり』です。 タイトルは、 始まった追いかけっこ。 |
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