「ゆうた」
周助が、口を開いた。


「ゆうたはね、ゆきですべってころんで、あたまをうったんだよ」

「しゅう?」

周助の口から発せられた言葉は自然すぎて、
嘘だとは思えないような声色だった。
大石には、周助がどうしてそんな嘘をつくのか分からず、
見ていることしかできなかった。

「ほんとうにおぼえてない?」
言いながら、裕太の頭をなでる。

「・・・おぼえてない」
裕太は首を横に振った。

「・・・・・・・そっか」
周助は優しく微笑んだ。
とても綺麗な、でも触れただけで壊れてしまいそうな、
儚い笑顔だと、大石は思った。



「裕太、もうすぐお父さん来るわ」
明るい声でそう言いながら入ってきた由美子。
周助は立ち上がり、由美子に駆け寄った。
「ねえさん、ゆうたもげんきみたいだし、
そろそろへやにもどってやすむよ」
「・・・そう?」
「じゃあ、ゆうたもむりしちゃだめだよ」
くるりと振り向いてそう言うと、
周助はぱたぱたと駆けて行った。
きっと裕太のそばから離れないだろうと思っていた弟の
あまりにもあっさりとした様子に、
由美子はあっけに取られながら、不思議そうに見送った。
そんな由美子に、大石は裕太に聞こえないように
小声で言った。

「ゆうたくん、けがしたことおぼえてません」
「・・えっ?」
「しゅうが、すべってころんで
あたまをうったっていってました」
「・・・・・・・・そう」
その説明で、由美子には周助の考えが分かったようだった。

「ゆうたくん、おだいじに。またね」
大石は笑顔で言うと、裕太の部屋を出た。
そして周助の部屋に急いだ。




コンコン。
「しゅう?」


部屋に入る前のノックは、決まり事。
返事があったら入れるのも、決まり事。
でも・・・・。


ガチャ。


大石は返事を待たずに周助の部屋に入った。


「しゅう、はいるよ」
「っ!や。こ、なぃ・・・・っでぇ」
「しゅう!?」
大石は、周助が発作を起こしたときと同じような
話し方をしたので、慌てて周助がいるベッドに駆け寄った。


「こないで、って・・・・いった、のにぃ・・・」
「・・・・・・・しゅう」

周助は、泣いていた。

「どうして、なくの?」
言いながら、指で涙を拭う大石。

「だっ、てぇ・・・。ゆうた、っわすれちゃってた。
わすれちゃいたい、くらいっ、つらかったんだ・・・。
ぼく・・・、おにいちゃん、なのに。
ゆうたを、まもらなきゃ、いけないのにっ!
ぼくは、・・・・ゆうたを、きずつけた」

アイスブルーの瞳からは、絶えず涙が零れ落ちる。

「ぼく、だれもきずつけたくない。
きずつけたく、ないよぉっ・・・。
もう・・・、だれにもあいたくない!
きずつけるくらいならっ、・・・ひとりでいい!!」
裕太を傷つけたことで、自らも傷つき
泣き叫ぶ周助を、大石はふんわりと抱きしめた。
「いやっ、はなして・・・・!」
「しゅう、だいじょうぶだから!
ぼくは、しゅうのせいできずついたり、しない。
そんなふうに、なかせたりしない」
話しながら、大石の抱きしめる力が強くなる。
「だから、そばにいさせて?
ひとりでいいなんて、いわないで」


「・・・・・・・・ほんとに?」


周助は、大石の肩に顔をうずめたまま、
小さな声で尋ねた。

「ぜったい、きずつかない?」
「うん、ぜったい」
「やくそくする?」
「うん、やくそくする」
「・・・・しんじて、いい?」

「うん、じんじて。
ぼくは、ぜったいに、
しゅうのせいできずつかない。
やくそくするよ」



「・・・・っしゅ、う」
周助は泣きながら大石を抱きしめ、
大石がそれに返事をするように抱きしめ直すと、
「ありが、と・・・・・」
安心したのか、泣き疲れたのか、
周助は眠りに落ちていった。

「ぼくも、しんじてくれて、ありがとう」







何も知らずに過ごした、
きらめく楽しい時は、終わり。


強くて

でも

儚い彼が

どうか


無邪気に笑える日が、
訪れますように。


輝いてたトキ、終わりです。
ここまで読んで下さって、
ありがとうございます。
この出来事が、この後の不二君、
大石の生き方というか、
性格にすごく影響する訳です。

ちなみに、2人はあくまで幼なじみです。
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