F1テクノロジー 第6回 「ディフューザー編」
2001年9月30日作成

ディフューザーから発生するダウンフォース
【ディフューザーとは】

 前回、書いたようにF1カーのシャーシ本体でダウンフォースを稼ぐ事が重要であります。その手段の1つとして、「ディフューザー」があります。

 ディフューザーとは、シャーシの一番後ろ、そして下側のにある跳ねあがっている箇所にある空力デバイスです。


【ディフューザーの魅力】

 私にとって、F1マシンの最も楽しみな空力デバイスが、このディフューザーです。
 新しいF1マシンが発表になった時、一番最初に注目するのが、このディフューザーであります。
 なぜなら、このディフューザーの形状を見れば、そのマシンが、速いか遅いのか、ある程度、予測する事が出来るからです! これは本当!
 このディフューザーの形状だけでF1マシンが速くなるわけではないのですが、この形状を的確にまとめ上げるマシン設計技術があれば、マシン全体の設計も優秀であると想像出来るからです。


【安定性】

 しかし、それは94年までの話でした・・・。

 94年にアイルトン・セナが事故死して以来、つまり94年のモナコGPあたりから、このディフューザーのデザインにかなりの規制が施されたのです。
 つまり、ディフューザーの形状に自由度がなくなった訳です。

 ディフューザーにより、F1マシンは空気の力を利用して、大きなダウンフォースを得、そしてスピードが増す事になります。
 空気の力を利用している反面、空気の流れ等に予想外の変化があった場合、一気にダウンフォースが変化し、マシンの安定感が失われ、そしてそれは、事故に繋がるのです。

 ディフューザーは、F1マシンのスピードを上げる役割を持っている反面、とても危険なデバイスなのです。


【ディフューザーの働き】

 94年以前のディフューザーの働きについて。

 走行時、マシンと路面の間(マシンの下側)において、マシン前方から空気が入ってきます。この空気を、マシン後方のディフューザーにて、より多く排出するのです。
 より多く排出する事により、マシン下側の空気の速度を上げて、空気が疎になる状態とし(つまり気圧を下げる)、ダウンフォースを得るわけです。

 より多く排出するために、ディフューザー部分は後方に向けて跳ねあがっています。しかし、ただ跳ね上げれば良いわけではありません。
 空気が綺麗に流れるように排出し、排出効率を高めないといけません。

 そのために、空気の流れる道を作ってあげる必要があります。そのためにディフューザーに、時面に垂直な数枚の板があります。
 左図は、F1マシンを後ろ、下側から見たものです。ディユーザー部分に垂直の板が数枚あります。この板により空気の流れを整え、綺麗な流れにしています。

 また、サイド・ポンツーンを流れる空気を利用して、ディフューザーの空気排出の効率を上げています。これは、サイド・ポンツーンを説明する時に詳しく説明します。

 こうして、ディフューザーの空気をより綺麗に、より多くの空気を排出するするために、各チームは様々なアイディアを出してくるわけです。

 そこで、ユニークなディフューザーの形状として、思いつくモノは2つあります。


【ユニークなアイデア その1】

 その内の1つは、F1とは全く関係のないクイズ番組の問題としても取り上げられたくらいユニークなモノです。

 ディフューザー部分に、扇風機のような回転するフィンと付けたのです。このフィンは、換気扇の働きをします。マシン下部、つまりディフューザーの空気をより多く吸い上げて、マシンの後方に排出するわけです。
 これは絶大な効果を発揮しました。ダウンフォースの増加、そしてマシンスピードの向上に激しくつながりました。その結果、危険なデバイスと判断され、すぐさまレギュレーションで使用禁止となったくらいです。


【ユニークなアイディア その2】

 もう一つは、90年のマクラーレンで使用された「バットマン・ディフューザー」です。真後ろから見ると、当時流行っていたバットマンのマークに似ていると言う事で、ホンダの後藤監督が命名したという噂です。
 バットマンディフューザーによるマシン下部の空気排出効果は確かに向上しました。しかし、この排出効果は非常に不安定でありました。

 効率の良い時、悪い時の差が激しかったため、ダウンフォースが安定しない。その結果、コーナーリングの途中でもタイヤ・グリップが変化しやすく、マシンの安定性に欠いたのです。90年イギリスGPでマクラーレンのセナがスピンした理由は、このダウンフォースの不安定によるものとも噂されたくらいです。
 結局、90年の第9戦ドイツGPまでしか、このディフューザーは使用されませんでした。
 ちなみに田宮から発売されているF1プラモ、1/20 マクラーレンMP4/5Bはバットマン・ディフューザーになっています。


【ダウンフォースの安定性】

 また、何故、ディフューザーによるダウンフォースが不安定になるのか?
 マシン下部のフラット(平ら)の面、フラットボトムと、路面が平行で、一定の間隔であれば、より大きくて安定したダウンフォースが得られます。

 しかし、コーナーリングの最中は、マシンが左右に傾きます。
 また路面のわずかなバンプ(凸凹)によりマシンが上下に揺れた場合、または一瞬、マシンがわずかでもジャンプした場合、フラットボトムと路面の間隔に変化が生じます。
 その結果、ダウンフォースが変化するわけです。
 (マシンが上下左右に揺れない様に、タイヤとマシンを繋ぐバンパーを固くして、なるべく揺れない様にはしていますが・・・)

 ディフューザー効果で、より大きなダウンフォースを得た時、マシンが上下左右に揺れ、一気にダウンフォースが減少した場合、ダウンフォースの変化がより大きくなります。その結果、マシンの安定性が悪くなるのです。コーナーリングの途中で、いきなりタイヤグリップが低下し、例えばスピンしたりするわけです。

 つまりディフューザーでより大きなダウンフォースを得る事は、一歩間違えば、マシンの不安定性をより大きくするわけです。


【エイドリアン・ニューウェー】

 この不安定さで代表されるのが、90年のレイトンハウスのマシン。空力設計者は、エイドリアン・ニューウェー。

 サーキットによって路面の凸凹が少なく、マシンが安定して走行できるGPでは、このレイトンハウスは速かった。しかし、路面が凸凹が激しいGPでは、速くない。
 フランスGP、ポールリカールのように路面が安定していている環境では、とてつもなく速く、2位ゲット(ラスト数週までトップだったが)。

 悲しい出来事は、94年のウィリアムズ。
 このウィリアムズの空力設計者は、エイドリアン・ニューウェー。彼は91年〜93年までウィリアムズに在籍し、非常に安定して、そして速いマシン設計をしていました。
 94年に設計したマシンは、空力について極限まで追求した結果、非常に空力に敏感なものとなってしまいました。90年のレイトンハウスと同じような現象が起こっていました。つまりマシンが不安定であったのだ。そのためか、94年のセナのウィリアムズは、結局一度も勝てず、更には・・・。


【様々なデザイン、アイデア】

 そしてセナの事故以降、ディフューザーの形状の規制がより厳しくなりました。
 ディフューザーの長さが、後輪の中心までと制限されたのです。
 ディフューザー形状が小さくなり、形状の自由度がかなり低くなりました。 またディフューザー形状が小さくなったため、マシンを後ろから見ただけでは、その形状がわかりにくい結果になりました。

 ディフューザーが好きであった私にとっては、かなり悲しい結果になったのです。


HOMEへ