1990年 アメリカ へ 〜アレジとのバトル〜

セナは、予選で電気系トラブルが発生、5番手に沈む。
フェラーリに移籍したプロスト。確執は続いていく。

スタート。89年にデビューしたフランスの新人、ジャン・アレジが軽快にトップを奪った。
やがて、2位にあがったセナとエキサイティングなバトルが始まった。

古館:「さ、セナが(アレジのインに)入った。さ、出るぞ。セナが行くぞ」
今宮:「あ〜、アレジ負けた」
古館:「セナが抜き...、」
今宮:「お〜と、(アレジ)抜き返す! いや〜凄い凄い、危ない危ない」
古館:「お〜っと危ない危ない、昨年の鈴鹿を思いだした、危ない」
今宮:「い〜や、アレジのファイトは凄い!」

これぞレース。セナも生き生きしている。
得意のストリートコース。若いアレジと大いに楽しんだ。
これがレースなんだ。
競り合いには興奮した。ドライバーとしての仕事の楽しみはここにあるんだ。
セナのモチベーションが蘇った。

1990年 来季のマクラーレンホンダとの契約

8月末、マクラーレンは1枚のリリースを発表。
91年もセナと契約。
92年はオプションというもの。

セナ:「またホンダと一緒に出来てうれしいよ。
    ホンダとの仕事は僕にとって大切だし、今後、またさらにやる気が出てきたね。」

1990年 イタリア 〜プロストのと和解〜

レース後 セナ、プロストへのインタビュー。

プロスト:「昨年のサンマリノGPから僕らの間に行き違いがあったのは事実だ。
    彼は彼の方が、そして、僕は僕の方が正しいと思った。
    彼も言う様に、僕らの持つ大いなる情熱は、スポーツ上のことなんだ。
    僕ら2人が憎しみ合っても幸せになる者はいない。
    だから過去のことはもう忘れよう。それを彼も望むなら・・・、」

セナとプロスト、久しぶりの握手であった。

1990年 鈴鹿 〜スタート直後の第1コーナー〜

少し汗ばむ秋の日。鈴鹿に4度目のエクゾーストノートが響く。
セナ、プロスト。
この二人は、またもチャンピオン争いを携えて鈴鹿に戻ってきた。
セナ、78ポイント。
プロスト、69ポイント。
89年とは正反対。セナ、絶対有利であった。
88年、遮二無二チャンピオンを獲ったセナ。89年はプロストの罠にはまった。
今年、90年はどうやって戦いに勝つか?

予選二日目。

古館:「さぁ、いよいよ黄色いヘルメット、アイルトン・セナが(ピットから)出ていきます。
    最後のアタック・・・」

森脇:「残り5分です。」
今宮:「ついてく、ついてく、プロストが。」
古館:「プロストがその後ろ、ピッタリと影のように背後から行きます。
    まさしく、(今年を戦いを表す)象徴的なシーンであります。」

古館:「さぁ、2強の大激突。この予選2日目にして見られます。
    果たして最後のタイム・アタックはどうでしょうか?」


    (セナが130Rを通過する)

古館:「さぁ、130Rから今度はシケインです。はやくもシケインにさしかかって・・・、」
森脇:「速い!」
古館:「速い!」
森脇:「速い、速い、飛び込み速いですよ!
古館:「20秒台で飛び込んでいってますからねぇ〜!
    さぁ、最終コーナーです。セナは何秒を出すか?
    夢の36秒台か? 夢の36秒台かぁ〜?」

今宮:「出たぁ〜」
古館:「出ました、36秒台!! 一瞬ピットガレージがざわめいた!
    鈴鹿に一輪の風が吹いたぁ〜」

音速の貴公子 ここにあり。
セナは自らのタイムを再び削り取りアグレッシブさを見せた。
プロストは、セナから0.2秒遅れの2位。
両者がフロント・ローに並ぶ。

決勝の朝。
伊勢湾に厳かに朝日登り、夜を徹した人々を照らす。

決勝を前に、恒例のドライバーズ・ミーティングが始まる。
レースの前に安全のための確認事項や、ペナルティに当たる注意を伝えるものである。
セナは既に少しナーバスであった。
プロストはやや離れて座っている。
そして、シケイン通過に対するペナルティが発表された。
その発表に対して、ネルソン・ピケが発言。

ピケ:「何でまた昨年と同じ事を繰り返さなきゃいけないんだ。
    シケインを通過出来なかった時に一番安全なのは、
    一旦マシンを止めさせ、安全ならばそのままエスケープロードからコースにまた戻せばいいんだ。
    マシンをUターンさせコースに戻ると、後続のマシンと鉢合わせになって余計に危険だ。」


ロン・デニス:「みんなもそう思うかい?」

    「YEAH」! 「YES」!


ロン・デニス:「みんな、ありがとう」
セナ:「みんな、ありがとう。
    僕はこんなの、もう耐えられない。昨年の事件は本当に馬鹿げていた。
    僕は今、何も言わなかったけど、他のみんなが賛同してくれた。
    とにかく、昨年は最悪だった。」

神経を高ぶらされたセナ。席を立って出ていってしまった。
どんな嵐が吹いているのかセナの心に。
どんな嵐が吹くのか、ここ鈴鹿に。
その瞬間を待つ。

スタート直前。

古館:「グリーンフラッグが振られた! 間もなくスタートです。
    さ、誰が第1コーナーに飛び込むか? 今、スタート切りました。
    さぁ、セナが出る。セナが・・・、おぉ〜っとプロスト。」

今宮:「プロストぉ〜」
古館:「プロストが出た。プロストがアウトから出ました。
    プロスト、2番手から出ました。セナを上回るか! セナを・・・
    セナがインをつけ・・・、」

今宮:「接触ぅ〜!!」
古館:「あぁ〜っと、接触ぅ〜、いきなり接触ぅ〜、
    真っ白な砂煙ぃ〜」

今宮:「2台ともっ!!」
古館:「2台とも接触ぅ〜」

わずか9秒の出来事だった。
セナとプロストは言葉を交わすこともなく、とぼとぼとピットに向かった。
何を思うかプロスト。
セナ、これで2度目のワールドチャンピオン。
あっけない幕切れ。
(イタリアでの握手は何だったのか?)

セナ:「最初のコーナーでの事故はよくあることだけど、スタートからついてなかった。
    アランとコーナーに入って、僕はインから行こうとしたが、彼は譲らなかった。
    2台のマシンが通れるスペースはなかった。少し道を開けてくれれば問題なかった。
    でも、彼が道を塞いでしまったためにぶつかってしまった。
    僕は彼のやり方は間違っていると思う。」


マスコミ:「チャンピオン獲得ですが、このタイトルを誰に捧げますか?」
セナ:「昨年、僕を徹底的にやり込めて傷つけてくれた人達に捧げるよ。
    今年は、誰がチャンピオンなのか見せつけてやるよ。」

これまでのソフトなインタビューと正反対の激しいセナの言葉。
そこに1年間、それ以上の彼の苦悩を見た思いがする。

1990年 日本グランプリの後

セナのレースに対する考えは、時として大きな議論を呼ぶ。

ジャッキー・スチュワート:「過去のチャンピオンやグランプリを振り返ると、
    そのチャンピオンが他のマシンと接触した回数に比べて、
    君がこの3〜4年に接触した回数は多過ぎると思うけどね。


セナ:「あなたのような経験豊富なレーサーがそんなことを言うとは驚きだね。
    レーサーであれば、そのようなリスクを負っているのは承知しているはずだ。
    レースをするんだ。相手のスキをついて仕掛けなくてはレーサーの資格はない。
    僕らは勝つためにレースをしているんだ。
    3位とか4位を狙うんじゃなくて、みんな優勝を狙っている。
    僕だって、2以下になるためじゃなく、優勝するために走るんだ。
    勝つために、自分なりのポリシーを持って自分の考えでは知っているんだ。
    賛同しない者もいるけど、僕はあくまでも自分のやり方でやるよ。」

それから数ヶ月。パリ、コンコルド広場のFIA本部。
90年のモータースポーツの表彰の夜。
セナは30歳にして、2度目のワールドチャンピオンとなり、歴史にその名を刻んだ。

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